「アメリカで50年前に起きた原発事故が、今も進行中だ。福島の原発事故も現在進行形であり、それらは同じタイムラインに乗っている」──。
2014年3月16日、新潟県長岡市の長岡商工会議所で、「福島原発事故から3年 原発問題を考える市民のつどい」が行われ、元NHKアナウンサーで、8bitNews主宰の堀潤氏が講演を行った。
堀氏は、福島第一原発事故の発災直後の情報発信について振り返り、アメリカのスリーマイル島原発事故(1979年)やサンタスザーナ原子炉実験所の事故(1959年)に言及した上で、「原発事故は同じ経過を辿る。過去の事例から多くを学べる。忘却することは許されない」と語った。
- 講演 堀潤氏(8bitNews主宰、元NHKキャスター)「個人発信の時代に考えるべきこと」
- 日時 2014年3月16日(日)13:30~
- 場所 長岡商工会議所(新潟県長岡市)
- 主催 原発ゼロ長岡市民ネット
原発事故の初期報道「パニックを起こさないように」
堀氏は、まず、3.11直後の様子を振り返り、「僕は、2007年の中越沖地震の時、柏崎刈羽原発の火災を取材をした。その際に知り合った、東電の関連会社の人の奥さんから、3月11日深夜に連絡をもらった。『東電が、関係者は関東圏から退避しろと言っており、深刻な事態が起きている』と教えてくれた」と話し、次のように続けた。
「だが、放送するには制約が多かった。パニックを起こしてはいけないということで、NHKでは平時のルールが適用され、『100%裏が取れないものは、放送には出せない』というスタンスをとっていた。しかし、そもそも原子力災害で『100%確認できる』なんてことが可能なのか。報道する者が、どこに軸足を置いて放送するかということが大事だ。そこで、放送では伝えきれないことを、自分の判断でツイッターで伝え続けた」。
いち早く住民を避難させた楢葉町の場合
福島第一原発から20〜30キロ圏にある、人口約7500人の楢葉町では、元東電のエンジニアであった町議会議員や、原発に懐疑的な町議会議員が、これは水素爆発に至るのではないかと考えて、町長に掛け合い、3月11日深夜の段階で全住民の避難を決めたという。
堀氏は「楢葉町は、避難先を南のいわき市に決めて避難を開始したが、幹線道路は自衛隊が使用して、災害時には使えない。結局、細い道路を使って、7500人の住民が避難するのに、通常では車で20〜30分の距離が8時間ぐらいかかった」と、平常時とはまったく状況が変わることを指摘した。
「ある町議会議員は、『スピーディーが公開されなくてよかった』と話した。もし、放射性物質の拡散情報が伝わり、周辺自治体の人々が一斉に南に逃げていたら、(立ち往生して)逆に誰ひとり逃げられない結果になったかもしれない、という。それは、どこの原発立地地域でも同じだ。原発は、道路などのインフラが強いとは言えない場所にあり、ひとたび事故が起これば、避難は困難だ」。
「原発事故が起きた日時だけ、忘れなければいい」
その後、2012年にアメリカのスリーマイル原発事故を取材した堀氏は、「事故から30年経って、島には若い世代も入って、原発事故は風化しているが、『スリーマイル・アイランド・アラート』という、1977年に結成された市民団体が、住民の健康調査や、避難経路や安全対策のルール作り、原発の半径10キロの住民にヨウ素剤を配布するなどの活動をしている」と紹介した。
「彼らはスリーマイル事故の詳細な資料をインターネットで公開し、自治体やメディアとも連携しながら発信を続けている。そんな彼らが、『自分たちの発信力が弱くて、スリーマイルの教訓を日本に伝えられず申し訳ない』と僕に言った。しかし、日本人の方こそ、スリーマイルの事故から何も学ぼうとしなかったのだ」。
堀氏は、『スリーマイル・アイランド・アラート』のエリック氏の言葉を、次のように伝えた。「原発事故が、いつ起きたか。それだけ覚えておけばいい。なぜなら、そこから始まった闘いには、終わりがないからだ」。
「過去」の原発事故は「現在進行中」でもある
続いて、堀氏は、ロサンゼルス近郊にあったサンタスザーナ野外実験所でのメルトダウン事故に言及した。1959年、燃料棒が溶融し、高濃度の放射性物質が環境中に放出された事故だが、施設は1964年に閉鎖され、詳しい記録などは一切残っていない。その後、がんになる住民が増加するなどの異変が現れ、アメリカ環境保護局が調査を行い、2012年に正式に事故の実態が報告された。まさに、「50年前から進行中の原発事故」である。
「2009年から調査が行われ、2012年の12月に汚染実態が公表されるまで、この事故は半世紀にわたって表に出てこなかった」。こう話す堀氏は、「サンタスザーナでは地下水に放射能汚染が広がって、人々の健康に不具合が生じている。現在でも、セシウム137が通常レベルの1000倍の濃度で検出される。半減期の37年を考えると、事故当初の汚染はスリーマイルを越える深刻さではないか」と懸念を表明した。
堀氏は「50年前の事故でも現在進行形であり、もちろん、福島の事故も現在進行形。それらは全部、同じタイムラインに乗っている。サンタスザーナの状況は、今後の参考になるはずだ。日本でも、今のうちに国に対して、きちんとした制度を作るように求めなくてはいけない。これを、忘却するなど許されない」と語った。