2013年6月13日(木)18時30分、茨城県東海村の「いばらき量子ビーム研究センター」において、J-PARC(大強度陽子加速器施設)のハドロン実験施設で5月23日に発生した放射能漏れ事故に関する、周辺住民への説明会が開かれた。
日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)が開いたもので、冒頭、J-PARCセンター長の池田裕二郎氏が、「実験中に発生した放射能で施設を汚染し、従事者を被曝させ、さらには一部放射能を外に出してしまうという、あってはならない重大な事故を起こしてしまった。さらに、事故に関しての報告が遅れてしまった。こういう施設を預かる者としては、あってはならないこと」と反省の弁を述べ、住民に陳謝した。
- 日時 2013年6月13日(木)18:30~
- 場所 いばらき量子ビーム研究センター(茨城県東海村)
- 主催 J-PARCセンター(詳細)
続いて、事故を起こしたハドロン実験施設の概要説明と、事故の発生状況を説明した。これによると、ハドロン実験施設は、「万物の根源が何かを調べる、素粒子や原子核の研究施設」で、2010年から本格的に実験を開始した。
今回の事故は、高速の「陽子ビーム」を「金」の標的に当ててできる中間子を使って実験を行っている最中に、装置の電磁石が誤作動を起こしたため、30兆個の陽子を2秒間かけて標的に当てるべきところ、20兆個の陽子を5ミリ秒(約200分の1秒)という極めて短時間で一気に標的に当ててしまい、(通常の270倍のエネルギーによって)金の原子核が壊れ、放射性物質が発生したと説明した。
また、標的に用いられた金は放射性物質ではなく、加速器が止まっているため、ウランのような核分裂連鎖反応は起きないとも説明した。
放射性物質が外部に漏洩するほどの事態に至った過程についても時系列で説明した。これによると、5月23日11時55分頃に異常信号を検知し装置が自動停止したが、わずか13分後の12時8分に実験を再開した。その後、13時30分頃にハドロン施設内の放射線量を測定するモニターが正常時の10倍の値を示したため、15時頃から施設の排風ファン(換気扇)を回して放射性物質を含んだ空気を外部に排出するという、「放射性物質は内部に閉じ込める」という常識に反する対応を行った。
翌24日午前の段階でも、関係機関への通報連絡が必要な重大事故であるという認識を持たず、夕方になって、近隣にある核燃料サイクル工学研究所から、放射線量モニタリングデーターの問い合わせが入り、18時にようやく敷地境界のモニタリング数値上昇を確認、21時10分に関係機関に連絡した。
結局、最初の異常発生から関係機関への通報まで実に33時間以上掛かるという、お粗末極まりない対応に終始した。また、この事故によって、ハドロン施設にいた102名の従事者のうち34名が最高1.7mSv(ミリシーベルト)の被曝をしたと説明した。
施設側は、「事故原因の徹底究明と、再発防止策を構築」「安全管理体制および緊急時に取るべき手順等を徹底的に調べ、対応策を構築」「第三者による有識者会議の設置」という3項目の実施を住民に約束した。また、外部に放出した放射性物質について、「最大で0.29μSv(マイクロシーベルト)である」と説明した。
質疑応答では、住民側から、今回の対応への批判が続出した。研究所の正門から西に300メートルのところに住むという住民男性は、「ビーム発生器が異常停止したのなら、その原因を調べてから再開するのが常識ではないか。ましてや放射線を扱う施設であれば、十分に注意すべきではないのか」と厳しく指摘した。
また、この男性は、「放射線が出る施設なのに(換気設備に)フィルターもつけていない。専門家のいいかげんな対応に、開いた口がふさがらない」と憤った。また、1時間半におよぶ質疑応答の最中に、住民の質問をめぐって、別の住民からヤジが飛ぶ場面が見られるなど、原子力と「共存」させられてきた住民の複雑な心境も垣間見える説明会となった。