【参院選2013争点解説⑤外交・安全保障】「目的」ではなく「手段」としての日米関係は可能か(IWJウィークリー10号より) 2013.7.15

記事公開日:2013.7.15 テキスト動画
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「Japan is back」(日本は戻ってきました)――。

 これは、日米首脳会談後、ワシントンのシンクタンク・米戦略国際問題研究所(CSIS)で行われた、安倍晋三首相の講演のタイトルです。

 安倍首相は昨年末の政権発足後、繰り返し、外交・安全保障の基軸として、日米同盟の強化を主張してきました。「民主党政権下でボロボロになった日米関係を自らが立て直す」。これが、安倍首相の基本的な認識です。「Japan is back」とは、外交・安全保障の分野での日米間の連携を、「元に戻す」ということを意味しています。

 日本の外交・安全保障政策は、現実の問題として、米国との関係抜きには語ることができません。そこで順に、今回の参院選で、各党が政権公約において日米関係をどのように位置づけているのか、見ていきたいと思います。

自民・民主・みんな・維新は「日米同盟基軸」で一致

 まず、自民党の政権公約には、「国民の生命と国益を守り抜く」ための方法として、「日米同盟を基軸とした戦略的外交の展開と揺るぎない安全保障政策の実行」と、はっきり明記されています。

 具体的には、「『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)を見直す」としています。1999年に制定された周辺事態法をより厳格に整備し、極東での有事に備えるとともに、自衛隊による在日米軍の後方支援を積極的に行うことで、日米関係の強化を狙う意図があると考えられます。

 さらに、集団的自衛権の行使を可能にし、「国家安全保障会議」(日本版NSC)の設置、秘密保全法などを含むとされる、「国家安全保障基本法」の制定も公約に記しています。

 ポイントは、アジアを「中国、韓国」と「ASEAN諸国」とに書き分けていることです。「中国、韓国」とは「関係の発展」を、「ASEAN諸国」とは「友好協力関係の増進」を図るとしています。

 「関係の発展」とは具体的に何を意味するのでしょうか。なぜ、中国と韓国に対しても、ASEAN諸国と同様、「友好協力関係の増進」を図ると記していないのでしょうか。

 背景には、尖閣諸島と竹島をめぐる領土問題があると考えられます。安倍政権は発足以降、尖閣諸島と竹島は日本固有の領土であるという立場を、繰り返し強調してきました。「友好協力関係の増進」ではなく、「関係の発展」という表現からは、日米同盟の存在を背景に、領土問題に関する安倍政権の主張を、中国と韓国に認めさせようという意図が読み取れます。

 民主党も自民党同様、「日本の外交安全保障の基軸である日米同盟をさらに深化させます」としています。さらに、NSCの設立にも言及。ここまでは、大枠で自民党と変わりがありません。

 他方、「共生実現に向けたアジア外交を展開します」という文言に、自民党との違いを示しています。具体的な政策提言が書き込まれていないため、多少、とってつけた感は否めませんが、中国、韓国、ASEAN諸国を区別することなく、「共生」を実現させるとしている点に、自民党とのスタンスの違いが表れているとみてよいでしょう。

 みんなの党もまた、自民・民主同様、「日米同盟体制を日本の安全保障の基軸とする」とし、日本版NSCの創設を掲げています。そのなかで目を引くのは、「日米地位協定改定を提起し、『思いやり予算』も見直す」と記している点です。

 この点では、日本維新の会も、みんなの党と同様の立場を取っています。公約の中で、「日米同盟を深化させる」と同時に、「日米地位協定を見直す」としているのです。

 日米地位協定とは、1951年に締結された旧安保条約を源流とし、その後、日米行政協定と改称された、「日米不平等条約」とも呼ばれているものです。日米地位協定の存在により、横田基地や嘉手納基地の周辺空域を日本の飛行機は通過することができません。また、米兵による日本人に対する暴行事件に対しても、米国軍隊に第一次裁判権が認められています。

 みんなと維新が掲げる「日米地位協定の改定」は、日米安保と切り離すことはできません。しかし、みんなと維新の公約の中には、「日米安保」の文言自体が存在していません。そのため、みんなと維新の公約は、「現実味に欠ける」との批判を免れないのではないでしょうか。

 維新は他にも、「集団的自衛権の行使などを定める国家安全保障法制を整備する」と記しています。公約で、集団的自衛権の行使容認に踏み込んでいるのは、自民党と日本維新の会のみです。

生活は「対等」を強調

 生活の党の公約には、「対等な真の日米関係を確立する」とあります。「日米関係」の前に「真の」という文言が挿入されている点がポイントです。これは、現在の日米関係が「対等」ではなく「従属」であることを、暗に批判したものだと解釈できます。

 他方、自民党同様、「国家安全保障基本法」の制定が明記されています。ただし、生活の公約では、自衛隊の活動は「国連平和維持活動への参加」に限定されています。これは、代表である小沢一郎氏の年来の主張である「国連中心主義」が影響していると考えられます。国連による平和維持活動の枠内で自衛隊の海外派兵を認めることで、米国との対等な関係を構築しようという意図があると考えられます。

