TPP締結の障害になるとして標的になったJA――農協改革は「農協をつぶすのではなく農家をつぶすのが目的」~農業経済学者・太田原高昭氏が改革の真の狙い、日米両政府の思惑を力説 2015.5.2

記事公開日:2015.5.15取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

※5月15日テキストを追加しました!

 「過疎地では、ガソリンスタンドや金融機関は農協しかないところが多い。ほとんど赤字運営だが、総合農協だから続けられる。それを簡単に、辞めろ、解体しろと言われては怒りが収まらない」──。農業経済学者の太田原高昭氏は、このように訴えた。

 2015年5月2日、青森市のアピオあおもりで、北海道大学名誉教授の太田原高昭氏の講演会「TPPと農業・農協・食料問題を語る」が行われた。太田原氏は、TPPをめぐるアメリカと日本政府の思惑を、農業分野に焦点をあてて解説していった。

 TPP交渉での一番の障害は日本での反対運動で、その象徴と見なされて切り崩しの標的になったのが農協だ、と太田原氏は言う。「しかし、農協は、農業を発展させるためにはなくてはならない。また、地域社会の重要なインフラだ。総合農協という形態だからこそ、できることもあり、農協はもっとその点をアピールすべきだ」と説いた。

 講演会は「進め!ドクター大竹の会」が主催した。整形外科医で前青森県保険医協会長の大竹進氏は、来る5月21日告示、6月7日投開票の青森県知事選に立候補を表明。現職の三村申吾知事と知事の椅子を競い合う。後半の、太田原氏と大竹氏による対談「青森県農業の未来を語る」では、農業や再生可能エネルギーの拠点としての、青森の可能性が語られた。

記事目次

■全編動画

0分〜 講師紹介/2分〜 太田原氏講演/1時間20分〜 対談

  • 講師紹介 神田健策氏(弘前大学名誉教授)
  • 講演 太田原高昭(おおたはら・たかあき)氏(北海道大学名誉教授、元北海道生活協同組合連合会会長、農業経済学)
  • 対談 「青森県農業の未来を語る」太田原高昭氏×大竹進氏(整形外科医)/進行 神田健策氏
  • 日時 2015年5月2日(土)14:00~
  • 場所 アピオあおもり(青森市)
  • 主催 進め!ドクター大竹の会(詳細、Facebook)

日本側が軒並み譲歩をしている──TPP交渉の真相

 はじめに太田原氏が登壇、TPPは、最初はチリ、ニュージーランド、ブルネイ、シンガポール4ヵ国の自由貿易協定に過ぎず、各国の弱点を補完し合う良い協定だったと説明し、「そこに目をつけたアメリカが『関税ゼロ、環太平洋』の美旗を掲げ、強引に入ってきておかしくなった。日本は民主党の菅内閣がTPP参加を示唆し、野田政権で参加決定。そして、自民党の安倍政権で実行に移した」と経緯を語った。

 その上で、「米通商代表部(USTR)のフロマン代表との日米閣僚交渉前日、甘利明TPP担当相が『歴史的なヤマ場になる』と発言したものの、合意はできなかった。『甘利大臣は、よくがんばった』という声もあるが、そんなことはまったくない。TPPが秘密交渉なのをいいことに、日本側が譲歩に継ぐ譲歩をしているのが真相だ」と指摘した。

 さらに太田原氏は、「アメリカの参加企業から日本の取引先を通じて、交渉の情報が漏れ聞こえてくる。それによると、牛肉では日米間の関税約40%を、日豪EPAで19.5%で締結したことをスタートラインにして、日本は9.5%を提案中だ。コメに関しては、加工・飼料用米80万トンが輸入されているにもかかわらず(一部食用にも転用)、食用米で20万トンの輸入枠を要求されている」と語る。

 コメの輸入枠拡大については、国会で断固拒否すると決議したはずが、5万トンから10万トンと譲歩している、と続けた太田原氏は、「それでも合意に至らない理由は、フロマン代表が『TPPは関税ゼロが前提だ。それを承知で参加してきたのではないか』と突っぱねているからだ」と語り、米価がさらに下がっている現状では、日本の稲作農家は太刀打ちできなくなるとして、TPPが農業へ与える影響を危惧した。

米国メディアも「漂流するTPP交渉」と言い出す

 TPPは参加国12ヵ国、21の分科会に分かれており、それぞれ課題を抱えている。農業以外では、知財分野(知的財産)でジェネリック医薬品の扱いが問題になっている。日米以外の貧しい国々では、安価なジェネリック薬が患者の生命線になっているからだ。しかし、アメリカは医薬品メーカーの権利強化のため、特許期間(アメリカは5年、日本は7年)を10年に延長することを要求している。

(※TPP参加国12ヵ国/チリ、ニュージーランド、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、オーストラリア、カナダ、アメリカ、メキシコ、ペルー、日本)

 また、アメリカは競争要件の平等を求めているため、各国の抱える国営企業の対応も危ぶまれるという。社会主義国のベトナムはほとんどが国営企業、マレーシアの重要産業も国営が多い。「そういう中で、アメリカの強引なやり方に不満は多く、マレーシアでは大きなTPP反対運動が起きている」と太田原氏は言う。

 また、アメリカ国内でも米自動車労連を筆頭に、反対デモが活発化。民主党議員にも反対派が増えて、マスコミは「TPPは漂流状態」と表現している。太田原氏は、「グローバル企業は、すぐにでもTPPを締結したいのだろうが、一番影響力のある日米間で締結できないと、全体がまとまらない。TPP交渉での一番の障害が、日本での反対運動なのだ」と指摘し、その「抵抗勢力の象徴」と見なされて、切り崩しの標的になったのが農協である、と続けた。

農協解体は「農家つぶし」が目的だ

 「昨年(2014年)5月、突如として政府の規制改革会議で、農業改革に関する答申が発表され、激震が走った。予想をはるかに上回る乱暴な内容だった」と太田原氏は振り返る。その内容とは、全国農業協同組合中央会(JA全中)を廃止、全国農業協同組合連合会(JA全農)を民営化して、総合農協での金融機関や共済など副業を分離する。さらに、北海道では79%、全国平均でも52%を占める准組合員の廃止、農地を守る農業委員会の首長専任制への移行だ。

 「過疎地では、ガソリンスタンドや金融機関は農協しかないところが多い。これらはほとんど赤字運営だが、総合農協だから続けられるのだ。それを簡単に、辞めろ、解体しろと言われては怒りが収まらない」と太田原氏は憤る。

 「この改革は、農協をつぶすのではなく、農家をつぶすのが目的だ。政府はそれを承知しており、(規制改革会議などの)有識者たちは『農業の規模拡大、輸出、6次産業化で大丈夫だ』と気休めを言ってきた。しかし、今では気休めすら言わなくなり、『農家が小規模だからいけない。会社経営に』と言い始めた」

改革案のトゲを抜き、統一地方選を乗り切った政府自民党

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