本来の「BPO」の意味は公権力が放送に介入することへの「防波堤」 政治家たちの駆け込み寺ではない! 岩上安身による是枝裕和監督インタビュー  2016.3.1

記事公開日:2016.3.12地域: テキスト 動画 独自
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(インタビュー:岩上安身、記事構成:山本愛穂)

※3月12日テキストを追加しました!

 「BPOは、政治家の駆け込み寺ではありません」――。

 昨年2015年11月7日、冒頭の一文が記されたブログ(注1)が大きな反響を呼んだ。筆者は、映画監督として国際的な名声を博している是枝裕和(これえだひろかず)氏だ。是枝監督は、現在、BPO(放送倫理検証委員会)の委員長代行も務めている。この「『放送』と『権力』の関係について」と題されたブログの中で、是枝監督は「NHK総合『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道に関するBPOの意見書(注2)についての私見を述べ、総務省や自民党による放送への介入を批判した。

 クローズアップ現代やらせ問題における総務省と自民党による、NHKへの「厳重注意」という名の政治的圧力。そして、今年2月8日の衆院予算委員会において、高市早苗総務相が「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波法76条に基づいて電波停止もあり得る」と、恫喝としか受け取りようのない発言を行ったこと――。

 安倍政権による、これらメディアへの露骨な脅迫や介入の根拠とされているのが、放送法第4条2号、「放送事業者は国内放送および内外放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。二 政治的に公平であること」である。

 しかし、「放送法」は、本当に放送局に課せられた義務を記した法律なのだろうか?

 2016年3月1日、東京都港区のIWJ事務所にて、是枝裕和監督に岩上安身がインタビューを行った。

 インタビューの中で、是枝監督は、「『放送法』の順守義務が課せられるのは、放送局ではなく、政府」であるとして、現政府の解釈に真っ向から反論する。さらに、そもそも放送法そのものが憲法違反の疑いがあると、1948年の放送法成立以前にまで遡りながら指摘した。

 さらに、是枝監督は、放送人にとっても、実は放送法は、「自分たちを守る武器」なのだと表現する。

 放送法とは何か。そして、公権力とメディアとのあいだで「防波堤」として機能するBPOの役割とは何か。さらに、放送の委縮が叫ばれる今だからこそ、報道人に求められる矜持とは何か――。

 待望のインタビューで、岩上安身が是枝監督に聞いた。

(注1)2015年11月7日、是枝監督はブログ上で、総務省と自民党による放送への介入を批判した。これは、「NHK総合『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道に関するBPO(放送倫理検証委員会)の意見書(同年11月6日公表)の内容への私見を述べたもので、大きな話題となった。

(注2)NHK総合『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道とBPOによる意見書。BPOは2014年5月に放送された「クローズアップ現代 追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」とそのもとになった「かんさい熱視線」について、「隠し撮り」であるかのように演出した点などに問題があったと指摘。同時に、NHKを厳重注意した総務省と、事情聴取した自民党を「極めて遺憾」、「圧力そのもの」、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と異例の批判を行った。

記事目次

■ハイライト

■注目の最新作! 2016年5月21日公開『海よりもまだ深く』について話す是枝監督

    5月21日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他 全国ロードショー

  • 監督:是枝裕和 『海街diary』『そして父になる』
  • 出演:阿部寛 真木よう子 小林聡美 リリー・フランキー 池松壮亮 吉澤太陽/橋爪功 樹木希林
  • 音楽:ハナレグミ
  • 主題歌:ハナレグミ「深呼吸」(Victor Entertainment/Speedstar Records)

 (C)2016フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

  • 日時 2016年3月1日(火) 14:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

BPOは、政治家の駆け込み寺でも、放送局の用心棒でもない!

▲岩上安身のインタビューに応じる是枝裕和監督

岩上「今日は素晴らしい映画を作っている、素晴らしい監督をお招きしました(注3)。是枝裕和監督です。映画のお話をお聞きしたいところですが、今日は政治による報道圧力は許されるのかという大問題にしぼって、おうかがいしたいと思います。

 是枝監督は、BPO放送倫理検証委員会委員長代行という立場でも、ご発言をされています。そもそもBPOとは、一体何か?という方もいらっしゃると思います。

 放送法の仕組みも分からないまま、大臣や政権から一方的に発信が行われているのはおかしいのではないのかという観点で、本日はお話をしていきたいと思います」

是枝 「各放送局の現場には、BPOが第二の総務省かのような認識があり、BPOが番組を取り上げると、何か裁判にかけられるかのように感じる人たちもいます。しかし、実際には、BPOは、公権力が放送に介入するのを防ぐ防波堤です。政治家の駆け込み寺でも、放送局の用心棒でもありません。本来戦うのは、放送局自身、ということです」

