「TPPによる農業生産減少は、地域産業にその2~4倍の影響を及ぼす」 大学教員の会が、政府も拒む都道府県別の独自影響試算を発表 2013.7.5

記事公開日:2013.7.5取材地: 動画
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特集 TPP問題

 政府は3月15日、日本はTPP加入によってGDPが3.2兆円増加し、農林水産物生産額が3兆円減少する、という政府統一試算を発表した。しかし、この農業生産減少額の都道府県別の影響について、安倍総理は5月8日の国会質疑で「都道府県別の試算は技術的に難しい」と答弁。甘利明TPP担当大臣も「不安をあおるような試算の出し方は疑問」と、都道府県別の試算を行わず、公表もしない考えを示している。

 これに対し、「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」は都道府県別の影響を独自試算。7月5日、参議院議員会館で発表記者会見を行った。

 試算にあたった関耕平氏(島根大准教授)と三好ゆう氏(桜美林大学専任講師)は、「本試算はあくまで政府試算の考え方に基づいた『控えめな』試算結果」と前置きしたうえで、農産品19品目について生産額が2兆5142億円(総生産額の26.1%)、全国の農家の所得が4081億円(総所得の13.9%)減少するという結果を発表した。

■全編動画

  • 会見内容(予定)10:00~11:30
    1. 土居英二氏(静岡大学 名誉教授、経済統計学専攻)「産業連関表を用いた都道府県ごとの生産・雇用・所得等への影響試算」
    2. 関耕平氏(島根大学准教授、財政学専攻)/三好ゆう氏(桜美林大学 専任講師、財政学専攻)「農業経営統計を用いた都道府県ごとの農業生産・所得への影響試算」
    3. 醍醐聰氏(東京大学 名誉教授、財務会計論専攻)「第2次影響試算の結果が意味すること」

被災地では全国平均を上回る減少額

 試算によると、生産減少額の多い上位10県は、富山県327億円(43.8%)、福井県212億円(41.2%)、北海道4642億円(40.3%)、滋賀県260億円(38.7%)、秋田県752億円(37.7%)、宮城県743億円(35.7%)、石川県217億円(34.4%)、鹿児島県1488億円(32.2%)、神奈川県273億円(31.8%)、兵庫県482億円(29.1%)となり、「砂糖」品目では北海道、鹿児島県、沖縄県のサトウキビ産業は100%壊滅する。

 続いて、農家の所得減少額の多い上位10県は、富山県73億円(減少率33.5%)、沖縄県118億円(28%)、福井県44億円(24.8%)、秋田県141億円(23.5%)、石川県44億円(23.3%)、宮城県150億円(22.2%)、滋賀県34億円(20.6%)、山口県45億円(20.3%)、新潟県208億円(20.3%)、北海道658億円(18.4%)となる。

 関准教授は、TPPが東日本大震災の被災地へ及ぼす深刻な影響について言及。岩手県では生産額が768億円(27.8%)減で所得額が118億円(15.5%)減、宮城県が生産額743億円(35.7%)減で所得額が151億円(22.3%)減、福島県が生産額707億円(25.4%)減で所得額が184億円(18.2%)減となり、岩手・宮城両県は、いずれも全国平均の減少率を上回る深刻な影響が推定される。

 試算によると特に、岩手県においては水産物を除いた額であるにもかかわらず全国平均を上回る影響を示している。福島県においても、所得減少額は全国で4番目の高さを示しているという。

「TPPによる農業生産減少は、地域産業に約2~4倍の影響を及ぼす」

 続いて土井英二氏(静岡大名誉教授)が、農業生産額の減少と、それがもたらす雇用者所得減少や家計消費減少を最終段階まで算定した結果を発表。また1都道府県だけでなく、経済取引を通じた他の都道府県へ与える影響、他県などからの影響など「跳ね返り効果」も計測した。

 試算では、例えば青森県の農林水産物の減少額は964億円で、それに第二次・第三次産業への影響、他都県の生産減少の影響などを加えると、全産業への影響は2333億円となる。東京都の農林水産物の減少額719億円に対し、全産業への影響は1894億円。徳島県に至っては、農林水産物の減少額213億円に対し、全産業への影響は931億円となる。

 雇用人数の減少は、青森県で32470人、東京都で48005人、徳島県で13182人。

 土井名誉教授は、「TPPによる関税撤廃の影響は、農林水産物等の生産減少額の約2〜4倍の影響が、産業全体に及ぶ。TPPは農林水産業だけでなく地域産業全体の問題であることを数字が示している。この点で『TPP=農業』という認識を改めるべき」と、メディアの報道姿勢を批判した。

TPPは政府の農業所得倍増計画と逆行

 最後に、「大学教員の会」事務局を務める醍醐聡氏(東大名誉教授)が、農家の作付面積規模別の影響について、試算を発表した。

 現状、作付面積1ha以下の農家84万軒は、農業純所得(作物収入-経営費)自力で農業を持続できる所得基盤を持ち合わせていない。しかし、それ以上の規模の経営体は、少ないながら農業純所得はプラスであり、自立的に農業を継続する所得基盤を持っているという。

 しかし試算では、日本がTPPに参加して農家の中心作物であるコメの関税が撤廃され、生産額がほぼ半減すると、作付面積10ha以上の経営体約31万軒も含め、すべての規模の経営体は農業純所得がマイナスとなり、自力では農業の継続が困難となる。醍醐氏は「所得の減少総額は7554億円、純所得の段階では3136億円に達すると見込まれ、政府が掲げる農家の所得倍増計画とは逆行した帰結を生むだろう」と、政府の施策の明らかな矛盾に警鐘を鳴らした。

「農家の抜本的な所得向上策が必要不可欠」

 会見後の質疑では、日本農業新聞の緒方大造編集局長から「政府は都道府県別の試算、関連産業への波及効果などを試算を行わないが、これはデメリット隠しではないか? 政府のそうした姿勢に物申したいことは?」という質問があがった。

 これに対し醍醐氏は、「県別にみないと、本来の影響はわからない。例え1億円の影響でも、その地域にとって重要な1億円だったりする。山梨県もコンニャクへの影響を非常に気にしていた」と、都道府県別試算の重要性を語った。

 また醍醐氏は、「よく『TPPに入っても入らなくても農業は衰退する』という冷めた視点がある。TPPが農業衰退に『無関係』ならまだ良いが、実際は耕作放棄地の発生に拍車をかけ、離農者や所得の補填のために兼業の場を求める人々が激増し、日本の雇用情勢を悪化させる大きな要因になってしまう」と問題提起したうえで、「この意味で、抜本的な所得向上策が練られ、実行に移されることが日本の農業の中核を担う稲作農業の後継者問題の解決にとって欠かせない課題だ」と強く訴えた。【IWJ・佐々木隼也】

〈メモ〉
 5月22日に行われた第一次影響試算発表記者会見の時と記者の数は変わらず50人程でカメラも代表1台のみ。ただ、会見後も熱心にぶら下がり質問をする記者が多く、熱気と注目度は以前よりは上がったようにみえた。TPPが参院選の「争点」からあからさまに除外されているなか、大手メディアがどのように報道するか。今後の記事に注目したい。

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