「閣議決定して案が決まったら、国会で議論いただく」――。
安倍総理は2月20日の午前10時、衆院予算委員会で、民主党の岡田克也議員の質問に答えて、集団的自衛権の行使を容認するため、閣議決定で憲法の解釈を変更すると明言した。憲法解釈を一内閣の閣議で変えてしまうということだ。
この日の午後、参議院議員会館では、安倍政権の暴走に懸念を抱く超党派の国会議員らが、元内閣法制局長官・阪田雅裕氏を講師に招いて、「第一回 集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会」を開催していた。
内閣法制局とは、閣議に付される法律案や政令案などを、審査し、意見し、修正を加えることで内閣を補佐する機関だ。「法の番人」とも呼ばれおり、法案が憲法に違反していないかどうかなども厳格にチェックする。集団的自衛権についても、日本は「保持」してはいるが、憲法上、「行使」はできない、といった解釈を貫いてきた。
かつて、その内閣法制局のトップを務めたのが阪田氏である。阪田氏はこの日の勉強会で、開口一番、「私は平和主義がとても大事だとか、憲法9条が貴重だとか、そういうことを申し上げるつもりはない」と断りを入れた。
- 講演 基調講演「集団的自衛権と政府の憲法解釈」 阪田雅裕氏(元内閣法制局長官)
- 日時 2014年2月20日(木)
- 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
憲法9条1項は日本国憲法特有ではない
「時代は変わっているし、もしかすると、一部の方が言うように、憲法9条が時代遅れなのかもしれないかとも思う。もしそうであれば、是非、(正当な手続きに則って)憲法を改正していただきたい。しかし、解釈で国の形を変えるのは極めて不当だ」
そもそも憲法9条とは、どのような性格を持つ条項なのか。阪田氏の話は、基本中の基本から始まった。
「憲法9条1項は、国際紛争の解決のための武力行使を禁じているが、これは日本国憲法特有ではない」と阪田氏は解説する。世界の10ヶ国以上の憲法の中に、憲法9条1項のようなことは書いてあり、さらに、160ヶ国近くの国の憲法で『我が国は平和主義路線をとる』と書かれている。つまり、「国際社会は基本的に平和を目指している」という。
特異なのは憲法9条の2項だ。これに類した条文は、少なくとも先進国の世界にはない、と阪田氏は言う。
「(9条2項では)戦力を保持せず、交戦権を認めないと書かれている。『戦力をもたない』というのが『肝』だ。これまで政府は、戦力、実力組織を持たないというのに、なぜ自衛隊の存在が許されるのか、というところで苦労してきた。しかし、戦力ではないからこそ、外国で戦争をすることができない決まりになっている。
憲法は9条だけでできているわけではない。例えば13条では、国民の幸福追求権を保障しており、前文では平和的生存権を保障している。それは、国が守らなければいけない。外国の軍隊が襲ってきたとき、どうするのか。国は指をくわえてみているのか。憲法はそういうことを求めているのか。しっかりと国民の命、身体、財産を守らなければ、国としての務めを果たしていることにはならない。
だから、今の政府解釈では、国民を護るための必要最小限度の実力、組織を持つことは『戦力を持つことではない』ということになっている」
日本に許された「武力行使」の条件とは
軍隊ではないからこそ、自衛隊が実力行使に至る場面というのは厳密に限られている。
阪田氏が指摘したように、自衛隊による武力行使は、「外国軍隊による日本への攻撃」が大前提となっている。しかし、その場合でさえ、すぐに実力行使できるわけではなく、「他に適当な手段がない場合」に限られる。
「現に、我が国の考え方では、竹島は不法占拠されているが、それでも武力行使しないのは、他に手段があると考えているからだろう。他の手段とは、外交交渉や国際司法裁判所など、実力以外のもので解決をするということ」
つまり、自衛隊が実力行使を開始する要件は、「日本への武力攻撃の発生」と、「そうした脅威を排除するために適当な手段がない場合」の2つ。そして、その実力行使は最小限にとどまる必要がある。外国がたまたま攻めてきたことに乗じて、逆に外国を攻め、占領する、などということはできないというのが政府の考えだ。国民の安全が確保されれば、すぐに武力行使をやめなければならない。
阪田氏によれば、これらが日本に許された「武力行使」の条件ということだ。
「自衛隊は日本国民を守るための『最小限』の実力組織であること。そして武力行使におよぶ場面でも、武力行使は『最小限』にとどまること。この2つの最小限を多少緩和すれば、集団的自衛権を行使できるのではないか、という議論がある。しかし、いくら緩めてもなかなかそうはならない」
そう阪田氏は釘を指し、この「必要最低限」という言葉を頭に置いておいて欲しい、と語った。
集団的自衛権の誕生秘話
国際法上、戦争は基本的に「違法」だと考えられており、許されているのは、自国が外国からの侵略を実力で排除する、「個別的自衛権」である。では、「集団的自衛権」とは何か。