「大量の汚染水流出は3.11当時から分かっていたこと」小出裕章氏が岩上安身によるインタビュー 第357回で、福島第一原発に安全のお墨付きを与えた自民党・安倍総理の責任を追及 2013.10.3

記事公開日:2013.10.6取材地: テキスト動画独自
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(IWJ 平山茂樹・佐々木隼也 /テキストスタッフ・久保元)

特集 3.11から11年!『ウクライナ侵攻危機』で、IWJが警告し続けてきた『原発×戦争リスク』が明らかに!
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  放射能汚染水の漏洩問題で危機的な状況が続く福島第一原発。京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏は、2011年3月11日の事故直後から、今日のような汚染水の漏洩を懸念。汚染水を福島第一原発敷地内のタンクに保管するのではなく、タンカーで廃液処理施設のある新潟県の柏崎刈羽原発まで移送するべきだと主張していた。岩上安身はこの小出氏の主張を東電に質問としてぶつけたが、東電側はその計画の実現を否定していた。

 2013年9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会で、安倍総理は「汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされている」「状況はコントロールされている」と世界に向けて発表した。しかし、2015年現在に至ってもなお、大量の高濃度汚染水が港湾外(外洋)に漏出し続けている。東電は2014年4月には漏出を把握しながら、1年間公表せず、何の対策も講じていなかったことも判明した。

 安倍総理の「アンダーコントロール」発言が真っ赤な嘘であるばかりか、政府も東電も、本気でコントロールしようとすらしていない。

 2013年10月3日に岩上安身のインタビューに応えた小出氏は、「溶けた炉心を冷やそうとして水をかければ、その水が今度は汚染水になるということは当たり前のことなのであって、冷やせば冷やすだけ汚染水が増えてしまう。当然なのですね。その当然のことを2年半し続けてきたのです」と語り、呆れた様子で政府・東電の対応を批判した。

 また、汚染水を保管している福島第一原発の溶接型タンクも連日のように漏洩を起こしていることについても、「現場は大変な被曝環境。長時間作業し、しっかりと溶接するのは難しい」と指摘した。

 終盤、先述の「アンダーコントロール」発言について話が及ぶと、小出氏は強い口調で安倍総理を批判した。 「もともと、福島第一原子力発電所に、安全だとお墨つきを与えたのは、自民党政権です(※)。そのお墨つきを与えた原子炉が爆発して、何十万人もの人が、今、苦難のどん底にいる。では誰が責任を取るべきなのかといったら、自民党政権のトップである安倍さんが、責任を取らなければいけないはずだ」

(※)そもそも地震や津波などによるメルトダウンの危険性を無視し、対策を講じようとしなかったのは、第一次安倍内閣である。2006年12月13日、日本共産党の吉井英勝衆院議員が、津波や地震によって原発の炉心冷却機能が失われ、メルトダウンをもたらす危険性を警告する質問主意書を提出した。

 これに対し12月22日付けの安倍内閣の答弁書は、「地震、津波等の自然災害への対策を含めて原子炉の安全性については、経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期している」とし、メルトダウンをもたらす燃料損傷の可能性についても、その評価すら行わないと答えている

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■全編動画

簡易型タンクは漏れるのが当たり前

 インタビューの冒頭、両者は、福島第一原発事故の発生直後に、岩上が小出氏にインタビューした際の内容として、汚染水の問題が必ず発生することを当時から問題視し、浄化設備のある新潟県の柏崎刈羽原発にタンカーで汚染水を運ぶ案を提起したことなどを振り返った。これについて、小出氏は、「冷却には水が適している」とする一方で、「溶けた炉心に水を入れると汚染水は当然発生する。タンクを造っていたのでは間に合わないので、タンカーによる新潟への移送を提案した」と述べた。事故現場でタンクを造ることについては、「現場は過酷な被曝環境にあり、溶接作業は困難。そのため、東京電力は(ボルト止めの)簡易型タンクを造ったが、これでは漏れるのは当たり前だ」と指摘した。

鉛などの金属を入れることは、電力会社は考えていない

 岩上が9月20日にインタビューした立命館大学特任教授の山田廣成氏が、事故を起こした原子炉に、水ではなく鉛の粒を注入する案を提示していることについて、小出氏は「事故によって、炉心はすべて溶け落ちた。溶け落ちた炉心が固まりになっているわけではなく、分散していると考えられる」とし、鉛の粒による冷却や遮蔽効果には懐疑的な見方を示した。特に、鉛の粒を注入する方法について、「鉛などの金属を(炉心に)入れることを、電力会社は考えていないので、そのためのポンプもない」とした上で、既存のポンプ設備で対応する場合のトラブル発生に懸念を示したほか、金属粒注入用のパイプを新設する方法を採った場合にも、作業員の大量被曝が避けられないことに懸念を示した。

小泉氏による「脱原発」の発言は評価

 脱原発に対する政治家の取り組みについては、生活の党代表の小沢一郎氏が、5月末に小出氏のもとを訪ねて対談した際に、脱原発を明確に表明したことを振り返り、「大変ありがたいと思った」と述べた。一方、このところ、元首相の小泉純一郎氏が講演会の場などで、脱原発の必要性を繰り返し表明していることについては、「個人的な好き嫌いを言わせていただくと、私は小泉さんのことは嫌いだ。ただ、今、彼が言っていることは正しい」と評価した。その理由として、小出氏は、「原発ゼロを主張するのは無責任だ」との批判に対し、小泉氏が「始末のできないゴミを生み出す(原発の)ほうが、はるかに無責任だ」と切り返したとされることを挙げ、小泉氏による脱原発の姿勢については、歓迎する姿勢を示した。

柏崎刈羽を安全に稼働できる道理などない

 東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働をもくろんでいることについては、「安全に稼働できる道理などない。なぜならば、いまだに福島第一原発事故の原因すら明らかになっていないからだ」とした。また、汚染水を食い止めるための遮水壁については…

※サポート会員用記事に全文文字起こしを掲載しました(2014年5月15日)。

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「(凍土方式ではなく)コンクリートや鋼鉄を用いた適切な遮水壁を造るべき」としたほか、11月から行われる予定の、4号機使用済燃料プールからの燃料棒取り出しについて、不安視している心情を明かした。

原発を抱えたままでの戦争シミュレーションはバカげている

 インタビューの終盤、「安倍政権が軍事国家への道を歩んでいる」という点について、両者がともに憂慮の念を示した。また、日米共同の図上軍事演習である「ヤマサクラ」において、主に北朝鮮を仮想敵国とし、福井県の若狭湾が戦闘地域として想定されていることについて、岩上が小出氏に意見を求めた。これに対し、小出氏は、「原発を抱えたままで戦争のシミュレーションをすることなど、バカげている」と斬り捨てた。

全文文字起こし

岩上「ジャーナリストの岩上安身です。大阪の熊取にある京大の原子炉実験所に来ております。お馴染みになりました、小出裕章先生にお話を伺いたいと思います。小出先生、お久しぶりです」

小出裕章氏(以下、敬称略)「はい。お久しぶりです。こんにちは」

岩上「東電福島第一原発の汚染水漏れが起こった時に、真っ先にお話を伺いに駆けつけなければと思いながらも、あれやこれやとちょっとバタバタしていて、そうこうするうちに、もう小出さんは至るところで取材を受けていらっしゃって、もう原発問題の第一人者、売れっ子中の売れっ子です。

 私がここに取材に来始めた頃は、メジャーメディアが小出さんを取り上げないという話をしていましたけれども、今は、そんなことは全然ないですよね」

ちゅう

小出「ないですよ」

岩上「あらゆるメディアが小出さんに取りすがっているという感じで、コメントを取る。かなりの新聞、雑誌、テレビにお出になられていると思います。重ねての話も多いかとは思いますけれども、あらためてお話を伺いたいと思います。

 私は、ここに来る前に、これまで小出さんがお話ししたことを振り返ってみました。私が2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故のあと、取材の申し込みをしてここに来たのが、たしか4月10日だったと思います。事故から一カ月以内でした。実はもうちょっと早く連絡をしていたのですけれども、もう先生は大忙殺されていましたので、取材の時間を取ることがなかなかできないということでした。それでもかなり早い時に来て、炉心がどうなっているのかなどのお話を伺って、その時にすでに我々の間では、汚染水の話をしているのですね。

 炉心を水で冷却するということでしたが、私は、冷却のために上から水を入れているのに、なぜ水位が減っていくのかという疑問を持っていました。素人考えでは、どこかに穴があいていて、地下に流れていっているのではないかと思うけれども、いかがでしょうか、と質問したら、先生は、『その通りです。地下水に流れていっているでしょう』とおっしゃいました。

 かけてもかけても水が流れていくということを繰り返しながら、それでもあの当時は、第一に優先すべきことは冷やすということでした。とにかく冷やせと。そして先生のご提案は、『汚染水の問題はこれから重大な問題になってくるから、この汚染水をタンカーで柏崎刈羽原発に持っていくということを考えてもらいたい』ということでした。この話を聞いて、東電に直接ぶつけましたけれども、『できません』ということでした。それは、自治体が受け入れないなどの問題があったのだと思いますね。

 それで、結局はタンクを作って対応してきて、その挙句、タンクに穴があくということになりました。また、1リットル当たり20万ベクレルの放射性物質を含んだ漏水が見つかりましたね。いやあ、これを続けていったら、全部終わるまでに30年かかるわけでしょ。300機、600機という数を30年続けていったら、何千機になるのかと思います。大変なことになったと思いますね。

