「二本松市では3.4%の住民に内部被曝」と木村氏。安倍首相の安全宣言に疑問 ~反核医師のつどい2013 in 北海道・第1分科会 2013.9.22

記事公開日:2013.9.22取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「安倍首相が言うようなコントロールも、港湾内シャットアウトもできていない」と木村氏は指摘。本田氏は、広島・長崎の「黒い雨」での低線量被曝による健康被害を語り、自ら行なった調査報告を交えて全国的規模の放射能汚染に警鐘を鳴らした。また、西尾氏は「ICRPの洗脳から逃れなければならない」と声を荒げ、松崎氏は小児甲状腺がんの健康検査の真相を述べて、低線量被曝のリスクを訴えた。

 2013年9月22日(日)9時より、札幌市中央区の札幌全日空ホテルで「反核医師のつどい2013 in 北海道」の第1分科会「日本における放射線被害 ―過去・現在・未来―」が行われた。2011年に、これまで知られていなかった「黒い雨」の被曝データを突き止めた本田孝也氏(長崎県保険医協会)、東日本大震災後の精力的な放射線量調査で知られる木村真三氏(獨協医科大学)、3月まで北海道がんセンター院長を務めていた西尾正道氏、原子力従事者の健康調査に詳しい深川市立病院の松崎道幸氏が、それぞれ講演を行った。

■全編動画

1分~ 本田氏/36分~ 木村氏/1時間19分~ 西尾氏/2時間12分~ 松崎氏/2時間35分~ 全体討論
  • 登壇者
    本田孝也氏(長崎県保険医協会理事長)
    木村真三氏(獨協医科大学准教授)
    西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)
    松崎道幸氏(深川市立病院)
  • 日時 2013年9月22日(日)9:00~
  • 場所 札幌全日空ホテル(北海道札幌市)
  • 主催 第24回反核医師のつどい現地実行委員会/核戦争に反対する医師の会詳細

「黒い雨」の低線量被曝の健康被害について/本田孝也氏

 本田孝也氏が第1分科会の口火を切った。「当院(東長崎)の外来患者の半数は被爆者。ただし、地元では被爆者ではなく、被爆体験者と呼ばれている。この地域は原爆の灰が降ったが、直接爆撃を受けていないからである」と前置きをして、広島、長崎の原爆の「黒い雨」について説明した。「定説では、黒い雨を浴びても髪の毛は抜けない。がんや白血病にはならない、となっている。その根拠は、IAEAが急性放射線障害の教科書で『下痢は5グレイ(5000ミリシーベルト)以上、脱毛は3グレイ以上でないと発症しない』と指導しているからだ」。

 続いて、LSS(原爆被爆者12万人の追跡調査)や、原爆傷害調査委員会(ABCC)職員の山田広明氏と米国のオークリッジ国立研究所が解析したレポート(1972年)を取り上げ、「発熱・嘔吐・下痢も広範囲に認められ、脱毛は68%あったと報告していて信憑性は高い」とした。「ところが、このレポートを目にしているはずの放影研(放射線影響研究所)は『黒い雨の健康被害はない』との結論を出した」。

 また本田氏は、1945年に九州大のグループが、黒い雨が降った長崎西山地区4丁目で行なった白血球調査を紹介。「特に、子どもに白血球異常が多かった。それらのデータから、山菜など汚染食材を食べた影響(内部被曝)も見受けられた」と話し、「この調査は人体実験とも思われる」と指摘した。

 2012年11月8日に放影研が行なった、黒い雨の被害データの記者会見について、本田氏は「長崎では黒い雨を浴びた場合、統計学的優位さをもって、がんが3割増えることを認めた。爆心地から2キロ以遠(100ミリシーベルト以下)でも、原爆症で亡くなった人がいた」と報告した。最後に、「被爆体験者たちの陳情を受けて、最近、長崎の田上市長は、被爆地域に関する研究会を立ち上げると発表したが、政治的圧力があったのか『本田医師はメンバーにしない』と言う。しかし、私は黒い雨の実態をもう少し調べてみたい」と話して講演を終えた。

放射能汚染は全国的な公害でもある/木村真三氏

 次に木村真三氏が登壇した。「3.11発災直後の4月、長崎でのエアロゾル測定では、大気中のチリなどからセシウム134が11.3kBq/kg、セシウム137が12.4kBq/kg、測定された。これは高線量の飯舘村蕨平の土壌と同じ。汚染は全国に広がっていた」と述べ、「福島の浜通でセシウムの空間線量が一番低いのがいわき市だが、ヨウ素に関してはひどかった。核種ごとに、違った拡散の仕方をすることもわかってきた」と調査結果を語った。さらに、「平成24年1月に空間線量を調べた北海道の釧路でも、2倍以上の汚染を計測した。国やマスコミは福島の汚染だけを問題にするが、日本全国に拡大している。全国の公害問題のひとつとして考えるべきだ」と警告した。

 続けて木村氏は、福島第一原発の港湾外で行なった海洋調査で、「汚染水はブロックされていない」ことを明かした。また、「福島県二本松市では3.4%の住民に内部被曝が認められた」と述べ、安倍首相がオリンピックのスピーチで語った食材と水の安全性について疑問を呈した。

