働く男性の12.9%が「過労死ライン」を超える長時間労働国、日本。
労働者の1年間の平均的な労働時間は2700時間にも及ぶという試算があり、脳や心臓の疾患、精神障害に関する労災申請が後を絶たない。そして非正規は2000万人を突破。また、多くの先進国が年休消化率80〜100%を達成しているのに対し、日本はわずか39%という低水準にとどまっている。
こうした悪辣な労働環境は改善されるどころか、さらなる“ブラック化”に拍車がかかろうとしている。
安倍政権が成立を目指す「労働基準法改正案」「派遣法改正案」は、「残業代ゼロ法案」「正社員ゼロ法案」とも呼ばれ、ほとんどすべての野党が危険視しているが、維新の党の手のひら返しによって、今国会での成立が危ぶまれている。
これらの法案が成立すれば、日本社会はいよいよ“合法的なブラック化”を迎えるかもしれない。
2015年6月26日(金)、日本共産党・吉良よし子参議院議員、労働問題に取り組む笹山尚人弁護士をIWJ事務所に迎え、日本の異常な長時間労働の実態、労働者に過酷なノルマを強制する職場の裏側、労働者を使い捨てにする、世界でも突出した「派遣労働業」の真相に、岩上安身が迫った。
- 吉良佳子氏(参議院議員、日本共産党)/笹山尚人氏(弁護士)
- 日時 2015年6月26日(金)14:00〜
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
戦争法案の裏側で進む日本社会の「合法的なブラック化」
岩上安身(以下、岩上)「国会で戦争法案を審議している裏側で、日本の労働者の権利が危うくなっている、合法的なブラック化が進もうとしています。今日は吉良よし子参議院議員、笹山尚人弁護士をお招きしました。よろしくお願いします」
吉良よし子参議院議員(以下、吉良・敬称略)「よろしくお願いします」
笹山尚人弁護士(以下、笹山・敬称略)「よろしくお願いします」
岩上「戦争と労働者は無関係ではない」
吉良「戦争法案も9条を踏みにじりますが、派遣法も、戦後の労働者の権利を踏みつぶすことになりかねない法案です。絶対に許してはいけません」
笹山「安倍総理は『戦後レジームからの脱却』を掲げていますが、労働基準法などの労働法制も、戦後レジームのひとつです。安倍政権は、これも壊そうとしています」
岩上「いわゆる残業代ゼロ法案(労働基準法改正案)が4月3日に閣議決定され、国会に提出されました。成立すれば2016年4月1日に施行されます。最大の柱は『高度プロフェッショナル制度』『企画業務型裁量労働制』です」
笹山「これはもともと第一次安倍政権から進められています。残業代が出ないというのは大きな問題で、残業代が出ないとされる年収要件『1075万円』も下げていくと言われていますし、それを安倍政権は否定しない。『小さく産んで大きく育てる』ということなのでしょう。対象労働者も解釈で広がります。何時間働いても『定額働かせホーダイ』法案です」
「小さく産んで、大きく育てる」――計画通り進む労働者を酷使する手口
岩上「塩崎大臣は堂々と『小さく産んで、大きく育てる』と言っていますよね」
吉良「派遣労働も最初は13業務に限定されていましたが、どんどん拡大しました。規制を緩くするというのは、確かに頭に入っているんです。範囲の拡大は最初から見えています」
岩上「今国会の焦点の一つ、労働者派遣法改正案(正社員ゼロ法案)が衆院を通過しました。骨抜きの『同一労働・同一賃金』推進法案で維新の党が妥協しました」
吉良「『同一労働・同一賃金』推進法案は維新と民主、生活が共同で出した法案なんです。もともと『同一労働・同一賃金』推進法案は理念法で、実効性が疑わしかったのですが、維新が与党と修正協議に応じ、『均等』という文言が『均衡』、つまり『バランスを考える』止まりになったりして、結局、骨抜きになりました」
岩上「派遣法改正案は企業の派遣労働者受け入れ期間の制限を事実上なくすもので、労働組合などは『一生派遣で働く人が増える』と反対しています」
笹山「最長3年で首切りに遭う法案です。派遣労働者ではあるが、それでもこれまで長く働いていたという人まで辞めなければいけません」
吉良「これまで専門26業務で、事実上、無期限に働いていたのであれば、直接雇用するようにすべきだったはずが、今回の法案では、逆にクビを切る方向にいっています」
岩上「賃金、人件費を抑えれば消費が冷えます。24ヶ月連続賃金マイナスの中、どうして景気が上向くというのか」
吉良「『みなし雇用制度』が10月から始まります。1年以上、または3年以上、派遣状態で違法に働かされていたら『それは直接雇用にしたとみなす』として、正社員化できるという制度だったのですが、今の派遣法を通せば、これを骨抜きにできます」
笹山「日本再興戦略では『人を動かす』ことを決め、流動化のための予算を手厚くしている。派遣は使い勝手がいいですから。誰のためにやろうとしているかというと、労働者ではなく、派遣業、大企業のためです。
派遣労働者の相談に乗ると、『名前も呼んでくれない』といいます。『派遣さん』とか呼ばれているようです。その場の正社員も、ずっといるかわからない派遣労働者との距離の取り方もわからない、という状態です」
