【岩上安身のファイト&スポーツ】沖縄からKO率100%の世界王者誕生なるか!? 比嘉大吾選手がパーフェクトレコードで世界挑戦へ!井上、井岡、田口、田中ら人材豊富な軽量級での日本人対決が観たい! 2017.2.11

記事公開日:2017.2.10 テキスト
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(岩上安身)

※2017年2月7~8日のツイートを加筆し、再掲しています。

 12戦12勝無敗12KO。デビュー以来全てKO勝ち。沖縄出身の比嘉大吾選手(21歳)が、世界前哨戦をKOでクリア。夏に予定される世界戦で勝ってベルトを取れば、KO率100%の世界王者が誕生する。KO率100%は日本の世界王者として1位となる。

 ちなみに現在の歴代一位は井上尚弥。12戦12勝無敗10KO。KO率は83.33%。

 平仲明信と井上尚弥は、これまで同率首位で並んでいたが、昨年末の12月30日に行われたWBOスーパーフライ級王座4度目の防衛戦で、挑戦者の河野公平戦にKO勝ちをおさめた井上が単独首位に立った。

 なので、以下、日本の世界王者のKO率のランキングをまとめた動画がYouTubeにアップされているのだが、せっかくまとめた労作だけれど、書き換えが必要である。

【強打の証!】日本の世界王者 KO率歴代最高は誰だ!? 生涯KO率トップ10

 しかし、夏に比嘉が世界王座を奪取すると、世界王者KO率の単独首位は井上を抜き去り、比嘉に、ということになるので、またまた書き換えが必要になるかもしれない。せわしないが、楽しみでもある。

 高校時代に全国制覇したわけでもない比嘉の、プロ入り後の爆発的成長は、プロ向きの才能を見抜いた具志堅会長の期待にこたえるもの。WBCのフライ級で世界を奪取すると(気が早い)、WBAには井岡一翔が君臨しているので、両者の統一戦がぜひ見たい(気が早すぎる)。

 世界戦での日本人対決は盛り上がる。先日の井上尚弥対河野公平戦で、それを痛感した。王者も挑戦者も日本人だと、それぞれの応援団が熱烈に応援するので、どちらも負けられない。下手な試合はできないと、自ずと白熱した試合になる。

 ボクシングは今や団体数が増え、チャンピオンも一階級に4人もいて、ただ単に世界王者であるとか、何回防衛したか、何階級制覇したか、と言うだけでは見向きもされない時代になっている。誰と誰がベルトだけでなく、己の人生と名誉をかけて戦ったか。人々の記憶に残る名勝負を繰り広げたかが、問われる時代なのである。

 PFP(パウンド・フォー・パウンド)最強のロマゴンこと、ローマン・ゴンサレスとの同級対決を回避したと言われ、ボクシングファンの不評を買っている井岡はここでぜひ日本人対決で魂のふるえるような名勝負を繰り広げ、名誉挽回をはかってもらいたい。卓越したボクシングセンスと巧さをもつ井岡が、一流の王者であることは誰の目にも明らかであるにしても、「唯一無二」を豪語するのはまだ早い。

 とはいえ、井岡一翔対比嘉大吾は、技巧派対ハードパンチャーの極端にタイプの違う対決になり、正直なところ、予想がつかない。比嘉が世界王者になることをほぼ前提にして始めたこのつぶやき、そもそもが気が早すぎる妄想なのだが、もう少し妄想を続ける。

 比嘉対井岡だと、試合が噛み合わない気がして、イマジネーションが続かないのだが、井岡を軸に考え直すと、WBO世界ライトフライ級王者の田中恒成との一戦は、ぜひ見てみたい、と思う。ともにオーソドックスで、スピードとセンス抜群のテクニシャン。これは間違いなく噛み合う。どちらがより巧いのか、技巧派No.1をきわめる対決を、ぜひ実現してもらいたい。

 田中恒成は、井上尚弥をかなり意識している。デビューから5戦目で世界王座に戴冠した田中は、井上のもつ、デビュー6戦目で世界王者奪取の最速記録を塗り替え、8戦目で二階級制覇という点でも井上に並んだ。が、将来はともかく現時点での井上尚弥対田中恒成戦は食指が動かない。階級が2つ違うし、井上尚弥はパワフル過ぎる。田中恒成の今のパワー・フィジカルでは釣り合わないと思う。

