「安倍総理の『国家催眠』に引っかかるな」~前泊博盛氏が日米同盟の現実を解説──「オスプレイが首相官邸に落ちたら、米軍が官邸を封鎖するだろう。日本は主権国家ではなく属国だから」 2015.12.19

記事公開日:2016.1.30取材地: テキスト動画
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(取材:安道幹、文:IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

特集 空飛ぶ欠陥機オスプレイ
※1月30日テキストを追加しました!
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 「本土では、日米地位協定を実感する場面がない。憲法への愛着も薄い。沖縄では、憲法は『奪い取った』ものだが、本土では『権利は与えられるもの』。だが、権利は行使しないと奪われる」──。

 2015年12月19日、東京都練馬区の練馬区職員研修所で、沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛氏を講師に迎え、「なぜ、どうして、強行? 辺野古の新基地建設 日米地位協定に見る『日米同盟』の現実」が開催され、用意した席が不足するほどの盛況となった。

 前泊氏は、開口一番、「普天間基地のオスプレイの爆音が、急に3倍くらいに増えた。自宅の上まで、さかんに飛行するようになった。これは、『こんなに騒音がひどくても、普天間基地を移設しなくてもいいのか?』という、宜野湾市長選挙へのけん制だと思う」と話し、日米地位協定が、どれだけ日本国民の利益に反しているかを語っていった。

 まず、「横田ラプコン」「嘉手納ラプコン」(ラプコン=radar approach control=レーダー進入管制)という、米軍しか飛行できない専用空域の存在を挙げた前泊氏は、「横田ラプコンがあるため、東京上空は過密になっている。国交省は2020年の東京オリンピックに合わせて、民間機の飛行制限の一部を緩めたが、それによって騒音被害も出始めた。沖縄島上空にも、嘉手納基地の管轄空域の嘉手納ラプコンがあるが、これは米軍の訓練によって急に変更されることが多く、そのため民間機が巨大な積乱雲に突っ込むことになり、落雷の中で九死に一生を得た、と話すパイロットもいる」と語った。

 前泊氏は、日本政府はまったく交渉力がなく、アメリカの言いなりになっていると指摘する。「日米地位協定では国内法遵守を謳うが、月2回の日米合同委員会で、それを反古にする密約を結んでしまう」。

 さらに、外務省には地位協定を運用するための秘密マニュアルがあるとし、特定秘密保護法の成立を見越して「指定前秘密」と押印された機密文書をスライドで映して見せた。マニュアルには、米軍の駐留に都合の良いように日本政府が動き、国民を守らなかった多くの事例が記録されており、前泊氏は、それを「地位協定の闇」と表現した。

 また、普天間基地配備(米海兵隊向けはMV-22)のオスプレイより10倍も事故率の高い、空軍用CV-22オスプレイが横田基地に配備されて、首都圏上空を飛ぶことにも懸念を示し、「オスプレイが都内のどこかに落ちると、(ヘリが墜落した沖縄国際大学のように)米軍が制圧しに来るだろう。首相官邸に落ちたら、官邸が米軍に制圧される。アメリカが宗主国で、日本は属国だから。その視点で見ると、米軍基地の存在理由が理解できる」と述べた。

 会の後半は、「安保関連法案制定を阻止し安倍政権を打倒するための学生ハンスト実行委員会」の梶原康生氏が、昨年11月に辺野古で抗議行動の様子を撮影したビデオを上映。その後、主催者の柏木美恵子氏も交えて、質問に答える形でトークセッションを行った。

 前泊氏は、アメリカが戦時中の日本を「国家催眠」と評したことに触れて、安倍政権もまた、国家催眠をうまく使って二者択一に国民を追い込む、と警鐘を鳴らした。

 「安倍さんが、尖閣に攻めて来る中国、日米安保のあるアメリカ、どっちを取るかと聞くから、みんな『アメリカ』と言う。だが、経済的には一番取引の大きい中国、2番目のアメリカ、ひとつだけ選ぶのはバカです。両方を取らないと日本は成り立たない。だから、安倍さんのレトリックに引っかかってはいけない」。