吉良「私も会社に務めていたとき、社員と派遣の暗黙の線引きを感じました」
「直接雇用ルール」はなくなり「3年でクビ」? 世界でも異例な日本の派遣
岩上「派遣会社には、同じ職場で3年働いた派遣労働者に新しい派遣先を紹介するか、派遣先に直接雇用を“依頼”するなど『雇用安定措置』を義務付ける、となっています」
笹山「これまでも3年働いて正社員になれるかというと、これも実は条件が高かったんです。今回さらに後退します」
吉良「5年間、派遣労働者としてニコンの工場で働いていた知人は、3年を超えていたのでようやく直接雇用されたんです。でも、半年でクビになりました。今も『3年ルール』が守られていないのに、それさえ奪うなんて絶望的だと言っていました」
岩上「原則3年までしか働けなくなり、大量の失業者が出る恐れがある。26の『専門業務』で働く派遣労働者は全体の4割強を占め、影響が心配されます」
笹山「そもそも派遣法は、あくまで一時的、臨時的な労働であって、『常用代替はダメだ』『正社員の肩代わりはダメだ』という思想です。『労働者派遣』が本来の言葉の意味から大きく外れています」
吉良「一時的労働を『派遣』としているのは、日本独自です」
岩上「日本の派遣労働業者数は世界的にみても異常に多いんです。派遣労働と新自由主義は関係があると言われますが、日本の派遣労働業者数は、米国の3倍以上なんです」
「山谷」がスタンダードに!? あちこちに飯場、あちこちで手配師がピンハネ!
岩上「まるで日本中が、かつての『山谷』化しています。古典的な、資本と政治権力による労働者搾取の構造が全面化している。手配師は、山谷ではヤクザがやっていたんですが、今、ピンハネで食っている人がこんなに大勢いるんです」
笹山「派遣業は立ち上げやすいんです。山谷みたいなものがあちこちに散らばり、見えにくくなっている。家と工場労働がセットなので、仕事がなくなれば、家まで失う。リーマン・ショック後の『派遣村』が象徴的です」
岩上「派遣法の改正をめぐっては、維新の党がコロッと転びました。松野さんは野党共闘しようと言っていたのにも関わらず」
吉良「本当にびっくりする手のひら返しでした。派遣法も戦争法案も、慎重審議をしようという一点で野党が調整していたんです。しかし、『同一労働・同一賃金』を共同で出していた民主を無視し、勝手に与党と修正協議に臨んだんです」
岩上「次の選挙のことも考え、なるべく与党に擦り寄りたいのでしょう。大阪都構想の住民投票も不調に終わり、市民の賛意を得られなかった。橋下さんのカリスマ性に陰りが出て、後がないと感じた人が自民になびいたという観測もありますが」
笹山「どうですかね。わかりません」
岩上「維新は人数が多い。その振る舞いによって、戦争法案の風向きも変わります」
吉良「戦争法案、派遣法案の阻止を考えると、与党も含め、多くの議員に『通しちゃいけない、採決しちゃいけない』と思わせるような世論を作ることが重要です」
パソナ会長・竹中平蔵のシナリオとそれを実行する「大阪維新」
岩上「『大阪維新の会』は以前から、今回の派遣法改悪でも旗振り役筆頭の派遣会社パソナが大口支援者。大阪市の区役所では業務をパソナと、パソナの関連会社に委託。会長は竹中平蔵氏で、日本維新の会は竹中氏が政策を書き、竹中氏にプロデュースされた政党です。
竹中氏は『「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と言っています』。まず自分の教授としての給料を派遣労働者並にしろ、と言いたい」
笹山「労働者本人の必死の生き方の選択に対して『自分でつかみとった自由だろ』というのは傲慢ですね」
吉良「真面目に就活してそれでも内定をとれない状況があります。でも、学生ローンもあるので、だから派遣しかない…という状況もあるんです。そんな人たちに『貧しくなる自由がある』など、どうして言えるのか。こんな状況を作ってきたのはあなたたちではないか、と。
竹中氏は民主党政権下で政治力を発揮できないなか、『日本維新の会』に深く食い込み、その後は安倍政権下で中枢に返り咲き、その間、一貫して小泉構造改革から連綿と『国の切り売り』を続けている。とんでもない売国奴ですよ。
ひとりひとりに人生があることをわかっているのでしょうか。最低限守るべき、人の人生や生命。医療をカネに換算していくなんてことをすれば、国は滅びるんじゃないでしょうか」
笹山「安倍ブレーンは本気でこういうこと(残業代ゼロなど)をやろうとしています。岩上さんが先ほど『売国奴』と言いましたが、日本のことなど思っていないのではないでしょうか。日本の労働者をどうするかという問題ですから、労働法では、愛国心がどう反映されるのかも問われているのだと思います」
岩上「共産党のほうが保守に見えます(笑)」
派遣法と戦争法のつながり…迫り来る「貧困徴兵制」「経済的徴兵制」
岩上「今、日本は戦争する国になろうとしています。でも、兵士は足りるのか。格差さえあれば徴兵制もいらない。派遣法と戦争法はつながっています。イデオロギーではなく、生活苦のために黙っていても戦争に行く、貧困徴兵制、経済的徴兵制です。
