原発なしでCO2排出量を半減できるというシナリオを環境NGO、研究者らが提示――「温室効果ガス削減の可能性をさぐる~新たな目標設定と政策の実施にむけて~」 2015.2.24

記事公開日:2015.3.2取材地: テキスト動画
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(取材・記事:IWJ・松井信篤、記事構成:IWJ・安斎さや香)

  地球温暖化防止のため、市民の立場から「提案×発信×行動」するNGO/NPOである「気候ネットワーク」は2月24日(火)、主婦会館にて温室効果ガス削減の可能性をさぐる連続セミナーの第一回を開催した。テーマは「削減シナリオと省エネルギー対策」と題し、産業技術総合研究所の歌川学氏、WWFジャパンの山岸尚之氏、国立環境研究所の増井利彦氏を招いて行なわれた。

 気候ネットワークの連続セミナーでは、意欲的に気候変動問題に立ち向かう高い目標設定の検討や福島第一原発事故後の電力問題、幅広い削減可能性を掘り起こした政策の検討、参加と公開の下で公正な国民的議論を起こすなどの問題喚起を行なっていくという。

■ハイライト

  • スピーカー 歌川学氏(産業技術総合研究所)、山岸尚之氏(WWFジャパン)
  • コメンテーター 増井利彦氏(国立環境研究所)

温暖化対策はどこへ向かうのか――政策シグナルの欠如

 気候ネットワーク理事の平田仁子氏は、現在の日本における気候変動関する状況を説明。京都議定書における2013~2018年の第二約束期間に、日本は不参加の選択をしたことから、結果、2013年以降に温室効果ガスを削減する国際義務が生じていないという。

 さらに、民主党政権で掲げられた温室効果ガス25%削減目標を安倍政権が撤回。現在は、暫定目標はあるものの、目標値は検討中の状態だ。2012年9月には、「革新的エネルギー環境戦略」で気候変動とエネルギーを一体的に検討したが、政権交代により、これもなかったことになっているという。

 このような状況に平田氏は、「気候変動については目標がない、計画もない、その為に温暖化対策をして、どっちへ向かうのかという政策シグナルもない」と指摘。エネルギーに関しても、エネルギー基本計画で原発・石炭は重要なベースロード電源と示されたが、具体的な方向性やロードマップは見通さず、不透明なままとなっていると主張した。

COP21までに国民的議論はあるのか

 2015年末にフランス・パリで気候変動の国際交渉会議「COP21」が開催される。日本政府は「COP21」に向け、エネルギーと気候変動の方針を決める動きに入っている。

 これに関して、環境省と経済産業省の審議会・部会が合同で2030年頃の温室効果ガス排出削減目標を検討する「約束草案検討ワーキンググループ」が存在する。もうひとつは、総合資源エネルギー調査会がエネルギーミックスの検討をする「長期エネルギー需給見通し小委員会」がある。

 平田氏は、「温室効果ガスの9割はエネルギーを使うことから出ているので、長期エネルギー需給見通し小委で検討されたことが、約束草案検討ワーキングに反映されて、全体の目標とエネルギーが決まるのではないか」と決定プロセスを予測。その上で、数値目標について、国民が選択できるような国民的議論の場はあるのかと、懸念を示した。

日本のエネルギーの3分の2は熱として捨てている

 普段は省エネの技術普及の研究をしているという歌川氏は、CO2排出と削減対策について、エネルギーの活動量(生産量、輸送量、世帯の消費量など)を下げるのは最後の手段だという。活動量を下げなくても、エネルギー効率を上げて、どのエネルギーを使用するかで省エネできると考えている。

 エネルギー全体から見る発電用燃料等の割合は全体の4~5割で、他には熱利用や運輸燃料がある。そして、発電所の発電効率は40%程で、残りの発電ロスしたエネルギーは、工場、オフィス、家庭などで使われているエネルギーの約1.5倍を占めていると説明した。

 つまり、日本のエネルギーの3分の2は無駄になっており、ロスされたものは熱として捨てている状況だ。加えて、エネルギー効率は20年間、あまり改善されていないという。実際には、各分野での個別省エネ技術は進展しているが、システム全体の効率は横ばいなのが現状だと、歌川氏は解説した。

成果をあげている省エネ技術の実例

 こうした現状があることをふまえた上で、歌川氏は、成果を上げている省エネ技術の例を紹介した。一番ロスの多い発電所の省エネについては、旧型LNG火力を発電時に生じる排熱を利用するコンバインドサイクル火力に変えた事例を挙げた。これにより、東京電力川崎、関西電力姫路第二などの発電所は、100万kwあたり年間約200億円削減できたという。  

