「大間原発の発電はカモフラージュ。本当はプルトニウムのために作られた」 〜アーサー・ビナード講演会 2013.12.29

記事公開日:2013.12.29取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「今年は全国各地で、イルミネーションが多かった。原発事故以来、省エネに傾いていた国民に対して、『もっとムダに電気を使え』という、国と企業の(原発推進も含んだ)プロパガンダだ」──。

 2013年12月29日、北海道函館市の千代台公園と函館市芸術ホールにて、「大間原発反対 年末締めくくり講演会 アーサー・ビナード ウォーク&講演会」が行われた。参加者らは、詩人のアーサー・ビナード氏とともに、津軽海峡を挟んだ対岸に建設中の、大間原発に反対するデモ行進をした。その後、函館市芸術ホールで、ビナード氏が講演を行った。

 ビナード氏は「原発事故で、放射能汚染が激しいのが、君が代にも歌われている苔だ。『苔は好きか』と安倍首相、麻生副総理、石破幹事長に訊ねたい。苔が好きだったら、原発再稼働も原発新設もあり得ない」と語った。

 大雪降りしきる千代台公園で、デモがスタートした。参加者は悪天候をものともせず、アーサー・ビナード氏とともに大間原発反対を訴え、五稜郭公園に近接する函館市芸術ホールまで練り歩いた。

■アーサー・ビナード氏講演 1/2

■アーサー・ビナード氏講演 2/2

■Ustream録画 デモ行進 ※Ustream動画サービスは終了しました。現在、他の配信方法に変更中です。今しばらくお待ち下さい。

イルミネーションは『電気を使え』というプロパガンダ

 講演会の冒頭、司会者がアーサー・ビナード氏を、「1967年ミシガン州生まれ。大学在学中、漢字に出会い、魅せられ(1990年)来日した」と紹介した。ビナード氏が登壇し、まず、「国防総省の建物は、上から見ると五角形でペンタゴンというが、いい五角形は(この函館の)五稜郭だ」と会場を沸かせた。

 「この2ヵ月、日本各地を回ったが、どこに行っても、イルミネーションがとても目立った。元祖は、札幌のホワイト・イルミネーション(1981年)。今年は、石破幹事長の地元の鳥取の砂丘でも、佐賀の吉野ヶ里遺跡でもやっていた」と言い、そのチラシを見せた。

 そして、「これらのイルミネーションは、原発問題が起こり、省エネに傾いていた国民に対して、『もっとムダに電気を使え』という、言葉では表せないメッセージを潜ませた、国と企業の(原発推進も含んだ)プロパガンダだ」と看破した。

A Rolling stone gathers no moss(転がる石に苔は生えず)

 ビナード氏は、日本で短歌に出会った経緯から話した。「生まれ故郷のミシガンを思い出し、短歌を作りはじめた。ミシガンの森の苔は、とても美しい。そこで、苔を歌に織り込むと、指導してくれた先生が『君が代』を教えてくれた」。

 「英語でも似たことわざがある。『A Rolling stone gathers no moss』(転がる石に苔は生えず)で、(ロックバンドの)ザ・ローリング・ストーンズのネーミングもここからきた。もともとは『転がっていると、繁栄は得られない』という意味。苔は、時間や経験の積み重ねによる豊かさを象徴しており、根付かなければ繁栄しないというニュアンスは、『千代に八千代に』と継続を謳う、君が代と通じている」。

 「ところが、今のアメリカ人のほとんどは、その意味をはき違えて、『転がって、苔を寄せ付けない生き方がよい』と思っている。なぜか。それは、経済の形が変わってしまったから。ある場所に根付いて商売をしても、富は築けなくなったからだ」と述べ、実体経済から離れていくアメリカ社会で、苔のことわざが変容したことを語った。その上で、「日本は、国家として苔を大事にしている。こんな国はほかにない」と力を込めた。

原発推進派は、君が代を歌う資格はない

 「福島の除染作業マニュアルでは、一番最初に苔を落とすこと、と書いてある。なぜなら、苔がもっとも放射性物質を取り込んでしまうから。君が代にも登場するような、苔を大事にする伝統を持つ国が、今一番、苔を破壊している」。

 そう語るビナード氏は、「安倍首相の靖国参拝については、気にしない」と言い、「アメリカ政府が非難していると、ニュースになっているが、(米政府は)本当はまったく気にしていない。中国も韓国も、本気ではない。わざと騒いで、裏でお互い通じあっている」と語った。