岩上 「つまり、BPOは、公権力に対して性悪的な立場をとって、警戒し自戒する組織だということですね。放送局が自ら隙をつくり、倫理にもとる放送をすれば、それを機に公権力がつけ込み、放送の自立性を脅かしに来ることもありえますよ、と。だから自ら襟を正してくださいねと、そういうことですね」

是枝 「『BPOは、政治家の駆け込み寺ではない』という発言を、2015年11月7日にブログで発表しました。NHKのクローズアップ現代やらせ問題では、放送法に詳しくない人たちが、BPOについて、『報道に不満を持った政治家が、不偏不党を訴えるところ』であるかのような誤解をして、騒ぎ始めました。それに対して、ちょっと待てよ、と思いました。

 誤解している人たちは、本質的に放送法やBPOを理解していないと思います。BPOは、そもそも政治家の救済のための組織ではないのですから」

(注3)是枝監督の映画作品は、第20回ナント三大陸映画祭グランプリを始め、多数の映画祭で受賞した『ワンダフルライフ』(1998)、第57回カンヌ映画祭で主演の柳楽優弥氏が最優秀男優賞を受賞した『誰も知らない』(2004)、第66回同映画祭で審査員賞を受賞した『そして、父になる』(2013)など、国際的に高い評価を得ている。昨年2015年公開、吉田秋生の人気漫画が原作の『海街Diary』(2015)DVDが、現在絶賛発売中。また、阿部寛主演の新作映画 『海よりもまだ深く』は、2016年公開が決定している。

やらせをどう定義するかは、難しい~安易なマニュアル化や法規制はできない

岩上「『誰も知らない』では、映画の社会背景として子供の貧困やネグレクトの問題が挙げられると思います。是枝さんは映画以外にも、ドキュメンタリーを制作されていますが、こちらでは、社会背景そのものをテーマにするものを多く手掛けていらっしゃいますね(注4)」

是枝「入口としては、社会派という切り口で作ったものが多いと思います」

岩上「話をいったん戻しまして、クローズアップ現代のやらせ問題では、高市早苗総務相がNHKを厳重注意しました(注5)。やらせは確かに問題ですが、高市さんが、総務大臣という立場で注意するのはどうなのでしょうか」

是枝「まず、やらせをどう定義するかは、難しいなと思います。僕自身、BPOが定義を提示するようなことも、するべきでないと思っています。勉強会にいくと、『何がやらせで、何がやらせではないかについて、マニュアルにしてほしい』という人もいるのですが、僕はそれは違うと思います。

 例えば、制作の現場で、当事者に状況を再現してもらうことすら全て問題だと断罪してしまえば、番組制作の方法を狭めてしまいます。制作者の倫理を問われる危険性を認識する必要があるのはもちろんですが、白黒の線は引けないものです。僕個人としてもBPOの委員としても、そう思っています。

 クローズアップ現代のやらせ問題で、問題だったのは、あたかも盗み撮りしているかのように臨場感を煽ったことだと思います。ただ、これを法規制することは、できないのではないでしょうか。やらせの定義は、視聴者がその番組にどのくらいの真実性を求めているかによって、変わるからです。

 つまり、NHKドキュメンタリーと、大家族スペシャル!のような、バラエティー色の強い番組における『やらせ』を、同じ基準で判断することはできるのか?という問題提起です。クローズアップ現代は、視聴者が高い倫理性を求める番組であるという判断から、BPOとして厳しいコメントを出しました」

(注4)「しかし…福祉切り捨ての時代に」(1991)、「シリーズ憲法~第9条・戦争放棄『忘却』」など、社会派のドキュメンタリー作品で知られている。いずれも、フジテレビのドキュメンタリー番組、NONFIXで放送された。

(注5)高市早苗総務大臣は、は2015年4月28日、NHK報道番組「クローズアップ現代」で、事実に基づかない報道や番組基準に抵触する放送が行われたとして、NHKを厳重注意した。高市大臣は厳重注意の文書で「視聴者の信頼を著しく損なうもので、公共放送としての社会的責任に鑑み、誠に遺憾だ」と指摘、NHKに対して再発防止に向けた体制を早期に確立することも要請した。

BPOによる公権力介入への批判は異例~「クローズアップ現代」を潰すことが目的の意見書ではなかった

是枝「クローズアップ現代のやらせでは、本来、被害者を守るべきモザイクが真実性を装うために使用されていました。僕はこれは、重大な倫理違反だったと思っています。同時に、BPOはNHKを厳重注意した総務省と自民党についても批判しました」