 ちょっと先取りして言いますけれども、これは水で冷やすしかないのかということを伺いたいと思います。鉛を使って冷やしたほうがいいということを、立命館大学の山田廣成先生が、2011年6月に発表していました。でも当時は、誰にも注目されなくて、大変恐縮ですけれども、私も最近まで気がつかなくて、ここまできてしまいました。やはり汚染水の漏洩問題が起きて、水で冷やし続けるのは無理だと考えたからこそ、鉛のことを真剣に聞く必要があると思って、先日、山田先生のところに行って、長時間、そのメカニズムなどのお話を伺いました。山田先生は、小出先生にもこのアイディアを聞いてほしいとおっしゃっていましたが」

小出「はい。ご連絡いただきました」

岩上「そのことも含めて、現状の汚染水の状況、これを管理している東電、政府のやり方、そしてかつて、先生から水棺やいろいろな処理方法について伺いましたけれども、今はこれが行き詰まっているとお考えになっていると聞きました。その理由について、まずはお話し願いたいと思います」

小出「はい。事故の当時に遡って、いくつか聞いていただきます。2011年3月11日に地震と津波に襲われて、福島第一原子力発電所の1号機から3号機までの炉心はすべて溶け落ちてしまったのですね。溶け落ちてしまえば、大量の放射性物質が、空気中あるいは液体のほうに出ていってしまうことは、避けられなかったわけで、残念ながらすでにもう大量の放射性物質が出てしまいました。

 でも、それ以上出さないように何とかしようと思えば、やはり炉心を溶かさない、ひたすら冷却をするということしかなかったわけですし、ものを冷やすという時に、一番効果的な物質は、水です。水以上にいいものはありません。ですから私は、事故直後には、とにかく水を入れてくれと言いました。真水がなければ、海水でもいいし、海水がうまく使えないというなら、もう泥水でもいいから、とにかく水を入れてくれと私は言っていたのです。

 そのまま今日まで来ているわけですけれども、でも溶けた炉心を冷やそうとして水をかければ、その水が今度は汚染水になるということは当たり前のことなのであって、冷やせば冷やすだけ汚染水が増えてしまう。当然なのですね。その当然のことを2年半し続けてきたのです。

2011年の3月の段階で、すでに10万トンもの汚染水が敷地内に溜まっていて、私はこれではもうすぐに破綻すると思いましたので、さっき岩上さんもおっしゃったけれども、とにかくタンカーで運び出すべきだと言いました。コンクリートの構造物などでは、到底水を蓄えることができないので、タンカーがいいと。新たにタンクを作っていては間に合わないと、私はそういう提案をしたのですが、それも入れてもらえないまま、東電はとにかくタンクを作るという方向で対処しています。しかし、きっちりとしたタンクを作る状況にはありません。

 鋼板を溶接して、漏れないようにしながらタンクを作るという作業は、もうあの現場ではできません。猛烈な被曝環境ですので、そんなゆっくりとしたことはできない。もう鋼板を持ってきて、パッキンを挟んでボルトで留めるというようなタンクしか作れなかったわけですね。すでにそうやって数百機のタンクを作ったわけです」

岩上「これは、コストの面で、できるだけ安くしたかったということとは、また違うのですか」

小出「コスト面の問題もあるのでしょうけれども、すべての作業が被曝を伴うので、しっかりとした作業ができないのだと思います」

岩上「溶接をするというと、やはり現場での作業になるのですね」

小出「もちろんです。現場で溶接するしかない」

岩上「しかも、それは時間がかかる」

小出「そうです。時間がかかります。鋼板を持ってきてボルトで締めるだけならば、時間はそれほどかからないけれども、鋼板をちゃんと溶接しようと思えば、大変な時間がかかってしまう。そうすると、被曝がどんどん蓄積してしまいます。たぶん私は、そういう理由で簡易型のタンクを作ったのだと思います。

 そんなものでは、漏れるのが当たり前であって、次から次へと漏れてしまっている。これからもまたどんどん漏れていくだろうと思います。ですから、ものを冷やすためには水をかけるのがいいのだけれども、かけ続けてきたがために、また今度はどうにもならないところに追い詰められてしまっているわけですね。

 今、岩上さんが、立命館の山田さんの話をしてくださったけれども、私は事故直後に、ヨーロッパの研究者から、金属で冷やすというアイディアを教えてもらったことがあるのです。ただ、その当時は私自身が、崩壊熱も高いし、金属では無理だと思っていました。もうとにかく水しかないと思い込んでいたので、そのアイディアもリジェクトして、『とにかく水』と言ってきたのです」

岩上「先生。今おっしゃった『崩壊熱が高い』ということはどういうことですか。崩壊熱が高いから金属を使うのは無理だという理論には、そこそこ根拠がおありだと思うのです。どの程度の崩壊熱と考えられたのでしょうか。問題は沸点というんでしょうか、例えば鉛も気体化すると危険ですよね」

小出「もちろんです」

岩上「そういうことがあって、いろいろお考えがあった上で、この時は却下とおっしゃったと思うのですけれども、実際には、当時はどんな状況だったのですか」

小出「福島第一原子力発電所の1号機の定格電気出力は46万キロワット。2、3、4は78万キロワットぐらいだったと思います。事故で運転を停止したわけですけれども、停止した直後でいうなら、1号機の場合には、約1万キロワットぐらいの崩壊熱がありました」

岩上「1万キロワット。はい」

小出「例えば一般家庭の皆さんが、電気ストーブや電熱器をお使いだとすれば、それが1万個、常に発熱を続けるという、そのぐらいの発熱があったのですね。1分経つと、家庭で使っている風呂桶の水が全部蒸発してしまうというぐらいの発熱です。そんな強烈な発熱を金属で冷却できるということはあり得ないので、水を入れるしかないと私は思っていました。

 ただ崩壊熱は、1日経つと10分の1に減るし、1年経つとまたその10分の1ぐらいになる。つまり、事故直後から1年経てば、100分の1まで減ってくれるわけですね。今2年半経っていますので、ほとんど数百分の1に減っています。

 そういう状態になっているのであれば、水でなくても、私が考えているのは、鉛、錫、ビスマスというような融点が低い金属ですが、とにかく溶けた炉心のところに届かせることを考えています。もともと100トンぐらいの炉心だったわけですけれども、それに金属を加えていって、大径が例えば200トンになる、300トンになるというふうに、どんどん大きくなっていく。発熱自身は崩壊熱で、基本的には減っていくわけですから、発熱量が決まっている時に、大径がどんどん大きくなっていくと、あるところで必ずバランスを取るところがくると私は思っているのです。

 発熱ですから、除熱しない限りは、もちろん温度は上がってしまうのですけれども、格納容器の表面、原子炉建屋の表面から放熱すると、必ずそういう物理現象は起きるわけです。ここまでくれば、水じゃなくてもできるだろうと私は思います。」

岩上「なるほど。いくつかの鉛を使った方法。山田さんがおっしゃっていたのとほぼ同様のことをお考えですね」

小出「ちょっと違うのですけれども」

岩上「違うのですか。例えば、挿入の方法が、冷却水のところから水とともに細かい鉛の粒を入れる。そうすると、水によって燃料の近くに届き、沈んでいく。沈んでいくと水と遮断されるために、燃料が熱を持ちますね。そうすると、自然にこれは融点が低いから、溶け出す。溶けることによって、燃料をコーティングする。コーティングして、外界と遮断するので、放射性物質が出なくなる。ざっくり言うと、こういう話ではないのですか。結果、それが熱を持つことで、格納容器がラジエーターの機能を果たすだろうと。ほぼ同じように思えたのですが、違いがあるとしたらどこなんでしょう」

小出「はい。炉心というものは、もともとウランを焼き固めた瀬戸物でした。それは2800度を超えないと溶けないのですけれども、実際には溶けてしまったのですね。溶けてしまって、まず圧力容器という鋼鉄製の圧力釜の底に落ちた。しかし、鋼鉄というのは1400度、1500度で溶けてしまいますので、簡単に圧力釜の底が抜けて、さらに下に落ちたわけですね。ではその下はどこかというと、放射能を閉じ込める最後の防壁として設計されていた原子炉格納容器という容器の底に落ちたはずなのですね。

 ただ、原子炉格納容器は、基本的には鋼鉄製で、厚さが3センチしかない鋼鉄製なのです。ですから、溶け落ちた炉心が、もし原子炉格納容器の鋼鉄に接触してしまうと、それも簡単に穴が開いてしまうわけですね。そこで、東京電力や国が何と言っているかというと、圧力容器からドボッと落ちてきた、溶けた炉心は格納容器の床に落ちると。その部分には床がコンクリートで1メートル分、床張りしてある。コンクリートの上に落ちて、コンクリートを破壊しながら、少しずつ下にめり込んでいった。しかし、1メートルのコンクリートのうち、やられたのは70センチだけで、30センチ分はまだ残っているというのが国と東京電力の主張なのです」