▲田中恒成選手(真ん中)(「田中恒成ブログ」より)

▲田中恒成選手(真ん中)(「田中恒成ブログ」より

 その点、フィジカル的には井岡一翔対田中恒成は釣り合う。田中は21歳と若く、これからまだまだ成長し、階級を上げられるだろうし、本人も陣営も複数階級制覇の記録狙いなのがありありなので、井岡一翔に土が着く前にフライ級に上げて日本人技巧派王者対決を実現してもらいたいと妄想する。

 妄想はさらに続く。田中恒成を軸として日本人対決を考えると、これはまた色々と面白くなる。ライトフライ級は4団体のうちなんと3団体で日本人が王座についている。WBOの田中以外に、WBA王者には田口良一が、IBF王者には八重樫東が君臨している。

 一番若い田中恒成が先輩王者に統一戦を呼びかけており、田口がこれに呼応している。田中には全国ネットのキー局がついていないので(試合は名古屋中心にしか流れない。もったいない)、テレビ東京バックの田口良一との統一戦は、ひょっとしたら実現するかもしれない。

▲田口良一選手(写真左)(「田口良一 ボログ」より)

▲田口良一選手(写真左)(「田口良一 ボログ」より

 田口良一対田中恒成戦がもし実現したら、これはかなり面白い。ボクシングセンスは明らかに後輩の田中の方が何枚も上。しかし田口には、外見(強カワイイ)からは想像できない心身両面のタフネスがある。それがいかんなく発揮されたのが日本ライトフライ級王者を賭けての対井上尚弥戦。

 井上尚弥にとっては、通過点に過ぎないと言われた日本タイトル戦。過去、スパーリングでも井上が圧倒していたという。が、本番では先輩で王者の田口が粘りに粘り、KOどころかダウンも奪われなかった。過去、井上尚弥が対戦相手からダウンを奪えなかったのは唯一、田口だけ。

 井上がKOできず、判定までもつれた試合は2試合あるが、もうひとつのカルモナ戦(WBOスーパーフライ級王座V2戦)ではダウンを奪い、最終ラウンドはTKOになってもおかしくないところまで追い込んでいる。田口はまったく違う。最終のゴングが打ち鳴らされるまで、下がることも心が折れることもなく、真っ向から井上と打ち合った。

 この試合、KO記録更新が期待されていた井上尚弥が、凡庸な才能の持ち主に見えた田口良一を倒せなかった消化不良試合のように言われたものだが、それは違う。今、YouTubeで見返してみると、この井上対田口戦は実に見応えのある名勝負だったとわかる。

【ボクシング】夢のカードが実現していた・・井上尚弥VS田口良一【神動画】

 田口良一は不器用である。が、ハートが素晴らしい。ワタナベジムのチャンピオンたちは、田口にせよ、年末に王座奪還ならなかった内山高志にせよ、井上尚弥に挑んで壮烈に散った河野公平にせよ、そろって不器用で、無骨で、タフであり、見る者の胸を打つ。

 この田口良一対田中恒成戦が実現し、その勝者ともう一人のライトフライ級の無骨な激闘王、現IBF同級王者、八重樫東と対戦、なんてことになると、これはもうじっとしていられない。団体数が増え、王者の数も増えて、世界王者の価値が下がった現在、大事なのはこのワクワク感なのである。

 いかに見る者のイマジネーションをかきたてる存在であるかが、そのボクサーの価値を決める。イマジネーションを妄想と言いかえてもいい。

 話がどんどん広がり、妄想もどんどん広がると収集がつかなくなるので、もう一度、田中恒成に戻す。田中恒成の同学年が面白い。田中と同じ階級で高校時代、全国制覇を賭けて争い、勝ったり負けたりを繰り返していたのが、井上尚弥の弟の井上拓馬。

 かたや田中はミニマムからライトフライ級にあげたところ。かたや井上拓真はスーパーフライ級王者の兄を追い越して、昨年末は一階級上のバンタム級で世界王座を狙うところだった。拳の負傷のため、王座挑戦は見送りになってしまったが、両者は三階級も違う。

