「国会決議は守られた」!? TPP「大筋合意」評価も「しっかりした農業対策ありき」の矛盾 〜森山裕・新農林水産大臣 就任会見 2015.10.7

記事公開日:2015.10.7取材地: テキスト動画
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(佐々木隼也)

 歴史的な大幅譲歩となった「大筋合意」。ふたを開けてみれば、例えば自民党が守ると国民に約束してきた「聖域(農産品重要5品目)」を見ても、牛肉の関税が38.5%から16年目に9%まで下がり、豚肉も高級品は4.3%から10年目からはゼロになる。さらに農林水産省は8日、この「聖域」以外の農産物数百項目についても、関税撤廃することを突然発表。農家にとってはまさに「青天の霹靂」だ。

 「聖域を守れなければ脱退も辞さない」とする衆参両院の国会決議(※)は守られなかった。しかし、2015年10月7日に新たに農水大臣に就任した森山裕氏は記者会見で、記者の質問に対し「私は国会決議は守れたと思っております」と強調。しかし、「ただ、今から対策をしっかりしていって、初めてそのことが成就するのだろうと思います。今の状況でいいというふうに申し上げているわけではありません」と、前言を打ち消した。

 「対策」をしっかり講じなければ、国会決議を守れたことにならない、というのはつまり、現段階では国会決議を守れていないということだ。しかもその「対策」として検討されているのは、収益が生産コストを下回った場合に、その差額の8割を国と生産者の積立金などで補填するというものだ。しかし、関税収入が減るなかで、補填の財源をどうするのか、という問題がある。

 IWJはこの点をふまえて、JAや農家に約束した「聖域」は結局守られなかったとの声があがっているが、どう申し開きされるのか? と単刀直入に質問。しかし森山大臣は、「希少価値のある黒毛和牛は心配していないが、ホルス(タイン)などはできるだけ雄が産まれないようにしたり、初産に対しては、和牛を産ませるなどの改革にしっかり取り組むことが、大事ではないか」と論点を逸らし、明言を避けた。

衆議院のTPP国会決議より抜粋】

一 米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。

六 交渉に当たっては、二国間交渉等にも留意しつつ、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要五品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること。

■IWJ質問部分

■全編動画

  • 日時 2015年10月7日(水)21:30~
  • 場所 農水省(会見室3F)

大筋合意という名の大幅譲歩を既成事実化するのか

 大幅譲歩によって、念願の「大筋合意」にこぎつけた安倍政権だが、「最終合意」までには、まだまだ未解決の問題が数多い。交渉分野の多くではいまだに「調整中」のものがほとんどであり、さらにこの合意の内容を各国の議会が承認しなければ、最終的な合意には至らない。大筋合意のために各国が譲歩を急ぎすぎたせいで、各々の国の議会では、「こんな譲歩は認められない」と強硬な反発にあっている。

 にも関わらず、日本政府と日本の大手メディアは、「交渉が終結した」かのような報道を煽り立てている。

 IWJは会見で、この点についても質問。安倍政権は「大筋合意」直後から、農業対策について予算化を進めようとしているが、協定のテキストも完成していない、まだ最終合意もしていない、議会の承認手続も終えていないという状況にもかかわらず、予算措置を講ずるというのは、他のTPP交渉参加国に比べてもかなり前のめりになっていることについて、大臣の見解を聞いた。

 森山大臣は、「予算措置をどう講じるということが決まっているわけではない」と否定したうえで、「どういう影響があるかを精査をして、今から政策を作っていくということでありますから、それは、いい意味の前のめりだと思います」と答えた。

 TPPが「最終合意」に至っていない以上、農業分野についても本来はまだまだ変更の余地があるということだ。国会において、「このような譲歩は認められない」と「無効」の審判を下せば良いだけである。しかし、この大幅譲歩を前提にした農業対策を拙速に進めることは、この譲歩自体を国内外に規制事実化することに他ならない。

 森山大臣は、かつて「TPP参加の即時撤回を求める会」を結成し、自民党のTPP対策委員長に就くなど、TPP交渉にかねてから苦言を呈してきたはずの人物である。しかし結局は、莫大な農業対策費という「バラマキ」を増額させるため、農水族議員として「ゴネ得」を狙ったポーズに過ぎなかったのだろうか。

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