 小沢代表は岩上安身のインタビューの中で、「私は米国に対し、対等な関係を作りましょう、と言い続けてきました。そうしないと、逆に日本側の鬱憤が爆発して、ナショナリズムが高まりますよ、と」と語りました。

 日米関係を「対等」にし、日本人に独立国としての自信を持たせることで、米国への鬱屈した心情と、その跳ね返りとして現れるナショナリズムの高揚を防ぐことができるのではないか、という考えが、小沢代表にはあるように考えられます。

日米安保の「見直し」を掲げる社民、「廃棄」を掲げる共産

 社民党は、「日米安保条約の軍事同盟の側面を弱めながら、将来的に経済や文化面での協力を中心にした平和友好条約への転換を目指す」としています。そのうえで、日米地位協定の改定と「思いやり予算」の削減も掲げています。自衛隊の存在は認めつつも、規模や装備を最低限に縮小するよう、主張しています。

 日米安保に関し、さらに踏み込んでいるのが日本共産党です。公約に「安保条約第10条に即した、廃棄の通告で、安保条約をなくします」と記しています。

 北朝鮮や中国を「東アジアにおける脅威」であると位置づけつつも、「東アジアでの軍縮のイニシアチブを発揮します」とうたい、「軍事的緊張の最大の根源になっている日米安保条約を解消してこそ、日本は中国や東アジアの国々に対して、軍縮へのイニシアチブを本格的に発揮することができるようになります」としています。

公明・みどりの風が掲げる「人間の安全保障」とは

 公明党とみどりの風の公約には、外交・安全保障の分野において、「日米同盟」「日米関係」という文言が登場しません。その代案として両党が掲げているのが、「人間の安全保障」という考え方です。

 従来の「国家の安全保障」と対比される概念である「人間の安全保障」とは、基本的人権をおびやかすあらゆる種類の脅威に対し、安全を保障しようという考え方です。その対象は、環境破壊から、難民、貧困にいたるまで、多種多様にわたります。

 1993年に国連開発計画(UNDP)が報告書を提出したことをきっかけに、この「人間の安全保障」という考え方は広まりました。日本はこれまで、この「人間の安全保障」に対し、積極的に取り組んできたという経緯があります。2000年には、5億円を拠出し「人間の安全保障基金」を創設しました。コソボ紛争や東ティモールの難民救済・復興支援に対しても66億円を拠出しています。

日本は国際社会で孤立化してよいのか

 多くの方は実感が持てないかもしれませんが、日本は今、国際的な孤立を深めています。2月21日に行われた日米首脳会談では、会談はたった1時間のランチのみでした。外交儀礼上の基本である晩餐会も、共同記者会見も、ファーストレディー外交もありませんでした。

 他方、6月7日に行われた米中首脳会談では、習近平国家主席のため、米国西海岸に豪華な別邸を用意し、オバマ大統領がワシントンから西海岸までわざわざ出向くという歓待ぶりでした。会談は8時間にもおよび、晩餐会と共同記者会見も行われました。米国側の、安倍首相に対する冷遇ぶりとの差が際立ちます。

 それだけではありません。韓国の朴槿恵大統領は、5月7日にワシントンで米韓首脳会談を行なった後、米連邦議会で演説を行いました。そのなかで、「歴史に正しい認識を持てなければ明日はない」と述べ、暗に安倍政権の歴史認識を批判しました。

 6月27日には、中韓首脳会談も行われています。朴大統領は国賓として中国に招かれ、両国の親密さをアピールしました。韓国の歴代大統領はこれまで、就任後は米国、日本の順で訪れることが慣例となっていましたが、朴大統領はその慣例を破り、米国の次に中国を選んだのです。

 米・中・韓が互いに親密さを深めるなかで、日中首脳会談、日韓首脳会談が行われるめどは、現在のところたっていません。日米同盟一辺倒になり、中・韓との関係をおろそかにしていると、中・韓との関係がいっこうに改善されないばかりか、米国からも相手にされなくなってしまいかねません。

 元内閣官房副長官補の柳澤協二氏は、岩上安身によるインタビューの中で、「日本は日米同盟を自己目的化しているのではないでしょうか」と語りました。東アジアの平和と安定のために、米国の軍事力を「手段」として用いることには、確かに一定の効果があるでしょう。

岩上安身のインタビューに応える、元内閣官房副長官補・柳澤協二氏~4月10日、都内スタジオにて

 しかし、柳澤氏が言うように、日米同盟が、安全保障のための「手段」ではなく「目的」となった途端、日本は米国の顔色をうかがう「属国」と化してしまいます。オスプレイの配備や、欠陥機「F35」の購入などが、その最たる例です。

 現在のところ、自民党の圧勝が予想されています。その自民党が掲げる「日米同盟を基軸とした戦略的外交」が、日本の国益のための「手段」ではなく「目的」に堕していないか。自民党がはたして、日本が国際的に孤立しているという現状を分析し、自らが置かれている位置を冷静に把握できているか、有権者一人ひとりが、しっかりと見極める必要があるでしょう。(調査協力:平山茂樹、文責:岩上安身)

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