「セシウムは雨どいで濃縮する。福島では、阿武隈川は雨どいにあたる」? 岩上安身によるインタビュー 第175回 ゲスト 山内知也氏 2011.12.18

記事公開日:2011.12.18取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

 「原子力ムラの入村資格は『放射能は安全だ』と堂々と言えること。私は入れてもらえなかった」――。

 2011年12月18日、兵庫県神戸市の神戸大学で、岩上安身が山内和也氏にインタビューを行なった。山内氏は専門である放射線計測学の知見と、汚染調査の経験を踏まえて、放射能汚染、放射性物質の濃縮、除染、がれき処理など、さまざまな問題について語り、未来を見据えた独自の見解を披露した。

 放射能汚染の濃縮について、山内氏は「福島の某所では、9月に毎時20マイクロシーベルトを計測した。6月の計測から4~5倍に濃縮されていた」と語る。岩上安身が「政府は、空間線量は低減したとの収束キャンペーンを盛んに行なっているが」と聞くと、山内氏は「それは、放射性物質がどこかに濃縮されているからだ」と述べた。

 今まで、放射性物質の濃縮に関する詳しい研究はなかったと話す山内氏は、「福島とチェルノブイリでは、気候や地形などの条件も違う。福島の家屋では、雨どいの濃縮が顕著だ。地形も同様で、阿武隈山地が屋根、阿武隈川は雨どいにあたる。利根川、江戸川、鬼怒川もしかり。これから放射線量の数値が低くなっていく場所と、上がっていく場所が明らかになり、ホットスポットも人間に近づいていく」と予測した。

■ハイライト

研究費がないのは、原子力ムラではない証拠

 山内氏は、材料工学を勉強したのち、予算のかからない放射線計測学の研究に変わっている。きっかけはアメリカのアポロ計画で、月から帰還した宇宙飛行士のポリカーボネート製ヘルメットを調査したことだという。「ヘルメットに刻まれた傷の分析から、宇宙空間には鉄や亜鉛などのイオンが飛び交い、とても危険なことがわかった。宇宙のいろいろな放射線を測る研究をしている」。

 岩上安身が「研究費がないというのは、山内先生が原子力ムラの人ではない、という証拠だ」と言うと、山内氏は「そのムラには、入れてもらえなかった」と笑った。堂々と「放射能は安全だ」と言える人でないと、原子力ムラには入れないのだという。

 そして、『プルトニウムは飲める。原子力は知れば知るほど安全だ』と発言した教授たちと同席した討論会での経験を明かした。山内氏が、阪神淡路大震災の経験者の立場で放射線の話をすると、彼らは「地震や津波の話をする場ではない」と苦言を呈したという。

 山内氏は「思考の次元が違うと感じた。彼らは地震の専門家ではないのに、(原発は地震でも)安全だと応答できるのだ」と呆れてみせた。

旧共産党国家よりも遅れている日本の被曝対策

 山内氏は「福島の年間20ミリシーベルトという安全基準は、子どもの放射線への感受性を考慮していない」と危惧し、今でも被曝の基準になっている広島と長崎の被爆データの不確実な点を指摘した。

 広島と長崎では、被爆後の最初の5年間の調査記録がない。また、被爆のすぐ後に枕崎台風(1945年9月)が広島を直撃し、ストロンチウムなどの放射性物質を流した可能性がある。山内氏は「当時は衛生状態が悪く、感染症が多かったはず。調査対象となった、被爆から5年目以降にがんを発症した人たちは、(5年間生存していることから)とても健康で頑丈な人たちなのだ」と述べて、それを今回の原発事故に適用して100ミリシーベルトまで影響がないという主張に疑問を投げかけた。

 低線量被曝の影響を指摘した疫学者のアリス・スチュワート氏の論理や、チェルノブイリ事故後の放射線と甲状腺がんとの因果関係が認められるようになったのは、「2004年?2005年になってからだ」と山内氏は言う。

 その上で、「チェルノブイリの経験を生かすことが科学だ。チェルノブイリでの避難の基準は年間5ミリシーベルト。しかし今、日本は年間20ミリシーベルトだ。ホールボディカウンターでの検査数値も教えてくれない。日本は旧共産党国家よりも遅れている」と憤った。

 山内氏は「放射線の調査は大学とは別で、まったく個人的立場で行なっている」と断り、東京都江東区、埼玉県三郷市、福島県渡利地区などでの計測や、宮城、新潟の土壌サンプルのセシウム134とセシウム137、ガンマ線、ベータ線のサーベメーターでの計測について話した。また、「三郷市の小学校では、教育委員会から計測を断られた」エピソードも語った。

