【IWJブログ】原発を抱えたまま戦争の準備を進める愚かしさ~岩上安身による京都大学原子炉実験所・小出裕章氏インタビュー 2013.10.7

記事公開日:2013.10.7 テキスト動画
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 安倍総理は9月8日のIOC(国際オリンピック委員会)総会で行ったプレゼンテーションで「福島第一原発の汚染水による影響は完全にブロックされている」「状況はコントロールされている」と、全世界に向けて明々白々の「嘘」を語った。しかし、汚染水は「コントロール」されるどころか、貯蔵タンクからの漏出が続き、その一部は排水溝を伝って海洋に流出したと見られている。

 京都大学原子炉実験所の小出裕章氏は、2011年3月11日の事故直後から今日の事態を予測し、「汚染水は原発敷地内のタンクに貯蔵するのではなく、タンカーで廃液処理施設がある柏崎刈羽原発に運ぶべきだ」と主張していた。私は小出氏によるこの提案を、会見で東電に直接ぶつけている。しかし、東電側がこの提案を取り入れることはなかった。

 10月3日、大阪府熊取町の京都大学原子炉実験所で、私は事故直後の2011年4月1日に初インタビューをして以来、通算6回目となる小出裕章氏へのインタビューを行った。福島第一原発の汚染水問題の他にも、まもなく使用済み核燃料の取り出しが始まろうとしている4号機の状況、立命館大学の山田廣成教授が提唱している鉛を使った収束方法の実現可能性、新潟県柏崎刈羽原発の再稼働問題、そして、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認など急速に「軍事国家」化を図る安倍政権の外交・安全保障政策まで、幅広くお話をうかがった。

■ハイライト

■動画記事本編はこちらからご覧ください

以下、インタビューの実況ツイートをリライトし再構成したものを掲載します

汚染水、「漏れるのは当然」

岩上安身(以下、岩上)「福島第一原発の発災直後、私はすぐに小出先生にインタビューをしました(※1)。そのとき、すでに小出先生は汚染水の話をされていました。

 先生は、とにかく早く炉心を水で冷やすべきだということ、そして汚染水を、廃液処理施設がある新潟県の柏崎刈羽原発にタンカーで持っていくべきだとお話されました。

 私は、小出先生のこの主張を東電にぶつけています。しかし、東電側はできません、と」

小出裕章氏(以下、小出・敬称略)「海水でも構わないので、とにかく早く水を入れてくれと言いました。しかし、溶け落ちてしまった炉心に水をかければ、放射能汚染水が生まれるのは当然のことです。

 そこで、私は汚染水をタンカーで外に運び出すべきだと主張しました。原発敷地内にタンクを作っても、増え続ける汚染水を保管するには間に合わないだろうと思ったのです。

 福島第一原発の汚染水は、最近になって問題になっているかのように報じられています。しかし、汚染水というのは、事故直後から重大な問題だったのです。2011年5月の段階で、汚染現場と地下水の接触を断つよう遮水壁を作るべきだと提案しました。しかし、東電は、株主総会が間近に迫っていたことを理由に、遮水壁の設置を見送っていたのです(※2)」

(※2)原発事故当時、首相補佐官として官邸で対応にあたっていた民主党の馬淵澄夫議員は、東電が2011年6月の段階で遮水壁の設置を検討しながらも着工を先送りしていたと証言した。株主総会を控えていた東電が、約1000億円と試算した費用負担に対して懸念を表明。当時の菅直人総理も東電側の意向を受け入れたという。

岩上「福島第一原発敷地内のタンクからは、なぜ汚染水が漏れてしまうのでしょうか。お金をかけずに作ったのではないか、という報道もあります(※3)」

(※3)汚染水漏れ:「タンク、金かけず作った」協力会社社長証言 毎日新聞、2013年8月15日(記事リンク切れ)

猛烈な被曝現場だからこそ、簡易型タンクしか作れなかった

小出「敷地内でタンクをしっかりと溶接することは非常に難しいのです。なぜなら、現場は大変な被曝環境だからです。だから東電は簡易型のタンクを作りました。しかし、そんなものを作れば、漏れるのは当然のことです」

岩上「ALPS(多核種除去装置)も、たびたびトラブルに見舞われています」

小出「東電は、ALPSによって汚染水の浄化をしようとしています。しかし、これもすぐに故障してしまっています。タンクと同じように、本格的な設備を作ろうとしても、現場の作業員が大量の被曝をしてしまうので、しっかりと組み立ての作業ができないのです。

 それに、ALPSがたとえ稼働したとしても、海に流せるだけ放射性ストロンチウムを取り除くことはできないかもしれない。仮にできたとしても、トリチウムという物質に関しては、ALPSはまったくの無力です」

格納容器の中は誰も分からない

岩上「先日、立命館大学の山田廣成先生にインタビューしました。山田先生は、汚染水の増加を防ぐために、原子炉に鉛を投入するというプランを提案しています(※4)」

(※4)

小出「私も山田先生から直接お話しを聞きましたし、事故直後にもヨーロッパの研究者から金属で冷やせという提案を受けました。金属は崩壊熱が高いので、私は事故直後には水の投入をするべきだと言いました。しかし、2年半たって崩壊熱は数百分の一に減ったので、鉛や錫(すず)を投入することは有効かも知れません」

