「戦前政治を受け継ぐ思想。自主憲法の制定の欲求。アメリカの世界戦略への呼応。この矛盾した3つの主張をするのが、改憲論者」。このように断じた浅井基文氏は、「ポツダム宣言が日本国平和憲法を生み出した。しかし、アメリカはトルーマン宣言により、真逆の方針で日本を縛った」と語った。
2013年9月22日9時より、札幌市中央区の札幌全日空ホテルで「反核医師のつどい2013 in 北海道」の第2分科会「日米安保体制と憲法問題、核抑止論にもふれて」が行われた。元外交官で、広島市立大学広島平和研究所所長を務めた浅井基文氏、「明日の自由を守る若手弁護士の会」共同代表の神保大地氏、沖縄基地問題をテーマとしたドキュメンタリー『ラブ沖縄@辺野古・高江・普天間』を共同監督した影山あさ子氏が講演を行った。
- 浅井基文氏(元広島平和研究所所長)
- 神保大地氏(さっぽろ法律事務所弁護士)
- 影山あさ子氏(ジャーナリスト)(映像上映のため録画には含まれません)
- 日時 2013年9月22日(日)9:00~
- 場所 札幌全日空ホテル(北海道札幌市)
- 主催 第24回反核医師のつどい現地実行委員会/核戦争に反対する医師の会(詳細)
改憲論はアメリカ世界戦略への迎合だ
はじめに浅井氏が登壇。まず、改憲論者の基本的考え方を、3つの切り口に分け、「1. 戦前政治を受け継ぐ思想。2. 自主憲法の制定の欲求。3. アメリカの世界戦略への呼応。この矛盾した3つの主張が同居するのが、改憲論者のおかしな点だ」と指摘した。
まず、1つ目について、「安倍首相の掲げる改憲の主張は、昭和天皇の終戦詔書(しょうしょ)に織り込まれている。大東亜共栄圏建設であり、植民地支配。また、『神州の不滅を信じ』とは皇国史観そのものであり、戦前思想に基づいた国家再生だ」と指摘した。
2つ目の自主憲法制定については、「(自民党の改憲草案は)『公共の福祉』を『公益及び公の秩序』に書き直し、国家による人権支配を目論む。また、自衛権とは、住民の『自決権による自衛権』と考えるべき」とも述べて、「北朝鮮や中国が先制攻撃をするという議論は、まったく理解できない」と語った。
さらに、浅井氏は「3つ目の、改憲論者のアメリカの世界戦略への呼応とは、日米軍事同盟のNATO化を望むことだ」と言い、「北朝鮮の核問題も、核を放棄させる方法を考えなければ解決しない。中国への脅威から、アメリカのアジア回帰宣言が出た。アメリカは日米安保を強固に押し進めたい。その思いが、改憲論者のアメリカへの呼応、という形になった結果だ」と分析した。
冷戦後、脅威を探すアメリカ
次に、改憲論における東アジアという論点に移り、浅井氏は「冷戦が終わり、アメリカはさまざまな脅威を寄せ集めた。その結果、1990年代、日米安保を支えるために北朝鮮核武装論が代替した。アジア回帰戦略では中国への違和感を深めて、日中の尖閣問題が呼応して起こった」と、水面下での日米連携をほのめかした。
しかし、「中国や北朝鮮が、日本に核攻撃をすることはあり得ない。そう信じている日本人は、広島・長崎の原爆体験を本当にわがものにしていない」と述べ、「北朝鮮が戦争を仕掛けたとたん、朝鮮半島が灰になる。それをわかっていながら、戦争などするわけがない。中国脅威論も、天安門事件から広まった妄想だ」と断じた。
憲法は力によらない平和、日米安保は力による平和
そして浅井氏は、ポツダム宣言が、日本国平和憲法を生み出したことを主張。「なぜ、ポツダム宣言がすぐに忘れ去られたか。1947年、アメリカがトルーマン宣言で権力政治を打ち出したためだ。親米固定化、再軍備、反共となり、サンフランシスコ講和条約、日米安保につながった」と、その背景を説明した。
浅井氏は「憲法は力によらない平和、日米安保は力による平和だ。両立するわけがない。しかし、それを両立させてしまうのが、日本人のご都合主義だ。ポツダム宣言を受託した日本は、自由と世界平和を脅かさない義務を負っている。それを改憲で変えることは、ポツダム宣言を破棄することだ」と痛烈に指摘した。
戦争ができるようにするための改憲
神保氏が登場し、共同代表を務める「明日の自由を守る若手弁護士の会」について、「自民党改憲案への疑問から始まった」と説明した。さらに、「安倍政権が与党になり、96条改憲案を持ち出すが、96条の会など、大きな国民の反響から1ヵ月で撤回した。しかし、自民党が参議院選に大勝すると国民投票法改正の方針を決めるなど、集団的自衛権の行使のための下地作りをすぐに始めた」と一連の流れを危惧した。
神保氏は「今回の自民党の憲法改正は、戦争ができるようにするためのもの」と主張する。「なぜなら、軍事機密が漏えいしないように、軍法会議や、ナチスドイツが戦争を始めるために利用した緊急事態条項を織り込んでいる。さらに、人権制約を容易にする条項、憲法尊重義務など、義務の増大があり、本来の権力チェックのための憲法から、国民をコントロールするための憲法になっているからだ」。
また、「イラク特措法などにみる、立法改憲でのやり方をいろいろと画策している。たとえば、集団的自衛権を可能にさせる、国家安全保障基本法。4人の閣僚(外務、防衛、官房長官、首相)だけで重要案件を議決する、国家安全保障会議(日本版NSC)。機密保護法を含む、政府としての情報機能の強化、などだ」と述べた。
平和を維持するためには国民の声しかない
「それらを、いくら違憲だと訴えても、最高裁で違憲と決定するまでは有効だ。さらに今までは、内閣法制局がある程度の自制になったが、安倍首相が長官をすげ替えた。かつ、明文改憲を達成するために教育から変えていく姿勢が、すでに教科書採択で見てとれる」と、右傾化する安倍政権に警鐘を鳴らした。
神保氏は「私たちは、自分たちの子どもが戦争に行くか、平和でいられるか、選択するところにいる。どうすればいいか」と会場に問いかけ、「国民の反対の声で、安倍政権は96条先行改憲を引っ込めた。(閉架に抗議の声が上がり)『はだしのゲン』は図書館から撤去されなかった。つまり、自分たち国民の声を拡げることが、唯一の止める手段になる」と主張した。
本来、立法改憲とは違憲だ
質疑応答に移り、秘密保護法、中国大国論、集団的自衛権、中国脅威論、ポツダム宣言適用論など、数々の質問が寄せられた。浅井氏は「中国は、全体的に見なければ本質はわからない。集団的自衛権は、国連憲章で認められた権利で、固有、利己的な権利ではない。それを踏まえて議論するべき。ロシアも中米も、外交問題が起こったらポツダム宣言を持ち出すことは、まだまだある」と応じた。
神保氏は「法律は、あとからできた法律の方が効力を発する。秘密保護法に関しては、マスコミ、国会議員、地方議会へ直接の働きかけを。また、批判する言葉も『やり方がずるい。卑怯だ』などを多用する」と話した。
また、浅井氏は「本来、立法改憲とは違憲だ」と発言、神保氏も「日本では自衛隊法など、あいまいにされてきた歴史がある。40周年を迎えた自衛隊を違憲とした長沼判決が、一矢を報いた」と答えた。