阪神・淡路大震災19年記念集会 「福島の今」を議論 ~「復興」語るも意見に開き 2014.1.17

記事公開日:2014.1.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2014年1月17日、兵庫県の神戸市勤労会館で「東日本大震災被災地と結ぶ阪神・淡路大震災19年メモリアル集会」が行われた。1995年に発生した阪神・淡路大震災から19年目を迎える今年、復興を成し遂げつつある神戸で「福島の今」を論じる、とのコンセプトの下、「復興」という言葉を巡り、興味深いスピーチが展開された。

 メディアを使う、政府主導の「復興の大合唱」に懸念を示したのは、森松明希子氏(原発賠償関西訴訟原告団代表)だ。「放射線被曝リスクが心配されようが、県民を被災地の中でがんばらせたい、という本音が透けて見える」と暗に批判。少なくとも、今しばらくは福島の復興よりも、希望者全員を対象にする「県外避難」が実行されるべき、と訴えた。

 一方、伊東達也氏(原発問題住民運動全国連絡センター・筆頭代表委員)は、「生まれ育った故郷で暮らしたいニーズは、県民の間に根強い」との認識をベースに、国に対し「復興」のアクセルを踏み込むように要求する。ただし、「今の福島には、新たな概念の『復興』が必要だ」とも表明している。

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  • 主催あいさつ/連帯あいさつ/来賓あいさつ
  • 阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議報告
  • トランペット演奏 松平晃氏
  • 講演
    森松明希子氏(原発賠償関西訴訟原告団代表)「母子の避難、心の軌跡、家族で裁判に決意するまで」
    伊東達也氏(原発問題住民運動全国連絡センター・筆頭代表委員)「福島原発事故から2年10ヵ月 フクシマはいま」
  • 日時 2014年1月17日(金)14:00~17:40
  • 場所 神戸市勤労会館(兵庫県神戸市)
  • 主催 阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議

 主催者と来賓者のあいさつに続き、岩田伸彦氏(阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議事務局長)が登壇。最初に、兵庫県や神戸市などが、都市再生機構(UR)から借り上げて被災者に提供してきた住宅の「追い出し問題」について報告した。

 借り上げ住宅協議会と協力し、「継続入居を希望する人が、全員、住み続けられるようにしてほしい」と国と兵庫県、さらには神戸市などに訴えてきたとのこと。「当初は、国も自治体も『期間が過ぎたら出ていってもらう』の一点張りだったが、われわれの粘り強い努力でようやく一歩前進した」。

 市役所が入居者に対し、URとの契約に基づく20年という期間満了後も、継続入居を認めるケースが登場したのである。昨年3月、兵庫県の井戸敏三知事は、80歳以上の人がいる世帯には継続入居を認めると発表した。ただ、「神戸市は『85歳以上にしてほしい』と県に求めており、ほかの市も要件は一様ではない。(年齢などで縛りがかる以上)希望者が全員、継続入居できる状況には至っていない」。岩田氏は、今後も引き続き、この問題に取り組んでいくと宣言した。

阪神・淡路大震災の被災者にも「返済免除」を

 続いて、「阪神・淡路大震災から20年近く経った今なお、大きな困難を抱えている被災者が大勢いる」と指摘した岩田氏は、国と自治体が被災者に貸しつけた災害援護資金の「返済問題」にも触れた。

 阪神・淡路大震災では、自宅の全壊で350万円が、半壊で150万円が、それぞれ当該する被災者に年3パーセントの利息で支給された。岩田氏らはこれを、金額が低い上に要件が厳し過ぎると判断し、かねてから行政に対して改善を要求してきたという。

 「努力の結果は、東日本大震災の被災者への自治体融資の要件に反映された」。阪神・淡路大震災では連帯保証人が必要だったが、東日本大震災では、保証人がいる場合は利息なしで、保証人がいない場合でも年利1.5パーセントとなった。しかも、資力のない市民には、条件付で返済が「免除」されるようになった──。

 岩田氏は「阪神・淡路大震災の被災者にも、東日本大震災の被災者並みに『返済免除』が認められるようになるまで、政府交渉を続けていく」と力を込めた。

避難先で「情報操作」を実感

 その後、集会は松平晃氏のトランペット演奏を挟み、講演へと移行。最初に森松明希子氏(原発賠償関西訴訟原告団代表)が登壇した。

 現在、福島県郡山市から大阪市内に、5歳と3歳の2人の子どもと一緒に自主避難中(夫は福島で勤務医を続けている)の森松氏は、福島原発事故から約2ヵ月後の2011年のゴールデンウィークに、当時の避難先だった京都の妹宅で見た、夕方のテレビニュースに衝撃を受けたと告白した。「政治や経済がテーマの全国ニュースの後に『ローカルニュース』が流れるが、妹の家で見たそれは、福島では決して見ることができない内容だった」。