散らばった炉心を鉛ですべて固められるか不安が

小出「しかし、それにはいくつか不安な点があります。

 現在、福島第一原発の炉心は、格納容器の中で溶け落ちてしまっています。政府と東京電力は、格納容器の底にはコンクリートがあり、まだ30センチ残っていると主張しています。しかし、格納容器のフタを開けて中を見ることは誰にもできないのです。

 格納容器の中は、大変な動的環境にあります。大量の水をかけて冷やしているので、大変な量の蒸気が常に発生しています。

 国と東電は、溶け落ちた炉心が格納容器の底に溜まっていると主張していますが、私はそうではないと思う。炉心は溶け落ちて分散し、格納容器の中に散らばっているのだと思います。だから、鉛を入れたとしても、散らばった炉心をすべて固めることはできないかもしれない。

 それに、電力会社はこれまでに、鉛などの金属を格納容器に入れるということなど考えたこともありません。だから、そのためのポンプもないのです。既存の設備でやるしかありません。しかし、そんなことができるのか。

 今のままでは、格納容器のフタを開けることがまずできません。フタを開けた途端、大変な量の放射能が外部に放出されるからです。そうなると、作業員の大量の被曝は避けられません」

東電が柏崎刈羽を安全に再稼働できる「道理がない」

岩上「安倍総理は、政府が全面に出て解決すると言いました。しかし、そんなことが可能なのでしょうか」

小出「前提として、東電に任せることはできません。なぜなら、東電は一企業にすぎないからです。国が責任を持って解決するためには、まずは東電を倒産させて、その代わりに国が費用をすべて負担すると表明しなければいけません。しかし、今の国がそのようなことをできる状態にあるわけではありません」

岩上「そのようななかで、東電は柏崎刈羽原発の再稼働をしようとしています。先日、東電の廣瀬社長が新潟県の泉田裕彦知事と面談(※5)し、その後、泉田知事は条件付きでの安全審査申請を了解しました」

小出「柏崎刈羽原発が安全に稼働できるなどという道理がありません。いまだに、福島第一事故の原因すら明らかになっていないのです」

(※5)

広島原爆1万4千発分の放射能が眠る4号機使用済み核燃料を無事に取り出せるか

岩上「福一の4号機について。使用済み核燃料の取り出しがようやく始まろうとしています」

小出「4号機のプールには、広島に投下された原爆1万4千発分の放射能が眠っています。東電は、今年の11月から、使用済み燃料をプールからクレーンで吊り出す作業を始めます。

 しかし、使用済み燃料の回りには瓦礫が転がっていますし、燃料自体が破損しているかもしれません。1331本の燃料を一つひとつキャスクに入れて移動させるのです。大変困難な作業になります。

 さらに、4号機の取り出し作業が終わっても、1号機、2号機、3号機で同じことをしなければなりません。しかし、その具体的な工程を、国も東京電力も示すことができていません」

原発を抱えたまま戦争をするなんて馬鹿げている

岩上「最後にお聞きしたいことがあります。現在の安倍政権は、まさに軍事国家に突き進んでいるように思えます。秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、日本版NSC構想、さらには敵基地攻撃論まで言われ始めました。

 私が入手した日米軍事演習『ヤマサクラ』の見積もり書によれば、中国と北朝鮮を仮想的とした戦闘が若狭湾で行われることが想定されています。

 ところで、若狭湾には原発が並んでいます。日本は、原発を抱えたまま戦争をしようとしているのです。私は『原発×戦争』リスクということをずっと言っているのですが、なかなか理解してもらえません」

小出「原発を抱えたまま戦争のシュミレーションをするなど馬鹿げています。軍事に関わっている人が、原発の存在を許す理由が分かりません。

 戦争をするということは、米国についていくということです。しかし、日本はいまだに米国の属国です。米国の属国状態から抜けだそうとした政治家は抹殺されてきました。鳩山由紀夫さんも小沢一郎さんもそうでした。米国の属国のまま、政治も経済もマスコミも動いてしまっているという現状があります。まずは、米国との関係をしっかりと見直す必要があると思います。

 秘密保護法が成立してしまうと、原発の情報がこれまで以上に出なくなると思います」

岩上「絶望的なことばかりですが、最後に何か希望のあることをお願いします」

小出「福島では、今でもくじけずに戦おうとしている方がいます。そして、全国で支援する方々もいる。決して、希望がないわけではないと思います」

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「【IWJブログ】原発を抱えたまま戦争の準備を進める愚かしさ~岩上安身による京都大学原子炉実験所・小出裕章氏インタビュー」への3件のフィードバック

  1. punnyan より:

    小出さんが、福島第一原発の処理指導者になることを切に願います。。。

  2. 弓場清孝 より:

    中越沖地震直後の柏崎刈羽原発が放出した放射性物質は公表はされているものの私は懸念しています。私が地震直後から働いていた当時、地下トレンチ内で処理させられた水はいったいどのような水だったのでしょうか。人体に影響するような水ではなかったのでしょうか・・

  3. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    【IWJブログ】原発を抱えたまま戦争の準備を進める愚かしさ~岩上安身による小出裕章氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/105637 … @iwakamiyasumi
    このリスクを抱え、最悪の事態を迎えたとき、日本という国はなくなっているだろう。悔やんでも遅いのだ。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/904665958681198592

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