【IWJブログ】鳥越俊太郎氏「安倍政権はファシズム化している。ヒットラーと同じとは言わないが、今やっていることは独裁だ」 2014.2.19

記事公開日:2014.2.19 テキスト
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(IWJ・原佑介)

 年内に施行される特定秘密保護法の危険性を周知し、廃止に追い込むため、日弁連は2月18日、弁護士会館で「秘密保護法廃止を目指す市民集会」を開催した。

 この日、講演したのは鳥越俊太郎氏。田原総一朗氏らとともに、国会審議中に秘密保護法反対の声を上げたジャーナリストの一人である。

 1965年に毎日新聞に入社して以来、管理職に就くことなく、好きで現場取材ばかり続けてきたという鳥越氏。

 「秘密はなんとしても探りだそうとするのが、ジャーナリストの本能です」。まもなく74歳になるが、生きている間にチャンスがあれば懲役も辞さず、特定秘密を白日の下に晒す、と意気込む。

「記者は殺人と強姦以外は何やってもいい」と教わった

 毎日新聞時代の鳥越氏は、大阪本社で6年間、府警の捜査二課を記者として担当していた。捜査二課とは、贈収賄や、紙幣偽造、詐欺、横領、背任、企業恐喝、脱税、不正取引などの金銭犯罪、経済犯罪、企業犯罪など、いわゆる「知能犯」を扱う捜査課のことだ。

 「捜査二課は、まだ事件が起きていない段階で先行捜査するのが基本で、表には何も見えてきません。捜査二課がどんな事件をやっているか探り出し、家宅捜査の当日に新聞に書くことがベストですが、これがなかなかできない。公務員法という堅い壁で捜査官が守られているからです」

 「新聞記者は殺人と強姦以外なら何をやってもいい」と、先輩記者の故・山崎宗次氏から教わったと鳥越氏は「告白」する。公務員法で守られた秘密を暴くために、「いろいろやった」と当時を振り返る。

 「どうやってお巡りさんを騙すかを考えてね。お酒やウイスキーを持って警察官の自宅を訪ねて、買収行為もやらなきゃいけなかった。二課長、もしくは次席の机の上や、引き出しの中の文書をひそかに抜いてくる。これは窃盗ですよね。これを私も他の記者も、現実にやった」

「西山事件」を改めて振り返る

 鳥越氏は、「こうして日々、毎日、違法行為をしていたが、ひとたび権力者の逆鱗に触れれば逮捕されるんです」と続け、「一番いい例は西山事件」と、同じく毎日新聞の記者だった西山太吉氏の事件を挙げる。

 沖縄密約(沖縄本土復帰の際、本来、米国が支払うべき土地の復元費用400万ドルを、日本が肩代わりするという日米間の合意・密約)を暴くため、毎日新聞の西山太吉記者は、外務省の事務官と「情を通じ」て、密約の存在を裏付ける外交文書を入手し、報道した。

 この一連の西山氏の手法が、「正当な取材活動の範囲を逸脱する」として、事務官とともに、西山氏までもが国家公務員法違反で有罪に問われた。これが「西山事件」である。西山氏のこの事件は、山崎豊子原作「運命の人」で小説として描かれたことでも有名。TBSでドラマ化もされ、俳優の本木雅弘氏が西山氏の役を演じた。

 「当時、幹部クラスの間に、密約の文書が回っていた。大臣が見たら判子を押して、次に回す。その文書を西山さんは手に入れ、解説記事の中で書いたが、政府はこれを事実として認めない。西山さんは、これだけの秘密が闇から闇に葬られてしまうと焦燥感に駆られたのでしょう。後輩記者を通じ、当時の横路孝弘衆院議員に機密文書を渡した。横路議員は外務委員会で追及したが、官僚は頭がいいんです。

 役人が、『横路先生、ちょっと確認のため文書を見せてください』と言って、横路議員は見せてしまった。役人はどこをみたか。文書が本物であることはわかっているんです。彼が見たのは、印鑑がどこまで押されているか、でした。

 それで役人は、文書がどこで留まっていたかがわかった。上司に報告し、警視庁に報告し、おそらく総理に報告し、当時の佐藤栄作総理は『やれ』と命じ、逮捕に踏み切った。一審無罪だった西山さんは、二審と最高裁で有罪が確定しました。

 こうした権力の強い反応が、場合によってはあるんです。いわば危ない地雷原のような中で私たちは仕事をしているんです」

「ペンタゴン・ペーパーズ事件」を改めて振り返る

 鳥越氏は、西山氏の暴いたような「ハイクラスの秘密」は、そう簡単には取材できないからこそ、重要なのが「内部告発」であるという。米国の「ペンタゴン・ペーパーズ事件」を例に挙げ、説明した。

 ペンタゴン・ペーパーズ事件とは、元国防総省調査官のダニエル・エルズバーグ氏が、ベトナム戦争に関する、7000ページにわたる最高秘密指定の極秘文書のコピーを、ニューヨーク・タイムズ記者に渡すことで政府の失策を告発した事件のことだ。

 ニューヨーク・タイムズは、これを長期連載で報じた。ニクソン政権はニューヨーク・タイムズを起訴したが、裁判所に公訴棄却され、機密漏洩罪に問われたエルズバーグ氏とニューヨーク・タイムズは「英雄」として扱われた。

 鳥越氏は、エルズバーグ氏の行動について、「我々のような、功利的な、特ダネを取りたいというレベルの低い野心ではなく、『この戦争はやめさせなければならない』という、気高い良心に基づいて行動したのだと思う」と評価。秘密保護法は、西山氏のような取材者はもちろん、内部告発者を重罪に問う法律であることを再度紹介し、警鐘を鳴らした。

