大した議論にもならなかった印象が強い。
2016年11月11日、訪日中のインド・モディ首相と安倍総理が、日印原子力協定に調印した。日本からインドへの原発輸出が可能になった。
日本人にとっては、観光地として人気の高いインドだが、パキスタン(※)や中国(※)との間に領土問題を抱えている国であることは、あまり意識されていない。特に印パ関係は緊張を高め、2016年9月29日にはパキスタン軍側に死者を出す衝突が発生している。
(※)印パ領土問題:カシミール地方の帰属を両国が争う。
(※)中印領土問題:アクサイチン、アルナーチャル・プラデーシュ州の領有権を両国が争う。
問題は、紛争の火種を抱え込むインドが、核保有国でありながら、「核兵器不拡散条約(NPT)」に加盟しないままでいることである。これまで2度(1974年、1998年)も核実験を繰り返し、パキスタンとの間に核軍拡競争を繰り広げてきた。
日印原子力協定は日本にとって、NPT非加盟国との間に結ばれた、初めての原子力協定である。日本の原発輸出が、核拡散に直結するかもしれない。重大な決定が、国民の議論抜きになされてしまった。
2016年11月29日、東京・衆議院議員会館で、日印原子力協定の問題点を明らかにすべく、検討会が行われた。NPO法人原子力資料情報室主催で、岐阜女子大学南アジア研究センター・福永正明氏、原子力資料情報室・松久保肇氏、NPO法人ピースデポ・田巻一彦氏、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン・佐藤大介氏、ピースボート・川崎哲氏らが登壇した。超党派「原発ゼロの会」所属の民進党・阿部知子議員、逢坂誠二議員、日本共産党の山添拓議員らも参加した。
- 日時 2016年11月29日(火) 15:00~
- 場所 衆議院第一議員会館(東京都千代田区)
- 主催 NPO法人原子力資料情報室
- 協力 超党派「原発ゼロの会」、日印原子力協力協定反対キャンペーン2016
原子力の軍事利用に歯止めなし! 協定はインドの核兵器増産に日本が加担することを決定づけ
福永氏は、日印原子力協定が実質的にインドに「原発の増産」も「核兵器の増産」も認める内容であることを、厳しく指摘する。
「国際原子力機関(IAEA)が、特別にインドに査察を行う(保障措置協定)ことになっていますが、『軍事施設』は査察の対象外です。今までのIAEAの保障措置協定とは、まったく別質のもの。
原子力関連施設を、民生用(原発関連)と軍事用のものにインドが決める。査察を受けるのは、『民生用部分』だけです。つまり、『軍事用部分』に関しては、一切世界はノータッチでいい。それを日本が認めたのです」
▲福永正明氏
インドのようなNPT非加盟・核保有の国への原発輸出は、核兵器の増産に加担していることと同じだと言える。さらに協定には、インドがNPTに非加盟であることに対する日本からの言及は、一切書き込まれていないという。日本はインドに対し、核兵器を増産しないように求めてもいないということだ。
日印原子力協定の調印は、戦後70年、日本が唯一の被爆国として、曲がりなりにも掲げてきた「核なき平和」の実現という旗を、無残にも葬り去った決定と見ることができる。
松久保氏は、以前から日本の原発輸出に警鐘を鳴らし、特にインドがNPTも非加盟国であることから、問題提起を続けてきた。以下の記事でぜひ、お読みいただきたい。
再処理施設の建設も野放図に拡大!? 原発建設に反対の声をあげる地元住民をも無視した協定
原発の建設にともなう再処理施設の問題もある。現在、インドではKovvadaとMithi Virdiという2つの地で、原発に隣接して再処理施設の建設が予定されているが、Mithi Virdiについては、地元の強固な反対の声により、原発建設計画そのものが凍結されてしまった。日本からの原発輸出を後押しするような日印原子力協定は、インド国民の反発をも逆なでする協定である。
松久保氏は、協定が「追加的な新規の国内再処理施設」を認めている点を問題視し、野放図な拡大に懸念を示す。
「少なくとも、米印(原子力)協定(2007年妥結)同様、代表団が数年に一度程度でも施設を訪問し確認しなければ、なんの歯止めもないことになってしまう」
▲松久保肇氏
安倍政権は、今年の8月、米オバマ大統領の「核先制不使用」に反対、10月には国連の「核兵器禁止条約」にも反対をした。そして今回の日印原子力協定である。もはや、日本は積極的な核兵器容認国家であると世界から見なされても、不思議ではない。そして、そうした姿勢の行きつく果ては、日本自身の核兵器保有が想定されていると考えるのが自然である。
IWJはこれまでにも、日印原子力協定に反対する市民の声を取材し続けてきた。ぜひ、下記の記事も合わせてご視聴、ご一読いただきたい。