 そして、「現在、福島で流通している食材は、万全な検査体制を通していて安全だが、測定していない家庭菜園のものは危険だ。2013年4~5月の内部被曝の測定値が急に上がったが、それは山菜による影響。小学生の被曝データにも同様な悪化が見られる。時がたつと危機意識が薄れてしまう」と警鐘を鳴らし、解決策を示した。

 また、飯舘村で配布されているパンフレットの「実効線量100ミリシーベルトで、受動喫煙や野菜不足くらい。わずかに、がんの危険が増す」というコピーを紹介。さらに、「ICRP主催の飯舘村ダイアログセミナーでは村民パネリストは4人で、発言時間は1人当たりたった4分だけ。村民100名の参加者のうち、自主参加は1名だけだ。これが政府、ICRP主導の啓蒙活動の実態で、もちろんマスコミはまったく記事にしない。こうやって住民を分断していく」と懸念を表明した。

 質疑応答で、「もう、放射能の話は止めてくれ、という住民の反応をよく聞くが」と尋ねられると、木村氏は「それは信頼の問題。自分は最初から、住民と共に活動しているので、まったく逆。むしろ、講演をよく頼まれる。もう放射能は結構だ、という人たちは、周りの目を気にしているからだ」と答えた。

ICRPの洗脳から逃れなければならない/西尾正道氏

 西尾正道氏は、最初に日本の原子力政策を批判し、「どうやって、それと対抗するのか。それには科学的な実測データを提示していくしかない」とし、「今の放射線防護学の問題は、教科書がないこと。ICRPの見解は科学ではない。物語の洗脳から逃れなければならない」と述べた。「ICRPの2007年勧告では、1シーベルト浴びると5.5%の過剰発がんになると言っていたが、昨年、放影研は、30代で1シーベルト浴びた場合、70歳でのがん死亡率は42%、20代では54%、リスクが増加すると発表した」。

 続けて、「広島・長崎の原爆症の認定基準は、年間1ミリシーベルト。原発作業者の白血病労災認定は、年間5ミリシーベルト以上」と述べ、15カ国・40万人の原子力施設労働者の健康調査や、ICRPやIAEAと、ECRR(欧州放射線リスク委員会)による福島における過剰発がん数の予想(前者は6000人、後者は42万人)に大きな差があることを例に挙げて、国やIAEA、ICRPなどを批判した。

 さらに西尾氏は内部被曝について、その原理や危険性を解説。「1ベクレル摂取時の預託線量について、セシウム137では、0.013マイクロシーベルトと定数になっているが、1ミリ大の細胞の塊だと、細胞数は100万個で780ミリシーベルト換算になり、1ベクレルの内部被曝は1シーベルトの世界だ」と、画像を見せながら解き明かしていった。 

 そして、「年間5ミリシーベルト以上の地域は強制移住にするべき」と主張し、被災地のがれきを焼却した福岡県だけが高数値を示した空間線量のグラフ、福島での馬の不審死に対する東北大による隠蔽工作、モニター線量の人為的操作、ストロンチウム汚染の危険性、がん発症と原爆実験との相対性などについて説明した。最後に、西尾氏自身が政府に提出した要望書を紹介した。

半年から1年間隔で甲状腺がん検査は必要/松崎道幸氏

 松崎道幸氏が登壇し、福島での子どもの甲状腺検診について、「チェルノブイリでの甲状腺がんの治療経過や、3割の再発率などを参考にすると、福島の子どもたちも、半年から1年間隔での甲状腺がん検査は必要だ」と訴えた。放射線の低線量被曝については、「11年間で平均13.3ミリシーベルト浴びた、日本の原発労働者20万人の追跡調査では、がんは4%、肝臓13%、肺ガン8%で増加していた。しかし政府は、酒やタバコが要因と主張する」と語り、政府見解の根拠を糾(ただ)した。

 続けて、医療被曝(CT、PET、マンモグラフィー)での、がん増加について、医学雑誌『ランセット』掲載の論文を紹介。一度のCT検査で10ミリシーベルト被曝した場合の、有意に3%増加する結果や、子どもの10ミリシーベルトCT被曝では小児がんのリスクが44%増える、というオーストラリアの論文について説明した。

 最後に、ICRPなどの見解と自分の研究調査を比較して、「外部被曝によるがん発症率は10倍ほどの違いがある。(自分の調査では)福島の中通は移住義務区域だ」と訴えた。

福島の小児甲状腺がんについて

 パネルディスカッションに移り、福島での小児甲状腺がん発症率と原発事故との因果関係について、各講演者に意見を求めた。木村氏は「小児甲状腺がん検診を17万4376人が受診し、1140人が2次検査が必要となり、その受診結果が確定した人が383人。そのうち悪性が27人だった。2次検査対象者すべてを調べ終えているわけではない」とし、その上で「チェルノブイリでは事故の4年後から発症率が急上昇した。スクリーニング効果とは断定できない。経過観察が必要だ」と述べた。西尾氏は「原発事故との因果関係の究明も大事だが、日本の医療体制も問題だ。きちんと検査と治療のできる専門家の育成も、早急の課題」と強調した。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です