1月7日17時半から―自称「輪郭のはっきりしない変なおじさん」IWJスタッフ青木浩文作品「陶芸家三上亮作陶ドキュメンタリー『STARDUST』」IWJで一度限りのネット配信 2016.1.6

記事公開日:2016.1.6 テキスト動画
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(IWJ 青木浩文)

※本稿はIWJ会員に無料で発行している「日刊IWJガイド」2016.1.3日2016.1.4日号2016.1.6日号から転載し、編集・加筆したものです。

 IWJで中継やテキスト関係のお手伝いをしながら報道現場の勉強をしています青木浩文(55)です。岩上さんからお声がけをいただき、2015年末に完成した自主制作のDVD映像、拙作「陶芸家 三上亮 作陶ドキュメンタリー『STARDUST』」を、なんとIWJ文化チャンネルで一度限りのネット配信をしていただけることになりました。

 配信は、2016年1月7日17時30分より文化チャンネル1番でご覧いただけます。

 さらに、IWJでショップでも販売していただくことになりました。

 しかし、私は、著名なカメラマンでも、記者でもなく、ましてやジャーナリストでもありません。多くの方に取って「あんた誰?」という存在である、こんな無名の私の作品を、いったいどれほどの方が興味を持ってくださるのでしょうか。

 先日、私の紹介記事を書こうとしてくださっていた原佑介記者から、「青木さんの肩書は何ですか?」と聞かれました。私はいつもこのような質問の答えに窮するのです。魚を売っていれば魚屋ですし、野菜を売っていれば八百屋、お客様の髪を切っていれば床屋だと言えるのですが、はたして私は何を売って、どんなサービスを社会に提供して生きているのでしょうか。

 私は1年程前からIWJのスタッフとしてお仕事をさせて頂いております。他方、「青樹劇場」という会社も経営し、撮影をしたり、ウェブを作成したり、文章を書いたりして暮らしています。よって「代表取締役」ということになるのですが、社長兼社員1人体制の会社にもかかわらず、この肩書では皆さんに誤解を与えてしまいます。

 では、映像作品を創っているのだから「映像作家」でいいのではとも思うのですが、この肩書で呼ばれると、なぜか私は身体のどこかがむず痒くなって、居心地の悪さを感じてしまうのでした。

 つまり私は、何屋かわからない、そのじゃがいも、いや、かぼちゃのような見た目も相まって「輪郭のはっきりしない変なおじさん」なのでした。

 するとどうでしょう、このじわーっと滲んだ私の輪郭をなぞって、1人でも多くの方に紹介しようと、IWJの先鋭スタッフ、原記者、須原拓磨記者、そして、阿部洋地記者が、年末の仕事納めで忙しい中にもかかわらず、私のインタビュー動画を作成してくださったのです。2分のDVDの予告編に続いて、私のインタビューが始まります。どうぞご覧いただければと思います。

  • DVD予告編
  • 青木インタビュー
  • 日時 2015年12月29日・30日
  • 場所 IWJ事務所周辺(東京都港区)

土を掘り、粘土を育て、薪を割り、蹴轆轤(けろくろ)を足で回し、自ら作った窯で陶器を焼き上げる。今できたばかりの新作に、古窯の中から掘り出された陶器のような歴史が刻まれている

 このDVD映像を撮り始めたきっかけは、10年ほど前ことです。私がソニーのHDカメラを購入した際に、「ちゃんとした人」「ちゃんとした物」を撮りたくなりました。そこで、陶芸家の三上亮氏にお願いをしてドキュメンタリーを撮らせていただくことになったのです。2008年の初夏のことです。

 三上氏は、東京芸術大学大学院出身。銀座黒田陶苑や日本橋三越本店などで幾度となく個展を開催してきています。他方、私の中学校の1年先輩で、高校時代には一緒にバンドも組んでいました。

▲裸足で蹴轆轤(けろくろ)を回す三上氏

▲裸足で蹴轆轤(けろくろ)を回す三上氏

 三上氏は、土を掘り、粘土を育て、薪を割り、蹴轆轤(けろくろ)を足で回し、自ら作った窯で陶器を焼き上げます。今できたばかりの新作にも関わらず、彼の作品には古窯の中から掘り出された陶器のような歴史が刻まれているのを感じます。

 それは、しつこいほどに注がれる焼き物に対する情熱で、先人たちの技術を探り、その上で「焼き損じの中に美しいものを見つける」という、規範の「美しさ」に捕らわれない、心の強さから生まれているのかもしれません。

 そんな彼のものづくりの意識は、大病からの復帰、東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故の発生を経て、大きく転換してゆきます。

 ポキポキと1cm四方に折った、土でもあり釉薬でもある素材を、設計図もなく、自らの揺らぎのままに積み上げてゆく。自身はこの技法を「キュビズム」と名付け、2012年に発表します。作品名は『STARDUST』。その作品を目にした人々は、皆驚きに包まれます。

 ドキュメンタリーでは、この彼の7年間に亘る作陶活動に加え、個展開催のために訪れたサンタフェの町の歴史、福島第一原子力発電所事故を体験して振り返ることになった、ロスアラモス国立研究所での原爆開発、ウラン鉱山における先住民の被曝労働などについても触れています。

