「米兵は自動小銃、日本兵は旧式単発銃。大本営は大和魂で行け、と」 〜日中戦争と沖縄戦の戦場体験を聞く 2014.4.27

記事公開日:2014.5.8取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「戦争になったら、誰が犠牲になるのか。戦争とはどんなことで、天皇はどうであって、統治はどういうことだったと、ちゃんと教えないといけない。日本は憲法9条を守り、コスタリカのように国家予算の3分の2を福祉と教育に使うべき。戦争は、絶対起こしてはならない」──。

 2014年4月27日、大阪市北区のPLP会館で、「元日本軍兵士の証言 日中戦争と沖縄戦の二つの戦場体験を聞く ~第3回連続講座『戦争を忘れない』」が行われた。元日本兵で、中国、沖縄の前線で戦った近藤一氏と、「山西省明らかにする会」の加藤修弘氏が講演した。95歳の近藤氏は、戦場で体験した日本軍の加害行為を語り、戦争の悲惨さを訴えた。

 加藤氏は、山西省明らかにする会(正式名称:山西省内における中国侵略旧日本軍の性暴力の実情を明らかにし婦人たちと共に進む会。1996年発足)で、中国人の性暴力被害者を支援している。2000年から11回、近藤氏と中国に同行。「政府はともかく、市民レベルでの交流が日中友好のカギだ」と語った。

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※中継時の通信トラブルにより、音声と映像にズレが生じております。ご了承ください。

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  • 収録 2014年4月27日(日)
  • 場所 PLP会館(大阪府大阪市)
  • 主催 ピースおおさかの危機を考える連絡会

二度と戦争をしない教育にもっとお金を使うべき

 今回、近藤氏は体調が優れず、来場せずにスカイプ中継で話すことになった。主催者が「近藤氏は現在95歳。三重県の兼業農家で育つ。20歳で中国出兵、沖縄へ転戦。米軍の捕虜となり、終戦を迎えた」と紹介した。

 近藤氏は、軍隊で体験した中国人殺害の様子、自らも殺害に加わったことなどを語り、「(戦後の日本は)戦争の真相を、ちゃんと子どもたちに教えていない。それは隣国と仲良くやっていくためにも重要である。憲法9条の素晴らしさを讃え、二度と戦争をしないような教育に、もっとお金を使うべきだ」と訴えた。

 そして、「敵兵を殺していく時、罪悪感は何もなかった。むしろ『やったー』と喜んでしまう。周りには、出世にかまける幹部たちも大勢いた」と、戦場での兵士の心理を振り返った。

非人間的な行為を訴えたい

 「昭和19年、上海から沖縄に移動した。最初、あまりに美しいところなので、天国に来たと感動した。1945年4月1日、5キロ先で米軍の沖縄上陸が始まり、水陸両用戦車に、まず驚いた」。

 「最前線では、アメリカ軍は自動小銃で一斉に撃ってくる。対する日本兵は旧式単発銃で応戦するしかない。それでも大本営は、大和魂で行け、と言うだけ。こんな指導者では、部下は死んでも怒りが醒めやらない」。

 沖縄戦について、このように語った近藤氏は、「非人間的な行為を訴えたい。憲法9条を守る、平和を守ることが、自分たちの責任ではないかと考えて、『兵士たちの沖縄戦を語る会』を結成した」と述べた。

いつも泣いてしまう、沖縄戦「中塚伍長の悲劇」

 続いて、加藤氏がマイクを握った。加藤氏は1歳の時、横浜空襲で母を亡くした。『あの日、火の雨の下にいた ―私の横浜空襲』の著者であり、近藤氏からの聞き書きの共編著『ある日本兵の二つの戦場―近藤一の終わらない戦争』にも関わっている。

 加藤氏は、まず、近藤氏について、「戦場で死んでいった戦友たちに代わって、生き延びた自分の無念さから戦争反対を訴えている。そのことがはっきりわかるのが、沖縄戦での中塚伍長の悲話だ。近藤氏は、そのくだりを話す際には必ず泣いてしまう」と述べ、次のように紹介した。

 「沖縄で62師団に配属された近藤さんたちは、『死ぬなら火炎放射器(焼死)ではなく、銃弾で死にたい』と願うくらい熾烈な決戦となった、首里城防衛にあたった。残された作戦は、20キロの爆弾を背負って戦車に体当たりをする肉攻(肉薄攻撃)しかなかった」。

 「そして、近藤さんが一番信頼していた中塚伍長が、ついに肉攻で出撃となり、最後に振り向いて、『こんな愚かな作戦で死んでいくのは耐えられない』と言ったという。こういう思いを背負って生きてきたのが、近藤さんたちだ」。そう語りながら、加藤氏も言葉を詰まらせた。

裸女のいる隊列

 次に加藤氏は、1940年12月、山西省に八路軍掃討のため進駐した、という近藤氏の話に補足した。「近藤さんたちの部隊が進軍し、ある村で女性を強姦し、そのまま裸で赤ん坊を抱かせながら、部隊で連れ回した。やがて女性が弱ってしまい、扱いに困ると、いきなり1人の日本兵が赤ん坊を谷底に放り投げた。そうしたら、その女性も、後を追って身を投げた」。

 「これに似た小説に、田村泰次郎の『裸女のいる隊列』があるが、この悲劇を聞いたのではないだろうか」。そう語る加藤氏は、「日本軍がそんなことをするはずはない」と否定した、大宅壮一ノンフィクション賞受賞者で国文学者の尾川正二氏の意見に批判を述べた。