 「ただ、『苔は好きか』と安倍首相、麻生副総理、石破幹事長に訊ねたい。もし、苔が好きだったら、原発再稼働も原発新設もあり得ない。もし、苔が嫌いだったら、『君が代を、国歌からはずせ』と進言する。原発推進派は、君が代を歌う資格はない」。

 さらに、ビナード氏は「自分は、ある意味、石破さんより超保守主義者。日本の食料自給率を、100年前に戻したいから」と明言し、「今の政治家は、独立とは正反対に進もうとしている。奴隷になって、食糧自給率をさらに下げ、独立国家が成り立たないようにしている。アベコベミクスだ」と聴講者たちを笑わせた。

 その上で、「私たちは、先人たちの残した君が代、この三十一文字の恵みを、生かさなくてはいけない」と、独自の脱原発論を主張した。

『一日に玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ』

 「昔の人の残した言葉は、今、僕らが生き残るための、闘いの足場になる」としたビナード氏は、続いて、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』の詩を取り上げ、「高校生などに尋ねると、あまり、彼らには好まれていないが」と言いながら、『雨ニモマケズ』を朗読した。

 「宮沢賢治の死後、この詩は、権力者たちによって(国民に忍耐を強いるために)悪用されてきたところがある」と言いながら、詩の魅力をフレーズごとに解説。「一番重要なフレーズは、『一日に玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ』のところだ」。

 「実際、1日に玄米4合は、多すぎて食べられない。つまり、粗食のすすめではない。豊かな恵みをたっぷり食べている」とした上で、「賢治は、ただ人助けをしているのではなく、自分が生き残るために東奔西走して、玄米や味噌を手に入れていただろう」と指摘。「この味噌の大豆は、国産で、遺伝子組み換え大豆でもない。知り合いの田んぼの畦道に生えた豆(畦豆)で、味噌に使う麹まで、誰が生産したものか、わかっていた」と述べて、地産地消の継続可能な里山の実体経済が、この詩に込み込まれていることを示し、食料自給率100%の、自立した国の本来の姿を読み解いた。

日本の独立をまったく考えていない「ごくつぶし」の自民党政治

 講演は続き、今度は、「石」という漢字をホワイトボードに書いた。「コクとも読むが、一石は約180リットル相当で、1人の男性が1年で食べる玄米の量。5万石というと5万人を養う力のこと。このように、食糧の生産力を国力にたとえる文化は、英語圏では見つけられない」と述べた。

 その上で、「今の自民党の経済政策は『ごくつぶし』。食料自給率を度外視し、日本の独立をまったく考えていない」と指摘。「日本の独立をあきらめたら、日本の言葉がなくなる。千代に八千代に続いているものが、伝わらなくなる」と懸念を表明した。

 「日本語は、里山で穀物を作りながら生まれた、奇跡の言葉。アメリカにも、先住民族の豊かな文明と言葉があったが、西洋から渡ってきた人々につぶされた。経済から外されると、言葉は衰退して消えていくのだ。TPPを批准したら、日本語も非関税障壁として外される。社内公用語を英語に切り替える日本企業が出てきたように、TPPで日本語が終わる流れが見えている。ただし、アメリカの先住民にしたように、(外資企業が)農業を乗っ取る時は、日本語を使うだろうけれど」と警鐘を鳴らした。

闘う言語、日本語を終わらせるな

 アメリカの核開発が、国民には秘密に進められていたことに触れたビナード氏は、「大間原発の建設も、本質は隠されている」と指摘した。「大間原発の発電はカモフラージュ。本当はプルトニウムのために作られた。もんじゅと六ヶ所村再処理工場は、日本の核武装のための屋台骨。それを、大義名分で隠すため、大間原発が組み込まれた。特定秘密保護法も、これと無縁ではない」。

 また、「アメリカ国防総省にとって、彼らが知らない日本の秘密はまったくない。たまに、アメリカが日本を支配するために流す情報を、日本の国民に知られないように、特定秘密保護法は作られたのだ」とした。

 さらに、ビナード氏は「日本の軍隊が、アメリカの下請け軍となって、戦争ができる国になってしまうことも、阻止しなければならない。経済はTPPで決定権を奪われ、自衛隊も下請け軍で決定権がなく、海外へとけしかけられる。相伴って、日本語も通じなくなる」と語った。

 最後に、ビナード氏は「暗い見通しばかり話したが、自分は悲観しない。なぜなら、日本語で生きているから。日本語は、すさまじい力をはらんでいる。今、闘う言語として使えると思う。ペテンを見抜き、言葉で闘うこと。言葉の力は無限だ」と締めくくった。

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