安倍政権の目指す「戦後のレジームチェンジ」

 さらに鳥越氏は、「今日一番話したいのが、特定秘密保護法は、『単独ではない』ということです」と述べ、安倍政権批判を展開する。

 秘密保護法は、国内向け、メディアや官僚、政治家などの秘密情報に触れる可能性のある層を「締め上げる」ために作られたものだ、と鳥越氏はいう。

 「安倍政権の本質を観なければいけません。安倍政権は、これまでの自民党の他の政権とは全く違う。安倍政権は、全面的に日本を変えようとしている、秘密保護法だけをやろうとしているわけではなく、『レジームチェンジ』をしようとしている。つまり、戦後の体制を変えるということです」

 鳥越氏は、戦後の体制とは、「憲法9条のもとの、戦争しない平和な国」と定義づける。

 こうした憲法の理念を子どもたちに伝えていくためにも、独立した教育委員会制度があるが、安倍政権は、教育委員会制度の見直しを検討するとしている。また、内閣法制局長を、集団的自衛権の行使容認に前向きな人物に代えることで、これまで「不可」とされてきた「集団的自衛権の行使」を容認しようともしている。

 「そうなれば、憲法9条は抜け殻になるでしょう。9条は、『国際紛争を武力行使で解決することをしない、交戦権を持たない』と、ちゃんと謳っている。9条のコアは、『どんなことがあろうとも日本は二度と戦争しない』ということ。これを集団的自衛権という名目で、米国と一緒に、戦争に参加しようとする。

 米国は今、財政赤字で引き気味だが、共和党政権になったらまた戦争するかもしれません。例えばイランで。軍産複合体が米国にはある。演習で使う弾では足りず、戦争をしなければ儲からない仕組みになっているんです。それが米国の経済の仕組みです。イランで戦争し、その時に日本の集団的自衛権の行使が認められていれば、『日本もちょっと手伝ってくれ』となって、米軍と一緒に、銃、ミサイルを打つ可能性は出てきます。

 戦後、一発の銃弾も打ったことない自衛隊が、外国で銃弾を撃つ。外国人を殺害する自衛隊が、初めて生まれる。撃たれるだけでなく、死傷者などの被害が出る。どこにでもある軍隊のように、『殺し、殺させる』状況が生まれる。

 これが集団的自衛権の中身です」

 その時は、おそらく、自衛隊の行動計画は特定秘密に指定されるだろう。秘密保護法は、集団的自衛権の行使も視野に入れている。国民にわからないうちに、戦争が起きる。気づいた時には、国民は戦争に巻き込まれている。鳥越氏は、そうした懸念を繰り返し強調した。

マスメディアを握ったファシズム政権

 鳥越氏は、安倍政権の「マスコミ対策」への熱の入れ方にも着目し、NHKの籾井勝人氏への批判も展開した。

 「NHKの会長はとってもお粗末な人で、人品骨柄からふさわしくない。あの人は、安倍さんのお友達として、推薦で経営委員会の中で選ばれました。他にも経営委員を送り込んでいます。作家・百田尚樹氏は、『南京大虐殺はなかった』と言い、田母神氏以外の都知事選候補者を『人間のクズだ』と、とんでもないこと言った。

 (同じく経営委員の)埼玉大学名誉教授の長谷川三千子氏は、野村秋介氏のピストル自殺を絶賛し、野村が言えば、憲法が何と言おうと『今上天皇は現人神になる』と、時代錯誤な戦前の考え方を展開しました。2.26事件の時のような発想だ。さらに、安倍さんが若い頃の家庭教師を経営委員にするなど、私ごとの人事をやっている。

 会長と経営委員の一部を、安倍政権は握りました。安倍総理はメディアに敏感な人。レジームチェンジ、美しい国ニッポンを実現するためにもメディアは大事だから、NHKをまず脅し、各新聞社、TV局の社長としょっちゅうご飯を食べているんでしょう」

 最後に鳥越氏は、「安倍総理は、『憲法によって縛られている』という意識がない。僕は、安倍政権はファシズム化していると思います。ヒットラーと同じとは言わない、ヒットラーほどたいへんなシロモノとは思わないが、今やっていることは独裁だ。秘密保護法も、ほとんどの国民が反対だった。公聴会でも全員が反対したが、その翌日に強行採決に踏み切ったんです。国民の声など踏みにじって進む、ファシズムの典型といえます」と批判。

 「安倍政権はあらゆる面で『美しい国ニッポン』、『積極的平和主義』という国を作りたいがために、努力しています。安倍総理だけでなく、相当な人数の参謀がいるのでしょう。残念ながら日本の野党はついていけない。後追いになってしまう。今、国民が立ち上がって、戦争は二度とやらないという意志を表明しないと、安倍政権はこのまま突っ走ってしまう。それを、一番危惧しています」と語った。

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「【IWJブログ】鳥越俊太郎氏「安倍政権はファシズム化している。ヒットラーと同じとは言わないが、今やっていることは独裁だ」」への2件のフィードバック

  1. 小林由美 より:

    シャーロック・ホームズも家宅侵入、窃盗、詐欺、恐喝…「違法行為」「越権行為」の連続。それは「正義」などというちっぽけなもののためじゃない。「真実」を明らかにするため。真実を闇に葬ろうとする権力に対しては、「秘密保護法」を破る「違法行為」も必要になってくる。でもそこから先は小説ではなく、現実だ。治安維持法の不幸を繰り返したくはない。メディアは市民を味方につけていってほしい。市民とともに作るメディア、IWJに期待したい。

  2. @maccrosskeさん(ツイッターのご意見より) より:

    秘密保護法廃止を目指す市民集会って今はどうなってるの?教えて!・・・

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