「国が言う介護は、家畜を死なせないように、どう面倒を見るかという感覚」介護の真実に迫る日本漫画家協会大賞の介護マンガ『ヘルプマン!!』作者 くさか里樹氏に岩上安身が聞く~岩上安身によるインタビュー 第553回 ゲスト くさか里樹氏 2015.6.23

記事公開日:2015.6.25取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

※6月29日テキストを追加しました!

 「人間の幸せは、自尊心の存在だけなんだと。介護者がそれに気づいた時、相手も劇的に変わる。それを体験すると、介護の仕事が面白くて止められない。『従来の価値観をひっくり返してやる』という若い人たちが介護業界には大勢います」──。

 2015年6月23日、東京都内で、岩上安身が介護マンガ『ヘルプマン!!』の作者・くさか里樹(りき)氏にインタビューを行った。『ヘルプマン!!』はイブンニングと週刊朝日に連載、27巻で105万部を売り上げ、2011年に第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。介護関係者のバイブルとまで言われている。

 くさか氏は、老人の性の問題、介護職員の実態、高齢者の数々のエピソード、政府の介護政策、胃ろう、成年後見制度、高齢化社会、安保法制と徴兵制などについて、岩上安身の質問に答えていった。

 そして、「胃ろうにせよ、後見人制度にせよ、不自由な老人は別の生き物のようにとらえられる風潮があるのではないか。介護をめぐる状況で、本人がどれだけ傷ついているのかを考えずに今まで来ているから、(制度に)不具合が生じている気がする」と指摘した。

 2025年には、全人口における高齢者の割合は30%を超えるという試算がある。3人に1人が高齢者になる状況で、現政権が押し進めようとしている戦争法案について、くさか氏は「無理でしょう」と一蹴。次のように明言した。

 「戦艦一隻、派遣するのにいくらかかるか。社会保障費は削られています。家計を食いつぶす息子がいるように、あの人たち(安倍政権)は、私たちにパラサイトしているわけです。戦争するなら税金は払わないつもりです」

記事目次

■ハイライト

  • 日時 2015年6月23日(火)20:00~22:00
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

神聖な「奉仕職」に思われがちな介護の仕事

岩上安身(以下、岩上)「今日は漫画家のくさか里樹さんをお招きしました。くさかさんが、イブニング、週刊朝日に連載中の介護マンガ『ヘルプマン!!』は介護関係者のバイブルと言われています。単行本は27巻105万部を売り上げ、2011年に日本漫画家協会賞大賞を受賞されました。

 単行本の表紙には、『”胃ろう”になった高齢者が経口食に復帰できる確率6.5%。日本は胃ろう大国なんだよ』という長いキャッチコピーが。『ヘルプマン!!』の主人公・恩田百太郎は、はみ出し介護士です。ご自身と似ているのですか」

くさか里樹氏(以下、くさか・敬称略)「はみ出しても、人に許されて生きているんです。私は上京してアシスタント修行などは絶対イヤで、地元の高知から出なかった。『土佐の一本釣り』の漫画家、青柳裕介さんの家に遊びに行ってました。

 青柳さんに触発されて、プロになれたと思います。中学2年の頃に漫画家を目指すようになった。動機は不純で、お金がもらえるとわかったからです。修行も何もしていないので、デビューしてからとても困りました」

岩上「『ヘルプマン!!』では介護職に就こうとする若者の葛藤も描かれています。介護は、金儲けをしたくて始めるとは思われていない世界です。しかし、現実的で不純な動機もないと始められないのも事実ですよね」

くさか「どんな仕事でも『ひと山、当てたい』という動機があるはずなのに、介護だと、とたんに『奉仕職』になってしまう。すごくおかしいです」

岩上「連載途中で、掲載誌がイブニングから週刊朝日に移ったのは、なぜですか?」

くさか「理由は単純。単行本の売れ行きが減り、ペイができないと言われて(イブニングを)首になりました。漫画は最初は増刷されますが、そのうち減っていくんです。それで終了の挨拶をしたら、週刊朝日が連載を申し出てくれました。週刊朝日は介護関連の人脈や情報も豊富で、教えてもらえたり、漫画と記事を連動させたり、むしろ漫画雑誌よりしっくりきています」

元気な高齢者がいる施設では色恋沙汰が多発

くさか「よくフィクションだろうとか、脚色しているのだろうと言われますが、作品中のエピソードはほとんどが実話です」

岩上「毎回、リサーチャーや協力者がたくさんいますね。私も両親の介護を経験していますが、自分の知らないことが多くて驚きました。特に、高齢者の性問題。百太郎は、わざと高齢者にエロビデオを見せたりしますが、本当ですか?」

くさか「今、ホームヘルパーへのセクハラ問題も表出しています。『年寄りは、そんなことはしない』と周囲が思っているだけ。元気な高齢者向けの施設では、トラブルのほとんどが色恋沙汰です。大きな問題は少ないですが」

岩上「若ければ何も言われないのに、老人になると(性的な関心事は)はしたないと言われてしまう。こういう描写は、テレビや映画にできるだろうか」

くさか「ぜひ見たい。人はいくつになっても変わらないことを、伝えてほしいです」

岩上「私も心臓発作で死にそうになり、身体の衰えを知りましたが、そういう老人の性にはピンとこないのですが」

くさか「年をとっても変わらないみたいですよ。いいじゃないですか、もっと自由になっても。すごく貞淑だった女性が認知症になり、ある意味で自由になって、『あなた、恋愛はしなくてはダメよ』と言います。認知症も、わからなくなって不安でつらいが、わかってもらえなくなることが、もっとつらいですね」

「価値観をひっくり返す」志を抱く者が大勢いる介護業界

岩上「親孝行したい時に親はいず。もっと早く『ヘルプマン!!』を読んでいたらなぁ。私の父親も認知症だったのですが、外では正常でも、身内から見るとおかしかったり。当時、誰に相談していいか、まったくわからなかった。しかし、この主人公は明るくて、お年寄りの笑顔を見るのが生き甲斐だと仕事に励むのですが、ちょっとできすぎていませんか?」

くさか「今、人の役に立ちたいと思う若い人が多い。全国に山ほどいます。私の世代からは信じられませんが。そして、人の役に立ちたい思いが強過ぎて、現実を知って燃え尽きてしまう若い人も多いです。でも、そこで価値観が変わるような爺ちゃん婆ちゃんの言葉に出会った人は、どっぷり介護の魅力にはまってしまうんです。

 人間の幸せは、自尊心の存在だけなんだと。それがわかった時、相手も劇的に変わったりするんです。それを見ると面白くて止められないという。『従来の価値観をひっくり返してやる』という幕末の志士みたいな若い人たちが、介護業界には大勢います」

岩上「でも、悪徳経営者みたいな人たちも、まだいるんですよね?」

くさか「やはり、圧倒的に(老人を)預かってあげているという意識が、まだまだ強い。でも、良い施設は伸びていて、見ていればすぐわかります」

火葬場不足、捨て老人、隠れていた問題が顕在化する

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