2016/04/08 「科学の平和利用」に幕?防衛省が戦後初「軍事研究」に予算!「大学は軍事研究を一切しない」~戦後再出発の誓いが反故にされる!?~市民団体が神奈川工大に「反対」申し入れ

記事公開日:2016.4.12取材地: テキスト 動画
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(取材・撮影 高橋敬明 記事・原佑介)

※4月12日テキストを追加しました!

 戦後70年間受け継がれてきた「科学の平和利用」の誓いが今、崩れ去ろうとしている。

 防衛省は2015年7月、「安全保障技術研究推進制度」として、大学などの研究者を対象に、安全保障に役立つ技術開発の公募を開始した。防衛省が直接研究者に研究費を出すのは戦後初で、1件あたり最大で3000万円の委託費が支払われる。

 大学の軍事研究に反対する学者・市民有志は2016年4月8日、同制度の公募に選ばれた神奈川工科大学(神奈川県厚木市)を訪問した。小寺隆幸・京都橘大教授は「大学による軍事研究の動きを軽視はできない。何とか止めなければならない」と指摘し、「大学内で議論し直してほしい」と申し入れた。

「戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない」――戦後の誓いが反故にされようとしている

▲神奈川工科大学に申し入れする「大学の軍事研究に反対する学者・市民有志」

 大学の軍事研究に反対する学者・市民有志は、防衛省の「安全保障技術研究推進制度」に反対し、9000筆超の署名を集めるなどの運動を展開している。小寺教授は呼びかけ人のひとりで、この日は市民ら5名とともに神奈川工大を訪れた。

 神奈川工大は防衛省の公募に「構造軽量化を目指した接着部の信頼性および強度向上に関する研究」で応募し、採択された。カーボンナノチューブを用いて繊維と樹脂との間の強度を向上させることで、炭素繊維強化プラスチック及び接着部の強度と信頼性の向上を目指すものだという。

 小寺教授らの申し入れには、同大学の企画入学課・石田担当部長と関口課長が対応した。小寺教授は、1950年の学術会議による「大学は軍事研究を一切しない」とした決議が今も有効であると指摘。防衛省の狙いは「防衛技術の更新や新たな兵器開発」であるとし、「日本の大学や研究者が絡めとられていくことが心配だ」と懸念を示した。

 日本学術会議は1950年、「われわれは、文化国家の建設者として、はたまた世界平和の使徒として再び戦争の惨禍が到来せざるよう切望するとともに、さきの声明を実現し、科学者としての節操を守るためにも、戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」と表明している。

 日本学術会議は1949年の発足にあたり、戦前・戦中における学問の戦争協力を反省し、「(科学が)わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓う」と表明した。日本の学問は戦後、研究の平和目的を理念に掲げて再出発し、学問と戦争の決別を誓ったのだ。1967年にも、「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を出し、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」と強調している。

 この誓いが今、反故にされようとしているのである。

民間の研究者も「特定秘密」の取扱者対象者!学問が軍事に取り込まれるおそれ

▲学問の軍事利用再開に懸念を示す小寺隆幸・京都橘大教授

 さらに小寺教授は、「防衛省は、研究は公開されることが原則だとしているが、実際には防衛省が『不可能だ』と言えば、研究は発表できないだろう」と懸念を示す。公募で大学が防衛省の研究を請け負うこととなった場合、大学内の「共同計画実施規定」ではなく、防衛省所定の「協定書」の適用が求められているからだ。

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 「研究の公開には防衛省の許可が必要となっている。すると今後、大学との共同研究の成果が最先端の装備に取り入れられていくとき、研究成果は場合によっては『特定秘密』になり、研究者が成果を発表すれば『秘密保護法違反』 になるとも考えられる」

 武器の共同開発などを見込んでのことか、実際に特定秘密保護法は、防衛省職員や外務省職員などの国家公務員だけでなく、大学など、民間の研究者なども「特定秘密」の取扱対象者としている。小寺教授が懸念するとおり、研究成果の公表が「違法」扱いされる可能性は十分にありうる。学問が軍事に取り込まれてしまうおそれがある。

 小寺教授は、「研究者側からすれば、研究予算が少ない中で、研究費は喉から手が出るほどほしいのはわかるが、やはり一線は引くべきだ」と断じ、戦後初の「軍学共同」の動きを軽視はできないと主張。「何とか止めなければならない。もう一回大学内で議論していただきたい」と訴えた。

戦争に加担した学問が何を招いたか?「516部隊」が作った毒ガスが後世にもたらした悲劇

▲申し入れの対応をした神奈川工大・石田担当部長

 この日の申し入れに参加した市民らも、神奈川工科大学の担当者らにそれぞれの思いを伝えた。市民のひとりである長友さんは、戦中に関東軍の科学部隊「516部隊」で毒ガス研究をしていた知人がいるという。

 「その知人が、『イペリットガス(強烈な細胞毒)』についていろいろ教えてくれた。516部隊が創りだしたイペリットガスは、皮膚に付着してすぐに洗えばいいが、30秒も経てば肌を切り落とすしかなくなる。戦後、米軍が持ち去って、朝鮮戦争でも使われた。イラク戦争でもファルージャで使われて大きな問題になった。516部隊で研究していた方は、それが正義だと思って研究していたが、いまだにイペリットガスは一般の罪もない人を殺している」

 そのうえで長友さんは、「政府は『準備だけでは戦争にならない』というが、遠足に行くからリュックサック、水筒、お弁当を準備するわけで、準備だけして、遠足には行かない、ということにはならないはず。軍事研究がどういう結果をもたらすか、十分に考えてほしい」と訴えた。

 小寺教授らは申し入れ書と9000筆の署名を提出。神奈川工大の石田担当部長は「先生がたのお気持ちは学長に伝えていきたい」と応じた。

軍事に絡め取られた米国学問の実態「みんな好むと好まざるに関わらず軍事研究に手を染めてしまう」

 小寺教授は申し入れ後、IWJのインタビューに応じ、「米国では、研究費の8?9割に、何らかの形で軍事費が関わっている」と実態を紹介した。

 「米国の学者は、例えば自分が何か研究をしたくても、お金が降りてこない。しかし、軍事研究にはお金が降りてくる。だから好むと好まざるに関わらず、みんな軍事研究に手を染めてしまう。それがだんだん麻痺し、良心も倫理もなくなり、それが当たり前になってしまう。日本がそうなったら、日本の学問の自由もなくなるし、戦前の軍国主義的な歩みになりかねない」

 小寺教授は、「学術会議のような平和路線の決定を持っている国は世界広しといえど、そんなに多くない」と述べ、「学問が軍事研究に向かえば、最終的には研究の自由は束縛され、それこそやりたい研究ができなくなる。本当の『研究の自由』というのは、研究の倫理や良心、それに則った自由でなければならない」と語った。

 防衛省は今年の3月23日から今年度の新規公募を開始した。再び軍事研究に加担するのか、日本の学問が今、岐路に立たされている。

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