「原発事故という現実から目をそらさずに『痛みの記憶』を共有するダークツーリズム」津田大介氏、東浩紀氏 〜ふくしま復興情報化フェア2013 2013.11.21

記事公開日:2013.11.21取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ 荒瀬/奥松)

 2013年11月21日(木)、福島市のコラッセふくしまで、ジャーナリストの津田大介氏と作家の東浩紀氏をゲストに迎え、「ふくしま復興情報化フェア2013 ~ICTで未来へつなぐ新生ふくしま」が行われた。

 両氏は、福島と他の地域との間に生じているギャップを、福島からの情報発信によって解消していく必要性を指摘し、福島第一原発を観光地にするという「ダークツーリズム」の考え方を示した。

■全編動画 1/2

■全編動画 2/2

  • 基調講演 13:00~13:40
    「新生ふくしまを創り出すための情報発信力」
     津田大介氏(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)
  • 特別対談 13:40~14:30
    「ふくしまの記憶を風化させないためには」
     津田大介氏、東浩紀氏(株式会社ゲンロン代表取締役) 
  • 日時 2013年11月21日(木)
  • 場所 コラッセふくしま(福島県福島市)

ジャーナリズムの本質と福島の「情報ギャップ」

 はじめに津田氏は、ジャーナリズムについて、「われわれは、ニュースやジャーナリズムを価値中立的なものと考えがちであるが、あらゆるニュースメディアはなんらかの価値判断をしており、偏っている」と主張。その上で、福島と東京、マスメディアで流れる情報にギャップが生まれていることについて、「福島で日常的に感じていることと、マスメディアの震災報道が『違う』と感じられるのは、メディアでの報道が、津波の映像や原発の放射能など、ありきたりではない出来事にフォーカスしてしまうため、ギャップが大きくなる傾向があるからだ」と語った。そのため、福島の人が日常に感じている些細なことは伝わらず、東京などでは無関心になりがちだとし、「結果、福島のイメージは一律化していく。情報不足によるギャップを、福島からの情報発信により解消していくことが必要だ」と述べた。

「情報ギャップ」をなくすために、多様なメディアを活用する

 津田氏は「現在の日本は『多メディア・間メディアの時代』だと言われており、テレビや新聞、ネットなどメディアは複雑化し、単独のメディアでは社会現象になるようなうねりは生まれなくなっている」と説明した。

 さらに、首相官邸前の反原発デモの例を挙げ、「デモは、当初はネットを通じて情報が拡散し、約8割の人がウェブやツイッターなどのネット情報や、口コミによる参加者だった。それをマスメディアがニュースとして取り上げることで、2012年6月22日には20万人が参加する規模に広がった。ネットは、情報を流すことで火をつけることができるメディアである」と述べ、若者世代になればなるほど、ネットを利用して自分のほしい情報を能動的に取りにいくようになってきていると指摘した。

「ダークツーリズム」による「痛みの記憶」の共有

 2012年9月に構想を発表し、週刊誌に取り上げられることで話題になった『福島第一原発観光地化計画』について、「構想には賛否両論のさまざまな意見が寄せられたが、定期的に福島県南相馬市でワークショップを行い、今年の4月にはチェルノブイリの取材をしてきた。取材費は、クラウドファウンディングを利用して賛同者から募ったが、609万円集まった上に、ネット上で情報を発信することにもつながった。今年の流行語にもノミネートされた『ダークツーリズム』には『痛みの記憶』を共有することで、人がより深く考える、という意味がある」と述べた。

 最後に、津田氏は「福島からの情報発信が話題になるためには『共感性』と『リアルタイム性』『新規性』が重要であり、マスメディアやネット、口コミなどを利用し、バランスよく発信することが必要だ」と述べ、情報発信が現実を変えていく可能性を語った。

現実から目をそらさず、「痛みの記憶」を皆が考える

 東氏は「3.11の震災を機に、文学や哲学をやってきた自分にできることは何か、と考えた。社会の危機に際して、考えられる日本の未来のために、研究会を立ち上げることから始めた。南相馬市などでワークショップを行い、当事者たちと語ることで、夢物語と言われるかもしれないが、現実が変わっていくような構想を示したかった」と述べた。

 福島の原発事故について、東氏は「東京などでは無関心であるか、放射能問題などに極端に神経質になるかの二分化が進んでいる。福島の人の中にも、事故を風化させないで福島のことに目を向けてほしいという思いと、風評被害につながるので、むしろ風化してほしい、という複雑な感情がある」と語り、「起きてしまった原発事故という現実からは目をそらさずに、広島の『原爆ドーム』のように『痛みの記憶』を共有し、世界に向けて発信することで、福島の経験を人類に生かしていくことが大事なのではないか」と、ダークツーリズムへの共感を表明した。

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