2020年1月22日、衆議院第二議員会館で、経済産業省・原子力規制庁・環境省そして東京電力の出席のもと、国際環境NGO・FoE Japan、認定NPO・原子力資料情報室、国際環境NGO・グリーンピース・ジャパンの3団体主催、原子力市民委員会の協力による「ALPS処理汚染水のこれから ― 置き去りにされた陸上保管案」学習会が開催された。
2019年12月、東京電力福島第一原発で増え続ける放射能汚染水、ALPS処理汚染水(経産省では、ALPS処理水)について経済産業省のもとに設置された「核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)が、トリチウムなどの放射性物質を含むALPS処理汚染水の「海洋放出」、「大気放出」、そしてその組み合わせという、いずれにせよ環境中に放出する3案に絞り込んだ『とりまとめ案』を発表した。
これを受け、FoE Japanの満田夏花氏が冒頭に発言し、「原子力市民委員会などが提言している『大型タンクによる陸上保管案』『モルタル固化案』などが十分に検討されないまま放射性物質が環境中に放出される3案が有力案として示されることに危惧を抱いている」と述べ、「他の代替案を明らかにして最善の方法を探りたい」と述べた。
満田氏は「陸上保管案と敷地問題」について、東電がデブリの取り出しを控え敷地内に保管するタンク設置の余地がない、としたことに対し、敷地内でなければできないこと以外を検討すれば敷地には余裕があるのではないかと指摘。また、敷地外にも大型タンクによる陸上保管の可能性に言及した。
原子力市民委員会の川井康郎氏は、すでに米国で実績のある汚染水にモルタルを混ぜ固化した状態で保管する「モルタル固化」案を提唱。汚染水にコンクリートと砂を混ぜる分だけ容量が増えるデメリットはあるが、固化し安定するため、取り扱いも容易というメリットがることと、すでに米国では実績がある事などを強調したが、小委員会で全く議論されていないことに、憤りを表明した。
トリチウム(三重水素)の危険性について報告した、原子力資料情報室の伴英幸氏は、「カナダの重水炉というトリチウムを多く出すタイプの原子炉では下流域に小児白血病、ダウン症、新生児死亡などの増加が報告されていて、政府の報告書でも報告されている」として、「トリチウムは放射性物質。微量でも必ず身体に影響が出る」と警告した。
高木仁三郎市民科学基金の水藤周三氏は、「核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)での「ALPS処理汚染水の環境放出は保管と比べて社会的な影響が大きいということをはっきり書くべきだ」との議論を紹介し、測定する核種が「放射性セシウム」だけではなく「トリチウム」になると測定が大変難しくなり、これまで東電福島第一原発事故後「放射性セシウム」で行われてきたような検査ができなくなって「測っているから安全」という自信を生産者が持てなくなり、消費者も安心できなくなる可能性があると指摘した。
これを受けて、福島県大熊町から参加している町議会議員の木幡ますみ氏が「地元で放射線量を今でも測定しているが、以前からあまり変わっていない」、ALPS処理汚染水は「今流さないで、科学がきちんとした意見が出せるようになるまで待つべきだ」と訴えた。
経済産業省の経済産業省の奥田修司・原子力発電所事故収束対応室対策官は、取りまとめ案が出たあと地元との協議を行うという趣旨の話しをしたが、具体的にどのように実施されるのかを問われて「地元と協議するかどうかはわからないが意見は聞く」と述べた。
これに対して、木幡・大熊町議は「地元住民との話し合いはここ数年無い」処理水を流したあと「国は本当に保証ができるのか」、「浜通りの全員と話をするべきだ」と結ぶと、会場からも同様の抗議がの声があがった。
ALPS小委員会の議論も十分に反映せず、唐突に環境放出の3案に絞った挙げ句、地元住民との協議すらしない。2016年11月から開催され、前身の汚染水処理対策委員会から数えて7年に及ぶ議論のあっけない幕切れには、始めに答えありきの国の姿勢が見て取れた。