 出演していた学者が、1986年に起きたチェルノブイリの原発事故に照らしつつ、福島原発事故の深刻さを解説するもので、そこには、今後の放射能被害の予測も含まれていたとのこと。「復興の2文字をキーワードに、『道路の寸断が解消された』『学校で入学式があった』などと、県民の気持ちが前向きになる話題しか取り上げない福島のローカルニュースとは、まるで違っていた」。

住民票を移さない理由とは

 森松氏は当初、連休が終わったら福島に戻る気でいたという。が、そのローカルニュースを見たことが引き金となり、「避難続行」の意思を固めていくこととなる。「私たちより先に県外に避難した、福島の知人から言われた、『いったん福島から出れば(本当のことが)わかる』という言葉を思い出した」。

 森松氏は、「避難して、すでに2年10ヵ月が経過しているが、自分たち親子は住民票を福島から移していない。いわば『原発避難民だ』」とも述べており、その理由については、「不用意に住民票を移すと、子どもの県民健康管理調査の通知が、届かなくなる不安があるからだ」とした。さらにまた、「原発事故発生から1ヵ月以上、福島にとどまっていた私と子どもたちには、今後、何らかの健康被害が出ると覚悟している」と発言を重ね、「当時は、放射性物質が検出された水道水を飲まざるを得ない状況だった」と不安をにじませた。

 昨年9月17日、福島原発事故を受け、関西に避難中の人とその家族による80人(27世帯)が原告団を形成し、東京電力と国に対して損害賠償請求訴訟を大阪地裁に提起している。原告団には森松氏と2人の子ども、そして夫の4人も入っており、森松氏は「この裁判を通じて、放射線被曝の恐怖を避けることができる『市民の権利』を確立させたい」と意気込む。「(自主避難者を経済的に支援する)『子ども・被災者支援法』が、2012年6月に成立した。その具体的施策の検討が前進することを切に願う」。

 森松氏はスピーチの中で、福島に残っている人たちに配慮する発言を何度かしている。資金不足などの理由で、避難したくても避難できない福島県民が、若い親を中心に大勢いることは意外に知られていない事実だ。

「悪いのは、あくまでも地震と津波」という東電

 「福島の原発事故は、最大にして最悪の公害だ」──。続いての講演で、伊東氏は強い口調でこう訴えた。

 「国と東電という加害者がいて、おびただしい被害がもたらされた人災が、福島原発事故だ」と言葉を足した伊東氏は、自分が理事長を務める小名浜生協病院(福島県いわき市)が原発事故で被った被害などを巡り、「東電側の弁護士と議論したことがある」とした上で、次のよう語気を強めた。

 「加害者と被害者の立場が、まるであべこべだった。東電側の主張は『悪いのは、あくまでも地震と津波であり、自分たちが責められる筋合いではない』というもの。国も、これとほぼ同じだった」。

「除染は無意味」と論じるだけの学者を叱る

 伊東氏からは、被災地には、国や東電に向けられるべき住民の怒りが「鬱憤」となって蓄積されており、それが住民同士のいざこざとなって表出している、との言及もあった。「東電と国による保障水準は、被災者の『生活再建』には程遠い。東電は、県内に住む市民たちが口にする『放射線被曝』に関する不安の声には耳を傾けようとしない」。

 その後、「除染問題」に触れた伊東氏は、「あの作業は、お金がかかるだけに、その費用捻出の面で国民の合意を得ることは難しい」と語った。

 要は、除染費用の電気代への上乗せや、税金による負担ということで固まる気配になれば、「除染は不要」との声が、福島県外から聞こえてくる可能性があるということ。そして、その折に味方にされやすいのが、学者らが主張する「除染は、放射性物質を別の場所に移しているだけ」との言説だと指摘した伊東氏は、こう怒りをあらわにした。「学者だったら、除染を切り捨てて発言を終えるのではなく、『それならば、どうやって福島に暮らす子どもたちの健康を守るのか』まで議論を深めるべきだ。人が住む場所から放射性物質を隔離し、安全を確保すれば、人の被曝が低減されることは実証済みだ」。

「かつての福島」に固執すべきではない

 「強制避難区域への帰還も、除染が大前提だ」と続けた伊東氏は、「帰還を巡っては、『福島のような危険な場所には戻らない方がいい』という意見はあるが、私は、本心では福島に帰りたいと願っている避難者は多いように感じられる」と述べ、「帰還ニーズに対応するために、国は『復興』に全力を上げるべき」と力を込めた。

 ただし、伊東氏は強制避難区域の帰還について、「高齢者を中心とした限定的なものにとどまるだろう」とも発言しており、被災地・福島に「かつての福島」を復活させることに固執すべきではない、との考えを示した。福島に当てはまる「復興」は、従来の概念のそれとは違ったものになるとの趣旨であり、「一から地域を作り直すぐらいの発想が、必要になる部分も少なからずあるはずだ」と話した。

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