2014年3月15日、名古屋市東区のウィルあいちで「避難者が呼びかける『原発避難者の勉強会 ~核融合実験について』」が行われた。
これは「多治見を放射能から守ろう!市民の会」の井上敏夫氏を講師に招いての勉強会。岐阜県土岐市にある核融合科学研究所(以下、科研)が、核融合発電に向けた前段的意味合いの重水素実験を、2016年度から実施予定であることから、これに不安を持つ地元市民らが参加した。
井上氏は開口一番、「核融合開発の推進者は『原発の次に来る新世代エネルギーだ』とか『地上に太陽をつくるようなものだ』とか、あるいは『クリーンな発電だ』とか、そういう耳触りのいい言葉で盛んに宣伝してきた。私は、核融合発電が本当にそんなに素晴らしいものであるかどうか、話したいと思う」と切り出した。
- 講師 井上敏夫氏(多治見を放射能から守ろう!市民の会)
- 日時 2014年3月15日(土)13:30~15:30
- 場所 ウィルあいち(愛知県名古屋市)
「原子力発電はウランを燃料にするもの。一方の核融合発電は、重水素と三重水素(トリチウム)という、いわば『水素の仲間』を使う。このうち、トリチウムは放射性物質だ」。井上氏はこう強調し、さらに述べた。「科研では、1998年から軽水素を使った実験が行われている。この実験は、核融合反応が起きない安全な実験だが、今日の新聞によれば、2016年度には重水素使用の実験(重水素実験)を始める。この実験では核融合が起きて、トリチウムが生成される」。
そのトリチウムと重水素を反応させることで生まれるのが、ヘリウム4と中性子だ。ヘリウム4は安定した物質だが、一方の中性子はそうではない。井上氏は、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏が「原発の10倍ものエネルギーがある」と指摘していることを引き、「その強大なエネルギーを電気に変えるという発想が『核融合発電』の根幹だ」と説明した。
実験に隠された狙い
要するに、2016年度に科研が始める重水素実験は、核融合発電の前段的実験になる。井上氏は、いきなり核融合発電の実験に踏み切らないことについて、「核融合発電の実験を行えば、大量の中性子が生成される。中性子は突き抜ける力が強い放射線である『中性子線』を生み、その中性子線がぶつかることで、実験装置が、わずか1〜2回の実験で使えなくなるという問題が発生してしまう。だから、研究所は、前段の重水素実験を実施するのだ」。
この重水素実験では、重水素とトリチウムの反応を部分的に生じさせることが可能であり、小規模ながら、核融合発電実験が実現するメリットを得られる、とのことだ。
科研が示した重水素実験計画は、「1998年の発表時では、1回につき10秒間の重水素実験を何千回と行うものだった」と井上氏。その10秒間の実験で発生する中性子線の量が、50万シーベルトであることについて、「人間の年間被曝限度が1ミリシーベルトであることに照らせば、これは非常に強い放射線量。それが、たった10秒間で発生するのだ」と強調した。
その上で、地元住民による反対運動は成果を上げていると述べ、その後、実験時間が「1回3秒」に短縮されたと指摘した。ただし、井上氏からは、「科研が、これにより、発生する中性子の量がどれだけ減るかを具体的な数値で明らかにしない」との付言があり、次のように怒りが示された。
「彼らが、われわれの度重なる要求に応じていない理由は、3秒間でも極めて高い中性子線が発生するからだ。彼らは、そのことを隠したい。これでは、自分たちが不利になる情報を隠ぺいする政治家と、同じではないか。彼らは科学者ではない」。
井上氏の見立てでは、1回3秒間でも、発生する中性子線量は10万ミリシーベルトを超える。「科研側の言い分は『実験する場所の中心部には人がいないから大丈夫』という、ある意味、当然なものだが、だからといって、情報開示を求める市民に、線量を明かさない理由にはならない」。
トリチウムの完全除去は技術的に困難だ
井上氏は、重水素実験で生まれるトリチウムについては、「当初、1回10秒間の実験で4億ベクレル余りが発生する、と説明されていた。その後、1回3秒間に短縮され、1億ベクレルに下がるとされている」と指摘。「私たちはこの値を『決して微量ではない』と主張してきた。しかし、研究所は『問題視するほどの量ではない』の一点張りだった」と語り、この点を巡って、核融合科学研究所との間に対立が生まれているとした。
「フクシマショックの後は、食品でも『1キログラムにつき100ベクレル』という安全基準が決められた。つまり、『億』というレベルは、市民感覚からすれば、極めて危険と解釈できてしまう」。このように続けた井上氏は、トリチウムは技術的に除去が難しい放射性物質であると力説し、「原子力発電所では、(平常時でも)発生したトリチウムを海に流してきた」と説明。科研がある土岐市は内陸部であることに懸念を表明し、「科研は、除去装置で9割以上を除去するという説明を繰り返しているが、われわれは、それが可能だとは思っていない」と真っ向から反論した。
井上氏は「科研は、トリチウムを水の形にして回収することを考えている」と明かし、「水にしたトリチウムを、処理業者に渡す算段なのだ。除去装置で除去できるかのような、彼らの説明は嘘だったことになる」と強調した。
その上で井上氏は、水にして回収するやり方にも限界があると訴える。「発生したトリチウムの、すべてを回収することは不可能であり、一部のトリチウムが排気口から大気に放出されたり、下水経由で川に流れ出たりする恐れがある」。
原発同様「核のゴミ」問題も抱えている
一方で井上氏は、「重水素実験自体が、実現しない可能性がある」とも話している。1. 実験では1億2000万度もの高温が条件になるが、そこまでの高温状態を本当につくることができるか、2. 反応が起きにくい実験であるため、言われているほどのトリチウムが生まれるか──との点が、未知数であるというのだ。
とはいえ、井上氏は、計画通りの実験が実施されることを前提に、反対運動を続けていくことを表明し、最後には「原発では大量の放射性廃棄物が出るが、重水素実験もしかりだ」と力説するのだった。
実験で発生する中性子線は、実験装置や建屋のコンクリートにぶつかることで、新たに数10種類の放射性物質を作り出すと、井上氏は力を込める。「装置や壁は、1回の時間が3秒間に短縮されても、高頻度での交換が必要になるため、大量の『核のゴミ』が出る」。
科研は、生成された放射性物質の大半は半減期が短いことを指摘しつつも、装置に関しては「約40年」もの長期間の安全管理の必要性を認めているとのこと。井上氏は「核融合発電は、放射性廃棄物と無縁というわけではない」と重ねて強調した。
井上氏は、核のゴミの最終処分施設の候補地に、岐阜の瑞浪(みずなみ)市が浮上していることにも触れ、日本原子力研究開発機構の東濃地科学センターの施設「瑞浪超深地層研究所」で、放射性廃棄物を地下深くに埋める計画が進められていることを紹介した。
「現在、深さ500メートルまで坑道が掘られているが、そこでは、1日につき800トンもの水が湧き出ている。10万年もの管理期間が必要になる放射性廃棄物を、そんな場所に埋め捨てるわけにはいかない」。
あらためて。分かりやすいです
『新世代エネルギー』『クリーンな発電』とか、推進派は言ってますが、原発同様「核のゴミ」も出ます。騙されないように。