 耕作地などでは、まず芝生を植えて、成長したら土と一緒に取り除くことを何回か繰り返すと、(空間線量が下がり)除染ができたという。山内氏は、それをしなかった福島の汚染状況を悔やみ、「今でも、子どもは避難すべきだと思っている」と話した。

どこかに濃縮する放射性物質

 放射能汚染の濃縮について、山内氏は「福島の某所では、9月に20マイクロシーベルトを計測した。6月の計測から4~5倍に濃縮されていた」と語る。岩上安身が「政府は、空間線量は低減したとの収束キャンペーンを盛んに行なっているが」と聞くと、山内氏は「それは、放射性物質がどこかに濃縮されているからだ」として、NHK『クローズアップ現代』で取り上げていた「都市濃縮」について語った。

 山内氏は「放射性物質は、アスファルトなど油の表面には付着しにくいが、コンクリートは細かいすき間に付着して一体化しやすい。トタンなども古くなると除去できない。油分はセシウムをはじき、粘土に吸着されやすい」と説明する。

 さらに、「水田は水の流れによって濃度が違い、水路の入り口と出口、中央など作付けした場所で汚染も変わる。水路の入り口が一番高くなる。その水源の上流の汚染具合にも左右される」と話した。

 「濃縮についての詳しい研究があるのか」と岩上安身が尋ねると、山内氏は「詳しい研究はない。福島とチェルノブイリでは、気候や地形などの条件も違う。福島の家屋では、雨どいの濃縮が顕著だ。地形も同様で、阿武隈山地が屋根、阿武隈川は雨どいにあたる。利根川、江戸川、鬼怒川もしかり。これから放射線量の数値の低くなっていく場所と、上がっていく場所が明らかになり、ホットスポットも人間に近づいていく」と予測した。

 岩上安身が「郡山で80万ベクレルのマイクロ・ホットスポットが見つかった。そこは駅の雨どいの下だった」と言うと、山内氏は「こまめに歩きながら測る必要がある。その数値をみんなで共有すること。放射性物質が集まるところを探せば、除染もしやすくなる。事故収束宣言で終わったのではなく、これから始まるのだ。今後、新しいホットスポットが出てくるだろう。小学校では計測器を常備して、放射線量を測定すべきだ」と主張した。

ストロンチウム汚染の可能性

 インタビューはストロンチウムの話に移った。岩上安身が、環境工学の教授が発見した横浜市港北区のマンション屋上のストロンチウムの一件を説明した。「6~10万ベクレルという高いダストを見つけて計測に出したら、ストロンチウムも見つかった。そのマンションは築7年なので、福島原発事故由来しか考えられない」。

 続けて、岩上安身が「文科省は、近くの公園を調べたらストロンチウム89(半減期50日)が検出されていない、と発表。鉛やラジウムなど、他の同位体を検出したと反論した」と話すと、山内氏は「値が高いので、ラジウム、鉛などベータ線も入っている可能性もあるが、大阪などで築7年のマンションで測ってみればわかると思う」と答えた。

 さらに、文科省の記者クラブと、他での記者会見の発表の違いを指摘した岩上安身は、「不可解なのは、民間機関が都内3ヵ所(有楽町、清澄、経産省前)の土壌を検査したら、値は低いがストロンチウムが出たことだ」と述べた。それについて、山内氏は「鉛、ラジウムは時間がたつとガンマ線も出てくるので、それを見ればわかる。ストロンチウムの濃縮はとても合理的で、セシウムより動きやすい。また、地下に浸透しやすくイオン化も容易だ」と語った。

 山内氏が、これまでの濃縮の結果から、「放射性物質は移動するので、最初の放射線マップだけでは決められない。政府は、放射線で騒がれたくない。何のためなのか理解できない」と話す。岩上安身は「文科省の担当官は、吸入による内部被曝に関して、ストロンチウムはセシウムにくらべ安全である、と発言する。しかし、経口摂取の安全性を尋ねると、それは厚労省の管轄だから、と答えないのだ」と述べ、役所の対応のいい加減さを批判した。

 山内氏は「ストロンチウムはいったん体内に吸収されると骨に留まり、排出されない。セシウムは筋肉にたまる。チェルノブイリ原発事故後に内部被曝を調査したバンダジェフスキー教授は、心臓にも溜まると指摘している。同じベクレル数だとストロンチウムの方が危険だ」と話し、被曝は感受性の個人差が大きいゆえに平均値は基準にできず、オーダーメイドで実測する必要性を説いた。

除染に一番効果があるのは屋根を変えること

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