■ダイジェスト

「横田ラプコン」「嘉手納ラプコン」──日本の空は米軍に握られている

 関東上空には、横田基地に離発着する米軍機専用の広大な空域「横田ラプコン」が確保されており、成田と羽田の両国際空港を使用する民間機は、そこを避けて飛ばなくてはならない。前泊氏は、「民間機の空域は常に過密で、もう限界にきている。2020年には東京オリンピックがあるので、最近、国交省は東京上空で一部の飛行制限を外したらしい。今まで飛んでいなかった地域で民間機が飛行し、騒音被害も出始めている」と語った。

 以前、石原慎太郎元東京都知事が、横田ラプコンの川崎・横浜上空の撤廃を要請したが、話は立ち切れになり、その後、尖閣諸島の買い取りに転じてしまった。その結果、「尖閣諸島の5つの島のうち(魚釣島、北小島、南小島は、野田政権が国有化)、2島の大正島(赤尾嶼・せきびしょう。琉球王国時の呼び名)と久場島(黄尾嶼・こうびしょう)は、今でも米軍の管理下だ。それを、マスメディアはまったく報じない」と述べ、日本の主権は幻想だと語った。

 「沖縄島上空にも嘉手納ラプコンがあり、民間機は、それを避けるため低空飛行を余儀なくされる。そのため制空権の返還を言い続けて、5年前に管制権は取り戻したが、運用はこれまで通り米軍のまま。交通整理役を押し付けられただけで、まったく状況は変わっていない」。

すべてアメリカの都合に合わせて、日本国民に不利益を押しつける

 前泊氏は、「日本はまったく交渉力がない」と、アメリカの言いなりになる日本政府に苦言を呈した。

 「普天間基地の返還を要求すると、辺野古を交換条件に持ち出される。米軍基地の施設群も劣化してきたため、嘉手納基地内に最新の倉庫を日本政府が税金で建設した。ドイツ、イタリアの地位協定には、米軍には原状回復義務があるが、日米地位協定では環境条項がなく、米軍は環境汚染物質を放ったままで出て行く。実際、沖縄では返還された米軍施設からダイオキシン含有のドラム缶が見つかった。米軍はそれを認めず、結局、日本政府が処理したのだが、政府は『検査したがダイオキシンは出なかった』と言う。そもそも、ダイオキシンは政府の検査項目に指定されていないからだ」。

 日米地位協定では国内法遵守と謳いながら、実際には月2回の日米合同委員会で、それを反古にする密約を結んでしまっている、と前泊氏は憤る。ちなみに、日本全土の上空が訓練空域に設定されているのは、日米安保条約で締結された「日本全土基地方式」によるもの。地位協定で施設に対する権利と米軍軍事の地位を定めているが、それは締結時から1回も改定していない。韓国では、アメリカとの地位協定を改定して、環境条項を入れている。

 前泊氏は、小野寺五典元防衛相と仲井眞弘多前知事と、テレビ番組(2015年11月9日 BSフジ「PRIME NEWS」)に出演した際、名護市辺野古、豊原、久志の3地区に政府が直接、1000万円の補助金を拠出する件について、「税金を使った利益誘導で、ワイロに当たる」と指摘したと言う。

 「その区長は『辺野古基地建設に賛成だ。これ(1000万円)で下水や浄化槽も作れる』と喜んでいた。しかし、下水整備などは正規に申請すれば補助金が出ると教えると、区長や住民は驚いていた。つまり、行政の仕組みを知らないのだ。この話をテレビでしたら、カットされてしまった」。

 そして、前泊氏が小野寺元防衛相に、「この1000万円の補助金拠出は、地方自治の侵害、違法行為ではないか」と問い質すと、小野寺元防衛相は「直接、補助金を地域に落とせる制度がある」と応じたという。「私が不勉強だったのかと思ったら、その収録の翌日、沖縄防衛局長が『自治体ではない地域に直接、拠出できる制度を新しく作る』と発表した。先に大手メディアで言ったもの勝ち、だったわけだ」。