兵士の犯罪の温床「高度分散配置」戦術

 加藤氏は「日本軍の師団は1万2000人~1万5000人くらいで構成される。近藤さんが入営した独立混成旅団とは、日中戦争の長期持久戦のために作られたミニ師団相当の部隊だ」と、当時の日本陸軍の構成を解説し、このように指摘した。

 「北支那方面は、八路軍に対し『高度分散配置』という戦術をとった。前線へ分散配置される少人数の部隊は、人員不足で軍規も守られず、性暴力なども数多く行なわれ、犯罪の温床になった」。

 最後に、近藤氏と訪中した山西省などの写真をスライドで見せ、「この中には、戦争での性暴力被害者が多くいた。年々、亡くなっていく彼女たちのためにも支援は続けていきたい」と話して講演を終えた。

市民レベルの交流が日中友好のカギ

 休憩後、質疑応答に移った。「山西省で調査を始めたきっかけは?」という質問に、加藤氏は「(日本軍の元慰安婦だったと名乗り出た)万愛花さんの講演に行ったこと。彼女は会場で突然、上半身裸になり、自分の体の傷を見せて、『金銭目当てで名乗り出たのではない』と訴えた。これにショックを受け、自分の目で確かめるために訪中した」と答えた。

 また、「加害・被害」という言葉について問われると、「幼い頃、横浜大空襲に遭い、母親は黒焦げになり焼死した。それを大人たちに聞かされ、被害者意識が強い少年時代だった。大学で歴史を学び、戦後の補償問題に関わるようになった」と自らの体験を語った。「近藤氏の原点も、被害者意識だと思う。戦死した戦友たちを犬死にさせたくない、彼らの死が無駄ではなかった日本を作りたいという、切なる思いが彼を駆り立てている」。

 その上で、「国家として、中国への加害者としての責任を決着させないと、日本の被害も語れない。そういう意味では、近藤氏らは二重の被害者だ」と述べた。

 中国の性暴力被害者へ支援を続ける加藤氏らに対し、中国の人々は「日本の右翼に襲われるのではないか」と心配してくれるという。加藤氏は「政府はともかく、市民レベルでの交流が日中友好のカギだ」と力を込めた。

ピースおおさか「政府見解」で日本の加害展示を撤去

 最後に、ピースおおさかの危機を考える連絡会のメンバーから、大阪国際平和センター(ピースおおさか)リニューアル問題について、報告があった。ピースおおさかは、戦争と平和に関する多くの資料を収集・保存・展示していたが、日本側の加害の歴史を展示した部分が批判され、リニューアル計画が進んでいる。

 「昨年4月、日本がアジアで犯した加害展示をなくす、子ども目線で見て残酷な表現はやめる、などのリニューアル構想が発表された。さらに今年2月、『政府の統一的見解』という文言が、突然、リニューアル案に加えられた。教科書に国の統一見解を反映させるという、今の政府の考えが背景にある」と述べて、安倍政権に追随するような改装計画に懸念を表明。大阪市長と大阪府知事へ提出する抗議文案を読み上げた。

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「「米兵は自動小銃、日本兵は旧式単発銃。大本営は大和魂で行け、と」 〜日中戦争と沖縄戦の戦場体験を聞く」への1件のフィードバック

  1. 目的のない戦争で死ぬのはごめんだ より:

    感情をこめるとときに論理を超えてしまうので整理してみます.
    1.非武装市民からみたら兵士はみな加害者
    中国においても,沖縄においても非武装市民からみたら兵士は戦争の加害者です.沖縄で米兵から非武装市民をまもったとはいえません.中国から,沖縄から出された兵士も加害者であり,戦争に加担した事実はかわりません.確かに中国と沖縄は異なります.ただそもそも兵士は何をする「仕事」でしょうか.
    2.目的のない戦争で人は死ぬ
    兵士にはわからなかったのではないでしょうか.
    大本営も関東軍にしても中国を占領し傀儡政権をつくるために何十万人の日本兵を送り込んだのでしょうか.当時の中国の首都南京を占領する意図は単に「中国に勝ちたかった」以上の理屈はないと思います.
    派遣された兵士は目的もはっきりしないまま戦ったという意味では,被害的になるのもやむをえないと思います.
    3.元兵士は,戦前は「話すな,言うな,反対するな」の言論統制,戦後は「戦争は終わった,軍人の話は聞きたくない,いまさら蒸し返すな」と言われてきたと思います.なお体験と語りを風化させないことは大切です.
    あらゆる戦争を殺人とみる見方をそらさずにいたいと思います.
    4.現在の集団的自衛権行使の話に飛躍してみます.
    対中国関係の悪さ,米国がアルカイダはじめ国際テロ組織に狙われている現実からみて,日本が「米国の傘」のもと集団的自衛権行使にいった際には,中国の非難,アルカイダのテロを警戒する必要があります.日本を守る目的以外に,戦争して国際秩序をたもつために国内世論をまとめあげるには,安倍政権は急進的すぎると思います.原則はごもっともですが理念で論争しても実感で動く国民はいつも動きが遅れてしまうのです.現在の不安的な日本国内の雰囲気から見て,残念ながら戦争の犠牲者がでて世論が割れないと議論にならないとさえ思います.

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