【IWJブログ】南京大虐殺・従軍慰安婦を「なかった」ことにする歴史修正主義者の「嘘」を一次史料にもとづき徹底論破する~岩上安身による能川元一氏インタビュー第2部 2014.4.4

記事公開日:2014.4.4 テキスト
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(取材:岩上安身、文:IWJテキストスタッフ・関根、構成:ゆさこうこ)

政治家たちのおかしな発言

岩上「それ以外にも、政治家のおかしな発言がいっぱいあります」

能川「維新の会の中山成彬さんは、2013年4月10日の衆議院予算委員会で、『通常の戦闘行為で30万人が殺されたなんて、とんでもない。南京事件はなかった』と言っています。まさに、先ほどの『30万人じゃなければ、南京事件じゃない』という論法です。

 中山氏は、2013年5月21日の朝日新聞で、『韓国人が、従軍慰安婦という、ありもしなかったことを世界中に悪宣伝し、日本人を辱めている。大事なところは「20万人もの朝鮮の若い女性」という部分。当時は(朝鮮の)人口は2000万人ちょっと。100人に1人が、自分の娘や知り合いが強制連行されるのを黙って見ていたのか。朝鮮の親たちも、そんな弱虫じゃなかったはずだ』と主張しています。20万人とは、慰安婦全体の最大値の推計で、朝鮮の女性だけで20万、という主張ではない。

 そういう極端な事例を出して、『100人に1人だ』とする論法もごまかしだし、『黙って見てたのか』というのも非常に卑怯な議論だ。抵抗できなかったほうが悪い、という論法は、性暴力の被害者に対する認識と共通します」

岩上「2013年5月24日のツイッターでも、中山さんは言っています。『慰安婦』だった韓国人女性と橋下徹共同代表の面談が中止になったことについて、『橋下氏に強制連行の中身を鋭く追求されるのをおそれたか? 化けの皮がはがれるところだったのに残念』と。7月17日の街頭演説では、『中国や韓国が、本当に歴史を直視したらどうなるか。慰安婦の問題も、南京事件もなかった。でっち上げだったんだということが、よくわかる』と発言しました」

能川「いまや、一部の跳ね上がり議員だけの問題じゃなくなりつつある」

証言の裏付けがないと嘘になるのか

岩上「最近、特に維新の会は『慰安婦への聞き取り調査について、政府がチームを作って検証してほしい』としています」

能川「河野談話作成のための調査で、慰安婦として名乗り出た女性たちに行なった聞き取り調査の検証を求める、ということです。当時の聞き取り調査がいい加減なんじゃないか、というのが、最近、右派が力を入れている主張です。そして、石原信雄氏という、当時の官房副長官を参考人として議会に呼び、証言させました」

岩上「石原さんは『証言内容を全部取り、それをもとに最終的な河野談話としてまとめた。証言の事実関係を確認した裏付け調査は行われていない。裏付けをとることができる雰囲気ではなかった。政府や軍が強制的に募集したと裏付ける資料はなかったが、証言から(慰安婦の)募集業者に官憲が関わったことは否定できない』と述べた。右派は、『だから、河野談話を取り消せ』と言い、慰安婦問題はなかったことにしようとしている。裏付け調査と証言の信用性は、どうでしょう?」

能川「性犯罪、性暴力の被害者への聞き取りの裏付け、しかも何十年も前のこと。では、どういう調査をすればよかったんですか、と聞いてみたい。人間は『自分こそ被害者である』という嘘をつくことはある。けれども、性暴力というのは、基本的に、被害者であると偽ることで得る利益が、とても少ないタイプの犯罪です」

岩上「副次的に、不利益が生じてしまうから」

能川「もちろん、性犯罪だからといって裏付けをするな、なんてことは言いません。しかし、裏付け調査が行われていないから、それがいい加減だ、嘘だ、ということにはならない。個々の方の、証言の裏付けが取れるかどうか。何十年も前で、裏付けは取れないかもしれないが、歴史的な出来事として、それを全体的に捉える場合、証拠はさまざまだ、ということです」

