2013年6月15日(土)13時30分、京都市左京区の京都大学吉田キャンパスにおいて、「経済成長主義を超えて―脱成長・循環型社会へ」と題するシンポジウムが開かれた。このシンポジウムは、季刊雑誌「アジェンダ 未来への課題」を発行するアジェンダ・プロジェクトが、同誌の創刊10周年を記念して開催したもので、スウェーデン研究者の榊原裕美(ひろみ)氏が「脱成長社会?スウェーデン社会を通して考える」と題する基調講演を行った。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2013年6月15日(土)13時30分、京都市左京区の京都大学吉田キャンパスにおいて、「経済成長主義を超えて―脱成長・循環型社会へ」と題するシンポジウムが開かれた。このシンポジウムは、季刊雑誌「アジェンダ 未来への課題」を発行するアジェンダ・プロジェクトが、同誌の創刊10周年を記念して開催したもので、スウェーデン研究者の榊原裕美(ひろみ)氏が「脱成長社会?スウェーデン社会を通して考える」と題する基調講演を行った。
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冒頭、榊原氏は、2006年夏の同誌主催による自身の講演で、世界有数の福祉国家であるスウェーデンについて、「世界の中で最も平等な国の一つ。人権、人道、倫理面だけでなく、経済的にも整合性がある」と述べたことを振り返った。また、発展途上国と先進国の格差を意味する「南北問題」が、先進国であるはずの「北」の内部において、非正規雇用やフリーター、ワーキングプア拡大などの貧困問題として顕在化している状況を指摘した上で、「スウェーデンは、国境を越えて大暴れしているグローバル資本主義に対し、間接民主主義や政府をうまく使って、その成長をコントロールしている優等生である」と評したことも振り返った。
スウェーデン社会についての解説では、スウェーデンは日本の1.2倍の面積の国土に900万人が暮らす立憲君主国で、EUに加盟していること、第二次世界大戦に参戦しなかった中立外交政策を採る平和主義国家であること、1922年から女性参政権を認めたほか、女性の正規雇用が盛んな男女平等国家であること、国民の税負担は大きいものの福祉が充実している「高負担・高福祉国家」であること、そのほか、労働組合組織率、女性議員比率の高さ、投票率の高さなどを特徴に挙げた。
産業については、ボルボやエリクソンなどの世界的企業を擁するほか、産業に占める公共部門の割合が高く、就業人口の3割以上が公共部門に従事していることを紹介し、これにより、企業活動の効率性や法人税率の低さ(28%)を実現してきたと解説した。このほか、2005年時点におけるスウェーデンの各分野の世界ランキングとして、ILO経済安全指数1位(日本18位)、ジニ係数2位(日本18位)、貧困率の低さ3位(日本23位)、男女平等1位(日本38位)、国際競争力3位(日本12位)などを紹介した。
スウェーデンが世界有数の男女平等社会や福祉社会を確立してきた要因については、一時的な政権交代はあったものの、社会民主主義系の政党による長期安定政権が1930年代以降続いてきたことや、連帯賃金政策、8割以上という高い労働組合組織率、戦争をしない中立外交政策などが、政府への国民の信頼感を生んだ結果であると分析した。
しかし、スウェーデンでは、2006年の選挙で右派中道政権が誕生したのを皮切りに、新自由主義政策がじわじわと浸透し、社会民主主義のもとで築き上げてきた国の形態が大きく変化してきているとした。具体的な変化としては、2007年に、「RUT(清掃・手入れ・洗濯)控除制度」を開始し、家事周辺の労働コストを税の還付という形で補助することとなったことを紹介し、「RUTの施行は、今後不足するであろう介護労働力の確保や、介護財源の地方から国への掌握、公共サービスの削減により労働組合を弱体化し、民営化を推進していくのが狙いではないか」と解説した。
実際、この制度の開始とともに、小規模な介護企業が雨後の筍(タケノコ)のごとく起業しているほか、介護分野における公的ケアサービスの民営化による介護者本人負担の発生、介護者への不当な待遇、経営幹部への巨額報酬などが問題化しているとした。また、8割以上に達していた労働組合組織率が、2012年には67%まで低下し、「労働組合社会の崩壊が懸念される」とした。さらに、2010年の選挙では移民排斥を掲げるスウェーデン民主党が初めて議席を獲得するといった、スウェーデンではこれまでなかったような動きが起きていることも紹介した。
榊原氏は、新自由主義によるスウェーデン社会の変化について、「こんなに良い制度の国があったのかと感嘆するような国だったのが、近年は、国民が権利として得てきたものが売りに出され、企業の儲け先になってしまう、まさに、福祉国家が売りに出されているように見える」と語った。また、「私たちは、『病人が増えて薬が売れるのも成長戦略』というような社会を望んでいるわけではない」とも述べ、世界有数の福祉国家ですら、選挙による国民の政治選択の結果として、新自由主義に侵されつつある現状から学ぶことの重要性を説いた。
榊原氏の講演の前後には、アジェンダ編集部が、10年間の世界情勢の変遷と同誌の歩みを紹介したほか、「ラテンアメリカの協同組合運動と連帯経済」と題するレポートも行った。
まさかスウェーデンまでが右派の台頭で新自由主義が加速。
右派が新自由主義にのっとられるという現象がグローバルに発生しているのならば、それも戦略の一つなのでしょうか。
新自由主義に加えて日本はレイシズムが横行していますが、関係性を競争でしか扱えないような受験戦争やスポ根の影響がありそうですね。これも戦略ならば、「負け犬」という言葉は彼らを過剰に傷つけるために蔓延させた言葉かもしれません。関係性が競争なのですから他者と協力する能力など、どうやって身に着けるのでしょうか。
わざわざ人々を孤立させるために作られた教育システムがあるのならば、
それをうまく利用すれば、悪いことをして報酬が得られる社会、暴力社会、戦争社会が簡単に作れそうですね。
そんな社会にはさよならして、別の社会を作りましょう。