 三階級も違うと歩み寄りようもないので、田中恒成対井上拓真の、高校時代からのライバル決着戦は残念ながら実現が難しい。しかし、ここで同学年でもう一人、比嘉大吾がフライ級にいる。田中も拓真も全国制覇を成し遂げているが、比嘉は高校時代は無冠。

 妄想が巡り巡って、スタート点の比嘉大吾まで戻ってきた。比嘉はフライ級。ライトフライ級の田中恒成とは、田中が階級を上げてくれば実現可能性がある。これも高校同学年のライバル対決として面白い。また、比嘉は身体がガッチリしているので、先々もう一階級上げて、井上兄弟と戦うという手も。

 先に呟いたように、現役では井上尚弥と比嘉大吾はKO率がずば抜けて高い。強打者同士の対決が見てみたい、と思っていたら、実は今回の対河野公平戦を前に、井上尚弥対比嘉大吾のスパーリング対決が実現していた。

 専門誌記者らのレポートによると、井上尚弥が比嘉を圧倒したらしい。しかしこの両者の対決、スパーリングなんてもったいない。金をとって試合として見せて欲しい。日本最強のKOキングはどちらだ!? と思うだけで痺れる。

 軽量級のボクサーで対戦可能なカードを妄想してゆくと、今の日本のボクシング界は軽量級では凄いタレントがそろっているんだなと改めて思う。こんな時期に互いに対戦しないなんてもったいない。ぜひとも白熱の日本人対決を実現して欲しい、と切望する。

 タレント揃いとは言っても、井上尚弥はダントツで抜けている感があり、待ち望まれるライバル対決としてはPFP最強のロマゴンとの対決しか思い浮かばない。何としてもボクシング界(大きな影響力を持つテレビ界も)はこの対決を実現させてもらいたい。

 もっともその期限は今年一年、とも言われる。すでにスーパーフライ級でも減量が苦しくなっている井上尚弥は、一年後は一階級上げてバンタム級に臨むという。そうなるとミニマムからスーパーフライ級まで、4階級制覇してきた、ロマゴンとの対決は遠のく。

 今年末、日本でも米国でもいいから、井上尚弥とロマゴンは一戦交えるべし。その上で井上はバンタム級に上げるなら、今年3月に12度目の防衛戦に臨む山中慎介に挑むべし。山中が順調に勝ち続ければ、一年以内に具志堅用高のもつ13連続防衛記録を更新しているはず。

 山中慎介対井上尚弥となれば、世界のPFPランキングに名前が出る日本のトップ2による文字通り頂点を極めるカードとなる。山中慎介が連続防衛記録を更新していたとして、それを万が一井上尚弥がストップしたら、その責任は重大である。

 そうなったら井上尚弥は、山中慎介の無念の分も背負って、防衛記録を延々と伸ばさなくてはならない。井上尚弥はまだ23歳(今年24歳)。本人は目標として35歳まで現役でいることを掲げているので、年3回試合を行うと、あと33〜36回試合。

 それらを全て勝ち抜いたとすると、これまでに12戦12勝しているので、トータルで45〜48勝。ロッキー・マルシアノとフロイド・メイウェザー・ジュニアがもつ49戦49勝生涯無敗に、わずかに届かない。もうちょっと頑張ってもらいたい、って、妄想にしても、無茶言い過ぎか。

 ロマゴンが、このロッキー・マルシアノとメイウェザーの49勝無敗の記録に近づきつつある。46勝無敗のロマゴンは3月に47戦目を戦うので、これを無事に勝ち抜いて、次の強敵クアドラス戦(予定)でも勝利をおさめたら、48勝。

 噂どおりに本年末に井上尚弥とロマゴンが対戦するときには49勝目の記録がかかる。そう考えると妄想していても、痺れすぎて鳥肌が立つ。そんな大記録のかかる不世出のボクサーを井上尚弥が倒していいのか、とか、おかしなことまで考える。

 その先にはプロ52戦生涯無敗というリカルド・ロペスの世界記録が待つ。ロマゴンにこの記録を更新させてやりたいという、倒錯した感情すら湧いてくる。井上尚弥を応援しているはずなのに、である。

