代用監獄と過酷な取調べ、証拠の隠蔽はこのまま残るのか――袴田事件弁護団長が求める証拠開示、取調べ可視化の必要性 2014.6.11

記事公開日:2014.6.11取材地: テキスト動画
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(取材・記事:IWJ 松井信篤、記事構成:IWJ 安斎さや香)

 「新時代の刑事司法制度特別部会」と題した法務省の法制審議会が4月30日に開催され、取調べの録音・録画制度について議論された。加えて、2011年から続いているこの特別部会の議論を踏まえ、検討事項についてまとめた事務当局試案についても説明があった。

 ところが、その試案の内容によれば、全事件において、例外なく可視化することにはなっていないという。17の市民団体が加入する「取調べの可視化を求める市民集会実行委員会」は、試案の再検討を求め、要望書を谷垣禎一法務大臣、特別部会の各委員へ6月11日(水)に提出し、記者会見を行なった。

■ハイライト

■全編動画

  1. 「袴田事件における捜査機関の取り調べの実態と問題点」 西嶋勝彦弁護士(袴田事件弁護団長)
  2. 「冤罪事件の被害者家族として、法制審特別部会へ伝えたいこと」 袴田ひで子氏(袴田巌氏の姉)
  3. 取り調べの可視化を求める市民連絡会より、法制審特別部会へ「事務当局試案」の再検討を求める声明 海渡雄一弁護士(取り調べの可視化を求める市民団体連絡会代表、監獄人権センター代表)

代用監獄の問題点

 袴田事件における捜査機関の取調べの実態と問題点について、袴田事件弁護団長の西嶋勝彦氏が解説した。なぜ、袴田巖氏は逮捕・勾留されたのか、という点について、一審の第一回公判での冒頭陳述で、検察官は次の5つの理由を述べたという。

1. 寮に住み込んで毎日、被害者宅で食事をするなどして内情をよく知っていた
2. 事件直後に左手の中指に怪我をしていたのは、被害者と格闘した際のものと警察は想定
3. 被告人には犯行当夜のアリバイがない
4. 事件4日後に被害者と袴田氏が勤めていた味噌製造工場を一斉捜査しており、 被告人の部屋から見つかったパジャマに血痕の付着があった
5. 前歴が元ボクサーであり、日頃の勤務態度もあまり真面目ではなく、夜間外出も多かった

 これが、袴田氏を犯人だと決めつけた、捜査当局側の根拠だ。パジャマの血痕は、鑑識の再検査では出てこない程に微量だったという。このパジャマしか、客観的証拠らしきものはなかった。西嶋弁護士は説明を続ける。

 「人質司法の典型で捕まえて、自白させて、証拠の中心に据えようという構図が見えてくるわけです」

 袴田氏は、代用監獄、つまり警察の留置場で嘘の自白を強要された。弁護人の立会いもなく、密室での長期間にわたる取調べが続いたのだ。

 「冤罪の温床である代用監獄の問題点が、集約的に現れている」

 西嶋弁護士は、こう表現し、袴田事件を振り返った。

事実の検証に必要な可視化

 現在では、被疑者国選弁護制度が採用されていることから、弁護人の援助を受けれることになっている。

 しかし、連日の長時間にわたる取調べに対抗して、弁護人が接見するのは不可能に近いと西嶋弁護士は説明した。一方で、「弁護人が取調べに立ち会う機会が与えられれば、充分、対処できる」と述べた。

 証拠として提出された静岡県警の捜査報告書には、50日間の張り込みを実施し、外出すれば尾行をしたと書いてあるという。ところが結局、証拠はパジャマ以外には何も出てこなかった。

 取調べの内容について、西嶋弁護士は、袴田氏が経験した過酷な状況を伝えた。

 「取調べは、一日十数時間。取調べ室に便器を持ち込んで、そこで(用を)させるとか、食事を抜いて飢えさせる。判決には書かれていないが、行間からそういう酷い取調べがあったのは、おのずと見ることができる」

 その上で西嶋弁護士は、事実を検証するために、取調べの「可視化・録音、録画が必要」だと改めて訴えた。

 日本の司法制度の問題点や、国連勧告に従わない日本政府の怠慢については、2013年7月に行なわれた緊急集会で詳しく紹介されている。

検察による証拠隠匿

 証拠について、一審、二審で検察は証拠を隠し続けたため、第二次再審で初めて開示された重要な証拠が幾つか存在している。

 その中には、事件から一年後に発見された5点の衣類に関するものがあり、ズボンの寸法札について、発見直後、警察はメーカーにこれを問い合わせていた。その結果、寸法札ではなく、色分けだったということが分かっていたという。しかし、警察は虚偽の調書を作り、その情報を隠して、最高裁まで騙し続けたと西嶋弁護士は語った。

 この他にも、検察はたくさんの証拠を隠していた。ズボンの色褪や、発見された味噌タンクの味噌の量や、同僚や近所の人も認めているアリバイなども、当時の捜査報告書、供述調書にあったという。しかし、彼らはそれを隠蔽し続けた。

 「いかに証拠開示が必要か。検察官は自分で隠していて、これは証拠隠匿。犯罪だと思います」

 西嶋弁護士は、こう断言し、弁護人が全部の証拠品に接することの必要性を伝えた。

 しかし、法制審議会の試案では、そこまで触れられていない。「少なくとも再審段階では障害がないわけだから、まずそこから全面証拠開示をスタートさせよう」と、西嶋弁護士は証拠開示に向けた前向きな議論を求めた。

 加えて、試案で弁護人に渡すことになっている証拠のリストについて、西嶋弁護士は、「有機的関連がない、それ自体何が書かれているものか分からない。そんなのでは意味がない。開示されたことにはならない。開示請求すらできない」と指摘した。

検証機関設置に抵抗する裁判所

(…会員ページにつづく)

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