外務省の地位協定運用マニュアルには「指定前秘密」のスタンプ

 前泊氏は、外務省の官僚が後輩に引き継ぐために作った、密約も含めた地位協定運用マニュアルがあると述べ、特定秘密保護法成立前に、同法の施行を見越して「指定前秘密」と押印された文書の写真を見せた。新聞記者だった前泊氏は、「今、こういう情報を入手したら、秘密保護法でやられるので、もう調べようとする記者はいない」と顔を曇らせ、それらの機密文書の内容を、以下のように紹介した。

 「米軍関係者の犯罪で起訴されたのは13%だけで、米軍の公務執行妨害は起訴されないこと。米軍基地内で(警備の)日本人が銃を持ち、その給料を日本政府が払っていると国会で問題になったため、基地内で働く日本人には国内法が適用されないようにしたこと。さらに、ベトナム戦争時、アメリカで働いていた日本人が米軍に徴兵され、脱走して帰国したら、外務省は日米地位協定に基づき、脱走兵身柄引き渡しを適用したことなど。なぜ、日本人がアメリカで徴兵されるのか。これは国会でも議論になった」。

 前泊氏は、そもそも、アメリカと徴兵免除協定を結ばなかった日本政府のミスだと断じ、そのために多数の(在米)日本人が米兵としてベトナムに送られて戦死した、と指摘。「ワシントンのベトナム戦争戦没者慰霊碑には、日本人の名前がたくさん見つかるが、いったい何人いるのか、日本政府は把握していないと言う。このように国民の命を守れなかった事実、地位協定の闇が、機密文書にはどんどん出てきます」。

 米軍が、相模原基地から戦車をベトナムに送ろうとした際(1972年)、当時の飛鳥田一雄横浜市長は県道の使用制限(重量規制)で抵抗し、順法闘争を行った。「この時も日本政府はすぐに、『救急車、消防車、米軍車両などの緊急車両は例外にする』と法改正をした」と、前泊氏は振り返った。

東京都民は無関心? 事故率が10倍高いCV-22オスプレイが首都圏の空を飛ぶ

 続いて前泊氏は、2004年8月13日の、沖縄国際大学への米軍ヘリコプター墜落事故について話した。事故直後、米軍は地位協定の財産管理権を行使して、私有地である大学構内を一部閉鎖。ヘリの部品には放射性物質が使用されていて、ストロンチウムやセシウムが飛び散り、被曝の危険があるにもかかわらず、それはまったく報道されなかった。「米軍はヘリの残骸や周辺の土壌など、いっさいを持ち去った。これは証拠隠滅だ」。

 普天間基地配備のオスプレイ(米海兵隊はMV-22)より、事故率が10倍高い(空軍用)CV-22オスプレイが、2017年から横田基地に配備され、首都圏上空を飛ぶ。「それについて、都民はまったく無関心だ」と驚きを隠さない前泊氏。「オスプレイが都内のどこかに落ちると、(沖縄国際大学のように)米軍が制圧しに来るだろう。もし首相官邸に落ちたら、官邸が米軍に制圧される。アメリカが宗主国で、日本は主権国家ではない属国だから。その視点で見ると、米軍基地の存在理由が理解できる」と述べ、このように続けた。

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  1. 武尊 より:

    >首相官邸に落ちたら、官邸が米軍に制圧される。
    前庭にでも落ちれば国民も少しは目が覚めるかなぁ、、。
    まぁ、無理かな?寝てるもんなァ(悲)
    但し、大部分の国民は忙しく汗水垂らして仕事をし、政治にまで目を向ける暇を与えられていないんだよね。
    奴らはこうやって国民をコントロールしてるんだな(怒)

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    前泊博盛氏が日米同盟の現実を解説──「オスプレイが首相官邸に落ちたら、米軍が官邸を封鎖するだろう。日本は主権国家ではなく属国だから」 https://iwj.co.jp/wj/open/archives/279652 … @iwakamiyasumi
    日米地位協定では国内法遵守を謳うが、月2回の日米合同委員会で、それを反古にする密約を結んでしまう。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/982023042640457729

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