岩上「チャイナシンドローム(※1)の一歩手前ということですね」

(※1)原子炉核燃料のメルトダウンによって、核燃料が溶け落ち、その高熱により鋼鉄製の圧力容器や格納容器の壁が溶けて貫通し、放射性物質が外に溢れ出すこと。溶融貫通またはメルトスルーとも呼ばれる。米国の原子炉がメルトスルーを起こしたら、高温の核燃料が溶けて地中にのめり込み、地球の裏側にある中国にまで突き抜けて達する事態になるのではないかということから、チャイナシンドロームという。もちろん、地理上は米国の裏側は中国ではないし、地球を貫くようなことは現実には起こらない。

 小出「はい。まだ格納容器の底は抜けていないということです」

岩上「でも、それは計算上そうなっているので、事実観測されたわけではないですよね」

小出「もちろんです。ですから私はそれを聞いた時に、一瞬吹き出しまして、『あなたたち、見てきたのですか』と聞きたくなったわけですね。人が格納容器の中に入れる道理もないし、原子炉建屋にすら入れないという状況なのですから、本当はどうなっているかわからないのです。

 ただまあ、国や東京電力が描いている画だとすると、熔けた炉心が上からドボッと落ちてきて、底に饅頭のようにあるというのですよ。山田さんもたぶんそういうイメージを持っていると思います。そこに鉛を入れることができれば、饅頭の上に鉛が降り積もって、コーティングするという、山田さんのイメージはたぶんそうだと思います」

岩上「格納容器に穴が開いて、地面に落ちて、コンクリートを破っているという想定は一致していて、それでも水をかけていると、鉛の粒は、その格納容器の穴にも落ちて、そしてコンクリートに食い込んでしまっているところにも落ちていき、最終的に溶かして、その内側の下側までうまく回り込んで、コーティングできるかどうかはわからないけれども、少なくとも外界とは遮蔽するだろうということですか」

小出「そうです。山田さんはそういうイメージ。ただ山田さんは、国や東電の言っているように、格納容器がまだ健全だとは思っていないかもしれないです。格納容器が抜けているかもしれないけれども、塊としてあるというイメージなのです。しかし私は違うのです。

 たぶん、炉心はドドッと落ちているし、膨大な水をジャージャーとかけてきたので、格納容器の中はもう蒸気が充満して、雨のようにダーダーと流れているという、猛烈な動的な環境なのです」

岩上「動的環境ですか」

小出「はい。ですから、スタティックに静かにそこにあるということではなくて……」

岩上「ものすごい灼熱で、蒸気でモヤモヤで、茹だっているような状態ですね。そしてまた上からザーザー雨が降る。ジャングルの中みたいですね」

小出「そんなふうになっているわけですね。ですから、その溶け落ちたものが、どこか一カ所に塊になっているとは、私は思わないです」

岩上「流動しているのですか」

小出「炉心が落ちる時には、要するに溶けているわけですから、液体になっています。それで細かく、たぶん分散しています。私たちがよく、スラッジとか、スラリーとかいう物質があるのですけれども、泥水みたいなものですね。そういう形で落ちているはずなので、塊というか、もうそこらじゅうに分散してしまっていて、壁にへばりついているものもあるかもしれない、そういう形だと私は思っているのです。

 そうなると、山田さんが言っているように、水と一緒に金属を入れても、あっちこっちに分散してしまっている炉心にすべてうまく届かせることができるかどうか、私は自信がないのです」

岩上「なるほど。そうか。イメージの違いですね」

小出「ただし、私の言っていることが正しいのか、あるいは東電や国が描いている画が正しいのか、わからないのです」

岩上「山田さんのお考えの前提になっているのは、一応東電がイメージしているものをベースにしているといったほうがいいですね」

小出「そうです」

岩上「では、非常に動的な環境であり、バラバラに散乱し、その散乱したものがまた、動的環境ですから、水流にまだ動かされているということですか」

小出「たぶん今でも動いていると、私は思っています」

岩上「そんなものを、金属を入れることで、冷却し、沈めることができるのですか」

小出「わからないのです」

岩上「では、まずどうやって入れるのですか。山田さんが言う冷却装置から入れるのですか。それは同じなのですか」

小出「それは一番簡単なやり方だと思いますし、本当に入れられるかどうかということを、金属の専門家と流体力学の専門家が集まって、まずは検討しなければいけないと思います。

 原子力発電所というのは、結構複雑な構造になっています。水を入れるには、ポンプで送っているわけですが、ポンプには、水を送るためのポンプもあり、泥水用のポンプもあり、ほかの金属を入れるためのポンプもあるわけです。今はただ、水を入れるためのポンプで水を入れているわけですね。その水の中に、私は錫のほうがいいと思っているのですが、いずれにしても、金属を細かい粉体にして流そうというのが山田さんのアイディアです。私もたぶんそれが一番いいと思うけれども、本当にそのポンプで送れるかどうかわかりません。配管はたぶんうねうねしているわけで、配管のあちこちに溜まってしまうかもしれません」

岩上「配管が詰まったら大変ですね。水で冷やせなくなってしまうかもしれない」

小出「そうすると、どうしようもなくなります。ですから、どのくらいの粉体の金属がいいのか。どのくらいの流量の水があれば、それを送ることができるのかという、かなりシビアな検討を重ねなければいけない」

岩上「今、配管の詰まりは非常に怖いと思いました。自宅のマンションの下水の配管でも、詰まって溢れ返るということがありました。汚物が溢れ返っちゃうという、非常に痛いことになります。どこが詰まっているのか、2階から1階にかけての配管を調べるのだって、えらいことだったのですよ。万が一、複雑で巨大なプラントの中で、何かを詰まらせたら大変ですよね。手の打ちようがないというか」

小出「別に汚物ならいいですよ。私は別に汚物になら手を入れてもいいけれども、原子力発電所の場合は、放射能に手を入れたら死んでしまいます。そういうものを相手にしているわけですよね。原発現場では、どんな作業をしてもほとんど被曝してしまうわけだし、場合によっては作業ができないような場所があるわけで、特にその炉心に水を入れる、あるいは金属を入れるためには、猛烈な被曝の場所に踏み込まざるを得なくなるということも、たぶんあると思います」

岩上「『たぶんある』ということは、ポンプで送る時も安全じゃないということですか」

小出「今使っているポンプ、配管に、何にも手を入れないで、水を流していたのと同じように金属が流せるなら、それでいいけれども、たぶんそんなことはないです。

 山田さんも私もやってみようとは思っていますが、今のままの形でするならば、どういう金属をどれだけの粒径の粉にして、ポンプの流量をどうやって制御すれば、途中で詰まらずにできるかということを、たくさんの専門家が集まって、まず検討することになります。そうして初めてできると思うのですけれども、うまくいかない可能性もあります。やってみたけれども詰まってしまったということが起きるかもしれないと私は思っています。そうなると、そのポンプ、配管はもうあきらめて、また別の配管なりを設置しなければいけなくなるかもしれない。そうなると、大変です」

岩上「そうすると、非常に近くに寄って工事をしなくてはいけないということですよね」

小出「そうです。今まで原子力発電所では、金属を炉心に入れるなんてことは、考えてもいなかったわけだし、そのためのポンプもなければ、そのための配管もないのですね。今あるもので何とかできないかということを考えなければいけないわけです」

岩上「これが難しいなら、炉心に蓋を開けて、中に入れるということはできないのですか」

小出「一時期、水棺にするという話がありました。格納容器全体を水で満たすことができたら、下に落ちた炉心からの放射線を水が遮ってくれるから、上から作業ができるということです。そうして原子炉を冷やすこともできるし、あとで溶け落ちた炉心を取り出すこともできるということで、東京電力や国は、何十年かあとに、水棺という状態を作って、溶け落ちた炉心を外につかみ出したいと言っているのです」

岩上「それはやはり燃料がもったいないからですか」

小出「燃料がもったいないというよりは、そのままそこに置いておいたら、何十年でも何百年でも、石棺を作り続けるしかないということになってしまうからでしょうね。チェルノブイリは石棺という方法を取ったわけですけれども、事故後27年経って、はじめに作った石棺がボロボロなのですね。今、第二石棺を作っていますけれども、いつかはそれもボロボロになる。そこに溶け落ちたものを置いておく限りは、その繰り返しになるということです。

 それを何とか避けようと思うならば、溶け落ちたものをどこかに取り出すしかないわけで、国や東京電力はそうすると言っているわけですけれども、まずは水を張らなければいけない。私はその水を張ることもできないと思っているわけです。水が張れないとなると……」

岩上「水が張れないというのは、穴が開いているからですよね」

小出「そうです。格納容器にもう穴が開いてしまっているので、水を張ることができないのです。その状態で、今、岩上さんが言ったように、原子炉圧力容器の蓋を開けてしまいますと、猛烈な放射線が飛び出してくることになって、下を覗くなんていうことを人間が行ったら、そのまま死んでしまうということになりますので、今のままだと、蓋を開けることがまずできないのです。

 蓋を開けることができれば、そこから金属をどんどん放り込むということはできるけれども、今の状況ではできない」

岩上「配管ルートも危ない。蓋は開けられない。ほかに何かないのですか」

小出「要するに、ないのですよ。ないというか、何度も言いますけれども、この事故は、人類が初めて遭遇した事故であって、原子炉の中に金属を流し込むなんてことは、想定もしていなかったわけで、そういうポンプもなければ、配管も設置されていないのですね。ですから、与えられた状態の中で、何とか金属を入れられないかということを、山田さんも考えているだろうし、私も考えていますし、いろいろな専門家の知恵を集めるべきだと思っているのですけれども、本当にうまくいくかどうかの確信が私にはないのです。