 しかも、このレジェンド、リカルド・ロペスの挑戦を回避せずに堂々と受けて立ち、敗れて王座を明け渡したのが、井上尚弥の所属する大橋ジムの会長、大橋秀行なのだから、因縁に因縁が重なる。師匠同様、生ける伝説に敗れ去るか、師匠の分までリベンジして伝説を粉砕するか。

 重量級のマルシアノ、中量級のメイウェザー、軽量級のロペス、ロマゴンのようなボクサーは半世紀に一人くらいしか現れない。そんなレジェンドに勝てるかも、という日本人ボクサーが現れる確率はもっともっとはるかに低い。

 たぶん、僕の残り人生を考えてみても、50勝無敗がかかるパーフェクトなボクサーと日本人ボクサーが五分の対決を挑む、そんな試合を目撃するチャンスはもう2度とないだろう。井上尚弥対ローマン・ゴンザレス戦の実現はそれほどまでに稀有なことだ。

 井上尚弥本人は、この一戦の歴史的意義とか、わかってるのかな、と思う。

 三階級を制覇し、王者のまま先頃引退した偉大なボクサー(日本のボクシング史上最も完成度の高いボクサーの一人だと僕は思っている)長谷川穂積。引退後、テレビに引っ張りだこであるが、ある番組で、今後、ボクシング界を盛り上げるにはと聞かれ、「スーパースターの登場」と長谷川は回答した。「自分は三階級制覇した単なるレジェンドですよ」と笑わせ、スーパースターはそれを上回る存在としたが、その候補として唯一、井上尚弥の名前をあげた。

 この時のスタジオの盛り上がらない感じには失笑したが(関西のテレビ局なので関西人以外の名前が出ると一気にテンションが下がる)。素人にはその程度のボンヤリとした期待感で(そう思われるのも無理からぬ話で、井上本人もインタビューやテレビ出演での発言のそこかしこに、おっとり、のんびり感が漂う。リングを降りた時の素顔の井上に、リング上で見せる凄味は片鱗すらみられない)、長谷川穂積のようなプロ中のプロからは過度なまでに高く評価され、期待されている井上尚弥。

 どちらが実像に近いのだろう、と思っていたら、22年ぶりにボクシング特集を組んだNumberが、最強のボクサーは誰か、という特集を組み、各ボクサーにアンケートを取っていた。そこで目を引いたのが、小國以載(おぐにゆきのり)の回答だった。

 小國以載(おぐに ゆきのり)は、2016年末の世界戦ラッシュの中でもダントツのアップセット(番狂わせ)、そしてベスト3に入る名勝負を演じた男である。22勝無敗の王者ジョナタン・グスマンに対し、ボディブローでダウンを奪って予想を裏切る劇的判定勝利をおさめた。

 この試合を一度見ただけで、いっぺんにファンになってしまった。その小國、Numberでは、現役で一番強い、というより、スパーリングをして一番つらいのは井上尚弥、と回答している。この回答にも小國の味が出ている。

 小國は、Numberの取材に対し、こう述べた。「まあ、自分がやった中でずば抜けてつらかったのは井上尚弥くんですよ。(大晦日に対戦した)ジョナタン・グスマンとか話にならんぐらい、一年前にスパーリングした時の井上くんのほうが全然強かった」。

 小國の井上尚弥評が続く。「野球でいうところの200㎞、250㎞ぐらいのストレート投げてきて、バットにかすりもせんっていうレベル。何回かやったら壊されるって自分でわかったんで、もう(出稽古に)行くのはやめました。いまやっても絶対負けます」。

 小國は無敗記録を誇ってきた無敵の王者グスマンを倒してIBF世界スーパーバンタム級王者に戴冠したばかりの男である。その王者が、2階級も下のスーパーフライ級王者で、5歳年下の井上尚弥について、「いまやっても絶対負けます」と自信をもって断言する。

 さらに小國は、「だから井上くんはスーパーバンタム(の世界王座)も獲ったようなものです(笑)」。一応は笑い話なのだが、しかし井上は、実際、フェザー級の日本ランキング1位の渡辺卓也とスパーして、練習用の14オンスのグローブでガードの上から左ボディを打ち、渡辺の右腕を骨折させたこともある。

