2015年が明けて間もなく、一方的に突きつけられた、湯川遥菜、後藤健二両氏殺害の悲報。「イスラム国」は、遺体の上に切断した生首を置くという、冷酷無惨な画像を全世界に公開した。
2人目の犠牲者となった後藤氏の殺害が発覚してから、約1週間後の2月8日、北海道、宮城、千葉、東京、愛知、大阪、京都、福岡の全国8カ所で、2人の追悼集会が開かれた。夕方5時からの同時開催となった集会には、合計で約600人が参加。湯川、後藤両氏の生前の写真や、平和を祈るプラカートなどを手に、約2時間にわたり、静かに黙祷を捧げた。追悼に徹する趣旨で開かれたこの集会では、シュプレヒコールは一切聞かれなかった。
日本政府は、テロリストとの交渉を拒否するという姿勢貫き、安倍総理が何度も「テロには屈しない」と宣言。米国を中心とする国際社会との連帯を示してきた。しかし、政府発信のこのメッセージは、国民の声を必ずしも代表していない。IWJはこの日、全国の追悼集会の模様を取材。参加者から聞こえてきたのは、悲しみや無念の思い、そして、暴力のない平和を訴える祈りのような声だった。
▲渋谷・ハチ公前広場で、思い思いのプラカードを掲げて追悼する参加者たち
『武力報復止む無し』の世論の広がりを恐れて…
▲生前の湯川氏と後藤氏の写真に添えられた「安らかに眠ってください」の文字
福岡県では、繁華街のある天神の一角に、約30人の市民が集まった。集会の呼びかけ人の一人、入江さんは開催の理由を語った。
「集会の呼びかけを行った理由は、『自己責任』論や『武力報復止む無し』の世論が広がることを恐れたからです。そうじゃないという意思表示をするためには、やはり、二人を追悼することだと考えました」
遠く北海道では、雪が積もる札幌市の時計台前に、50人ほどの市民が身を震わせながら参加した。呼びかけ人の男性に、事件に対する思いを聞くと、「いろんな思いが交錯している。政府の対応や世間の『自己責任論』に憤りを持ちつつも、今日は静かに祈りたい」と話した。
他方、愛知県栄地区にある久屋大通り公園には、雨が降りしきる中、50人を超える市民が集まった。男性の一人は、「悲しい事件に対して、色々な思いがあると思うが、故人を悼む気持ちを少なからず持っている人は多い。追悼の想いを共有できる場所を作れたらなと思いました」と、呼びかけに関わった動機を語った。
集会が始まる前に雨が上がった東京・渋谷。ハチ公前広場に集まった約200人は、思い思いのプラカードを掲げ、追悼の意を表した。IWJのインタビューに応じた女性と男性の参加者に、話を聞いた。
「(「イスラム国」が)一方的に流す殺害映像に対して、(日本の国民には)悼んでいるという感情があるということを、伝えたくて参加しました」
「在外邦人の危険性が、限りなく増幅したと思います。この状態をそのままにしていていいのか。僕たちは何ができるのか。亡くなった彼らへの鎮魂と、二人の意思を継いで、二度とこんなことが起きないように力を合わせていきたいという思いで参加しました」
ジャーナリスト・山本宗輔氏「『罪を償わせる』という言葉の軽さ」
▲「戦争のない世界」を願って戦地を取材してきた後藤氏を偲んで
後藤健二氏と同じく、フリーランスの世界に身を置き、ジャーナリストとして活躍する山本宗輔氏と田中龍作氏も、取材でハチ公前を訪れていた。両氏は、後藤氏の死についてコメントを寄せた。
山本宗輔氏「ここに集まった市民の声よりも、首相の一言が一瞬にして世界を駆け巡り、メッセージとして伝わってしまう。改めて指摘しなければならないのは、カイロで、『イスラム国と戦う周辺諸国に対し、2億ドルの支援を約束する』と言ったこと。
英訳された時、イスラム教徒に(そのメッセージが)どう受け取られるか、想像しなければならないのが首相であり、外交だ。後藤健二さんの殺害映像を受け、『罪を償わせる』という言葉が英語に訳され、アラビア語に訳される。軍隊の最高指導者のように、『報復するぞ』と取られることを言った。恐ろしい言葉の軽さです」
田中龍作氏「誰かが、ああいう紛争地域に行って、現地の人の言葉を伝えないと、(事実が)ブラックボックスになる。虐殺した側は『虐殺した』とは言わないし、空爆を受けた側は、誇張して被害を伝えるもの。それがジャーナリストの仕事。
テロとの戦いと言えばなんでも許されるようになっている。国会では、全会一致で可決するあの気持ち悪さ。過去の検証なく非難決議をやれば、安倍の思う壺だ。イスラム国を生んだのは米国のイラク攻撃。それに協力したのが小泉政権。それを無視しての、非難決議。そして、今回の人質事件も総括しなければ、すべてうやむやになる。
『テロとの戦い』といえばすべてまかり通る、『ショック・ドクトリン』だ」
福岡の集会に参加した男性も、2003年のイラク戦争を振り返り、今後の日本の行方を案じた。
「そもそも、『イスラム国』が作られた背景には、イラク戦争など、日本も深く関わっている問題がある。70年前の戦争みたいに爆撃がやってきて、ここ、福岡の街に爆弾が落ちて死ぬという戦争には多分すぐにはならないだろうが、日本がこれから、加害者になる可能性は確実にある」
戦争のできる国にならないよう、決意新たに
▲戦争へと舵を切ろうとする政府の外交姿勢に対抗するカウンタープラカード
宮城県仙台市の中心部にある、勾当台(こうとうだい)公園には、母娘3代で集会に訪れていた家族の姿があった。毎朝、両氏の解放を願いながら朝を迎えていたという祖母にあたる女性は、2人目の犠牲者となった後藤氏の殺害を知ってから、未だに、涙が止まらない日々を過ごしていると話す。
「なぜ、平和をこんなに望んだ人が、こういう形で殺されなくてはけなかったのか」
全国8カ所で同時開催、600人が参加した湯川遥菜さん、後藤健二さんの追悼集会——2人の死を悼む参加者からの悲しみと怒りの声 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/231458 … @iwakamiyasumi
メディアやネットで溢れる「自己責任論」はここにはない。これが民意だろう。
https://twitter.com/55kurosuke/status/564913810905907200