 ではそれができなかった時には、どうするかということですけれども、蓋は開けられないと思います。そうなれば、やはりパイプを、何らかの形で、格納容器の中に引き込むという作業をしなければいけないと思います。しかしそれは大変なことです。被曝を覚悟でしなければいけない」

岩上「なるほど。蓋を開けられないのは、もう公理のようなもので、絶対に開けられないのですね。それに対して、既存の配管をうまく使って、何とかすることを研究するのですね」

小出「まずそれを考えたほうがいいと思います」

岩上「新設のパイプを圧力容器に入れなくてはいけないですね」

小出「はい。もともとあった炉心が、圧力容器の底を抜いて落ちているわけですから、圧力容器の中に入れることができれば、炉心が落ちたのと同じ経路で下に落ちるわけですから、やり方としては一番いいだろうと思います」

岩上「ですよね。そうすると、そこに接続させる穴でも開けて」

小出「そうです。ただ、圧力容器に穴を開けるということはたぶんできませんから、すでに圧力容器にはさまざまな配管が接続されていますので、その配管の一部をうまく使えるような方法を考えないと」

岩上「なるほど。これは流体力学の専門家だけじゃなくて、そういう工学の、あるいは現場の、技術者の知恵の結集が必要ですね。やってやれないことはないかもしれないということですね」

小出「はい。ですから、福島第一原子力発電所を実際に運転していた人たち、どこにどんなポンプがどんな配管を通して入っているかということを、十分知っている人たちの知恵がなければできない」

岩上「なるほどね。現場の知恵が必要ですね。

 では、金属の問題ですが、山田先生は鉛を考えていらっしゃるようです。鉛は遮蔽性もあるし、重いので沈殿しやすいなど、いろいろな理由があるということです。ただ、鉛が有毒なのはもちろんわかっている。だから、錫、アルミニウム、あるいは合金など、ほかの金属で代行することも考え得るというのです。小出さんは錫のほうがいいのではないかとおっしゃいますが、錫に利点はありますか」

小出「要するに、溶けやすいほうがいいのですね。ですから、融点が低いほうがいいし、逆に沸点は高いほうがいい。蒸発してしまったら困るので、そういうことを考えると、鉛よりは錫のほうが、融点が低いし、沸点ははるかに高いです」

岩上「はるかに。どのぐらい高いのですか」

小出「鉛は1700度ぐらいだったと思いますし、錫は2千数百度だと思います」

岩上「有毒性という点では、どうですか」

小出「毒性で言ったら、毒ですよ、みんな。錫も鉛もビスマスも、もちろん有毒ですから、本当は使ってはいけないのです。使ってはいけないけれども、今はそんなことは言っていられないのです」

岩上「小出先生にとっての、アイドルといいますか、最も尊敬する方は、足尾銅山の田中正造(※2)さんですね」

(※2)天保12(1841)年11月3日に栃木県佐野市小中町(旧旗川村)で、旗本六角家の名主の家に生まれた。不正を働く領主と対立するなどの苦難を乗り越え、明治10年代には自由民権運動家として、また栃木県議会の指導者となった。明治23年の第1回総選挙で衆議院議員に当選し、そのころ農作物や魚に大きな被害を与えていた足尾銅山の鉱毒問題を繰り返し国会で取り上げ、渡良瀬川沿いの人々を救うため努力した。しかし国の政策に改善が見られず、ついに明治34(1901)年12月10日、天皇に直訴した。その後、鉱毒事件は社会問題にまで広まったが解決せず、正造は悲痛な思いで谷中村に住み、治水の名のもとに滅亡に追い込まれようとした谷中村を救おうと、農民とともに村の貯水池化に反対し再建に取り組んだが、大正2(1913)年9月4日に71歳10か月で世を去った。

 小出「そうです」

岩上「田中正造さんが、金属鉱山の鉱毒で苦しんだ人を助けたいと思って奔走した、その事跡を追って、浅間まで訪ねていかれたりしていますね。大変尊敬されていますけれども、まさかその金属を使うことになるとは思わなかったでしょうね」

小出「ねえ。皮肉なものです。錫の融点は232度で、沸点は2275度です。鉛のほうは、融点が327度、沸点1750度ですから、錫のほうが、融点が低いし、沸点が高いので、どちらかというと、私は錫のほうがいいかと思いますけれども、でも、山田さんが言っているように、放射線遮蔽性能でいえば、鉛のほうがいいし、慎重に皆さんの知恵を集めたいと思います」

岩上「なるほど。両者がお話をするという機会があったら、それはそれでぜひお聞きしたいですね。また、それ以外の専門家とも、これからお話をされるということですね」

小出「はい。さまざまなアイディアを言ってくださる専門家がいらっしゃるから、また岩上さんにもお伝えできるかもしれません」

岩上「ぜひ。問題は、その集めたアイディアを、どのような形で、東電、政府に届けていくかということです。山田さんはこのご自分のアイディアについて、全政党の党首、一部の議員、そして東電に手紙を書いたといいます。しかしまったく無視されたそうです。参議院議員の川田龍平さんだけが返事をくれたけれども、あとは返事もないということです」

小出「はい。たぶんそうだろうし、山田さん以上に、私の意見などは、国や東電は、意地でも聞かないと思っているでしょう」

岩上「意地でもですか」

小出「たぶん」

岩上「でも、先生のお話を聞きに来る政治家は、以前より増えたんじゃないですか。例えば、生活の党の小沢一郎さんとお会いしましたよね」

小出「はい」

岩上「お会いした印象をお聞きしたいです」

小出「小沢さんは、わざわざこんなところまで来てくださって、私の意見を聞いてくださって、私との対談のあとに、同行記者団を集めて、その場で、生活の党は原発に反対だと、はっきりと表明してくださったのです。ありがたいことだと思います。私のところに来てくださる政治家は、もちろん原発をやめさせようとしてくださるけれども、自民党などはもちろん来ないですし、今はもうとにかくひたすら自民党が力を持っているわけですね」

岩上「そうですね」

小出「今の政治の力学で言えば、どうにもならないと思います」

岩上「小泉さんが脱原発を言い出していますけれども、どうご覧になっていますか」

小出「個人的な好き嫌いを言うと、私は、小泉さんは嫌いです。でも、今、彼が言っていることは正しいです。

 私もよく言われてきたけれども、『原発をゼロにするなんて言うのは無責任だ』と、すぐ批判がくるわけです。それに対して、小泉さんは『始末のできないゴミを生み出すほうがはるかに無責任だ』と切り返したといいます。まあその通りなのですよね。

 自分で始末もできないようなことをずっと続けてきた、そのことが無責任なのであって、本当だったら日本は、もうとっくの昔に原発なんてやめていなければいけなかったのですね。それをやめないまま、ズルズルとこんなにたくさん作ってしまって、『もう抜けられないからどうしようもありません』と言っているわけですよね。そんなことを政治家が言っていいのかと、私は思ってしまいます」

岩上「汚染水の流出の問題は、とりあえず今、鉛、あるいは錫を使った冷却という方法が光明として見えてきているのかもしれませんが、それ以外にも、いろいろな懸念があると思います。それが実現するかどうかということは、もちろんまだ未知数ですし、それが実現する間にも、さまざまなリスクがまだまだあります。地下水はどうする、遮水壁はどうする、それは有効に機能するのか、それから、タンクの増設はどうするかなど、問題が山積しています。

先ほど先生の話を聞いてちょっとがっかりしました。パッキンではなくて、ちゃんと溶接型を持ってくるのかと思ったのですけれども、その場で作業ができないのなら、溶接型を持ってこられないと思いましたし、それから、汚染は地下水に接触しているのか、していないのかもわかりません。もし接触していたら、もう汚染は大変なことになってしまうのではないかと心配です。

 先生は、ほかに気になるところはありますか。何が問題だと思いますか。何をどうしなければいけない状況ですか」

小出「汚染水の問題は、最近になって、皆さん大変だと思われたようですけれども、まずそれが間違いですね。2011年3月11日から汚染水があったし、その時点からもう環境にどんどん流れていたのであって、私はむしろ、なぜ今さらそんなことを騒ぐのかと思っています。これからもどんどん漏れてくるわけだし、東京電力が作ったタンクだって、これからもまた漏れてくる。もうどうしようもない状態になっているのですね。

 私は2011年の5月の段階で、『とにかく汚染している現場と地下水との接触を断たなければいけない』と、遮水壁の提案をしました。その時のいきさつを、最近、当時の民主党政権で内閣総理大臣補佐官を務めていた、馬渕澄夫さんが暴露してくれました。その時は、東京電力も遮水壁を検討したそうです。しかし試算したら、費用が1000億円かかってしまうということがわかって、6月の株主総会が乗り切れないという理由で、遮水壁は導入しないことになったというのですね。

 今になって、凍土壁を作るなどと言っているわけですけれども、あまりにも遅い。もう2年間以上放置してしまって、どうしようもない状況に追い込まれているのですね。でもまあ、遮水壁を作るということは、もちろん必要だと思いますので、やるべきだと思います」

岩上「これは必要ですね」

小出「はい。やるべきだと思います。ただ、鋼鉄とコンクリートによる遮水壁を作ろうとすると、また作業員は被曝をしてしまうので、それより凍土壁のほうが、被曝が少なく、早くできるというなら、それでもいいと思います。ただし凍土壁は長くもたないと思います」

