「言論の自由のために、恫喝に屈してはならない」~ DHCによる澤藤統一郎弁護士への名誉棄損訴訟、控訴審の行方は!? 2015.12.24

記事公開日:2015.12.24取材地: テキスト動画
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(取材・文 太田美智子)

※2016年2月2日テキストを追加しました!
(※追記)2016年1月28日、東京高等裁判所(柴田寛之裁判長)で行われた控訴審判決で、DHCによる澤藤弁護士への訴えは昨年9月の一審に続き、二審でも棄却された。

 「社会的な強者が自分に対する批判を嫌っての濫訴が横行するとき、市民の言論は萎縮し、権力者や経済的強者への断固たる批判の言論は、後退を余儀なくされることにならざるを得ません」「言論の自由のために、恫喝に屈してはならない、スラップに成功体験をさせてはならない、と決意しました」。

 2015年12月24日、東京高裁822号法廷。株式会社DHC(本社・東京都港区)と同社の吉田嘉明代表取締役会長から名誉毀損で訴えられた澤藤統一郎弁護士は、控訴審の第1回口頭弁論で、強者に対する批判の自由を守るための決意を語り、「憲法理念に則った判決を期待いたします」と裁判官の理解を求めた。

 控訴審は同日結審し、判決は2016年1月28日午後3時から、同法廷で言い渡される。

記事目次

■ハイライト

  • 日時 2015年12月24日(木) 15:00〜
  • 場所 東京弁護士会館(東京都千代田区)

「政治とカネ」批判に2000万円の損害賠償請求で威圧し、「スラップ訴訟」批判に請求額を増額したDHC

 裁判は、化粧品や健康食品の製造販売大手、株式会社DHCの吉田嘉明代表取締役会長が2010年の参院選と2012年の衆院選に先立ち、みんなの党の渡辺喜美代表(当時)に計約8億円の選挙資金を貸し付けていた問題について、澤藤弁護士が自身のブログで批判。これが名誉毀損にあたるとして、DHCと吉田会長が澤藤弁護士に対し、2,000万円の損害賠償を求めて2014年4月16日に提訴したものだ。

 澤藤弁護士は同年7月以降、DHCによる訴訟は「政治的・経済的な強者が自己に対する批判の言論や行動を嫌悪して、口封じや萎縮効果を狙って高額の損害賠償請求訴訟を起こす『スラップ訴訟』」であると、ブログで批判記事の掲載を開始した。

これに対しDHC側は、新たな名誉毀損があるとして、同年8月に請求額を6,000万円に増額した。

 2015年9月2日、東京地裁は請求を棄却したが、DHC側は判決を不服として同月15日に控訴した。

憲法21条の「表現の自由」と同13条「人格権」が衝突した場合、どちらが優先されるべきか?

 一審判決は、DHC側が名誉毀損と主張した16ヵ所の記述のうち15ヵ所を「公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあって、その前提事実の重要な部分について真実であることの証明がされており、(中略)人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできない」として、違法性がないことを認めた。

 澤藤弁護士は控訴審の第1回口頭弁論において、今回の裁判を「憲法21条が保障している表現の自由と、13条によって憲法上の権利とされている人格権とが衝突する場面での調整のあり方を問うもの」と位置づけた。

 その上で、「言論の自由とは、本来的に権力者や社会的強者を批判する自由として意味のあるもの」との考えを示し、強者に向かう言論である限り、「誰かの権利を侵害する言論であってこそ、これを自由であり権利であると保障することに意味がある」と主張した。

「DHC側の主張が通れば、安保法制を押し通した安倍総理の動機を『戦争ができる国にしたいのだろう』と批判することも、名誉毀損として訴えられかねない」

 閉廷後、弁護士会館で行われた報告集会では、言論への抑圧と言論の萎縮が進む現状を踏まえ、弁護団の弁護士らが「恫喝を許してはならない」と語った。また、DHCの主力商品分野である健康食品の規制緩和に潜む危険や、スラップ訴訟規制とヘイトスピーチ規制に共通する問題、及び腰のマスメディアに対する批判など、多岐にわたって話し合われた。

 最初に、小園恵介弁護士が裁判の経緯や争点について説明した。DHC側が、「政治をよくしたいという『あくまで善良な心から』約8億円を貸し付けたのであり、澤藤弁護士が『吉田氏は自分の思うがままに政治を動かそうとしている』と書いたのは名誉毀損である」と主張していることを紹介した。

 この点について、中川素充弁護士は、「手記に書いていない動機を書くことは許されないと言わんばかりの(DHC側の)主張が認められることになれば、安保法制も安倍総理が『平和と安全のためだ』と言うのに『戦争ができる国にしたいのだろう』という批判は名誉毀損にあたると訴えられてもおかしくない、という状況を作り出しかねない」と警告した。

アベノミクスでいっそう進んだ「健康食品」の規制緩和 ~内閣府食品安全委員会が「安全性や有効性が確立しているとは言えない」と国民に向けたメッセージ

 また、中川弁護士は、DHCの主力商品分野である健康食品について、業界や米国からの圧力により90年代後半から規制緩和が始まり、2000年代に市場が急成長したことや、アベノミクスの第三の矢にも挙げられていた機能性表示食品が2015年4月に解禁された問題について話した。

「食品で効果効能を言えるのは、所轄官庁の承認が必要な特定保健用食品(いわゆる『トクホ』)だけだったが、(有効性や安全性の評価試験に)億単位の金がかかる。しかし、機能性表示食品は、企業が企業の責任で論文を持って届け出をすれば、販売できる。トクホでは安全性の面で認められなかった商品や成分が機能性食品として認められているケースもある」

 さらに、中川弁護士は、内閣府食品安全委員会の「いわゆる『健康食品』に関する検討ワーキンググループ(座長・脇昌子静岡市立静岡病院副院長)」が「国民の皆様へ」と題したメッセージで、健康食品の「安全性や有効性が確立しているとは言えません」と注意を喚起していることも紹介し、「安易な規制緩和はあってはならないし、リスクに関する十分な情報・言論が必要」と話した。

名誉毀損の賠償額相場が跳ね上がったのは、自公が森総理や創価学会に対するマスコミ批判を嫌ったから!? 「物言わせぬ手段として、名誉毀損が利用されている」

(…会員ページにつづく)

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