内戦が続くシリアの首都ダマスカス郊外で、21日、化学兵器が使用され、子どもを含む一般市民に多数の死傷者が出た。NGO「国境なき医師団」は24日に声明を発表し、3600人が病院に搬送され、355人が死亡したと発表した。CNNは「1300人が死亡か」と報じている。
事件は国連の調査団がシリア入りした直後に起きた。国連の潘基文事務局長は「衝撃を受けた」との談話を発表。安保理は緊急会合を招集し「強い懸念」を表明した。
反体制側を支援するアメリカは、即日、アサド政権側が化学兵器を使用した「有力な兆候」があるとの認識を示していた。26日になり、ケリー国務長官が記者会見を開き、アサド政権が化学兵器を使用した、と断定。「最も憎むべき兵器を使った側に責任を取らせる」と語り、米メディアは数日中にシリアへの軍事攻撃が開始されると報じている。米海軍はすでに、4隻の駆逐艦をシリアへのミサイル攻撃が可能な地中海頭部に配備している。
重要なのは、化学兵器を使用した犯人を特定することである。現在、アサド政権側、反体制側がともに相手を非難している状態だ。しかし、アメリカははやくも、化学兵器がアサド政権により使用されたと断定した。
以下、8月26日(午前3時49分から午前6時9分)の時点で入手した情報にもとづくシリア情勢の分析のツイートを以下、順番に記しておく。事態は時々刻々と移り変わってゆく。この時点での分析であることをお断りしておく。
化学兵器を使用したのは、体制側か反体制側か
他の仕事に区切りをつけて、今、シリアで起きた虐殺(虐殺の事実まででっち上げとは今のところ考えにくい)事件の資料を読んでいる。体制側も反体制側も、お互いに化学兵器を使ったのは相手側だ、と非難している。しかし子供を含む千を超える犠牲者が出たのは、反体制側だ。
反体制側が行ったのだとすると、アサド大統領側が主張するように自作自演ということになる。あり得るだろうか? 子供まで犠牲にしてまで、そんな暴挙を行うだろうか? 普通に考えれば、まず考えにくい。
もっともこの内戦は、クルド人や外部からやってきたアルカイダら、三つ巴、四つ巴の混戦模様なので、反体制派組織「国民連合」以外の反体制派組織が実行し、アサド側に罪を転嫁することがまったくないとは言えない。本格的介入を目論む外国からの「挑発」的軍事行動の可能性もゼロではない。
化学兵器の使用に武力での介入は妥当か
言い換えるとそんな想定を捨てきれないところが、化学兵器の怖さでもある。オウム真理教のような一教団でもサリンを製造し、運搬し得た。ノウハウも材料も簡単に手に入り、金もかからない。同じ大量破壊兵器に数えられるとはいえ、核兵器とは比較にならない手軽さである。
現段階の情報では、化学兵器が使用されたとしたらシリア政府軍の可能性がもっとも高いが、小規模なテロ組織でも製造し、使用することができることは肝に命じる必要がある。また、「戦略的」な効果も微妙である。今回の事件について、もっとも強い非難声明を出したのはフランスである。
フランスのファビウス外相は、「シリア政府による化学兵器使用が確認されたら、武力で対応すべきだ」と語ったが、同時に「地上軍は派遣しない」とも。いうまでもなく、自軍の兵士に使用されるのを恐れてのことである。
地上軍を派遣しない、となるとやれることは空爆のみである。だが、核兵器ならば大規模施設であり、ピンポイント空爆も不可能ではないだろうが、サリンのような化学兵器は、どこにでも小分けにして分散できる。めったやたらな空爆によって破損、拡散したら、軍民区別なく被害者が出る。
シリアが支配地域全土に化学兵器を分散配置した、と宣言したら、たとえ国連で決議が出たとしても、誰が空爆できるだろうか? シリアのアサド体制は打倒すべき、と仮にしても、その支配下におかれている一般市民、とりわけ今回犠牲になった小さな子供を同じ目にあわせられるだろうか?
