「テロに対して強い『武力』で戦っても新たなテロを生むだけ」――海外在住者「OVERSEAs」が立ち上がった!世界の潮流を無視した『ガラパゴス法案』に歯止めをかける! 2015.8.28

記事公開日:2015.9.3取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文:城石愛麻、構成:岩上安身)

特集 安保法制
※9月3日テキストを追加しました!

 海外在住経験者らによって立ち上げられた「OVERSEAs/PEACE for World」が、2015年8月28日、同30日に行われた国会前抗議デモに向けて記者会見を開いた。

 会見に臨んだのは、「OVERSEAs」の発起人である、武井由起子さん、中溝ゆきさん、山秋真さんら3名。「OVERSEAs」は、8月中旬頃、日本全国で展開される「SEALDs」や「MIDDLEs」、「TOLDs」など多くの抗議行動に刺激され、武井さんの呼びかけにより結成された。結成後すぐに作られたFacebookの非公開グループページには、わずか一週間ほどで400人もの人が参加し、勢いの良さを見せている。

 現在、Facebook上に公開されている「OVERSEAs」 PEACE for World」のコミュニティページには、9月1日12時50分現在、1734件の「いいね!」が押されている。また、ウェブ上で募集している署名数は、同時点で900を超える。署名は今後、海外の日本領事館などに提出しようと検討中だ。

 8月30日の国会前抗議デモの際は、「OVERSEAs」の青いプラカードを持って、国会周辺でスタンディングを決行した。さらには、ベルリンやニューヨークにいる賛同者も、現地で「OVERSEAs」のプラカードを持って抗議行動を行い、その様子をFacebookへ投稿して、世界各地での「連帯」をアピールした。

■ハイライト

  • 日時 2015年8月28日(金)9:30〜
  • 場所 参議院議員会館(東京・永田町)
  • 主催 OVERSEAs PEACE for World(安保法制に反対する海外在住者/関係者の会) (詳細、Facebook)

海外の視点だからこそ分かる「日本は武力行使のできない『弱い国』だからこそ安全」

 発起人の一人である武井由起子さんは、弁護士として「明日の自由を守る若手弁護士の会」で「憲法カフェ」を開いたり、「見守り弁護団」で「SEALDs」の見守りをしたりしている。元総合商社勤務の経験から、「平和とか安全保障を考える際には、海外との関係を考える必要がある」と述べた。

 特に、安保法案の必要性を説く人たちが、「中国の脅威」を説いていることに関して、「資源の少ない日本が、最大の貿易相手国の一つである中国と戦争をしたところで、日本にも中国にも良いことはない」と、日本の「武力強化」の必要性に疑問を呈した。

 また、武井さんは、「日本は『弱い』からこそ安全」とも述べた。どういうことなのか。

 現在、世界の戦争や紛争は、従来の「『国』対『国』」のあり方から、「『国』対『テロやサイバー攻撃』」という構図に変わってきている。テロやサイバー攻撃の目的は、アメリカのような『強い国』を倒そうとすることにある。そのような世の中の潮流の中で、日本のように武力の放棄を誓った『弱い国』は、標的になる可能性が低く、逆に安全なのだと言う。

たしかに、現代のテロと対テロ戦争とは、圧倒的に軍事的には(政治的にも、経済的にも)弱者である存在が、非正規戦の手法で抵抗し続ける構図である。

 『強い国』は撹乱され、出費がかさみ、自国の政策を見直そうとする契機となるかもしれない。それが『弱者』の目標であって、『強い国』を全面的に打ち倒し、占領支配することではない。非対称戦争とは、そのようなものだ。

 実際、武井さんは海外で、多くのアメリカ人が空港や飛行機でパスポートを隠し、身分を知られないようにしているのを見た。アメリカ人は、「アメリカ人である」だけで、狙われる可能性があるのだ。

 一方の武井さん自身は、「日本人」であることを堂々と見せてきた。憲法9条のもと、戦後70年間、他国で一人も殺さずにきたお陰で、海外に在住する多くの日本人は、これまでほとんど特定の政治集団に狙われることもなく安全な生活ができた。

 しかし、「日本人だから安全」という安心は、日本が武力を増強し、アメリカの戦争に加担していく中で、失われていってしまう。それも急速に。

 2012年12月26日に第二次安倍内閣が発足して以降、2013年1月にはアルジェリアで日揮の社員が、国際テロ組織アルカイダに近い武装勢力によって人質に取られ、10名が殺害された。さらに2015年1月には、過激派組織「IS」によって、2人の邦人が人質に取られ、殺害された。

 「IS」は、人質殺害に際して、「安倍(首相)よ、勝ち目のない戦争に参加するという無謀な決断によって、このナイフは(後藤)健二だけを殺害するのではなく、お前の国民はどこにいたとしても、殺されることになる。日本にとっての悪夢を始めよう」というメッセージを流した。

 これに対して、安倍総理は、あくまで、「日本人に一人でも手を出したら許さない!」と、勇ましいが極めて好戦的で危険なメッセージを出してこたえた。日本人を誘拐されたら、何もできない。救出も交渉も、ろくろくできなかった。日本国民の多々の生命・安全を守ることについては、無力であることを日本政府はさらけ出したのに、「ISは許さない」と、わざわざタンカを切る。

 ISも黙っていないだろうから、「喧嘩上等」とばかりの敵対的メッセージだけを送りつける、この応酬はエスカレートしていくだろう。たまったものではないのは、日本国民である。

 現に今、フリージャーナリストの安田純平氏が、シリアで何者かに拘束されているとの海外報道がある。日本ではまったく報じられていない。これは、日本政府なかんずく安倍総理のイスラム過激派への配慮を欠いた高圧的姿勢が影響しているのではないかと、心配する声は少なくない。