 工場の省エネでは、旧型の特殊空調(クリーンルーム、恒温質など)を新型に設備更新することにより、50%の削減、温度湿度設定運用についても、設定変更で40%の削減につながり、旧型各種生産設備の設備更新・改修・運用で50%の削減が可能であることや、排熱を使い回すことで、84%の削減を達成したという事例があると説明。旧型設備や老朽化した工場は多数存在していることから、工場だけをみても大きな省エネの可能性があることを示した。

 オフィス等の省エネに関しても、冷暖房について、旧型ボイラー系をヒートポンプに変えるだけで、熱が70%削減される事例があり、照明もハロゲンなどからLEDに変えるだけでも同様に大幅な電気使用を削減できるという。歌川氏は、オフィス自体の使い方が悪いというより、断熱や設備を変えることで、民間オフィスの効率は4倍の格差が表れていると指摘した。

原発なしでCO2排出量半減のシナリオ

 これらの省エネ対策について、気候ネットワークと歌川氏の共同で原発を全く稼働させない前提でのシナリオを検討した結果、2030年には、省エネによりCO2排出量半減が可能になると歌川氏は報告。投資回収可能な対策が多く、利益につながると説明した。

 しかし、設備投資の余力がある会社は多くはない。歌川氏は、公的機関による無利子融資や利子補給などの政策などを、企業が認定を受けたら可能になる仕組みになれば、持ち出しなしで貸し付けを受けられることにより、光熱費削減分を返済に充てるという手段が考えられると提案した。

省エネ対策で冷暖房需要が3分の1に

 WWFジャパンは、2011年から約2年間かけて、脱炭素社会にむけたエネルギーシナリオ提案を発表している。WWF試算によると、すでに分かっている技術や、見通しが立っている技術を上手く活用すれば、最終エネルギー消費量は、2050年には2008年の水準から半分まで削減できると試算している。

 根拠となる例として、日本では、先進国では珍しい省エネ対策ではない住宅が建てられている状況があると山岸氏はいう。省エネ基準が40年かけて全ての住宅に普及した場合、住宅の冷暖房需要は現在の約3分の1になるとの試算が出ていると説明した。WWF試算では、住宅のほかにも、省エネ対策として全ての自動車が2050年までに燃料電池車や電気自動車に移行すること想定している。

バッテリー充電と水素生産の可能性

 政府が出しているエネルギー基本計画のベース電源の考え方では、100%自然エネルギーでは無理だとされている。しかし、WWFシナリオでは、2050年には自然エネルギー中心の電源供給で賄えるという。さらに、電力供給から余剰分をバッテリー充電もしくは水素生産して活用すると考える。再生可能エネルギーから生産した水素活用により、熱や燃料に転用するアイディアを提案している。

自然エネルギー100%社会を実現するシナリオ

 日本は現在、10の電力地域に分かれているが、非常時以外に電気の融通がないのが現状だ。地域によって分断されている電力系統の範囲を越えて、電力を使用できるようになれば、北から南まで異なる気候条件での自然エネルギーの融通が可能となる。

 電力各地域間をつなぐ地域間連携線の検証でも、2030年の段階で、既存の電力系統で対応可能だという。山岸氏は、「100%(自然エネルギーで)できるというのが我々の報告書の結論で(自然エネルギーからCO2は出てこないため)エネルギー起源CO2排出量削減は100%、2050年までにできるのではないか」と主張した。

現状の温室効果ガス排出量では気温上昇は避けられない

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  1. あのねあのね より:

     捨てているエネルギーで大きなものには自動車のアイドリングも含まれる。渋滞というのもアイドリングに入るし、信号停止時もアイドリングをしている。自動車を停止させたり、通行を妨げる要因を無くしてゆくこともエネルギーの節約に役立つ。
     電気の供給は送電ロスを減らすことに重点割いて考えるべきで、その点に於いて長距離送電を前提とした原発は全廃しなければならない。送電ロスは距離が増えれば比例して増えるので、同じ電力で電流を減らしたためにロスが反比例的して減る超高圧送電を増やすという発想では永遠に送電ロスは無くならない。短距離送電を基本的な送電として考えるべきで、そうすれば変電所も不用になるだろう。
     発電した電力は全て使い切る方式に移行すべきでEMSを駆使したトヨタプリウス型の発想で、電力使用量が少ないときに発電した電力をためる蓄電池や電気二十層キャパシタも活用すべき。簡単な考え方としては、積算電力保障型電力供給にして家庭で充電してもらうのが実現可能性が一番高い。都市ガスの燃料電池も併用すべきだろう。
     電力供給は電源の周波数も含めて古い方式の踏襲し過ぎである。一切の古い方式の設計を止め、小規模発電、短距離送電、積算電力保障型給電に切り替えてゆくべきで、島だけで電力供給が完結している離島などから方式を改めるべきである。

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