岩上「多々ある状況証拠などで十分ではないか、ということですね。安倍総理は、広義の強制性と、狭義の強制性をことさらに分け、『狭義の強制性があったと証明する、証拠証言がない』と言います。これを、どう思いますか」

「すべてが強制連行」とはしていない河野談話

能川「それを説明する上で、まず、河野談話の説明をしたいと思います。河野談話は、別に『慰安婦の方、すべてが強制連行された』と言っているわけではない。今の日本の右派は、河野談話のせいで、すべての慰安婦が、日本軍によって直接拉致されたかのように思われている、と主張します。でも、それは違います」

岩上「『旧日本軍が直接、あるいは間接的にこれに関与した』。間接、ということが書かれていますし、『慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれにあたった』と書いてある」

能川「『甘言、強圧』という例。つまり、銃剣を突きつけて、女性を集めたと言っているわけではなく、甘言や強圧という、いろいろな意味で、本人たちの意思に反して集められた事例があった、としか言っていない」

岩上「甘言で誘われる、……たとえば、仕事がある、看護婦になれるとか、そういう嘘を言われ、募集に応じて行ったら慰安婦だったという事例もある。それは、かどわかし、誘拐です。誘拐に際し、暴力が用いられるとは限らない。その点を指して、狭義の強制性はなかった、というのはおかしい。銃剣を突きつけられるような強制ではなかったから、『強制性はなかった』ことになるというのは、どう考えてもおかしい」

能川「もうひとつの河野談話のポイントは、『連行過程』だけが強制だと言っているわけではないこと。『慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった』と。つまり、慰安婦問題の人権侵害性というのは、別に募集の段階にあるだけではない」

岩上「強制性がなかったのであれば、騙されたと気付いた時点で、普通は逃げ出しますよね。ところが、逃走は不可能だった。強制的に監督されていた」

限定された資料のみで「証拠なし」

能川「今の2点を念頭においた上で、次に、この平成19年(2007年)の資料ですけれども。第1次安倍内閣当時、安倍首相の慰安婦問題への認識に関する質問主意書を、辻元清美議員が提出しています。『強制性を裏付ける証拠はなかった、というのは事実だと思う』と安倍首相が発言したことに対してです。

 辻元議員は『そう断定するに足る証拠の所在調査を、いつ、どのような方法で行ったのか』と質問した。また、『安倍首相は、どのような資料があれば、当初、定義されていた、強制性を裏付ける証拠になるという認識か』と尋ねている。

 この質問に対する答弁が、『強制性の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成3年12月から平成5年8月まで関係資料の調査および関係者からの聞き取りを行い』、……この関係者の中に、実は日本の関係者も含まれているのですが、『これらを全体として判断した結果、同月4日の内閣官房長官談話(河野談話)のとおりとなったものである』というもの。

 そして、『また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料のなかには、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである』と回答している。メディアには、この『軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』というところだけが、流通しているんです。ところが、ちゃんと読んでもらえばわかりますが、いくつも限定がついている。

 まず、『河野談話の発表までに発見した資料』と限定。つまり、1993年8月4日までに見つかったものの中にはなかった、ということでしかなく、それ以降に発見されたものの中にある可能性は、否定していない。現に、その後、見つかっている。

 また、『政府が発見した資料のなかには』とも書いている。では、民間が発見した資料、研究者が発見した資料はどうか。答弁では一切言及していない。それを無視して『強制性を示すような記述もなかった』だけが独り歩きする。安倍首相の思う壷です。