2007年、ブッシュ政権が打ち出した『教育改革法』の中に、米国中の高校に生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出することを義務付ける一項があります。貧しい地域の高校は、補助金を受けるために提出せざるを得ません。
米軍のリクルーターは、リストを使い、入隊を勧誘。拒否すれば補助金カット。入隊する若者の入隊動機の1位は『大学の学費の軍による肩代わり』。2位は『医療保険』です。入隊すれば、家族も兵士用の病院で、無料で治療が受けられるんですね」
笹山「第二次世界大戦のときのような徴兵制はもう必要ありません」
岩上「集団的自衛権を合憲だという3人の憲法学者は、徴兵制まで合憲だと言っています。じゃあ本当に徴兵制が復活したらどうなるか。戦争法案が通れば、自衛隊の任務は拡大、人も足りなくなる。
2060年には新成人男性は約30万人にまで急減します。自衛官の採用数を仮に3万人とすると、10人に1人が自衛官に。6万人なら5人に1人。誰が日本社会を担うのか? 日本は債務残高が1000兆円を超え、戦争になったら、財政破綻は必至の状況。これで戦争ができるわけがない。
なのに、自民党憲法改正草案第18条では、『何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない』…現行憲法から『いかなる奴隷的拘束も受けない』という文言を削除です」
吉良「戦争法案を決めた人が戦場に行くわけではありません。若者の未来を何だと思っているのか。若者は外国の戦場に送られ、国内ではブラック企業に追い詰められる。これで30年後の日本をどう支えていくのでしょうか。これでは『壊国』です。持続可能な社会をどう作るかを考えなければいけないはずです」
岩上「ますます吉良さんが正統な保守に見えてきます」
笹山「安倍さんは知らないようですが、芦部信喜さんの憲法教科書はバイブルです。その中では、憲法18条が禁じるのは端的に『徴兵制』であるとしているんです。憲法尊重擁護義務がある人たちが、徴兵制の議論をすること自体が間違いです」
「なか卯」に「すき家」…牛丼があれほど安い「理由」
岩上「吉良議員は、2013年7月の参議院選で日本共産党としては12年ぶりとなる選挙区での議席を獲得しました。5月31日には、ツイッターで『新しい生命を授かりました』と報告されました。国会ではブラック企業の問題を追及されていますね」
吉良「『なか卯』では、義務付けられている作業前準備が労働時間と見なされていません。着替えや社訓の唱和をしてからタイムカードを押させる。退勤時も後片付けをしてから。これは違法。総理も『(普通は)出勤してすぐタイムカードを押すものと考えます』と答弁しました。
『すき家』は、たび重なる労働基準監督署の是正勧告(2012〜13年の2年間で104件!)を受けながらも是正しませんでした。有名なのは『ワンオペ(1人体制)』で、トイレにも行けず強盗も多発。ほとんどの社員が『回転』(24時間連続勤務)を経験していました。
『すき家』では、恒常的に月500時間以上働いていた者や、すき家店舗における業務が多忙で2週間家に帰れないという経験をしている者もいました。これは命令されてやらされていたことです」
岩上「吉良さんは国会でこういう酷い企業の名前を公表すべき、と追及しても政府はのらりくらりですよね」
吉良「厚労省は、もし社名を公表してしまったら労基署が来た時に資料などの隠ぺいが行われてしまうと。これはおかしい。労基署は逮捕権限もあるのに」
岩上「2014年11月、過労死等防止啓発月間で行った重点的な行政の監督指導では4561の事業場のうち、3811の事業所で労働基準関係法令違反が発覚。違法な時間外労働があったのは2304事業場。8割の企業で違法な事態が常態化しているということです」
吉良「『すき家』などはその最たる例というだけで、労基法違反が横行しているんです。労働者も『正社員でいられるだけマシだ』などと諦めていってしまう」
岩上「派遣、非正規雇用は増加(現在で2千万人超え)していますね」
1000件のアポ、1000件の名刺交換、お経の強制も? ブラック研修の実態!
吉良よし子議員、笹山尚人弁護士のお話を伺いました。笹山さんの的確な人物評にあるように、吉良議員は自分の言葉で考えて話されるので、好感が持てます。
吉良さんにというより、今後の日本共産党について
1.はたからみていると「官僚のように秩序だった党体制」にみえます。戦前から続く歴史ある党ですから今後も変わらないのでしょう。ただ党員の高齢化の話を聴くことがあります。
2.全ての選挙区に立候補者を立てるのは、公式には到底認められないでしょうが、党員による地域での支持獲得数を選挙のときに確認したいのでは、と思います。
3.つぎの選挙の時には、無党派の人が「共産党に入れた」と後で言われないように、「安倍政権に反対する野党」としてまとまってほしいと思います。
吉良議員がますます健康でありますよう。