岩上「その政府への批判といった部分は、大きく報じられなかったように思います。菅官房長官とBPOが足並みをそろえ、NHKを批判したように思った人もいたのではないでしょうか」

是枝「本来、あの意見書(※2015年11月6日発表の意見書。注2を参照)は、クローズアップ現代を潰すことが目的ではありませんでした。実は、BPOという組織は、現状のルールに則れば、『放送局に対しての意見』しか発表する権限が与えられていません。つまり、介入してくる公権力に直接意見をいう権限は与えられていない、というわけです。委員に弁護士さんも多いので、権限の越境に対して、非常に厳格です。

 一昨年頃から、政府が放送局に対して公平公正を求める文書(注6)を出すようなことがありました。これは、放送法の誤解釈によるものです。ただ、先ほどもお話ししたように、権限の越境の問題から、意見書をBPO理事長の名前で発表することはふさわしくありません。そういった背景から、2015年11月6日にクローズアップ現代への意見書の『おわりに』で、言及する、異例の形を取りました」

(注6)2014年12月14日の衆院解散の前日、自民党が、選挙期間中の報道の公平性を確保し、出演者やテーマなど内容にも配慮するよう求める文書を、在京テレビ各局に渡していたことが明らかになっている。

現政権こそ放送法違反~放送法第4条の『不偏不党』が課せられるのは、放送局ではなく、政府

是枝「実は、放送法には、総務省が介入する根拠が書かれていません。高市氏が厳重注意すると言っても、根拠は行政手続法という一般法。行政指導であって、強制力はありません。抑圧的に放送局に働くものとはなりえないのに、放送法=放送局を縛るもの、と印象づけるように、(現政府は)あえてやっていると思います」

岩上「放送法第1条2号では、『その時々の政府が放送に介入することを防ぐ』ために、放送の不偏不党を保障していますね(注7)。放送法第3条(注8)を自民党が放送局を呼び出し、説明を求める根拠として、あげるのは解釈間違いで圧力そのものと言えると思います」

是枝「むしろ、それこそ放送法違反ですね」

岩上「(介入に対して、放送)事業者は訴え出て抗議していいと思います。TVで検証番組をつくればいい。NHKは3時間スペシャルでやってくださいよ、と」

是枝「安倍さんは、『不偏不党』を放送局の義務と思っているようです。放送法=放送局の守るべき義務を書いた法律、と間違えています。僕たちはその理解に対して、間違っているのだと言い続ける必要があると思います」

(注7)放送法 第1条2号
第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。二、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

(注8)放送法第3条 放送番組編成の自由
第3条 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。

集団的自衛権と放送法に共通する構図~時の政権による都合のよい解釈変更が許されていいのか?

是枝 「『政権にとって都合の悪いことを放送したら、都合の良いことも放送するべきだ』というように、いつから放送法が曲解されるようになったのか、考える必要があります。1993年の椿事件(注9)以前は、当時、放送法の監督権限を持っていた郵政大臣にもある程度(放送法に対する正しい)理解はありました。

 前提として、放送法自体に憲法違反の疑いがあります。集団的自衛権と似て、持っているが行使できないという統一見解が1993年以前にはありました。菅官房長官のいう『従来の解釈』は、1993年椿事件(※注9参照)以降のものです。

 放送法の歴史としては、まず1952年に独立行政法人だった電波監理委員会が廃止され、監督責任が郵政省に移りました。

 このとき、政府が放送法を監督するのかと、問題視されましたが、当時の郵政大臣兼電気通信大臣、佐藤栄作『監督権限が政権にあっても、行政が不偏不党であることに変わりない』と発言しています。つまり不偏不党の義務が課せられるのは、放送事業者ではなく郵政省であり政府であるとの認識が、当時はあったということです」

岩上 「憲法の解釈を、政治家の思惑でひっくり返すことなどできなかったのに、昨年の安保法制では覆されてしまいました。放送法も、集団的自衛権も同じですね。今の自民党は、いわゆる保守ではないんですよね」