岩上「留保があるのに、留保部分を省略してしまう、ということですね」

「女工ヲ招致シ、脅迫シテ、軍隊ノ淫楽ニ供シタ」

能川「2013年、共産党の紙智子議員も質問主意書で、『政府の慰安婦関係調査は不十分な点も多く、関係省庁が保有する資料のすべてが集められたものではない』と指摘しました。『河野談話以降に政府が集めた資料と、民間で集めた資料があるじゃないか』と。その資料の中に、具体的に強制連行を示す記述がありますよ、と教えている。

 東京裁判(極東国際軍事裁判)関係文書『A級極東国際軍事裁判記録』という資料では、『工場ノ設立ヲ宣伝シ四方ヨリ女工ヲ招致シ、麗澤門外ニ連レテ行キ脅迫シテ賎女トシテ獣ノ如キ軍隊ノ淫楽ニ供シタ」との記述がある。そして、被害女性の証言、『私ヲ他ノ六人ノ婦人ヤ少女等ト一緒ニ連レテ収容所ノ外側ニアッタ警察署ヘ連レテ行ッタ。(中略)私等ヲ日本軍俘虜収容所事務所ヘ連レテ行キマシタ。此処デ私等ハ三人ノ日本人ニ引渡サレテ三台ノ私有自動車デ「マゲラン」へ輸送サレ』。

 健康診断を受けて、『其処デ私達ハ日本人向キ娼楼ニ向ケラレルモノデアルト聞カサレマシタ』『私ハ一憲兵将校ガ入ッテ来ルマデ反抗シマシタ』と。『其憲兵ハ私達ハ日本人ヲ接待シナケレバナラナイ。何故カト云へバ若シ吾々ガ進ンデ応ジナイナラバ、居所ガ判ッテイル夫ガ責任ヲ問ハレルト私ニ語リマシタ』。つまり、お前が言うことを聞かなければ、夫が責任を取ることになるぞと脅して、売春をさせたという証言です」

バカにするにもほどがある政府回答

 能川「紙議員の質問では、『1. 政府は、これらの文書の存在を、河野談話発表までに知っていたのか』が大事なポイントです。知っていたら、2007年の答弁が嘘だったことになる。次に、『2. 河野談話の発表後も、政府は慰安婦問題の調査を継続しているが、これらの文書を保管しているか』。そして、辻元議員の質問と同じ趣旨ですが、『3. どういう文書、証言をもって、強制連行の証拠だと認めるのか』と尋ねています。

 これに対する政府回答が酷い。人をバカにするのもほどがある。1. は、要するに『知らん』と。『お尋ねにお答えすることは困難である』と、木で鼻をくくったような返事です。2. には『保管していない』。内閣官房においては保管してない、と言う。

 そして、3. が重要なポイントなんですが、『お尋ねについては、平成5年8月4日の調査結果の発表までに政府が発見した資料のなかには、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったものである』と、2007年の答弁書をまったく繰り返しているだけなんです」

岩上「紙議員は、河野談話の発表後に見つかった証拠文書を添えて、『ちゃんと書いてあるけど、これは強制連行ではないんですか』と尋ねたわけですね。ところが政府の答弁は、当該文書については何も答えず、全然関係ないことを言っている」

2007年答弁書を守るため、政府は嘘をつき続ける

能川「答えになってないですよね。ところが、ここで話は終わらない。さらに、共産党の赤嶺政賢議員が追及したんです。『強制連行の裏付けがなかったとする2007年答弁書に関する質問主意書』という題で。ここで、何を赤嶺議員が問題にしているのか。安倍首相が2007年の閣議決定を引き合いに出して、『強制連行はなかった』と言っているが、その答弁書は2007年のもので間違いないか、ということを、まず確認しています。

 そして、非常に重要なことなんですが、1993年8月8日、河野談話の発表の日、従軍慰安婦問題の調査結果について、河野談話とともに発表されたものに、法務省関連の資料として『バタビア軍事臨時軍法会議』の記録があったんです。