 トップレベルのボクサーの個々の実力は、そんなにかけ離れたものではない。わずかな差であってもKOにもつながる。運、当日のコンディション、作戦によっても大きく左右される。勝負に絶対はない。なのに、小國のこの自信。絶対負けると言いきる王者を初めて見た。

 小國の話は相当盛っているだろうと思うが、それにしても盛り方が噺家顔負けの面白さなので、ワクワクにワラワラも加わって、妄想がまたまた走る。今、日本のボクシング関係者やファンが寄れば井上の話題である。井上について、何のコメントもきこえてこないのは、井岡一翔陣営ぐらい。井岡がもう一段階上げて井上と戦う、とか、ロマゴンと戦うと発言し、陣営も実現に向けて動いたら、かなり盛り上がるだろうが、それは万が一にもありえないだろうと期待薄。

 ロマゴンがライトフライ級時代、あるいはロマゴンがフライ級王者だった時代でも、やる気になれば井岡とロマゴンの同階級王者同士の統一戦は可能だったはずだ。しかし、井岡は常に「唯一無二の存在になりたい」と公言しているのに、ロマゴン戦に向けてまったく意欲を示さなかった。特にライトフライ級時代はWBAから対戦を言い渡されていたのに、井岡はこれを回避した。ロマゴンと戦わずして「唯一無二」を名乗るなどありえないことは明らかなのに。

 ロマゴンはSportivaの単独インタビューに答えて、「彼(井岡)からオファーはありませんでした。私を怖がったのではないでしょうか(笑)」「(井岡の)試合は何回も見ています。(中略)しかし、井岡がそれほどいい選手だとは思いませんでした」と酷評している。井上に対しては、「もし井上選手と試合が組まれればグレートな試合になるでしょう」「コンディションがうまくいった選手が勝ちます」「(井上についての印象)スピードは最速。パワフルなハードパンチャーという印象です。同じく私もハードパンチャー。どちらが打たれ強いかは、今はわからない」と、互角の存在であることと、オファーされたら「何回でも戦います。どこででも、です。もし『井上選手の自宅でやれ』と言うのならやりたいです(笑)」と、対戦意欲をみなぎらせている。井岡に対する評価とは段違いである。

 記者が「井岡からもし対戦オファーがあったら?」と食い下がると、「たくさん(お金)を払ってくれるなら(笑)。しかし、これまでもオファーはないですし、きっとこれからもないのではないでしょうか」と一蹴した。

 ロマゴンはニカラグアの選手ではあるが、日本の帝拳がプロモートしている。井岡が自分との対戦を回避し、オファーもしてこないのに、軽量級で「唯一無二」の存在を目指すと、わけのわからないことを発言しているのを聞き知って苦々しく思っていたのではないか。しかし、日本語で読めるインタビューでここまで言われて、まったく反応しないというのも、井岡とその陣営はある意味貫いた生き方をしている、ともいえる。

 マッチメイクでは、強敵を避け、不利になる話題には絶対に触れない。そのあたり、日頃はビッグマウスなのに減量並みに徹底していて感心する。プライドの高さなのだろう。井岡一翔が沈黙しているもうひとつのトピックがアムナット・ルエンロンの動向。

 アムナットは、IBF世界フライ級王者時代に井岡一翔の挑戦を受けて判定で退けている。 井岡にプロデビュー後、唯一の黒星をつけたそのアムナットが、何と! キック界の神童・那須川天心と、今月2017年2月12日にキックボクシングで対決する。これは見もので、当日は会場に足を運び、この目で見届ける予定。

 このアムナットと那須川天心の一戦。誤解している人が多いようだが、アムナットは、キックを知らないボクシング専門のボクサーではないし、那須川天心のかませ犬でもない。そもそもアムナットはムエタイのルンピニー王者。キックが本職。

 子供の頃、親に捨てられ、外観がタイ人にしては色黒なのでタイ人と思われず、国籍を与えられなかったという信じがたい話が伝わっている。生きるためにムエタイをやり、王者にまでなったのに、麻薬に手を出し犯罪を重ね、3度目の刑務所で始めたのがボクシング。