岩上「どのぐらいなのですか」

小出「それも経験がないのですね。これはトンネル工事の時に使っていた技術で、一部分だけ凍らせながら掘り進むのです。一時的に凍らせることはできるだろうけれども、今作ろうとしている遮水壁は、何百メートル、あるいは1キロというような壁で、これから何年も維持しなければいけないので、たぶんできないだろうと思います」

岩上「凍らせるためには電気を使うわけですよね」

小出「そうです。電気が切れたら終わりです」

岩上「電気が切れたら終わりでは、フリーザーと同じですよね。その電気の消耗量は莫大じゃないですか」

小出「たぶん莫大だと思います。どれだけかはわかりませんけれども」

岩上「まだ試算が出ていないのですか」

小出「たぶん出ていると思いますけれども、私が知らないだけだと思います。でも、いずれにしても莫大だと思います。しかし停電があったらそれで終わってしまうわけですから、やはり賢明な方策ではないと思います。いずれにしてもちゃんとした遮水壁を作るしかない。

 凍土壁にしても、完成まで2年かかると言っているわけで、きちんとした遮水壁を作ろうと思ったら、何年かかるかわからない。それまでは、また汚染水がどんどん出てくるわけだし、これからもタンクを増設しようとしても、敷地には限りがありますので、いつか破綻します。そうなると、海へ流すことになるだろうと思います」

岩上「東電や規制委員会は、『海に流すのは大した量じゃないからいいんじゃないか』と、はっきり我々に知らせ続けていますけれども、その言い分は、『余計なコストをかけてもしょうがないから、もうやるのですよ』ということですね」

小出「結局そうなると思います。これまで、例えばセシウムという放射性物質を、ゼオライトという粘土鉱物にくっつけて、汚染水の中からセシウムだけを除去するというようなこともしていますが、でもそれは、セシウムを消したのではなくて、ゼオライトという粘土鉱物にくっつけただけなのです。その粘土鉱物の山は、結局敷地の中に溜まっているわけですね。それも大変です。

 また汚染水の中には、セシウム以外の放射性物質がまだたくさん入っているわけで、そこからストロンチウムという放射性物質を除こうとして、ALPS(※3)という装置を作ろうとしたのですけれども、それも、あっちこっちで漏れてしまうなど、故障が多いのです。」

(※3)多核種除去設備。すでに設置している水処理設備では、放射性物質のセシウムを主に除去しているが、セシウム以外の除去が困難であった。多核種除去設備(ALPS)ではセシウム以外の62種の放射性物質(トリチウムを除く)の除去が可能となっている。2013年6月現在、本格稼働を目指して試験を行っている。既設の水処理施設で油分、セシウム、塩分を除去した汚染水を、鉄共沈処理設備と炭酸塩共沈処理設備から成る前処理設備を通し、14塔の吸着材交換式吸着塔、2塔のカラム式吸着塔を経て、62種類の放射性物質を除去した処理済水となる。処理済水はタンクなどに貯蔵、除去された放射性物質は高性能容器に入れ、一時保管施設へ輸送し、貯蔵する。

(参考:東京電力HP

岩上「ALPSは、なぜあんなに故障ばかりするのですか」

小出「やはり現場環境が悪すぎるのです。何をしても被曝してしまう。ですから、ゆっくり、しっかりとした装置を作るということ自体がもう許されない」

岩上「外部で作って搬入するのではだめなのですか」

小出「搬入して、やはりそれを組み立てるわけじゃないですか。1つ1つ溶接できなければ、バンドで止めたりしているわけですよね。ちゃんとした鋼管で結べないところは、フレキシブルなホースで結んだりしているわけだし」

岩上「ちゃちなホースばかりですからね。現場に行くと見ますよ」

小出「もうあっちこっちで漏れてしまって、あるいは鋼板の管理が悪いのですかね、腐食してしまって穴があくなどして、うまくいかない。この間は、工事をした時のゴムを中に置き忘れて、パイプが詰まってしまうということがありました」

岩上「これはずっと、『東電がケチだからだろう。見積もりが甘いからだろう。見通しが甘いからだろう』と批判されてきたのですが、それだけではないのですね。今使っているのは、あまりにも脆弱な、貧弱なパイプですよ。そうではなくて、彼らとしても、本格的な鋼管を敷いて、溶接をして、完全にしっかりした設備を、実は作りたいのでしょうか。お金をケチっているばかりではなく、作業ができない」

小出「そうしようとすると、被曝がどんどん累積してしまう、そういう現場なのです」

岩上「ではALPSも、東芝などのメーカーだけが問題なのではない」

小出「そうです。まあ仮にALPSが完璧にできたとしても、今、汚染水の中に入っているストロンチウムを、日本の法令で海に流していいという濃度まで綺麗にできるかと問われると、たぶんそれも私はできないと思います。

 例えば、一時期、タンクから漏れた廃液の中に、1リットルあたり8000万ベクレルのベータ線放出核種があると、東京電力が発表したのですけれども、たぶんその主成分は、私はストロンチウム90だと思っています。そして、それが日本の法令に従って海に流せる濃度というのは、1リットルあたり30ベクレルなのです。300万倍も汚染が高いという、猛烈な汚染水なのです。それを海に流せるまで綺麗にしようと思えば、逆に300万分の1の汚染にしなければいけないのですけれども、たぶんできないと思います。

 私が今いる、京都大学原子炉実験所でも放射線の廃液が出てきますが、ゆっくり処理できますよ。被曝も、まあそんなに気にしないで、ゆっくり慎重に、いろいろなことをしながらできるけれども、さっきから聞いていただいているように、福島第一原発でゆっくり作業をしようとすれば、被曝が次々と積み重なってしまいますので、本当に応急で作った装置で、被曝に悩まされながら、作業をしなくてはいけないのです。300万分の1以下にすることはできないと思いますし、仮にできたとしても、トリチウムという放射性物質に関しては、一切無力です」

岩上「無力」

小出「何の手も打てません。結局、トリチウムに関しては、薄めて流せと言うと思います」

岩上「薄めて流せと。そしてトリチウムは何にも問題がないんだと。こういうプロパガンダがまかり通っていますね。

 この間、商工会議所で対談をされましたね。中継に入らせてもらえなかったのですけれども、何という方でしたっけ」

小出「池田信夫(※4)さん」

(※4)経済学者。1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学教授。

岩上「池田信夫さんだ。いかがでした? ああいう方はかなり乱暴なこともおっしゃるようですけれども」

小出「池田さんの立脚点は、結局、経済なのですよ。彼が論争の中で言ったことは、『これからはもう、原子力発電所は、新しく建てることはできないだろう』ということでした。それは池田さんも認めた。

 でも、すでにあるものを、このまま動かさないで不良債権にしてしまうと、電気代が4割上がると彼は言ったのです。私は、『そんなことはなく、今がどうのこうのではない。原発を続ければ続けるだけ、損をしていくんだ』と言ったのですけれども、商工会議所というところは、いわゆる経営者の人たちがいるところですね。そういう人たちには、「今、電気代が4割上がったら、やはりだめだ」と、たぶんそう判断されたんだと思います。

 池田さんの理論はそういう理論ですね」

岩上「なるほど。福島の事故では、大して人も死んでいないし、チェルノブイリだって、死んだのはわずかだと」

小出「あ、そうです。それも池田さんは言いました。『原子力、怖い怖いって言うけれども、放射能で死んだ奴なんていないじゃないか。むしろ石炭のほうが怖いんだ』と池田さんは言ったのです。

 でも私は、それは被曝の危険の本質を見誤っていると言いました。被曝の影響に関しては、急性障害と晩発性障害があって、急性障害が見えなくても、晩発性の障害は、必ずあるんだと。それはこれから大量に出てくるはずだと言いましたけれども、でもいかんせん、すぐには見えない。そうなると、池田さんのような議論はもちろんできるわけだし、企業を経営している人たちから見ると、『今、見えないんだから、いい』ということになるんだろうと思います。でも私は、放射能は必ず害があるし、長い期間にわたって、じわじわ影響が出てくるだろうと思っています」

岩上「なるほど。そして、トリチウムを取り除く方法がまったくない」

小出「ありません」

岩上「ストロンチウムに関しても、希釈するのは難しい。薄めるといいますか、危険のレベルを下げるのは難しいですよね。しかし推進派の考えていることは、濃度が高いなら水で薄めて出せばいいという、水割りと同じ感覚ですね。考えていることはこれだけですよね。規制委員会も含めて」

小出「そうです。最後はそれしかない。ですから、それがいつの時点で発動されるかというだけですね」

岩上「原発推進派の学者や政治家は、『あんなふうに溜めていること自体、労力の無駄。お金も無駄。セシウムは取ったんだし、そこそこ取れるものを取って、海に流したら、海が希釈してくれるでしょ』という考えなんですね。そういう人がいっぱいいます。しかし、彼らの言い分に従って海に流した場合、どんなことが起きるでしょうか」