 これは、オランダの戦犯裁判です。河野談話の発表までに、政府はこの裁判資料を見つけていた。中身は、スマランなどの抑留所に収容中だったオランダ人女性らを慰安婦にする計画案と、『スマラン事件』という絵に描いたような強制連行の事例でした」

岩上「つまり、彼らは『この期間内に集めた資料には(強制を裏付けるものは)なかった』と言ったが、それも嘘だったと」

能川「そうです。これが、実は河野談話の発表までに手元にあったのではないか、と。至極当然の追及です。これに対して、なんと答えたか。愕然としますよ。『辻元さんの答弁書でお答えしたものと同じである』と言っている」

岩上「そして、『お尋ねの同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料とは、内閣官房内閣外政審議室が平成4年7月6日および8月8日にそれぞれ発表した『いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について』において、その記述の概要が記載されている資料を指している』と」

能川「赤嶺議員が指摘した、スマラン事件の裁判記録を含む文書があるということを認めているわけです。ところが一番最後に、『答弁書一から三までについてお答えしたものと同じである』と。河野談話の発表までには、強制性を示す記述を含む資料はありませんでしたと、また繰り返しているんです。

 つまり、共産党は二度にわたる追及で、『河野談話の発表以降、強制性を示す資料が見つかっている。民間で調べた中にもそういう資料がある。さらに、河野談話の発表以前に、その強制連行を示す資料を、政府は見つけていたではないか』と言っているんです。しかし、政府は認めない。これを認めると、2007年の答弁書がバラバラになるから、『河野談話の発表までには見つからなかった』と臆面もなく繰り返す。

 にもかかわらず、いまだに2007年答弁書が、『河野談話を見直すべし』とする主張の根拠のひとつにされてしまっている。これは、非常にゆゆしき問題です。マスコミも、なぜ、きちんと追及しないのか不思議でならない」

*ここで能川氏は、強制連行に関する資料をいくつかリストアップした。

吉見義明編『従軍慰安婦資料集』(大月書店)

吉見義明監修 内海愛子・宇田川幸大・高橋茂人・土野瑞穂編『東京裁判―性暴力関係資料』(現代史料出版)

戦地性暴力を調査する会編『資料集 日本軍にみる性管理と性暴力―フィリピン一九四一~一九四五年』(梨の木舎)

梶村太一郎・村岡崇光・糟谷廣一郎『「慰安婦」強制連行』(金曜日)
これには「オランダ軍の裁判資料」に関連する記載がある。

オランダ軍戦犯裁判で裁かれたのは「氷山の一角」

岩上「政府答弁のデタラメさには愕然とします。余談ですが、NHKの籾井会長が就任早々、『従軍慰安婦はなかった』という発言をしました。その会見の中で、『オランダの飾り窓を見ろ』『(売春は)どこにでもあったものだ』と言った。史的事実を見据えると、オランダ人の女性捕虜が集団で強姦されていることは明らかになっている。報道機関の公共放送のトップが、こともあろうに一番焦点になっているオランダを、戦時売春婦の事例にする」

能川「このオランダ軍の戦犯裁判に対して、東京裁判と同じように、『そんなものは勝者の裁きで信用できるか』と思う人が、右派の中には多いと思う。

 実は日本政府は、戦後、その戦犯裁判に関わった人々に聞き取り調査をしている。最近公開されて、日本経済新聞の記者が本にまとめました(*注2)。このオランダの戦犯裁判では、スマラン事件はじめ、強制売春、強姦事件が裁かれていますが、被告の日本人弁護人は『起訴状にあったことは、ほとんど全部真実だろう。むしろ、起訴されていない事件が、まだいっぱいある。これは氷山の一角だ』と回想している」

(*注2)半藤一利・秦郁彦・保坂正康・井上亮『「BC級裁判」を読む』(日本経済新聞出版社)2010。

橋下徹氏の奇妙な主張

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  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    過去に向き合えない人は未来にも責任を持てない

  2. 名無し より:

    悪いことは悪いとしっかり償っていくべき

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