あの草案には「安倍首相の譲歩」が加味されている ~中島岳志氏、自民党「改憲戦術」を読む 2013.12.15

記事公開日:2013.12.15取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

特集 憲法改正

 12月15日、滋賀県大津市のピアザ淡海ピアザホールで「憲法を考えるユースフォーラム2013」が行われ、コメンテーターの中島岳志氏(北海道大大学院准教授)が客席に向かって、「昨年4月に発表された『自民党改憲草案』に影響され過ぎるな」と呼びかけた。

 自民党改憲草案を巡っては、メディアや市民有志らが、すでに「公園で流行歌を大声で歌っただけで、公共の秩序を乱したことを理由に、逮捕されることもあり得る」などと、その危険性を訴えているが、中島氏は左派を中心にしたこうした動きは、一歩間違えれば「安倍改憲」の支援材料になってしまう、と警鐘を鳴らす。

■ハイライト

  • プレゼンテーション・寸劇と討論(後半は録画に含まれません)
  • プレゼンテーションまとめ
    コメンテーター 雨宮処凛氏(作家、反貧困ネットワーク副代表)/中島岳志氏(北海道大学大学院准教授)
    コーディネーター 川本勇氏(ミュージシャン、メディアプロデューサー)
  • 音楽 川本勇氏

 前半は、プレゼンテーション(寸劇)と議論のセットで進行した。寸劇は8つあり、それぞれに「自由って誰が決めるの」「家族は大事。でも…」「『個人』と『人』は一緒?」などとタイトルがつけられている。どれも、自民党草案通りに憲法が変わると、自分たちの暮らしにどんな「不都合」が生じるかを、若い有志が役者となって表現するものだ。

 たとえば、「自由って──」では、人権にかかわる草案第21条が取り上げられている。舞台は「表現の自由」が制限された、数年後の日本で、1人が「つい先日、原発反対を主張するデモを行った市民グループが、逮捕されたが」と友人に水を向けると、その友人が「原発推進という政府の方針に、反対するようなことをするからだ」と応じる、といった内容だ。

 この、最初の寸劇を見た後、中島氏は「自民党草案に影響され過ぎるな」と発言をしたのである。寸劇では、公園で流行歌を歌っただけで逮捕される可能性も指摘されている。

反対なのは「改憲」? それとも「草案」?

 中島氏は、今の憲法は時流に見合わなくなっている部分があるとし、自身が「護憲主義者」でないことを表明しつつも、「安倍政権がやろうとしている(民意を排除する)解釈改憲には大反対だ」と語気を強め、さらにまた、「自民党のあの改憲草案は、あえてボールを高めに投げたものだ」とも。

 その高めのボールに国民が過剰に反応し、「反対」の大合唱が起こることを、安倍首相は想定済みというのである。つまり、安倍首相が、次に国民に向かって投げる、改憲の度合いをやや抑えた2球目こそが、本丸の改憲草案であり、1球目に過剰に反応した国民の目には、それが「リベラル」なものに映ってしまうと、中島氏は警告する。「(護憲派が)反対の矛先を向けるべきは、今の自民党草案ではなく、そもそも安倍政権がやろうとしている憲法改正であることを、忘れてはならない」。

 2球目に「やや低めのボール」を投げてくる安倍首相を、大多数の国民が「われわれの声を聞き入れてくれた」と好感したら、それは、護憲派が安倍政権の術中に陥ったことを意味する、と中島氏。先般スピード成立した「特定秘密保護」の問題と、改憲による「表現の自由」の問題は直結する、とも語り、「どちらも、権力側の恣意性が反映されるためだ」と強調した。

 その上で、「安倍政権は、国民の間に『自主規制』の効果を広めようとしている」との見解を示す中島氏は、「すでに成立した秘密保護法はもとより、改憲が実現した暁にも、安倍政権は、何件か象徴的な逮捕を行うことで、一般市民やメディアを『萎縮』させることを目論んでいるに違いない」と力を込めた。「その萎縮が広がれば広がるほど、国民の側が、勝手に『自由』を自主規制してくれるからだ。これこそが、もっとも効率的な国家権力の施行法である」。

「家族主義」が日本の家族を崩壊させる

 「家族主義」の強要につながる、との批判を集めている草案第24条を扱った寸劇「家族は大事。でも…」へのコメントでは、「生活保護」が話題に。もう1人の登壇者、雨宮処凛氏(作家)は「秘密保護法成立の喧騒の裏で、生活保護法の改正案が、ひっそりと成立してしまった」と懸念を示し、「これはまさに『水際作戦』で、役所に対し、生活保護申請者の親族の経済事情を調査できる権限を与える改悪だ」と吐き捨てた。