イスラエルは戦慄したのでは
米中の反対は当然だが、米国もひるむだろう。だが、イスラエルはどう考えるか。シリア政府が今回、化学兵器を使ったのが間違いないとしたら、これまで指摘されてきた通り、シリアは化学兵器を大量保有し、しかもいざとなれば民間人に対してさえ、その使用をためらわない、ということになる。
イスラエルは戦慄したのではないか。弾頭に化学兵器を搭載したミサイルは、ニューヨークには届かないがエルサレムには届く。過激化しないように、シリア内戦の停止を求め、アサド派とも妥協の道を探るのか、それとも、だから言わんこっちゃないと、アサド討つべしとの持論を強めるのか。
いかなイスラエルといえども、今回は81年に、イラクのオシラク原子炉を空爆したような離れ業は不可能である。
ならばアサドを暗殺するとか、工作してクーデターを起こさせたらとか、そんな話も聞こえてくる。だがアサドさえ倒せばよいというものでもなく、少数派として差別されてきたアラウィー派への報復がないと約束されない限り、クーデターは起き得ないし、起きても繰り返しになりはしないか。
ここまで書いてきたのは、あくまで、入手可能な情報の限られる現時点での仮説の検討である。時が経てばもう少しシナリオが絞られるかもしれないし、あるいは一層混迷するかもしれない。
米国は再び「イラク戦争」をやるのか
一番そうであって欲しくはないシナリオは、アサド政権を快く思っていない外国が、アサド政権の戦争犯罪をでっち上げたというシナリオである。これは最悪である。
その場合、アサド側は、化学兵器の実戦使用によって、子供まで殺すような残酷さは持ち合わせていなかった、ということになり、外国から攻撃されても自国の一般市民を巻き添えにする化学兵器を使用しないし、できない。外国軍は、そこまで見切った上で軍事介入できるだろう。
アサド政権は、これまで複数回、小規模な化学兵器使用を行った疑いがかけられている。彼らがまったくイノセントである可能性は高いとは言えない、かもしれない。だが、真に問題になるのは、今回の大量虐殺を行った真犯人は誰か、ということなのだ。
今回の事件によって軍事的冒険による「解決」には誰しもがためらい、躊躇し、政治的な話し合いで妥協を探る展開が、望ましい、とやはり思う。暴力ではなく話し合いで、という一般的な理想論の掲げたいからではなく(いや、その旗は掲げ続けたいが、ここでの強調点点はそこではなく)、
大国がシリアへの武力攻撃に慎重だった場合、先に述べてきた理由によって、ああ、化学兵器を使った下手人はやはりアサドだったのだと信じることができる。だが、大国が、もし躊躇もなくどかどかとシリアに踏み入り、アサド側が反撃のために化学兵器も使うことなく敗れ去った場合には。
被害者はもっとも少なく、陰鬱な内戦は終わり、めでたしめでたし、ということになるのかもしれない。しかし、開戦のための口実として、大国が事件をでっち上げたのかもしれない、子供達がそのために犠牲になったのかもしれない、という疑惑がやはり残る。
それはでっち上げの大量破壊兵器保有疑惑でイラクを滅ぼしたあと、この世界に残った最後のちっぽけな信頼までをも、根こそぎにしてしまうことになる。万が一にもそんな展開は勘弁してもらいたい。これ以上の大量の流血も、流血なき大量死も、世界への信頼の瓦解も願い下げである。
言い忘れていた。罪のない子供達が命を奪われた、その事件の下手人が誰であれ、もし集団的自衛権の行使容認を決めたら、米軍参戦の折には、自衛隊も出動しなくてはならなくなるかも、ということ。これは忘れるわけにはいかない。今ならまだ、日本政府は手を汚していないと信じられるが。
IWJと同じくインデペンデントのフランスのジャーナリストよる記事が興味深かったので、要約を送ります。
記者は、西側諸国による空爆攻撃の可能性は少ないと予測していますが、フランスはやる気満々のようです。サルコジ大統領時代から、フランスは戦略的な国になりました。
西側諸国はシリアを空爆する用意があるのか?
シリアにおける化学兵器
各国の大使が集まった国連会議において、ロシア大使が衛星から撮った写真を提示した。
その写真からわかることは、8月21日1時35分に二発の砲弾が、反政府軍占拠のドゥーマから発射されていることである。その砲弾によって、化学兵器ガスの被害を受けたゾーンも、反政府軍占拠地である。
この攻撃で、一石三鳥を狙ったのではないだろうか。
反政府軍内部の抗争相手である部隊を一掃する。
シリア政府が化学兵器を使ったとして非難を受ける。
政府軍を混乱させ、首都ダマスカスから追い出す。
8月12日反政府軍は、化学兵器研究所のビデオを公開
今週、シリア政府は、隠された化学兵器やガスマスクを発見。それらは、サウジアラビア、カタール、アメリカ、オランダの製品だった。
シリア政府が、国連の視察団の調査を要請した。
各国の動き
米国、英国、仏国、カナダ、露国の国務長官の話し合いにおいて、露国が、国連の調査結果が出される前に、シリア攻撃について決議をすることに驚き、反発を示した。
NATOは、国連の承認なく、ユーゴスラビアを空爆したが、当時は、ソ連崩壊の時代だったが、今回は、状況が異なる。プーチンは、英国首相に、シリア政府が、化学兵器を使用した証拠はないと発言。
そして、西側諸国が、シリアを攻撃しても、ロシアは介入するつもりがないと発表している。
中国は、副外務大臣が、米国に電話し、シリア攻撃を控えるように懇願した。
イランは、シリア攻撃は、レッドラインを超える違反行為であり、その影響は甚大であるとけん制した。
ローマ法王は、反対の立場を表明。
世論調査
米国の8月21日の世論調査では、60パーセントのアメリカ人がシリア攻撃に反対し、9%が支持している。シリア政府による化学兵器使用を信じている人の間でも、賛成は、少なく、25%で、反対は、46パーセント。反政府軍への武器供給に反対している人は、89パーセント。賛成が、11パーセント。
フランスでの世論調査では、シリア攻撃に反対は、79.6パーセントで、賛成は、20.4パーセント。
シリア攻撃によって、アラブ諸国が一斉に蜂起する可能性もあり、シリア攻撃に伴うリスクは甚大。
西側諸国が、地中海に軍を集中させ、攻撃の準備をしているが、実際に空爆に至る可能性は少ないのではないか。むしろ、それによって、ロシアやイランがどのような反応するのかを試しているのではないだろうか。
Les Occidentaux sont-ils prêts à bombarder la Syrie ? http://www.voltairenet.org/article179927.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter