【辞任で「幕引き」はかる西川前農水相】「今の農家は潰していい」と言い放った西川氏、TPPをたてにした「増収賄」の可能性も 農政を「食い物」にしてきた過去 2015.3.9

記事公開日:2015.3.9取材地: テキスト
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(佐々木隼也、文責:岩上安身)

特集 TPP問題

※狭心症の発作に倒れ2週間休みをとっていた岩上安身が、おそるおそる仕事復帰しました。
 本稿は文責として岩上がリライトを施しました。(3月9日)

前編はこちら

 西川公也前農水相が、国から補助金を受けていた「精糖工業会」の関連企業を通して献金を受けていた問題は、政治資金規正法上の問題のほかに、増収賄の可能性も指摘されている。それも、TPPの圧力を利用した、悪質なものだ。

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、日本は米国、オーストラリアなど9カ国のあいだで、農産品や自動車、繊維などの関税を撤廃しようというものだ(※)。関税が撤廃されて海外の安い農産品が流入するで、日本の農家は太刀打ちできずに廃業を余儀なくされ、日本の農業は壊滅的な打撃を受ける。

(※)TPPは関税撤廃だけでなく、輸出大企業にとっての「利益」の障害とみなされる、教育や医療を守る様々な規制(国民皆保険制度や学校の民営化規制など)の撤廃を目指している。また知的財産権の保護強化や、遺伝子組み換え食品表示の撤廃など、大企業の利益のための様々な方策も検討されている。

TPPで「砂糖」の関税を守る見返りに「賄賂」を受け取った可能性

▲西川公也氏(2015年1月13日の定例会見で)

 関連企業「精糖工業会館」が、西川氏が代表を務める「自民党栃木県第2選挙区支部」に100万円を寄付した2013年7月17日は、なんと日本がマレーシアでのTPP交渉に初参加したわずか6日前である。この時、西川氏は自民党のTPP対策委員長であり、砂糖はコメや牛・豚肉などと並び、TPP交渉で政府が関税撤廃の対象外にするよう求める「重要5項目(聖域)」の一つだ。

 つまり、TPP交渉で「砂糖」の関税を守ってもらう見返りに、「賄賂」として迂回献金した疑いが極めて強いのだ。

 刑法197条1項は次のように定めている。公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。

 この問題について厳しい批判を展開している渡辺輝人弁護士は、自身のブログ記事でこう指摘している。 「国会議員であることがここでいう『公務員』に当たります。お金は当然『賄賂』になり得ます。あとは、西川氏が寄付を受けた2013年3月当時に、政府内でどのような権限を持ち、動いていたのかが問題になり、場合によれば『その職務に関し』て賄賂を受け取ったことになるかもしれないのです」。

 自民党のTPP対策委員長として西川氏は、全国の農家、農協、党内の農水族議員の声を代弁し、日本政府交渉団やその他の交渉国に要求する立場である。当時、自民党TPP対策委や衆参両院の農林水産委員会は、「農林水産分野の重要5品目などの『聖域』が確保できない場合、交渉からの『脱退も辞さない』とする決議を採択している。

 西川氏は「(政府には)党の決議を最大限尊重して交渉に当たってもらう」「なんとしても約束通り守る。この一言に尽きる」などと、農家に歩み寄る姿勢を強調していたが、その裏で、「賄賂」を受け取っていたとなれば、まさに農家の弱みや切実な思いにつけこんだ、悪質な行為といえる。

 「聖域」関連企業との蜜月関係はこれだけではない。2011年から13年のあいだに、西川氏は国内最大手の砂糖メーカー「三井製糖」や、豚肉や酪農の業界団体など9社から、計540万円の献金を受け取っているのだ。

TPPをめぐり「農家の味方」から「農家のなだめ役」に華麗な変節

 問題は、それだけではない。仮に「賄賂」を受け取っていたとなれば、それはそれできちんと追及されなくてはならない。しかし、「受け取ったカネに見合った仕事を約束通りにした」のではなく、カネだけ受け取って、素知らぬ顔でコロッと態度を変え、「約束」を果たさなかったのなら、それはそれで、政治的責任ちとは別に、道義的責任が別途、生じるのではないか。

 「聖域を死守する」と豪語していた西川氏はその後、重要5項目の細かい品目ごとに、「関税撤廃が可能かどうか」を検証することを発表。一転して論調をトーンダウンさせた。つまり、一方では農家の味方のような顔をし、こっそりとカネも受け取っておきながら、いざ交渉が大詰めにさしかかると、コロッと態度を変えたのである。

 この「変節」に党内外で大きな反発が起こった。農家からしてみれば、完全な裏切りである。

 西川氏は、いったいいくつの顔を使い分け、何枚の舌で話し分けてきたのだろうか。

 この方向転換によって、西川氏の「農家の味方」然とした姿勢が単なポーズに過ぎず、彼のになった役割は実のところ「農家のガス抜き役・なだめ役」であり、TPPという苦い毒薬(米国のグローバル資本にとっては甘い蜜)を国民にだましだまし飲みこませるための役回りだったことが浮き彫りとなった、といえるのではないか。

「自民党を敵にして農業が大丈夫だと思っているのか」参院選でTPPを盾に農家を恫喝

 もちろん、これら多くの献金がTPP交渉で、「関税撤廃の対象外にしてもらう」ための「賄賂」であったかどうかは、ここで断言することはできない。

 しかし、これまでの西川氏の言動を見ていくと、「農業を守る」と言いながら、その実、農政を「食い物」にし、TPPを使って農政に圧力をかけ続けてきた姿がありありと浮かび上がる。

 2013年夏の参院選を控えた同年5月30日、TPP反対を掲げるJA山形(県農協政治連盟)が、同じく反TPP参加を掲げる舟山康江氏(当時みどりの風政調会長)の推薦を決めた。これは当時、政権運営を盤石なものにしようと躍起になっていた自民党に大きな衝撃を与えた。しかも、「TPP反対」を掲げて農家票を取り込んできたのは自民党である。その自民党にJA山形が「自民党はTPP推進だ」と見限られたとあれば、全国の農家票がドミノ倒しのように自民党から離れる可能性があった。

▲舟山康江氏(2012年8月24日 「みどりの風」共同記者会見で)

 これに焦った西川氏は、翌日31日に山形に乗り込み、農業関係者や地元議員ら約50人を前に「いま自民党を敵にして農業が大丈夫だと思っているのか」と、恫喝ともいえる発言をしたのだ。

  • 毎日新聞 2013.06.02 「TPP:議論白熱 自民・西川対策委員長、県農政連に怒り /山形」(現在、当該記事の毎日新聞のWebページなし)

西川氏と政府の嘘を暴いていた舟山氏

 JA山形に推された舟山康江氏は、民主党議員時代から「反TPP」を掲げて精力的に活動してきた。「みどりの風」に移ってからもその姿勢は変わらず、2013年4月には超党派の国会議員や有識者らで構成された訪米団の一員として、ワシントンを訪問して米国のTPP関係者と会い、交渉を行った。

 同年5月9日に行われた報告会では、米国が「TPPに例外はなく、段階的関税撤廃とセーフガード設定だ」という強い姿勢を維持していることを報告。米国側が、日本が「聖域」を求めている事実を「ほとんど知らない」ことを紹介した。

 つまり、西川氏や政府の交渉団が「聖域を死守する」と日本国内向けには強調し、強い姿勢で臨むことを宣伝していたにもかかわらず、米国側にはこの段階では、「聖域」の存在すらアピールしていない弱腰姿勢だったことが、この報告で明らかになったことになる。舟山氏は、西川氏や政府のこの嘘を暴露したのだ。

 参院選で舟山氏は、25万票を獲得したものの、自民党新人の大沼瑞穂氏に2万票余りの差で惜しくも敗れた。

 さらにこの後、舟山氏を推したJA山形には受難が訪れる。

非自民を推したJA山形への「政府の報復」

 2013年7月21日の参院選投開票日のわずか9日後、山形県庄内地方の5農協に対し、コメの販売手数料カルテル(談合)疑惑で公正取引委員会が立ち入り調査を行ったのだ。