▲米国ニューメキシコ州サンタフェ市での個展『無常』より

▲米国ニューメキシコ州サンタフェ市での個展『無常』より

遅々として進まないDVDの編集、作家の大病、東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の発生。極めつけは、2015年の通常国会の95日間の延長

 当初、このドキュメンタリーは2年ほどで完成する予定でいました。しかし、予期せぬことが次々と起こり、どんどんと遅れてゆきました。三上氏自身が大病を患い、一時撮影が休止したこと。東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の発生により、それまでの価値観が大きく崩れてしまったこと。極めつけは、2015年の通常国会の95日間の延長でした。私自身がドキュメンタリーの編集にほとんど時間と体力をかけることができなくなってしまったのです。

 DVDの冒頭に収められているインタビュー(映像は殆どなく音声が中心ですが)は、2015年9月17日に撮影されたものです。

 この頃国会では、参議院において安保法案の審議が大詰めを迎えていました。国会周辺ではSEALDsや総掛かり行動が、抗議行動を行っており、IWJはその様子を連日中継配信していました。

 DVD撮影の前日の9月16日も、私は国会周辺でIWJの撮影隊の補助を行っていました。断続的に激しい雨が降る中、抗議の最前線では、警察との過激な押し合いが繰り広げられていました。その騒動を脚立の最上段から撮影していた岩上さんは、人波に押されて転落。右肘と右の足首に擦過傷と打撲を負ってしまった、あの日です。

 その夜は私も含め10名ほどのIWJスタッフが、雨で濡れた衣服を乾かしながら、事務所で夜を明かしました。私は、DVD撮影のために、そのまま朝9時に約束をした南足柄市へと向かい、撮影終了後に再びIWJに戻ってくる予定でした。

 自分では全く気がつきませんでしたが、事務所を出ようとした私の姿は、疲れのためか、かなり酷い風貌だったようです。恐らく、白髪まじりの髭は伸び、目は充血し、その上下にはしっかりと隈ができ……。その異様さを見て驚いたのでしょう。佐々木隼也記者と原記者から、「青木さんは、今日は事務所に来なくていいです。休んで下さい」と言われ、ホッとしたことを覚えています。

 一旦自宅に戻り、撮影機材をバックに詰め、再び電車に飛び乗りました。ところが、東海道線の小田原駅で下車するつもりが、寝過ごしてしまい、気が付くと終点の熱海駅。そこから、再び小田原に戻り、結局撮影を始められたのは11時過ぎでした。三上氏はそんな私を笑いながら迎えてくれました。

 DVDの内容とは一切関係のない出来事ですが、この日撮影した冒頭のインタビューを見るたびに、激しい雨の振る国会前でのあの騒動を、私は思い出さずにはいられないのです。

「形あるものが有益なのは、空っぽで虚無な部分があるから」――「空っぽ」でありたいと思う私の輪郭をなぞってくれるのは、この作品を見て下さる皆さんです

▲太陽の陽で茶碗を持つ手が透けて見える

▲太陽の陽で茶碗を持つ手が透けて見える

 先にも書きましたが、DVDの完成が遅れたもう一つ理由は、出演者である三上氏が大病を患い、撮影が一旦休止したことでもあります。

 そして、病気を克服し仕事に復帰した彼が、最初に私に見せてくれたのは、薄くて軽い茶碗でした。太陽の陽を当てると、茶碗を支えている指が透けて見えるほどでした。

 「器なんて、なくなってしまえばいいところがあるじゃない」――。

 茶の湯に必要なのは、茶碗ではなく、茶を注ぐ空洞の部分なのだと言い、三上氏は次のような老子の言葉を教えてくれました。

 土延埴以爲器、當其無、有器之用
(粘土をこねて陶器をつくる。器が役に立つのは、中が空であるからだ)

 故有之以爲利、無之以爲用
(このようにすべて形有るものが役に立つのは、形なきもの、空っぽで虚無な部分があるからなのだ)(『老子』第十一条より抜粋)

 長い時間をかけ、茶碗をはじめとした器づくりをしている三上氏自身から、「器なんてなくなってしまえばいい」という言葉を聞き、あらためて彼のものづくりに対する姿勢に強く惹かれました。

 突き詰めて考えてゆくと、私自身が何か社会のお役に立つためには、自我にとらわれず、空っぽであること、虚無であることが必要なのだと思いました。

 そして、「空っぽ」でありたいと思う私の輪郭をなぞってくれるのは、友人、知人、仕事場の上司や同僚、そして、私の作品を見て下さる皆さんなのだと感じております。

 拙作「陶芸家 三上亮 作陶ドキュメンタリー『STARDUST』」は、1月7日17時30分から文化チャンネル1で配信します。1人でも多くの方に、ご高覧いただければ幸いです。

 また、IWJショップでも販売しております。配信を見逃した方、また、配信は見たけれども、もう一度見たいという方、ぜひ、ご購入ください。よろしくお願いいたします。

最後にこの機会を作ってくださった岩上さん、そして「輪郭のはっきりしない変なおじさん」を応援してくださっているIWJスタッフの皆さんに、心から感謝を申し上げます。

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