小出「実は、人間が放射性物質をばら撒いたのは、福島の事故が初めてではありません。その前にはチェルノブイリ原子力発電所の事故があって、福島の事故より、むしろ多くばら撒いただろうと思います。もっと前には、大気圏内核実験があって、1950年代、60年代に、空中でボンと原爆、水爆を爆発させたわけですから、そこでもばら撒いたわけですね。その大気圏内核実験でばら撒いた放射性物質の量は、福島の原子力発電所でこれまでにばら撒いた量に比べると、何十倍も多いのです。だから、『福島の事故なんか大したことない。どうせ地球は汚れているんだから、そんなことを気にすることはない』という考え方になるんでしょうね。

 でも、『だから大丈夫だ』ということ自体、私は正しくないと思っています。大気圏内核実験で放射能をばら撒いたがために、すでにたくさんの人たちが犠牲になっているはずです。ただ、放射線障害の特異性のゆえに、それは見えない。

 放射能をばら撒けば、また被害が出るということを、私は確信しているわけです。ですから、できる限り出さないようにしなければいけないと思っているのです。

 今、汚染水の中に溜まっているストロンチウムがどのくらいの量なのかというと、たぶん核実験でばら撒いたストロンチウムより多いと思います」

岩上「どのぐらいの量になるのですか」

小出「セシウムで見ると、大気圏内核実験でばら撒いたのは、福島第一原発事故における日本政府の公表値の約60倍です。公表値というのは、事故直後から大気中に放出したセシウム137に関して、IAEAに報告した時の数値です。

 核分裂した時にできるセシウムの量と、ストロンチウム90の量はほとんど一緒なのです。ストロンチウム90も大気圏内核実験で大量にばら撒いているわけですけれども、福島の事故の場合には、ストロンチウムは大気中にはほとんど出なかった。その出なかった分が、汚染水に含まれているのですね。それは、大気中にばら撒いたと日本政府が言っている量の、たぶん十倍以上。もっとあると思います。何十倍かあると思います。

 つまり、ストロンチウムに限っては、大気圏内核実験でばら撒いた量と、今、福島の敷地内の汚染水の中にある量は、同じか、むしろ福島のほうが多いだろうと私は思います。そうすると、『ではそれをばら撒いたところで、これまで大気圏内核実験で撒いたストロンチウムと同じなんだから、いいだろう』と言う人はいるだろうと思います。しかし、今までに害があった。それと同じ害だからいいだろうという議論は、私は正しくないと思うし、してはいけないだろうと思います。ただ、ほかに打つ手があるのかと考えると、難しいと思います」

岩上「安倍さんは、IOC総会で、『汚洗水は完全にコントロールしている。港湾内に全部収まっている』と言いましたね。収まっているわけがないのですけれどもね。1日で44%、海水交換されるわけですから。

 つまり、どんな嘘でもつけるということだと思うのですけれども、非常に短いスピーチの中に、ぎっしりと、幕の内弁当のように、多種多様な核種がギュッと凝縮しているように、多様な嘘が詰まっていたと思います。地震後に本当にオリンピックを行ったら、大変なことになると思うのですが、先生は危機感を持たれますか」

小出「もともと、福島第一原子力発電所に、安全だとお墨つきを与えたのは、自民党政権です。そのお墨つきを与えた原子炉が爆発して、何十万人もの人が、今、苦難のどん底にいるのですよね。では誰が責任を取るべきなのかといったら、自民党政権のトップである安倍さんが、責任を取らなければいけないはずだと私は思うし、まず真っ先に、彼を刑務所に入れたいと私は思っています。でも、その彼が、福島の人たち、どん底に落とした人たちを横目に置いておきながら、汚洗水は完全にコントロールしていると言った。もういい加減にしてほしいと思います。

 安倍さんは『東京電力なんかに任せていてはだめだから、政府が責任を持ってやります』とも言ったわけですね。政府が責任を持つといっても、いったい誰の金を使うのかと私は聞きたくなる。もちろん国民の金なわけだし、どん底に突き落とされた福島の人たちの金でもあるわけですね。それを使って安倍さんが、私から見ると犯罪者である安倍さんがやると。おまえなんかに偉そうに言ってほしくないと思いましたね。まずはちゃんと責任を取るべきだと思う」

岩上「政府が全面に出て行うということは、国費を投入するということと、実際の現場に口を出してくるということだと思うのですけれども、政府にそんな当事者能力や解決能力があるのでしょうか」

小出「ないです」

岩上「ない?」

小出「はい。ないですけれども、でも東電に任せていてもだめです。東電は一企業です。何十回倒産しても購い切れないくらいの被害が出ているわけで、東電に任せて解決できるはずはないのです。まず東電ははっきりと倒産させる。倒産させた上で、仕方がないから国が行う。国が、国民の血税を使ってでも行うしかないと表明しなければいけない。

 膨大な金がかかります。私は、国家が倒産するほどの金がかかると思っていますけれども、でもせざるを得ないのであって、1つ1つきっちりと責任を明らかにして、東電を倒産させる。そして、もう仕方がないから国がすべてを請け負って、金をすべて負担しなければいけない。しかし、今、進行中の事故を、本当に収束するだけの能力が国にあるのかと問われてしまうと、先ほどお答えしたように、たぶんない」

岩上「こういう最中に再稼働の手続きがどんどん進んでいます。とりわけ東電が熱心なのは、柏崎刈羽原発。国内最大級の原発です。そして、何が何でもこれに抵抗する泉田知事(※5)を陥落するべく、攻め立てたと言っていいでしょう。泉田さんは、大変立派な論陣を張って、安全性が確立されない限り、申請は受けつけないということでしたけれども、この間、広瀬東電社長との二回目の対談によって、少し態度を軟化させました。

 東電の広瀬さんの言い分は、先ほどのシンポジウムでの某氏と同じですね。経済性一点張りですよね。自分たちが赤字に転落するから、だから再稼動すると。これはどのようにご覧になっていますか。現在、柏崎刈羽は安全に再稼動できると思いますか」

(※5)泉田裕彦。通産・経産官僚。新潟県知事(民選第17・18・19代)、中央防災会議委員。東京電力柏崎刈羽原発の再稼働について、2011年3月の東京電力福島第一原発事故後は、事故の検証なしに再稼働の議論はしない原則を公言していた。2013年7月、東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働に向けた安全審査を政府に申請した際には、「国民の理解を得られるとは到底思えない。地元に対する説明も一切ない」と強い不快感を表明、東京電力の広瀬直己社長と会談し、「なぜ急いだのか」と、その姿勢を批判した。泉田知事は、東電が経営再建のため、安全対策よりも再稼働を優先していると批判し、安全審査の申請を認めない姿勢だった。その後、東電は約2カ月半ぶりに行われた広瀬社長と泉田知事との会談で、ベント設備を6、7号機に追加設置するなど、安全対策の強化を発表。県の承認を得るまで安全審査を申請しない方針を示して地元重視の姿勢も強調した。その直後、知事は東京電力柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に向けた安全審査の申請を条件つきで認めると発表。これを受け、東電は原子力規制委員会に申請書類を提出した。承認する理由について、泉田知事は「事業者が安全確保に自信を持てず、第三者の目を入れたいという状況を放置することは、地元にとっても望ましくない」とする談話を発表した。

 小出「できる道理がない。いまだに福島の事故の原因すら確定していないのです。原因が確定できなければ、対策の取りようがない。当たり前のことです。もともと柏崎刈羽は、猛烈な地震であちこち不具合が出ていました。2007年だったでしょうかね(※6)。あれだって、安全なはずだったのにやられてしまったわけですし、どんな原子力発電所だって、完璧に安全などという保障はあるはずがないわけです。機械ですから。

 ですから私は、柏崎刈羽も含めて、すべての原子力発電所は停止すべきだと思いますけれども、今、停止すると、東電が倒産してしまうという話になってしまうわけですよね。もう結構ですよ。東電はどんどん倒産してくれてかまわないし、もう原子力を一切ふり出しに戻して、電力事業を再建するしかないと私は思います」

(※6)2007年7月、新潟県中越沖地震により変圧器火災発生。全面停止となる。

 岩上「泉田さんの姿勢については、どのようにご覧になっていますか」

小出「泉田さんは頑張りました。どこまで頑張ってくれるかと思っていましたけれども、でもたぶん無理だと思います。政治の世界の人ですし、日本が原子力を進めると決めて、経済界も何もそれに乗って、ここまで来てしまったわけで、先ほどの池田さんの話ではないけれども、『今止めたら、電気代が上がってしまう』ということを考えている人たちが、政治と経済の場でずっと動かしてきたわけですから、泉田さんの支持基盤の中にももちろんそれがあるだろうし、柏崎刈羽原子力発電所を作って、さまざまに潤ってきた人たち、組織は新潟県内にたくさんあるはずなので、泉田さんという一人の知事がとことん抵抗するということは、たぶん無理だと、私は思います」

岩上「電気代が上がるという話は、今、世間では、当たり前のようになっていますけれども、これには疑問があります。オイルショックの時のようなイメージが強いんでしょうけれども。たしか前に、私とした話の中では、電気代はそれほど上がらないんじゃないか、上がるかもしれないけれども、そのことによる経済コストと、原発を維持するコストは、比べものにならないほど、原発のコストが高くなるという話でしたよね」

小出「原則的なことを言うなら、これまでだって原子力の発電単価が一番高かったのです。原子力なんてやってしまったがために、高い電気をみんなが払わされてきたわけですから、一刻も早く止めるのが原則的にいいのです。

