2025年12月2日午後5時より、東京都千代田区の参議院議員会館にて、「高市首相発言撤回を求める緊急集会」実行委員会の主催により、高市早苗総理の「存立危機事態」発言の撤回求める緊急集会「日中共同声明の原点に戻れ 高市首相は『存立危機事態』発言撤回を」が開催された。
いわゆる「台湾有事」をめぐる中国による海上封鎖について、高市総理が11月7日の衆議院予算委員会で、「北京政府が戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と発言した。
この高市総理の発言に対して、中国政府が猛反発を示し、日中関係の悪化は深刻さを増している。
集会では、元外務省情報局長で東アジア共同体研究所所長の孫崎享氏による講演が行われ、それを受けて、国会議員をはじめ、各界の有識者達による発言や質疑応答が行われた。
講演の冒頭、孫崎氏は次のように語った。
孫崎氏「高市首相発言から始まった状況を見ていますと、一番の問題は、日本の多くの国民が、この事態の深刻さというものを理解していないということ。
メディアもそうですし、そして、申しわけないんですけれども、国会の先生方も理解されていない。非常に深刻な状況が、今、できているんじゃないかと思っています。
その一番の根本は『日中共同声明』。これを、日本が実質上、守らない状況を作ったということだと思うんですね。
1945年、日本は戦争をやめ、厳しい状況にあった中で、1972年、周恩来首相と田中角栄首相の間で『日中共同声明』がまとまった。(中略)」
※日中共同声明には「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項にもとづく立場を堅持する」と明記されている。
- 日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(外務省)
孫崎氏「その根本の『日中共同声明』の枠組みを、高市首相の発言でもって壊した。
そして、その壊したということを、当事者である日本が十分に認識していない。
中国から見ますと、一国の首相が、基礎になる『日中共同声明』というものを理解していないなんていうのは、とても考えられない。(高市首相は)わかって発言しているだろうと思っているんだと思います」
孫崎氏は、日本が、日中戦争(1937-1945年)において、中国の国民、そして国土に与えた甚大な被害について触れ、それを、日本の多くの国民は「ほとんど忘れてしまっている」として、次のように述べた。
孫崎氏「数字は様々なものがあると思いますけれども、死者が1000万から2000万人、総被害者は3000万から1億人。物的被害は約3830億米ドル(※現在の価値に換算すると約8.6兆ドル=約1337兆円)と言われるような形で、多大な被害を日本は行ってきた。
そして、世界的に見ると、この第2次世界大戦の後の世界秩序の中で、賠償を払わないということは、決して『確立された原則ではない』ということだと思います。
1951年のサンフランシスコ講和条約では、『日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承認される(第13条 c)』(とされている)」
- サンフランシスコ平和条約(日本国との平和条約)
孫崎氏「しかし、周恩来首相は、この問題について、『日本に賠償を求めない』という立場をとったわけですけれども、それは、台湾問題と確実にリンクしている。
台湾問題で、日本の立場が明確でなかったならば、『賠償の問題は放棄する』ということは出てこなかったはずなんですね。
それぐらい深刻な問題を、台湾問題が持っているわけですけれども、周恩来首相が、なぜ『賠償を放棄する』と言ったかというと、これは、『日本軍国主義に対して被害を受けたのは、中国国民もそうだけれども、日本国民もそうだ』。
ここが非常に重要なところなんですね。『日本国民もそうだから、我々は賠償を求めなくていい』という論理になってくるわけです。
『もしも、日本国民と、そして、日本政府が、軍国主義と一体であるということであれば、賠償の放棄はない』というような形で、私達は、余りにも歴史的な事実を勉強してこなかった。
自分の主義主張だけを考える、自分の主義主張だけを主張する、そういう国になったと思います」
中国側は、「日中共同声明」の調印にあたり、その第3項を「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」とした日本側の立場に、「十分理解し、尊重する」というだけでは不十分であると「NO」を突きつけた。
それを受けて、日本側は「ポツダム宣言第8項にもとづく立場を堅持する」という条文を追加したが、日本では、このポツダム宣言第8項をもって「日中共同声明」が調印されたことの意味について解説されることは、ほとんどない。
孫崎氏は、ひとりの外務官僚の名前をあげて、以下のように述べた。当時、外務省条約局長であり、日中共同声明の日本側起草者の一人であった、栗山尚一(くりやま たかかず)氏である。
孫崎氏「栗山氏の説明を見ていきますと、『カイロ宣言にいう中華民国とは、中華人民共和国が継承した中国である。従って、カイロ宣言の履行をうたっているポツダム宣言第8項にもとづく立場とは、中国、すなわち中華人民共和国への台湾の返還を認めるとする立場を意味する』(とある)」
- 台湾問題についての日本の立場―日中共同声明第三項の意味―(公益財団法人日本国際問題研究所、2007年10月24日)
- カイロ宣言(内閣府)
孫崎氏「そして、重要な第2の意味は、『台湾が中華人民共和国政府によって代表される中国に返還されるのを、我が国が認めることであるから、「2つの中国」あるいは「1つの中国・1つの台湾」は認めない。すなわち、台湾独立は支持しない』ということである。
たぶん、これを理解している人は、ほとんどなかったと思います。
つまり、『台湾の独立を支持していない』ということを、日本側は中国側に説明しているはずなんですよね、この時には。
今、『台湾有事』ということを言って、そして、自衛隊が場合によっては出て行くということまで、示唆をされた。認めていない台湾を支持して、それを軍事的に支援すると。
こんなものを、認められるわけがないじゃないですか。私が中国人であっても、『日本というのは、一体、どういう国なのか。信義に違反する国じゃないか』。みんな、そう言うと思いますよ」
緊急集会の詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。