 安保法案の成立により、自衛隊による海外での武力行使が可能になれば、予想されている行き先、戦う相手には、必ずイスラム過激派が含まれてくるだろう。今後、日本人はますますテロリストたちの「標的」とされかねない。武井さんたちは、「日本人は自分たちの知らない素晴らしい『財産』をみすみす捨ててしまおうとしている」と警告した上で、「日本や世界の平和に貢献しない安保法案に反対。武力によらず文化や経済で世界に貢献を!」と宣言した。

「愛国心」と「正義」を大義に戦争へと向かっていたアメリカ、その真似をする日本への危機感

 元金融機関勤務で、発起人の一人、中溝ゆきさんは、2001年9月11日、ワールドトレードセンターのテロが発生した際、ロサンゼルスに滞在していた。中溝さんは、テロ直後にアメリカのメディアが、しきりにイラク・テロの脅威を煽る報道をしていたのを見て、強い違和感を感じ、愛国心を利用しながら戦争に向かうやり方に、「国家レベルの嘘って通ってしまうんだなあ」と、その時点で大きなショックを受けた。

 同じく、発起人の一人、山秋真さんも、1991年、交換留学先のアメリカで、「正義」と「愛国心」が一番の大義となって、湾岸戦争へ向かっていくアメリカ社会を目の当たりにした。日本人の視点でアメリカ社会を見て、「こうやって美化されて、戦争は行われていくんだ」と知った。

 湾岸戦争から20年、9.11テロから10年が経って、東日本大震災が起こると、日本でも周辺国の「脅威」が叫ばれるようになった。その様子を見て、中溝さんはアメリカが戦争に向かったときの記憶を思い出し、「日本もアメリカの真似をするんだ」と、危機感を持った。何か行動をしたいと思い、選挙の際には、友人たちに「自民党へ入れると戦争法案にいってしまう」と訴えたが、イラク戦争に向かった時のアメリカの「国家レベルの嘘」を知らない多くの人たちからは、反応がなかった。

 しかし今、安倍政権が『戦争法案』の強行採決を狙う中で、若者たちを中心とした「SEALDs」や、中高年による「OLDs」、「MIDDLEs」などによる、抗議行動が盛り上がってきた。そうした中で、武井さんたち海外在住者・関係者も、今こそ行動しようと、「OVERSEAs」を結成するに至った。「OVERSEAs」は今後、なかなか集まることのできない海外在住者にとって、アクションを起こす際の「プラットフォーム」になっていくだろう。中溝さんは、「日本と他国を比較し、叡智を集めて安保法案に反対したい」と意気込みを述べた。

海外在住者から不安の声―「安保法案の影響を直に受ける当事者は、私たちだ」

 「OVERSEAs」のウェブ上では、署名と同時にメッセージやコメントも募集している。声を寄せる人の多くは、海外に在住する人だ。記者会見の中でも、海外に在住しながら、日本の安保法案に強い危機感を覚える人たちの声が紹介された。

 前国連人権高等弁務官事務所パレスチナ副代表・現国際人権団体日本代表・高橋宗瑠(そうる)さんは、「5年間中東の紛争地域に滞在する中で、『平和国家』であることは日本の『財産』であることを実感した」と言い、さらに、「日本がアメリカに従い、平和国家という『財産』を捨てるのは愚の骨頂だ」と断じた。

 また、ドイツ在住者は、自らが指導をしている公文の教室に、ソマリア難民の生徒、ウクライナから逃れてきた父を持つ生徒、海外労働者としてドイツに逃れてきたトルコ人二世、旧ソ連からやってきてユダヤ人学校に通う子、IT産業に携わる中国人・インド人の子どもたち、成績不振のドイツ人の生徒、貴族出身者など、実にさまざまバックグラウンドをもつ子どもが集まると言う。

 そして、そのような現状を見て、「日本の『平和主義』が、どれほど海外の人に安心感を与えるか痛感する」と言い、「残念ながら、このあたりのことが日本にいてあまりに当たり前すぎて知ることができない」と嘆息した。

 さらに、ドイツ在住者は、2015年1月に「IS」が日本人を含めたテロの予告して以来、現地の小学校などが学校行事予定表をウェブページ上に載せるのをやめたと言い、「安倍首相の対応一つが、こんなところにまで影響を及ぼしているということを知ってほしい」とした上で、「世界中に目配りしながら他国と関係を築くことがどれほど大切か」と訴えた。

『戦争法案』を廃案にするため、私たち主権者は政治の当事者にならねばならない

 安保法案の成立を目指す安倍政権にはどうも、この法案によって、日本がテロやサイバー攻撃の標的とされる可能性が高まり、海外在住者が危険にさらされる可能性が高まるということが、見えていないらしい。

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録単品購入 330円 (会員以外)

関連記事

「「テロに対して強い『武力』で戦っても新たなテロを生むだけ」――海外在住者「OVERSEAs」が立ち上がった!世界の潮流を無視した『ガラパゴス法案』に歯止めをかける!」への1件のフィードバック

  1. あのねあのね より:

     テロとの戦いで結局米軍が裸足で逃げ出したのがベトナム戦争だ。米軍はものすごい物量を投下したのに結局ベトナムから撤退することになった。本格的な参戦の為に米国はトンキン湾事件を起こした。911もそうだといわれているのは、過去にトンキン湾事件を起こした国だからだ。
     日本はこんなインチキな国に付き合って敵を増やす必要は無い。国家百年の計を考えるとそういう答えしか出ない。自分の政権の延命だけ考えた安倍晋三に付き合って今後の日本を駄目にするか、それとも国全体と子孫の事を考えた行動をするかが現在問われている。安倍晋三に同調するのは“利己的な議員”だけだ。国民の大多数は安倍晋三とは相容れないのである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です