 原発を止めれば、短期的には、たぶん化石燃料を買わなければいけないなど、そういうお金はもちろん必要になるわけですから、電気代がいくらか上がるかもしれないと思います。でも、そんなことがいったい何なんだと私は思うのですね。

 原子力をやればやるだけ損をしてしまうわけだし、廃炉の費用だって、本当にいくらかかるかわからない。生み出してしまった核分裂生成物のごみの始末といったら、もう気が遠くなるほどの作業になってしまうわけで、やればやるだけ未来の世代にツケを残していくということになるわけですから、目先のことに惑わされないで、止めるべきだと思います」

岩上「福島第一原発の、気にかかるもう1つの点というのは、4号機のことです。使用済み核燃料の取り出し作業が始まるといいますが、もし途中で破損があったら、大変なことになるのではと警告されていました。このことについて、先生のご意見を伺いたいです。

 また、山田先生と話した時にも、使用済み核燃料が膨大に溜まっているという話が出まして、『使用済み核燃料も鉛漬けにできないのですか』と伺いました。山田先生は、『乱暴な措置だけれども、耐えられさえすればできなくもない』とおっしゃっていました。それについてはいかがでしょうか」

小出「日本政府の公表値によると、大気中に放出されたセシウムは、広島原爆の168発分です。4号機の使用済み燃料プールの中に眠っている使用済み核燃料の中には、広島原爆の1万4000発分のセシウムがあります」

岩上「本当に、何回聞いても、ため息をついてしまう」

小出「これまでに放出したセシウムの約100倍が、まだ今はプールの底にあるのです。プールは爆発で宙吊りのような状態になっていて、毎日のように余震がある中、そのプールが崩壊するようなことになれば、大変なことになると私は思っています。とにかく一刻も早く、使用済み燃料を少しでも危険の少ない場所に移すべきだと思っていました。

 東京電力もそう思ったので、核燃料を移すためのクレーンを設置するため、まず巨大な建屋を建ててきたわけです。今年の11月か12月になれば、核燃料を吊り出す作業を始められると言っています。

 私は早くそれを始めてほしいと思っていますけれども、プールの中には、使用済み燃料が1331体炉あります。それを単に吊り出したら、周りの人がバタバタ死んでしまいますので、巨大なキャスクという輸送容器をプールの底に沈めて、そのキャスクの中に、たぶん20体ぐらいは入ると思うのですが、使用済み燃料を入れて、蓋をして、クレーンで吊り上げます」

岩上「水と一緒に吊り上げるのですね」

小出「はい。水底にまず容器を沈めて、水浸しの容器の中に使用済み燃料を入れて、蓋をして、水が入った状態で吊り出すわけですね。重さ100トンを超えますので、巨大なクレーンを今、設置しているわけです。

 私はそれがうまくできるか心配なのです。プール自体が破損しているし、その上に、いろいろ瓦礫が落ちているわけですね。使用済み燃料をきちっとキャスクの中に入れるのは困難かもしれない」

岩上「ロボットか何かを使うのですかね」

小出「はい。使用済み燃料の交換機というものがもともとあるのですが、それはもう爆発で吹き飛んで、今はないので、たぶん新しい使用済み燃料交換機を、今、準備していると思います」

岩上「何らかのアームで瓦礫などを取り除きながら入れるのですよね」

小出「はい、そうです。アームをおろして、ちょっと吊り上げて、横にずらしてキャスクの中に入れる。それを1331回行うわけですよ。途中で落としたりすれば、使用済み燃料がまた破損する。そうすると、また放射能が吹き出してしまいます」

岩上「破損した時に、核分裂が起きるというわけではないですよね」

小出「たぶんそれはないと私は思っています。怖いのは、放射能がどれだけ外に出てきてしまうかということです」

岩上「放射能が出てしまうと、そこに近づけなくなりますね」

小出「はい、そうです。労働者が被曝をしてしまうので、作業がしばらくできなくなると思います。ですから、本当に1331体分を、きちっと移すことができるか不安だし、いったいどれだけの時間がかかってしまうのかということも不安なのです。でも、少なくとも私は、やるべきだと思っています。

 実は、4号機は、私たちがオペレーションフロアと呼んでいる、使用済み燃料プールがあるフロアの汚染が比較的少ないのです。でも、使用済み燃料プールは、1号機、2号機、3号機にもあります。そちらのオペレーションフロアは、汚染が猛烈にひどいので、いまだにその階に人が行くことさえできないのですね。ですから、遠隔操作で瓦礫を撤去しているわけで、いつになったら使用済み燃料を吊り出す作業が始められるか、私にはわかりません。先ほど、岩上さんがおっしゃったように、もう吊り出すのはあきらめて、使用済み燃料プールごと鉛で固めてしまう方法を、私はあまり取りたくないけれども、取らざるを得なくなるかもしれないですね」

岩上「先生がその方法を取りたくないというのは、どういうことですか」

小出「不安じゃないですか。山田さんも不安かもしれないけれども、鉛を入れたとしても、プールが崩れたら、また困ってしまうわけだし」

岩上「建物ごと鉛で固めるのはだめですか」

小出「全体を鉛で覆うというのは、それこそ膨大すぎて、できないんじゃないですかね。プールだけでも、鉛を乗せたら、たぶん床がもたないと思います。やはり、どこか安定している場所に移すというほうが、私としてはいいと思いますけれども」

岩上「1、2、3号機は4号機のように破壊されていないから、本来なら取り出し作業ができるはずなのに、汚染がひどいために近寄れないのですね。見通しもない」

小出「できないし、見通しもないです」

岩上「時間がずっと経ってから始めるというのが、一応考えられる最善の手ですか」

小出「ですから、東電としても、まず4号機で始めようとしているわけですね。うまくいくかどうかはわからないけれども、まず4号機で始めようと思っていると思います。それがうまくできれば、また1号機、2号機、3号機と取りかかるのでしょうけれども、終わるまでには、たぶん10年くらいの時間がかかるでしょう。私は、最後は石棺にするしかないと思っていますけれども、要するに、石棺が作れるようになるまでに、まずそういう時間が必要なのです」

岩上「そうですか。今すぐ石棺を作ることはできないんですね」

小出「4号機は、きちんと使用済み燃料を取り出すことができれば、石棺は必要ではないかもしれません」

岩上「いらない?」

小出「4号機は、です。1号機、2号機、3号機は、もう炉心が溶けてしまっているので、石棺しかないと思います。国や東電は、溶けた炉心をつかみ出すと言っていますけれども、私はできないと思っています。石棺の工事に取りかかるためには、まずは使用済み燃料プールの底にある、使用済み燃料を取り出さないと。封じ込めてしまったら、終わりですから」

岩上「石棺を作る時には、鉛や錫で固める必要はないのですか」

小出「わかりませんけれども、何らかの遮蔽材を、溶け落ちた炉心の周辺に作るということは、必要かもしれません。でもそこで、また被曝をしてしまいますので、何にもしないまま、チェルノブイリのように、とにかく巨大な容器を作ってしまうというのが一番いいかもしれない」

岩上「そうですか」

小出「わかりません。それはもう様子を見ながら考えるしかないと思う」

岩上「熔け落ちた炉心が集まっている場合は、上から鉛、錫でコーティングできるかもしれないけれども、飛び散っていた場合は、入れたものがうまく上に乗って、コーティングしてくれる保証がない」

小出「そうです。だから私は、金属で冷やすべきだと言っていますけれども、それがうまくいくかどうか不安なのです。確信が持てない。それは私が、炉心は1カ所に固まっていなくて、あちこち飛び散ってしまっていて、すべてに金属をまんべんなく行きわたらせることが難しいだろうと思っているからなのですが」

岩上「なるほど。飛び散っていた場合、打つ手はあるのですか」

小出「飛び散っているということは、上から落ちて飛び散っているわけですから、同じように上から金属を落とせば、金属も飛び散るかもしれない。どういう状態になるかわからないのですけれども、試してみる価値はあると思います。放射性物質がどれだけ出てくるか、測定しておけば、何らかの情報は把握できるはずだと思いますので」

岩上「研究価値はあるということですね」

小出「まあ、わからない」

岩上「最後に1つ伺います。

 安倍政権になって、『汚洗水はコントロールされているから、オリンピックをやる』などと、嘘ばかり言っていますよね。嘘ばかりのこの安倍政権が、今、何に一番全力を挙げているか。たくさんありますけれども、最も全力を挙げているのは、ご存知の通り、この国の軍事国家化です。

 秘密保護法(※7)も通します。解釈改憲して集団的安全保障の行使を容認します。米軍との一体化も進めます。例えばシリアで、米国が単独行動で、自衛でもない戦争をやろうとした。それに、日本は追随していったかもしれない。自分たちが攻撃されるリスクが高まるけれども、応戦しようとしている。国防軍、日本版NSCを作ろうとしている。これらはみんな一体です。多くの人が、軍事国家化と秘密保護法、共謀罪、こうしたことがまったく別のことのように思っていますけれども、まったく一体ですよね。先生はご存知だと思いますけれども。もともとの京都大学は京都にありますが、そのすぐ北に、レーダー基地を作るということで、今、反対運動もあります。

