「2年後に迫ったASEAN域内の関税撤廃が心配」――。
19日(木)に行われた「自由貿易がアジアを襲うー東北タイのムラからー」と題するシンポジウムで、タイを代表する農民運動家のバムルン・カヨタ氏は、アジアで加速するグローバリズムの動きに警鐘を鳴らした。
日本ではTPPをはじめ、RCEPや日欧EPAなど、多国間の経済連携協定の交渉が次々と進んでいる。こうした自由貿易の流れは日本に留まらず、タイにも迫っている。タイでは、オーストラリアやニュージーランド、中国などとの二国間のFTAが主流で、多くの影響をもたらしているという。
- 報告者
- バムルン・カヨタ(東北タイ・農民、カラシンケン県行政区運営機構代表)
- ジェンウェン(東北タイ・オルタナティブ農業ネットワーク)
FTAでタイの農業は壊滅状態
オーストラリア・ニュージーランドとのFTAでは、多くの乳製品がタイの市場を席巻し、タイの酪農家は壊滅状態となってしまった。中国とのFTAでは、当初は「タイの農産品が中国で飛躍的な輸出で利益を上げる」と言われてきたが、蓋を開ければ中国からの野菜・果物、特にニンニクなどの農産品が入ってきたことで、タイの農民は大打撃を受けた。
早期締結を目指すEUとのFTA交渉を巡っては、バムルン氏は二回にわたり政府に陳情を行ったが、一回目の交渉では慎重な姿勢を示していた政府も、二回目の陳情の際は聞く耳を持たなくなってしまったという。バムルン氏は、「EUから薬が多く進出し、タイの市場を独占することが懸念されている。薬価の高騰など、人々の暮らしに多くの影響をもたらすのではないか」と語った。
バムルン氏は自身の経験から、「自由貿易は何にも自由ではない。弱い者の腰を砕くような政策。自由に儲けることができるのは、大きなビジネスをする産業界だけだ」と指摘し、その一方で「中小企業、農民は被害を受けるだけ」と批判した。
遺伝子組み換えの影
次に、タイのNGO「オルタナティブ農業ネットワーク」のスタッフで、有機農業に取り組んでいるジェンウェン氏は、地元の農業を守る取り組みを紹介した。
東北タイのサーイーナワン区では、地元の在来種33種類を保存してきた。しかし、政府は農協に対して「この種類を植えなさい」と薦めてくるという。ジェンウェン氏は「農民は毎年、農協から苗と農薬をセットで買わなければならないが、我々(NGO)はこれまで政府が薦める農業政策とは違う方法、有機農業に取り組んできた」と語った。
またジェンウェン氏は、現在タイで研究が行われている遺伝子組み換えパパイヤの種を手に入れたことを明かす一方、タイにおいて遺伝子組み換えは「よくわからない問題だ」と語った。「政府は、2006年のFTA反対運動から遺伝子組換えについて口を閉ざすようになったが、それは遺伝子組み換えに後退的な構えなのか、情報を漏らさないために隠そうとしているのか、よくわからない」という。ジェンウェン氏は、「今後も注意深く見ている」と語った。