 改正のポイントは、1. 申請の厳格化、2. 近親者による扶養の義務化に、雨宮氏が指摘した 3. 行政の調査権限強化──を加えた3つだ。改正案は、6日の衆院本会議で、自民党、公明党などの賛成多数で可決、成立。共産党と社民党は反対した。雨宮氏は「すでに政府与党は、社会保障費削減のために(扶養義務型)『家族主義』実現のアクセルを踏んでいる」と訴えた。

 雨宮氏の発言を受け中島氏は、この改正でも安倍政権は、国民の間への「自主規制効果」の浸透を狙っている、と指摘する。「ホームレスなど生活困窮者の中には、自分の現状が親や兄弟に知られることを、忌避する人が大勢いる」と自身によるフィールドワークの結果を伝え、「今後は、そういった生活困窮者の中から、自分の家族が役所に調査されるのが嫌だから(=調査を通じて、今の自分の窮状が家族にバレるのが嫌だから)、生活保護の申請を自発的に断念する人が増えるだろう」と予見するのだった。

 自民党が、扶養義務型の「家族主義」の精神を、国民の間に植えつけようとすればするほど、日本の家族は「崩壊」へと向かうと、中島氏は語気を強める。「自分の生活だって楽ではない一家に対し、役所が『ホームレス状態の兄や弟の面倒を見ろ』と迫るようになったら、その近親者との『縁』を切る動きが続出するのではないか」と危惧し、安倍政権に対し、「家族を本当に大切なものと認識しているのなら、社会保障制度の最後の安全網である『生活保護』のハードルを高めるべきではない」と主張した。

「このままでは左派は負ける!」

 短い休憩を挟んで、始まった集会後半では、中島氏と雨宮氏がパネラーとして、川本勇氏(メディアプロデュサー)が司会として登壇し、討議が行われたが、ここでも中島氏による洞察力に富んだ議論が、客席の耳目をさらった。

 「安倍政権が発足して以来、左派の人たちは『護憲』の立場を強調しているが、(日本の憲法は先進的だなどと)『教条主義』に寄りかかったアピールでは、安倍政権に簡単に覆されてしまうだろう」──。開口一番、こう切り出した中島氏は、日本の左派に対し、次のように苦言を呈した。

 「『集団的自衛権行使』の容認に反対するなら、外国の軍隊が、国境を越えて日本に攻め入ってくる可能性があり得る以上、そこまで踏み込んだ議論に慣れ、理論を構築しておかねばならない。それが不十分なら、今の日本人の多くは、安倍首相の主張を支持するだろう」。

 「左派の人たちは、もっと違う価値観の人たちと積極的に交流し、議論の力を鍛えほしい」と注文をつけた中島氏は、TPP(環太平洋経済連携協定)の問題にも触れ、「TPPの本質的問題は『関税』の部分にはない」と強調した。

 米国に暮らした経験がある中島氏は、食品安全基準は、米国より日本の方が厳しいと指摘した。そして、「米国は日本に対し、『TPPでは、この基準を統一しよう』と言ってきている。それも、米国の水準に合わせるという内容で、だ」と説明し、「米国のこの主張は、けっこうな可能性で通ってしまうだろう。そうなれば、日本の食品メーカーの間に、たとえば『遺伝子組み換え食品』で、従来のような明示を行わない動きが起こるだろう」と占う。

「グローバル経済」は民主主義と相性が悪い

 では、仮にそうなったら、日本の消費者はどうするか。これまでだったら、巷間に「これは、まずい」との機運が高まり、最終的には国会議員に対し、「明示義務の法制化が行われるよう、努力してほしい。努力してくれなかったら、次の選挙であなたに投票しない」と、署名の山を持参した市民有志が迫るのが常。しかし、中島氏は「この件では、そうならない」と断言した。「議員からは『これはTPPで決まったことなので、日本の政治では、どうしようもない』のひと言が返ってくるだけだ」。

 中島氏はその理由を、「立法機関を越えた『グローバル・スタンダード』の名の下で、TPP関連の条項が決められているからだ」と説明する。「TPPは、日本の民主主義をやせ細らせるものであり、それは『主権の外部化』と表現することも可能である」とし、「世に言う『経済のグローバル化』は、国民国家という枠組みとセットで作られてきた『民主主義』とは、極めて相性が悪い」と指摘。その上で、次のように力を込めた。

 「グローバル・スタンダードの名の下に、さまざまなことが決まっていけばいくほど、私たちは主権(=民主主義の屋台骨)を失うことになる。それは、憲法が最高法規であると明記している『憲法98条』が、蔑ろにされることを物語る」。

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