「官邸は暴走機関車化している」「国防軍創設への下地作りだ」「最大の目的は、日米安保にまつわる外交秘密の防衛」「戦争する国家体制作り、警察権限と公安警察による情報統制の強化が狙い」──。特定秘密保護法案に対する出席者の懸念は一致した。
2013年12月1日、京都市左京区の京都大学文学部で、シンポジウム「ヒミツの怖さ大公開!~特定秘密保護法案反対・京都集会~」が行われた。「沖縄密約」スクープの西山太吉氏(元毎日新聞記者)をはじめ、村井敏邦氏(元龍谷大学教授)、小笠原伸児氏(弁護士)らが講演を行うとともに、この法案に対する参加者からの多岐にわたる疑問に答えた。
- パネリスト
村井敏邦氏(元龍谷大学教授、刑事法)/西山太吉氏(元毎日新聞記者)/小笠原伸児氏(弁護士、京都弁護士会)/林葉月氏(市民、左京区のシェア町家「甘夏ハウス」にて様々なイベントを企画)
- 司会・コーディネーター 日比野敏陽氏(日本新聞労連委員長、京都新聞記者)
何が秘密か、それは秘密です
冒頭、司会を務める日比野敏陽氏は、「与党議員の中ですら、この法案には批判の声が多い。にもかかわらず、官邸は暴走機関車化している。世耕弘成議員が率先して強行採決を目論み、元防衛庁長官の中谷元議員は『怖いのは国民。敵はメディアだ』と明言していた」と、法案をめぐる経緯と、廃案への期待、その方法を述べた。
村井敏邦氏が登壇し、自身の子ども時代の敗戦体験談に続いて、戦前戦後の秘密法関連の流れについて、「1899年、軍機保護法制定。のち、1937年に全面改正で強化された」と、その内容を解説した。
また、1941年、北海道帝国大学の学生であった宮澤弘幸氏が、秘密でもない根室飛行場のことを、アメリカ人英語教師のハロルド・レーン氏に話しただけで、軍機保護法違反で逮捕された冤罪事件について語り、「同様に、本法案は国防軍創設への下地作りにほかならない」と指摘した。
日比野氏が、宮澤・レーン事件について補足した。「当時、根室飛行場は、リンドバーグが飛来した空港で有名だった。にもかかわらず、宮澤氏は逮捕された。今回の法案も、『何が秘密か、それは秘密です』という危険性をはらんでいる」と語った。
国民主権に反した独裁国家・日本
次に、外務省の沖縄密約スクープで逮捕された、西山太吉氏が登場。特定秘密保護法案の拡大解釈、エリート官僚中心主義、チェック機能の不備、秘密の開示条件、知る権利など、それぞれの懸念について話した。
「この法案の最大の目的は、日米安保にまつわる外交秘密の防衛だ。なぜなら、自衛隊は、在日米軍とすでに一体化し、横田基地第5空軍に航空自衛隊の航空総隊司令部が入った。2006年の2プラス2会談で、テロ対策部隊にあたる中央即応集団を作らされたのだ」。
西山氏は「民主党政権になった当初は、情報開示がまだ機能し、イラク戦争に派遣された航空自衛隊が、クウェートからイラクへ武装米兵を運んでいた事実が明らかにされた。その行為は、2008年の自衛隊イラク派兵差止訴訟で違憲とされたが、当時の麻生外務大臣は『こんなクソみたいな判決は、政界引退してから見てやらぁ』と発言している」と振り返った。
「外交では、国際機関との交渉、協力関係の内容などが秘密になる」と、沖縄返還密約について語った西山氏は、「外交交渉の経過は秘密でもいいが、決まったことは絶対、国民に公表しなければならない」と指摘した。
続けて、「秘密を作るのは、外務、防衛官僚などだ。適正検査をし、エリート中のエリートを作り出す。官僚は、制度を完璧にするために暴走する。また、情報開示は60年後だ。政府情報は国民の財産。それが、永久秘密になる。国民主権に反し、憲法違反の秘密が残る。これは独裁国家だ」と警鐘を鳴らした。
戦争する国家作りと警察権限の強化が目的