(注9)椿事件:1993年8月9日、非自民による細川連立政権が成立し、自民党が結党以来初めて野党に転落した。9月21日、日本民間放送連盟の第6回放送番組調査会の会合で、当時テレビ朝日報道局長の椿貞良が、「非自民の連立政権を成立させるような手助けとなるように報道する方針を局内でまとめた」、などと発言したと、産経新聞が報道。
 これを受けて、当時郵政省放送行政局長の江川晃正は、電波法第76条に基づく無線局の停止を示唆した。椿氏は10月25日、国会に証人喚問され、民法連合会での自身の発言について陳謝、同時にあくまでも偏向報道は行っていないと、社内への報道内容についての具体的な指示を否定した。翌年、1994年8月29日、テレビ朝日は内部調査の結果を郵政省に報告したが、この中でテレビ朝日は偏向報道は行っていないと強調した。この報告書により、テレビ朝日に対する放送免許取り消し等の措置は見送られた。

 この事件の後、自民党内で放送への規制強化の動きが強まることとなった。

 事件の影響について、碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授/メディア論)は、椿事件をきっかけに政治家が報道内容に対して干渉する口実が生まれたことで、放送する側が委縮し自主規制しかねない雰囲気が生まれた、と指摘している。また、ジャーナリストの本多勝一は、椿貞良による、私的会合での発言を公的発言にしたこと自体が問題であり、証人喚問に応じたことで、権力がマスコミ内部に踏み込むことになった、と批判している。

参考:碓井広義 著『テレビの教科書 ビジネス構造から制作現場まで』、 本多勝一著 『滅びゆくジャーナリズム』

検閲と公権力介入の歴史を忘れてはいけない~放送法は自分たちを守る武器

是枝「今回、『不偏不党義務が課せられるのは政府』、とブログに書いたら初めて知ったというコメントが沢山来ました。しかし、それでは駄目だと思います。放送法という、自分たちを介入から守る武器を知っているべきです。権力から報道へ様々な介入がされた、70年近い歴史があります。それを理解し、放送法を知らないと(権力に)やられてしまうと思います。

 放送法にも、憲法9条と同様に、GHQの置き土産論があります。しかし、事実として、放送法は、『いかに放送が権力と対峙しなければならないか』という非常に大切なことが明記されているもので、かつて日本にはないものでした。NHKが国家予算によって賄われるのではないことについても、国家権力の下にある組織ではなく政府にコントロールされないためと明記されています。

 こうした歴史を見ていくと、安倍さんの『予算権を持っている私がチェックするのは当然』との発言は、NHKが公共放送として生まれた背景を理解しておらず、国営放送と勘違いしていることが良く分かります」

岩上「検閲からの自由は、特筆すべきことですね。戦前戦中に、さんざん侵されました」

放送法制定の歴史にたちかえればありえない~1948年の時点で、公平や中立を政府が認定することはできないとの政府見解があったのに…

是枝「放送法の成立以前にも、1948年には参議院逓信委員会において、放送法案の審議中に、当時の逓信省は『放送法4条(注10)は道義規定』だと明言しています。罰則を設けるべきとの意見に対して、『何が公安かどうか定義づけできないから、罰則に繋がらない』という見解を示したのです。

 現政府は公平や中立を認定可能だと考えているようですが、法律制定の歴史にたちかえればありえないことです。倫理である前提だからこそ、公安とか中立という抽象的な言葉が書かれたのだといえます。罰則があたらないことが大前提であって、倫理規定でないなら憲法21条(注11)違反だからです。

 1972年には広瀬(正雄)、77年には小宮山(重四郎)郵政大臣が、『放送法第4条は道義的規定なので準則違反を理由に法違反を問うことはできない』と発言しています。4条に関する権限が自分たち政府には与えられていないと、郵政大臣が繰り返していたのです。

岩上「実際に、放送法の改正は行われているのでしょうか?」

是枝「資料請求に権限を与えたり、権力に都合のいいような改正はありました。ただ、1条の根本原則が変わっていない以上、自立前提であることは揺るぎません。その原則を変えたくて、現政府は行政手続きを持って来たり、何かと放送事業に介入しようとしているのではないかと思います。

 まずは、1993年の椿事件と、放送法解釈の歴史に立ち戻るべきだと思います。当時の郵政大臣兼電気通信大臣だった佐藤栄作は、放送法の監督責任が当時の郵政大臣に移ったことへの批判を受けて、『電波監理審議会(注12)が機能するから大丈夫』と答え、郵政省に権限を移した経緯があります。しかし、結局、電波監理審議会は空洞化しました。空洞化が意図的なものだったかどうかは分かりませんが。

 現政権による放送法第4条の解釈が過去と違い、4条の順守義務を事業者と解釈しているのはなぜか、政府は説明すべきです。報道は不十分で、政府による4条の解釈だけを報じていますが、第1条の趣旨まで問うべきです。放送法はそもそもは憲法違反なのだ、と。これについては、BPOとして意見書には反映できないので、個人ブログで書いていこう、と思っています」