 ここまでの経歴だと、ムエタイから国際式に移ってもすぐにプロのリングに上がっただろうと思いきや、なぜかアマ・ボクシングでトップに上り詰め、アマ時代にも井岡に勝っているし、もう1人のフライ級王者中国のゾウ・シミンにも勝っている。アジア選手権、世界選手権でそれぞれ銅メダルを獲得。地元タイのバンコクで開かれたキングスカップでは2007年には銀、2008年から2010年まで、3年連続して金メダルを獲っている(この2008年のキングスカップライトフライ級準決勝で井岡を破っている)。2008年の北京五輪にもタイ代表として出場。準々決勝敗退。その後に、プロへ転向。

 IBF世界フライ級の王者となり、2014年5月に井岡と対戦して挑戦を退け、初防衛。その後5度の防衛に成功。6度目の防衛に失敗すると階級を、1つあげてスーパーフライ級に。さらにアマ・ボクシング界がプロ選手の参加を認めたことで、再度五輪を目指す。

 リオ五輪では何とはるかに上の階級、ライト級(フライ級とは10Kgくらい違う)の代表として参加。惜しくもメダルには手が届かず。そして再びムエタイへ戻ってきて、今は現役のムエタイ選手として、タイでも国際試合をしている。

 アムナットを、単なる引退した元プロボクサーとみなすのは、間違っているし、彼に失礼でもある。ボクシングファンの中には、ボクサーがキックに転向するのを快く思わない人が少なくないが、冷静に2点押さえておくべきだ。

 まずアムナットはそもそもがムエタイ選手であり、ボクサーとしてもアマ・プロ通じて一流の実績を残しており、今再びムエタイにもどってきた現役の選手である、という事実だ。ボクシングしか経験のない選手がキックの試合に出ると、ローキックでボロボロにされるというのがおきまりのパターンだが、アムナットに限っては、それはありえない。

 第2に那須川よりアムナットを小柄だと勘違いしている人もいるようだが、これも違う。身長もアムナットの方が上、ウエイトも現状ではおそらく上である。アムナットはライト級で五輪まで出た選手。那須川天心の方が一回り小さい。

 いずれにしてもこの試合は、見逃せない。

 アムナットは技倆もあるのに、延々とクリンチしてポイントで逃げ切ることもある。パンチも蹴りもあるが、巧妙さも、ズルさも兼ね備えている。天心の、止まらない勢い、若さ、エネルギーが、アムナットの、ズルさまで含めた巧さを切り裂くことができるかどうか。注目。

 ちなみに、那須川天心はまだ18歳の高校生。高1でプロデビュー後17戦17勝13KO無敗で、ルンピニー現役王者も破り、昨年末のRIZINでMMA(総合格闘技)のデビュー2連戦も勝利で飾った天才児。キック力も素晴らしいが、パンチ力も当て勘もずばぬけているので、どうせなら4年間ボクシングをアマとプロでやって、東京五輪でメダルを取ってもらいたい、とこれまた妄想。

 五輪のメダルを土産にボクシングでプロの世界王座に挑み、ベルトを奪取。そして、その後にキックやMMAの世界に戻ってきたらいいのに、と思う。格闘技界の大谷翔平を目指してもらいたい。現実には「業界の壁」という大人の事情で実現はムリではあろうが。何度もお断りしているが、これは妄想。

 井上尚弥にもプロとアマを兼ねて、ベルトを保持しながら東京五輪でメダルを狙ってもらえないかなぁとまたまた妄想。那須川のボクシング転向よりもこちらはJBCが柔軟になれば可能な話だと思うのだが。

 妄想は楽しい。繰り返すが、ファンとしては誰と誰が戦ったら、どっちが強いんだ、どっちが勝つだろうと、激しく妄想をかきたてられる選手同士のマッチメイクを見たいのである。

 下位ランカーと戦って防衛記録をのばすとか、同階級の最強王者との対戦を回避して、自分のカラの中だけで(あるいはテレビ局の保護する枠の中だけで)「唯一無二」を唱えている王者を見たいのではない。無敗の井上、無敗のロマゴン、そんな無敗同士が対決すれば必ずどちらかの無敗記録に黒星がつく。敗者は、そのカリスマ性も名声も地に堕ちる。そんなリスクを負って戦う、残酷にして崇高な真剣勝負を見たいのである。

 妄想におつきあいいただき、感謝。

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