小笠原伸児氏は、秘密保護法案の狙い、秘密の怖さ、適正評価制度、国民主権との関係について所見を述べた。「同法案の狙いは、戦争する国家体制作り、警察権限の強化、公安警察による情報統制の強化だ」。
続けて、「森まさこ大臣の答弁は、TPPについては曖昧にし、食品の安全は特定秘密になるという。また、特定有害活動の定義には『その他の活動』とあり、不明確だ。外国の利益を図る目的があるかどうかは、警察が判断する。犯罪を犯すおそれ、だけで処罰対象になる。また、盗聴、盗撮、尾行、監視行為で捜査される」と懸念を列挙した。
主権者が情報に近づけない
さらに、小笠原氏は「もっとも危ないのは、テロリズムの定義の中で、『政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、』というところ。原発問題も、平和運動もテロリズム、と読めば、すべての政治活動が入ってしまう」と危惧する。
「外交防衛は、外務・防衛大臣が秘密を特定。特定有害活動とテロ防止は、公安調査庁長官と警察庁長官が指定する。さらに、秘密を法務大臣に報告する義務もない。何をもって秘密なのかは不明のまま、延々と集積していく」。
「知る権利では、情報を伝えることはもちろん、主権者の側から秘密に近づくこともできない。情報を得ようと相談したら共謀罪にあたり、教えてほしいと依頼をすると教唆犯。情報が漏れていなくても、犯罪になる。主権者の国民が、政策決定をするための情報を知ることができなくなり、民主主義にまったく反し、強大な禁圧を課し、国民主権を侵害する」と訴えた。
内閣に権力を集中させたい安倍政権
次に、教育基本法改正案に関して、2005年11月に開催された「文化力親子タウンミーティング イン 京都」における不正抽選問題を体験した市民が、その顛末を語り、「自分たちは、最終的には、2008年に国賠訴訟で勝訴した。特定秘密保護法の下では、最初に沖縄の人々か、在日の方たちがパージされるのではないか」と述べた。
続くパネルディスカッションでは、司会の日比野氏が「安倍政権は、なぜ、これほどまでに強引に成立させようとするのか」と問いかけた。
西山氏は「民主党政権が、この結果を招いた」と言い、「マスコミは細部だけを報道し、政権交代からの変節や、その背景、その底流に流れる全体を、まったく追求しない」とした。また、「衆議院の特別委員会での秘密保護法採決の寸前に、NHKは中継をやめてしまった。すでに、秘密保護は始まっているのだ」と指摘した。
無効な内閣が作る、違憲の法律
林葉月氏は参加者から寄せられた質問を参照して、「国民の生活や、インターネット利用にどのような制限がかかってくるのか。人権侵害にはならないのか。身に覚えのないことで逮捕された場合の対処の仕方は。一票の格差問題で、最高裁での違憲判決はなんの意味があるのか。もし、秘密保護法が成立してしまったら、覆すことができるのか」などと、パネラーに疑問を投げかけた。
日比野氏が「違憲の法律は作ることができるのか」と訊くと、村井氏は「できない」と答え、「憲法31条、法律は明確でなくてはならない。処罰範囲は適正でなくてないけない、とある」と述べた。続けて、「秘密保護法違反で逮捕された人の弁護活動はできるのか」と尋ねると、小笠原弁護士が「弁護の仕方はない。かつ、弁護士も逮捕される危険性がある」と応じた。
日比野氏が「岡山地裁で、7月の参議院選挙の無効判決が出た。無効の選挙で選ばれた議員たちが、法律を作っていいのか」と村井氏に訊ねると、「最高裁判所は、違憲状態と判決したから、現内閣は違憲状態だ。さらに、無効な内閣が法律を作るということは、行政機関が司法を無視していることにほかならない」と批判した。