(注10)放送法第4条
放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

(注11)日本国憲法第21条
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(注12)電波監理審議会
5名の委員で構成される総務省の諮問機関。放送法の運用等に関する公正な調査・審議を行うことを目的とする。
総務省HP

安倍政権によるメディアへの分断統治に、テレビ局同士がスクラムを組むべきだ

是枝「個々の番組で政治的公平性を判断するようなことをやっていはいけないと思います。個々の番組で、政治的なバランスを取れなんていうのは無視すればいいんです。(安倍内閣閣僚に)あたかも正しいように何度も言われると、彼らは歴史に無知なのか、無知を装っているのか――。分からなくなるほど、常軌を逸していると思います」

岩上「政府寄りの放送にだけ出演する、安倍内閣閣僚はどうなんでしょうか?」

是枝「BPOで話題になることはあります。審議というような意味ではなく、話題にあがるという意味で、ですが。ただ、僕は番組の政治的公平性はジャーナリズム全体で考えることであって、個々の番組がバランスを取るものではないと考えています。BPOの仕事ではなく、番組審議会の仕事だと思っています。

 本来は、安倍首相が出演番組を選別していることに対して、テレビ局同士がスクラムを組むべきだと思います。そんなことをするなら、全局出させないぞ、と。それが民主主義です。安倍首相は、どうも背後に自分を応援する国民がいて一緒に放送に批判の目を向けてくれると思っているようですね。放送人を選別し、こっちを優遇、こっちは叩くという分断統治を始めています」

岩上「それは、いわゆるプロパガンダですね。支持率をあげ、アベノミクスを普及するためのプロパガンダをさせようとしているのであって、決してジャーナリズムではありません」

放送法にも潜む、歴史修正主義~秘密保護法・改憲・緊急事態条項・・・すべてはつながっている

是枝「昨今の放送法をめぐる動きを見ていると、歴史修正主義の問題に思えます。放送法に関する歴史的な視座が、政治家も放送人も狭いんです。第4条は倫理規定なんだ、と戦えばいいのに。ただ、第4条が放送局が守るべき法規定ではないとはいえ、同時に放送にとっての倫理規範には、どういうルールブックが存在すべきか考える必要はあると思います。

 『倫理規定は行為を制御するものではなく、行為の選択の可能性と根拠を提供するもの』という考え方があります。第4条の倫理規定は僕たちを縛るものではなく、自由に行為をするための論拠になるんです。作り手にとってのブレーキではなくて、アクセルであると、そうとらえることもできます。

 もちろんこのアクセルを踏むために、自分をどう律するかというのが大事になるとは思います。しかし、こうとらえたほうが放送法の本当の趣旨には合致していると思います。行為規範として製作者の背中を押すものなんです」

岩上「歴史修正主義や、秘密保護法・改憲・緊急事態条項、そして放送法の曲解…すべてがつながっているように思えてなりません」

真実の追及は、国益に必ずしも優先しない~レジスタンスを戦い続ける人間がどれくらいいるか。根絶やしにされたら終わり、今はそんな状態に一気になっているのではないか

是枝「私の師匠の村木という人が、『パブリックの空間をどう成熟させていくか、それが放送人の責務だ』と言っていました。パブリックって、みんな違ってみんないいということだと思うんです。つまり、パブリックの価値観は、常に国益に最優先するわけではないということですね。

 国民の一人一人が、公のなかで立ち位置を決めていくこと、そういうパブリックにどう参加するのかという視点から、僕は今まで番組を制作してきました。国益を最優先しないというと、反日といった風に言われます。でも、国益をわきにおいてでも、真実を追求することを、放送法第4条は保障しているのです。

 そうした価値観の重要さが一般の人たちに浸透してこなかった――。だから、国が放送を管理するのが当たり前だ、国に逆らうなんてとんでもない、という意見が決して少数ではないのではないかもしれません。

 介入に抗うこと、そして公共の価値観が実は非常に豊かで、国益だけが大事にされているわけではないことを広く知らせていく覚悟が必要だと思います。時には反日とか、権力から何か言われるかもしれませんが、そんなことは当たり前だと思いながら、上手くやっていくのが放送人だと思います。

 そして、そういうレジスタンスを戦い続ける人間がどれくらいいるかが、重要です。根絶やしにされたら終わり、今は一気にそんな状態になっていると感じます」

岩上「戦時の報道規制は当たり前という考えもあるようですが、英国は戦局が苦しくても国民に対して事実を報道するようにし、結局は戦勝国となりました。日本と真逆ですね」

是枝「そう思います」

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