 農協関係者の間には「なぜ山形・庄内にこの時期に!?」との疑問の声が噴出。河北新報によると、県内のある農協幹部は「タイミングが良すぎる」と指摘。参院選で自民党と敵対したことへの報復ではないか、との憶測が広がった。

  • 河北新報 2013/7/31 「あり得ない」5農協困惑 山形・コメ手数料カルテル疑惑(現在、当該記事の河北新報のWebページなし)

 岩上安身が2015年2月8日にインタビューした、農業ジャーナリストで日刊『ベリタ』編集長の大野和興氏は、このJA山形への公取委の立ち入り調査について、「政府の報復だ」と断言した。そして、「そういう権力からのさまざまな圧力が、農協をびびらせる。今、農村にはあきらめの空気が充満しています」と語った。

▲大野和興氏(2015年2月8日 岩上安身のインタビューで)

県農政連、今は自民党と蜜月も「しょうがない…」IWJの取材に

 IWJが山形県農政連にこの件について取材をすると、担当者は、当時の異様な空気について、こう話した。 「この時は総理はじめ、大物が山形にどんどん乗り込んでパワープレイをしてきた。逆に政府・自民党の危機感の現れだったのだろう。自民党県連とはかなりぎくしゃくした」。

 しかし、山形県農政連は、今でもTPP反対の姿勢は崩していないものの、現在は、自民党とは反目することなく良好な関係を保っているという。担当者は、「身代わりが早いと言われるかもしれないが、我々は農家の声を代弁して政策を実現するのが目的。大原則は現職支持。闘いが終わればノーサイド。つまり政権与党とうまくやっていくということ。しょうがない…」と語った。

 西川氏の恫喝や、その後の公取委による立ち入り調査などが、農政連の姿勢にどのように影響したのかは分からない。しかし、大野氏が指摘するように、山形の農業関係者のあいだに萎縮やあきらめの意識が充満し、「しょうがなく」自民党にすり寄るしかない、という空気があるのは事実だ。

愛媛県松山市長選では農水予算を盾に露骨な票集め

 自らのTPP対策委員長というポストと、TPPのガイアツを盾に、農家を脅すという悪質極まりない行為を平然とやってのける西川氏。この姿勢は、その後農水大臣というポストを手に入れてからも、改まることはなかった。

 週刊ポスト(2014年11月14日号)によると、2014年11月16日投開票の愛媛県松山市長選において、現地入りした西川氏は、4000人の聴衆を前に、こう言い放ったという。 「必ず当選させて下さいますように。これがなかったら農林水産業の予算つきにくいからね。(予算を)減らすとはいわない。つきにくい。そういうことでございまして、皆さんにお願いをしてご挨拶にさせていただきます」

 農政のトップでありながら、農水予算を盾に農家を脅し、露骨に票を得ようとする西川氏。しかし、農家を守るという公約はいざとなれば知らん顔というのでは、いただけない。日本の農業を食い物にして、自身が肥え太ることだけが自己目的と化してはいないか。「日本の農家がどうなろうが知ったこっちゃない」と考えているのだろうか。

「今の農家は潰していい」本音を語った西川氏

 この西川氏がもらした本音を暴露した人物がいる。元農水大臣の山田正彦氏である。

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“【辞任で「幕引き」はかる西川前農水相】「今の農家は潰していい」と言い放った西川氏、TPPをたてにした「増収賄」の可能性も 農政を「食い物」にしてきた過去” への 1 件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    【辞任で「幕引き」はかる西川前農水相】「今の農家は潰していい」と言い放った西川氏、TPPをたてにした「増収賄」の可能性も 農政を「食い物」にしてきた過去 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/238061 … @iwakamiyasumi
    安倍政権を象徴するような卑怯な振る舞い。恥を知れ!

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