「時間がたつと、はっきりと被曝の影響があらわれる」 〜崎山比早子氏講演会 2014.4.20

記事公開日:2014.4.20取材地: 動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「細胞の寿命を決めるファクターは、テロメアの短縮、遺伝子複雑損傷細胞の増大、ミトコンドリアDNA損傷。放射線の被曝は、それらを促進する」──。崎山比早子氏は、放射線が老化を促進することで病気を誘発するとし、そのメカニズムを解説した。

 2014年4月20日、新潟市中央区のクロスパルにいがたで、「『もっと知りたい原子力発電所のすべて』第25回学習交流会」が開催された。放射線医学総合研究所の元主任研究官で、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の委員も務めた崎山比早子氏が、「放射線被ばくによる健康被害 被ばくがもたらすがん以外の病気」と題した講演を行った。

 崎山氏は、チェルノブイリ原発事故での、非がん性疾患、神経・精神的疾患の増加、事故処理従事者に多くみられた消化器系、循環器系、神経系疾患や、胎内被曝でのIQ低下、脳血管障害の統計データなどを次々に示し、「時間がたつと、はっきりと被曝の影響があらわれる」と述べて、被曝と非がん性疾患の因果関係を解き明かしていった。

■全編動画(13:26~ 2時間42分)
※映像が暗くなっております。なにとぞご了承ください。

  • 講演 崎山比早子氏(高木学校、元放射線医学総合研究所主任研究員、元国会事故調査委員会委員)

被曝は「老化を早めること」でもある

 はじめに、「放射線被曝による、がん発症と非がん性疾病との因果関係はわかっていないが、放射線は老化を促進する」と前置きした崎山氏は、次のように続けた。

 「チェルノブイリの事故処理作業員の中で白血病の発症率は、被曝線量に比例しているのは明らかだ。ベラルーシとウクライナでは、乳がんが被曝後12〜13年目から増加した。特に、蓄積線量が平均40ミリシーベルト以上で急増している。そして、甲状腺がんは、子どもだけに多いとは限らない」。

 崎山氏は、1944年から1949年に、アメリカのハンフォードで行なった放射性ヨウ素の散布実験による、甲状腺機能低下症数のグラフや、チェルノブイリ事故処理作業者の甲状腺機能低下症のデータを説明。チェルノブイリ原発事故での、非がん性疾患、神経・精神的疾患の増加、事故処理従事者に多くみられた消化器系、循環器系、神経系疾患や、胎内被曝でのIQ低下、脳血管障害の統計データなどを次々に示し、「時間がたつと、はっきりと被曝の影響があらわれる」と警鐘を鳴らした。

 また、ベラルーシで、年間被曝線量5ミリシーベルト程度の地域に住む子どもたちの不健康な実態を語り、「被曝者における非がん性疾患は、4〜5種類が同時に起きる」と補足した。

放射線の非がん性疾患と重なる「老化」

 話題は「老化の症状」になり、崎山氏は「老化の原因は、加齢とは限らない。放射線被曝が、なぜ、老化を促進するのか」と問いかけ、「老化は、非がん性疾患と重なるところがある」と述べた。

 まず、循環器系疾患の中の、動脈硬化の仕組みから説明。「加齢、糖尿病、喫煙、高血圧、脂質代謝異常、放射線などが動脈硬化をもたらす」と述べて、血管の老化を促進させる誘因を挙げた。

 「細胞レベルでの老化の定義とは、細胞分裂能力の喪失=寿命。加齢により、幹細胞の分裂能力が低下する。造血幹細胞は放射線に弱い(感受性が高い)」と述べ、皮膚の代謝機能については、JCO東海村臨界事故で死亡した人の症例を挙げて、「被曝後8日では、見た目で変化はわからないが、26日後には全身の皮膚が再生不能になり、83日後に亡くなった」と話し、人体における幹細胞の重要性を指摘した。

幹細胞の老化で、病気にかかりやすく

 次に、老化のメカニズムの説明に移った。「細胞の寿命を決めるファクターは、テロメアの短縮、遺伝子複雑損傷細胞の蓄積、ミトコンドリアDNA損傷」と述べた崎山師は、「幹細胞には、テロメアを作る機能があり、がんはテロメアを長くすることができるので、死なずに増え続ける」と話す。

 「DNAの分子同士をつなぎ止めている力より、放射線のエネルギーは何万倍も強い。ミトコンドリアは、体内の活性酸素の90%を産生する。ミトコンドリアのDNAは1万6000の塩基でできていて、細胞核に比べて100倍もの変異を起こしやすい。それが、幹細胞内で起こると、細胞の再生ができなくなる」。

 そして、「放射線は、テロメアの短縮、修復不能なDNA損傷、ミトコンドリアDNA損傷などを引き起こすことにより、細胞の老化を促進させる。さらに、幹細胞が老化すると個体の恒常性が乱れ、いろいろな病気にかかりやすくなる。以上のことから、これまで報告されてきた、放射線によるがん以外の疾患は、幹細胞の老化の促進によって引き起こされると考えても矛盾しない」と講演をまとめた。

「福島だけの甲状腺検査」を痛烈に批判

 質疑応答に移り、「呼吸からの被曝を防ぐのに、マスクは有効なのか」という問いに、崎山氏は「線量の高いところで付ける全面マスクは、セシウムはほとんど除去するという。しかし、除染をする人が普通のマスクを付けているのは心配だ。夏には暑くてマスクをはずしてしまう、と聞く。今、原発構内で働く人より、除染作業の人のほうが被曝しているのではないか」と懸念を示した。

 「福島で、鼻血を出す子どもが多いというが」という質問には、「チェルノブイリで子どもの鼻血が多かったという人もいる。福島での鼻血も話題になった。しかし、今のところ、被曝と鼻血との関連データはない」と答えた。また、食材の放射能汚染に関して、「(現在の基準)100ベクレル/キロは多い。ドイツは、子どもの食べるものは4ベクレル/キロだ。消費者の選択のために、食材にベクレル表示をするとよいと思う。海産物のストロンチウム汚染は、これからの課題だ」と応じた。

 崎山氏は、福島で18歳以下の子どもに行われている甲状腺検査について、「被曝との関連を調べるなら、スタート時点から、被曝していない子どものデータを同じ条件で取って、比較しなくてはいけない。『最初の3年間は、がんは出ない』という前提で、4年目以降のデータと比較しようとしたこと自体が間違いなのだ。疫学調査の基本を踏まえていない」と厳しく批判。「私は、責任者の山下俊一氏に、なぜ、非汚染地域の検査データを比較用にとらないのか、と尋ねたことがある。答えは『お金がない』だった。国は、除染には何兆円もかけているのに」と憤った。

国会事故調の報告は無視された

 「国は、何も考えずに、行き当たりばったりでやっている。半減期30年の除染廃棄物を、5年でダメになる袋に詰めている。今、避難者を帰還させようとしているが、この先、事故収束の状況が悪化するかもしれない。事故から3年たって、私たちは何もなかったかのように暮らしているが、本当は、いつ何が起きるかわからない、あやういところで生きているのだ」。

 このように話す崎山氏は、「国会事故調が出した報告は、生かされていないのか」と尋ねられると、「国会事故調の仕事は、その後の政策に何も反映されなかった。『福島第一原発の1号機は、津波の前に(地震だけで)配管に亀裂が入り、電源喪失になっている』と報告しているのに、それを無視。事故の原因は津波ということにして、ほかの原発を再稼働させようとしている」と語気を強めた。

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