「日本で暮らしていると、空気のようにあたりまえにある権利が、ミャンマーでは、まったく保証されていない」──。
2012年2月7日(火)、東京都渋谷区のJICA地球ひろばで、NPO法人ヒューマンライツ・ナウによる活動報告「ミャンマー(ビルマ)未来のリーダーを育てる教育支援 ~この国が本当に民主化される日まで」が行われた。
ヒューマンライツ・ナウでは、2009年、タイとミャンマー国境のタイ側に、ピースローアカデミーという学校を設立し、軍事独裁政権が続くミャンマーの若者に、法律や人権を学ぶ機会を提供している。日本から弁護士や国連職員らを講師として派遣し、国際人権法をはじめとする人権・法の支配などについて教育を行い、ミャンマーの民主化を担う将来のリーダーを育成している。
この日は、ピースローアカデミーで講師を務める弁護士の伊藤和子氏らが、ミャンマーの若者たちが寄宿学校での2年間の生活を通じて、初めて「人権」という考え方に触れ、他国の憲法や民主化の流れを学び、これから祖国のために生かしたいと情熱を燃やす様子などを報告。ミャンマーの民主化と平和を、将来的に実現させようという若い世代への支援のあり方を語った。
- 報告 伊藤和子氏(弁護士 NPO法人ヒューマンライツ・ナウ 事務局長)ほか
「人権侵害」の意味を知らない若者たち
はじめに、伊藤氏はヒューマンライツ・ナウの概要を説明した。「ヒューマンライツ・ナウは、弁護士、学者、ジャーナリストを中心に、世界の深刻な人権侵害に対して、国境を越えて行動するため、2006年、東京を拠点に発足した。私たちは、自由を求めて活動する人たちを、草の根レベルで支援する活動に力を入れている。ピースローアカデミーは、ミャンマー国境の川を隔てたタイ側にある学校。そこでは25名ほどの若者が、2年間のカリキュラムで、英語と国際的な人権や法律について学んでいる」。
軍事政権下のミャンマーでは、現在でも収容所に1000人を越える政治犯が収容されており、国内では、人権や自由について話せない状況が継続している。伊藤氏は「そもそも、ミャンマーでは、人権侵害とは何かをわかっていない、という問題がある。自身の環境を『悲しい』とか『残念』『不運だ』と思ったとしても、それを人権侵害として捉えられないと、対応することができないのだ」と話す。
「ミャンマーは多民族国家であるが、ピースローアカデミーでは少数民族や女性も受け入れ、偏りがないようにしている。日本ではあたりまえの『人権』という言葉も、現地では宝石のようなキラキラとした言葉だ。生徒たちは、一日も早く学んだことを祖国のために生かしたいと願っている」。
「権利を学ぶ」ということ
ピースローアカデミーには、日本から弁護士などの講師が派遣されるので、学生はミャンマーの法律とともに、日本の憲法や国際人権法なども学ぶ。授業の一環として、ミャンマー語と英語で「世界人権宣言」を読み合わせ、条文を学んでいくという。
伊藤氏は「世界人権宣言を根拠とした、人権条約の条文で保証されていることは、ミャンマーではすべて保証されていない。たとえば『カルチャーの権利』としての『歌を歌う権利』についても、ミャンマーでは好きな歌を作詞作曲して歌うことは、軍事政権の許可がないと違法とされ、自由にできない。また、自分の民族の言葉を話すこともできない」と述べ、次のように続けた。
「地元では、争い、殺し合っている民族同士が、この学校では一緒に学んでおり、『自分たちがリーダーになる頃には、違うよな』という話をしている。平和や法律について学ぶことで、平和なミャンマーを作るための種まきをしているようだ」。
スカイプでつながる民主化への思い