【岩上安身のファイト&スポーツ】「挑戦者ロマゴンは4階級制覇をなしとげたが、株を上げたのはクアドラス!」〜俄然面白くなったボクシング・スーパーフライ級!井上尚弥との対戦についてロマゴン「喜んでやりたい」と意欲! 2016.9.11

記事公開日:2016.9.13 テキスト
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 全世界のボクサーを対象とするパウンド・フォー・パウンド(同じ体重だと仮定した上での強さの比較)最強のボクサー「ロマゴン」ことローマン・ゴンサレスが、WBCスーパーフライ級王者クアドラスに挑んだ試合、ものすごい接戦となった。僅差でクアドラスが勝ったかもしれないとすら思われたが、3-0のフルマークでロマゴンの判定勝利。しかし、顔が腫れ上がっているのはロマゴンの方だった。クアドラス、凄かった!

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 試合後のロマゴンインタビュー。

ロマゴン「素晴らしいファイト、神のおかげで勝てました。もっとも難しい試合だった」

Q「とても疲れているように見えましたが?」
ロマゴン「頬に痛みがあり、そういう表情になりました。私はいつも家族、子供のことを考えています。

Q「ボディにくらって苦しんでましたね?」

ロマゴン「頬がかなり痛い」(クアドラスの左フックをかなり食らっていた)。

Q「井上尚弥が見ていました。ファンの望むスーパーファイトが控えていますが」

ロマゴン「もちろん、喜んでやりたい」

Q「4階級制覇したのは、ニカラグアで初めて。アルゲリヨ*を超えましたね?」

ロマゴン「超えていない。彼は私の先生で、彼を追いかけている。彼はレガシー。勝てたのは、家族のおかげ、彼のおかげ、ニカラグアの皆さんと、神のおかげです」

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 ロマゴンが初めて顔を腫らしながら、最後は執念で、4階級制覇をなしとげた。ここまで打たれ、また自分の攻撃がかわされ、余力の余の字も残さないほどの激闘は、ロマゴンにとっては、キャリア初めてのことだろう。

 ロマゴンとクアドラスの一戦は、KO決着ではなく、ダウンすら一度もなかったが、一瞬一瞬、次の展開が分からないスリリングなものだった。判定はロマゴン3ー0のフルマークだったが、そんな差はなかった。むしろ、クアドラスの僅差勝利とするジャッジがいても少しもおかしくなかった。

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 クアドラスは試合には負けたけれども、勝負では負けていない。素晴らしいフットワークとボディワーク、下りながらでも、前へ出ながらでも、連打を果敢に打ち込み、出入りのあるアウトボクシングもしたが、決して逃げている印象は与えなかった。

 クアドラスは勇敢だった。いつものように前へ前へとプレスをかけ続けるロマゴンに真っ向から勝負を挑み、うち負けなかった。正確なディフェンスと左右へ散らすフットワークを使いながらも、逃げのステップバックではなく、要所で打ち合い、ロマゴンの顔を切り、腫らしていった。

 ロマゴンもクアドラスも、打ち込んだ、そして被弾もした。両者心折れず、どちらも自分の価値を信じて打ち合い続けた。素晴らしい試合だった。ロマゴンは、地力の強さ、苦境でも絶対に下がらず前へ出る闘志とタフネスを見せて勝利したが、株を上げたのはクアドラスの方だろう。フライ級時代、ロマゴンを最も苦しめたエストラーダとクアドラスはイメージが重なり合う。

 ロマゴンとクアドラスの再戦は、ぜひ、見たいものだ。ロマゴンが素晴らしいボクサーであることは言うまでもないが、クアドラスというボクサーもまた、タイプは違えど、負けず劣らず本当に魅力的なボクサーであることを今日の一戦で証明したはずだ。そして、絶対王者であるはずのロマゴンも、弱点もあり、被弾して顔を腫らす人の子であることも、ライト級からスーパーフライ級へ階級を上げたことによる負荷も、重いものであることも、明らかになった。

 これで、スーパーフライ級は俄然、面白くなった。井上尚弥は、段違いの「強さ」「速さ」「巧さ」を持ち合わせているが、同時に「もろさ」をも持ち合わせている。「ガラスのジョー」と呼ばれる打たれ弱さをもった選手はこれまでもいたが、「怪物」なのにガラスのフィスト(拳)をもつ。

 まだ井上尚弥自身も、陣営も、ファンも、井上が「ガラスの拳」の持ち主であるという運命を受け入れていないように思う。だが、これは1つの個性のようなものだ。できれば否認したい事実ではあろうが、潔く、すみやかに、受け入れるべきだ。世界最強の強打をもつボクサーが「ガラスの拳」の持ち主でもあるという悲劇を、受け入れ、どう克服するか、それが井上尚弥のテーマなのだ。

 弱さ、限界を露呈したところから、本当の強さが試され、本当の勝負が始まる。井上尚弥の致命的なもろさも明確になった。ロマゴンの限界も露呈した。よかった。両者とも、生身のボクサーなのだ。この両者の対決がますます楽しみになってきた。

 と同時にクアドラスの価値も両者同様に高まった。三すくみの勝負が非常に面白くなってきた。井上尚弥は、スーパーフライ級のもう1人のチャンピオンである、ルイス・コンセプシオンとの統一選を希望している。河野公平を倒したコンセプシオン。井上尚弥を脅かせば、4強のリーグ戦状態となるかもしれない。

 勝負に必要なのは、好敵手である。単に無敵、無敗であることに価値があるのではない。毎回、絶対王者の「予定調和」的な展開を見せることでもない。強敵、好敵手に恵まれ、ギリギリの勝負を戦い抜くことにこそ価値があるのだ。あのロマゴンが泣いていた。そんな試合になったことだけでも価値がある。クアドラスは、判定を不服としてリングを降りた。この悔しさを次回晴らしてもらいたい。

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 今朝(9/11午前中)、WOWWOWのエキサイトマッチで、ローマン・ゴンサレスとクアドラスの一戦を観ながらツィートしたが、その後、ミドル級の無敗の王者・ゲンナジー・ゴロフキンが、二階級下のウェルター級王者・ケン・ブルックの挑戦を退けた試合は呟かなかった。

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 理由は、ゴロフキン優勢ではあるものの、ブルックもかなり善戦していたと思われたのに、連打を打たれた途端、ブルック側のセコンドがタオルを投入してしまったため。これからが見所、というときに、幕切れとなり、書くことがなくなってしまった。

 ところが先ほど、ニュースで早すぎるタオル投入の判断の真相を知って驚いた。ブルックは2回で眼底骨折していたのだという。もちろん、ゴロフキンのパンチによるものだろう。ゴロフキン恐るべし。ブルックの健闘にも改めてリスペクト。

本文は9月11日の岩上安身のツイートに加筆・修正したものです。

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