 そもそもアメリカの戦略では、日本を戦場とするわけですね。アメリカの統合エアシーバトル(※8)を落とし込んだ日本の海上自衛隊幹部学校の論文や、それに基づいた山桜という演習がありますが、その演習に基づくと、若狭湾が最大の敵の上陸地点であり、日本とアメリカ軍が仮想敵としている中国軍、北朝鮮軍をそこで迎え撃って、海と陸と空で、砲撃と弾頭と爆撃の雨嵐の戦いを繰り広げて上陸を防ぎ、もし上陸されたら、陸上で再度戦闘を続けるという、大活劇スペクタルをする予定なのですよ。

 その大活劇スペクタルをする予定地に、ずらっと原発が並んでいることに、その論文の中では一度も触れられていない。そして、この演習はすでに行われています。行われたのは、何と3.11のあとです。先生、若狭湾と京都は、目と鼻の先です。このことをどのようにお考えになりますか」

(※7)特定秘密保護法案。法案が論議に上るようになった原因の一つは、2010年に尖閣諸島沖で中国籍の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、海上保安庁の職員が、衝突の瞬間を撮影した映像をインターネットの動画共有サイトに流出させたことに端を発する。この職員は起訴猶予処分となった。
 また、2013年1月にアルジェリアで発生し、日本人10人が犠牲となった人質事件も、法案成立の背景にあるといわれている。

 その後の与党検証チームの報告書では、日本には重要な情報を守る法整備が不十分なため、他国の政府が持つ情報を日本に提供してもらえない場合があることが指摘された。このような背景を受け、国の秘密情報の漏洩が簡単に行われないために、現政権は同法案を制定しようとしている。

 法案概要は2013年9月に公表されたが、その後いくつかの修正が加えられている。法案では、(1)防衛、(2)外交、(3)特定有害活動(スパイなど)の防止、(4)テロ活動防止の4分類に関する事項のうち、漏洩すると政府が「国の安全保障に著しい支障を与える」と判断した情報を「特定秘密」に指定し、保護するとされている。秘密の有効期間は「上限5年」で、大臣など行政機関のトップの判断で無限に更新でき、その間、国民には重要情報が知らされなくなる。また、情報を漏らした国家公務員などには、最大で懲役10年の罰則が科される。

 法案作成の過程では、いくつかの懸念が示され、9月3~17日に実施されたパブリックコメント(意見公募)では、約9万件の意見のうち、反対が8割近くを占めた。政府は、こうした反対意見を考慮し、報道・取材の自由について「(国民の知る権利の保障に関して)十分に配慮しなければならない」との条文を追加したほか、罰則の対象となる取材を「著しく不当な方法によるもの」とするなどの表現を加えた。
 また、特定秘密の指定が30年を超える場合は、内閣の承認を必要とするという修正も加えられたものの、いまだに法案には懸念がある。

 指定が行政機関の長だけの判断で決められ、第三者のチェックを受けないため、政府が恣意的に不都合な情報を隠す危険性がある。加えられた修正には、強制力のない努力規定にとどまり、権利が守られる保証はない。
 また、特定秘密を扱う公務員らには「適性検査」を行い、漏洩の心配がないと評価された者だけが機密情報に接するが、その調査が対象者のプライバシー権を侵害するとの指摘もある。

 政府は10月25日にこれを閣議決定した。同日審議入りした国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案を11月初めに衆院通過させ、その後秘密保護法案の本格審議に入り、12月6日の会期末までに、わずか1カ月で成立させたい考え。多数の憲法学者、刑事法学者、弁護士会が「国民主権、基本的人権尊重、平和主義といった憲法の基本原理を脅かす」として反対を表明している。全文はこちら

(※8)[IWJ日米地位協定スペシャルNo.4]日本全土が戦場に 在日米軍はまず逃げる!? 米軍「統合エアシーバトル」全容判明~岩上安身によるインタビュー 第295回 ゲスト伊波洋一元宜野湾市長 2013.4.2

小出「あまりにもばかげたシナリオですね。戦争になったら、まずは原発が標的になるというのは当たり前だと思うし、原発の存在を考えない戦争シナリオなど、書くだけ無意味だと思います」

岩上「しかし今、本気で憲法をいじり、解釈改憲で変え、米軍と一体化し、そして本当に物が言えない世の中が作られようとしています。報道や取材行為すら制約するという法案の準備も今まっしぐらに進んでいます。敵基地攻撃論まで用意して、そうなると、北朝鮮は撃ってきますね。目と鼻の先の海岸線に撃ってきますね。それが現実化しつつあるのです。

 原発のことを論じていても、戦争のことに目を向けない、戦争のことに気がついているけれども、原発のことに気づかないという人がいます。何だか別番組をやっている状態が続いている。でもこれは別番組ではいけない。同じ空間で、原発×戦争で考えなければいけないと、私は言っているのですけれども、なかなか同時に耳を向けてくれないのですよ。どうしたものでしょう」

小出「むしろ私が岩上さんに聞きたいです。まあ、岩上さんに聞くというよりは、政治に携わっている人に、真面目に考えてほしいと思いますね。軍事に関わっている人が、どうして原発の存在を許せるか、それがまず私にとっては不思議です」

岩上「どうしても戦争をしなければいけない、敵からの攻撃があるかもしれない、国防を固めなきゃいけないというのなら、もう全力で原発を片づけろと言うしかないですよね」

小出「原発を持ったまま戦争はできないです。それは当たり前だと私は思うし、軍事の専門家なら、当然皆さん知っているはずだと思いますけれども。でも今、岩上さんがおっしゃったように、山桜というシナリオには、原発はない。あまりに愚かですよね」

岩上「このあとには、最悪のシナリオが待っています。米中間の覇権ゲームが最大化した場合は、戦場は日本列島ですから。アメリカは退避します。日本にはミサイルの山が残り、その後アメリカが奪還に行くというシナリオです。そのために、国費を膨大に投入して国防費を強化し、そうしたシナリオに沿った国防体制を取り、自衛隊は国防軍に格上げするでしょう。そして国防軍が、これまでの理を超えて、活動し、行動し、武力行動ができるような編成も行うというわけですよ」

小出「私が岩上さんに講釈する必要は全然ないと思うけれども、日本という国は、いまだに米国の属国なのですよ」

岩上「以前、この話はしましたね」

小出「はい。だから、このような状態になっているのであって、そのことを政治の人だって、ちゃんと認識しなければいけないわけです。でも米国の属国状態から抜け出そうとする政治家は、抹殺されるという歴史でした。鳩山由紀夫元総理も何かやろうとしたけれども、抹殺された。小沢一郎さんも抹殺された。本当に、もっと多くの人が、この日本という国と米国という国の関係を、きちんと考えなければいけないと思います」

岩上「これは、政治家や官僚任せでは、もうだめなんじゃないですか」

小出「だめでしょうね。では、どうしたらいいのかと問われると……。本当は、国民が賢くなればいいのですけれども」

岩上「メディアが、国側のメディアしかなくなっているのですよ」

小出「そうです。マスコミも米国の属国のまま動いてきているわけです」

岩上「マスコミの制約で、発言を封じられた経験がおありの小出さんなら、わかると思います。それが今、一段とひどくなっています。その上、秘密保護法が決定したら、本当に……」

小出「ものが言えなくなるわけですね」

岩上「どうしましょうか」

小出「まだ、岩上さんがいるから(笑)」

岩上「いやあ(笑)、私も……」

小出「岩上さんが葬り去られるか、私が葬り去られるか。まあ仕方がないんじゃないですか」

岩上「山桜の演習のことを話したら、刑事罰10年かもしれないですよ」

小出「そうかもしれないですね。何を言ってもやられるかもしれない。向こうがやる気になれば、何でもできるわけですし」

岩上「昨日、総理会見があったのですけれども、挙手をして、もし指されたら、山桜について質問して、『総理、私、刑事罰10年になるのですかね』とお聞きしようかと、本気で思っていたのですよ。指されなかったけれども。指されたら、聞きますから。予告します。『私、懲役10年ですか』って。でもその前に官邸から締め出されるでしょうね。

 しかし、本当に大変なところに来ましたね。これまでは、何とか原発の情報は出ていましたけれども、もう出ないんじゃないですか」

小出「秘密保護法が本当に成立してしまうと、原子力の情報は、ますます出なくなるでしょうね」

岩上「アメリカと二人三脚でやってきたことが、原発を世界に売りつけていくことも含めて、これからも拡大していく基調です。これが全部、秘密になって、それはもう強い壁ができてしまう。リークもなくなりますよね」

小出「リークしたら懲役10年になってしまうわけですから、簡単にはできなくなるでしょうね。今までもリークなんかできなかったし、これからは、ますますできなくなっていくでしょうね」

岩上「先生、ひと言、希望のひと言をお願いします」

小出「あったら聞かせてください(笑)。

 ただ、福島の、苦難のどん底に落とされた人たちの中にも、今も挫けずに戦おうとしている人たちがいらっしゃるわけだし、全国でそれを支えようとしている人たちだっているわけですから、希望がないわけではないと思います」

岩上「法案が通ってしまってから、何とかしようと思っているのは、まずいですね」

小出「そうですね」

岩上「秋の国会に出るそうで、今の国会の構成状況から見ると、阻止するのは大変難しいと思います。でも少しでも声を上げて、留保をつけるとか、制約をつけるとか、より危険でないものにしなくてはいけないと、本当に思います。

 先生、本当にどうもありがとうございました」

小出「ありがとうございました」

岩上「小出先生にお話を伺いました。皆さん、長時間ありがとうございました」

【文字起こし・@sekilalazowie, 校正・澤邊】

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