2013年6月1日(土)18時30分、京都市東山区の東山いきいき市民活動センターにおいて、「TPP参加ってもう決まってる?いえ、まだ決まってません!」と題する学習会が開かれた。TPP反対の論陣を張るNPO法人AMネットと、コープ自然派京都が共催した。
学習会は二部構成で行われ、第一部では、「TPP基礎講座」と題し、TPPの知識がない初心者にもわかりやすいよう、TPPに関する基礎的知識の説明に時間を割いた。岐阜県を基盤に活動する、西濃環境NPOネットワーク副会長の神田浩史氏が講師役を、またコープ自然派京都の橋本依里子氏が初心者役を務め、橋本氏が繰り出す初心者目線での素朴な質問に、神田氏が専門的な内容を噛み砕いて、平易な言葉を用いて説明した。
- 18:30~ TPP基礎講座
神田浩史氏(西濃環境NPOネットワーク 副会長)×橋本依里子氏(コープ自然派京都)
- 19:15~ ゲストのフリートーク
ゲスト 色平哲郎氏(佐久総合病院、内科医)/神田浩史氏/平賀緑氏(食料政策研究家)/橋本依里子氏
コーディネーター 三輪敦子氏(AMネット)
冒頭、橋本氏が、「TPPによって実生活にどのような影響が出るのか」と質問したのに対し、神田氏は「実生活のほとんどすべての分野に影響が出る」と答え、さらに、「巷(ちまた)で言われているような食料や農業、医療の問題だけではない」と述べた。
橋本氏の質問に対し、「農林水産省は食料自給率を現在の39%から45%に上げると公言しているが、TPP参加によって13%に低下するという、矛盾した試算をしている」と指摘した。また、TPP参加によって、アメリカ産を中心とした海外からの食料の輸入が増える見込みであると述べたほか、食品添加物まみれのアメリカ産食材の安全性への懸念による、消費者の買い控えを回避するため、アメリカが原産国表示に消極的であることを説明した。
これに関連し、食品添加物の使用について、神田氏は、「日本で認められているのは約800(種)であるのに対し、アメリカでは3000を超えている」とし、さらに、食品添加物の表示義務を緩和させていく方向にあることに憂慮の念を示した。同様に、遺伝子組み換え食材についても、日本が採用している「遺伝子組み換え食材であることを表示する義務」そものが、TPPでは「非関税障壁である」として撤廃されてしまうことになると説明した。
TPPを語る上で、専門用語として頻繁に出てくる「聖域」についても、神田氏がその中身を詳しく説明した上で、「安倍総理は、10年以内に関税をゼロにするというアメリカ政府との取り決めを受諾している」とし、聖域が守られることはないとの認識を示した。
ISD条項についても、その問題点を説明した。特に、今回の勉強会の開催場所である京都にも少なからず影響が出るとの見解を示した。具体的には、京都市による町並み保全の取り組みによって、例えば大型ショッピングモールの出店が規制された場合に、出店を希望したグローバル企業が、京都市に対して出店できなかったことに対する損害賠償訴訟を提起する可能性を指摘し、地域の街づくりにも影響を及ぼすとの見解を示した。
このほか、神田氏は、保険や投資、知的財産権など、様々な分野への影響に懸念を示した上で、前回の衆議院選挙で自民党が掲げた「TPP反対」の公約について、「今回の参議院選挙で自民党はどう取り扱うか、注目している」とし、他党の動向にも注視していくとした。また、「TPPへの参加を正式に決めるにあたっては、政府は市民の意見を聞くという場を設けざるを得ない」とし、意見や懸念をしっかりと伝え、反対し続けていくことが重要であるとした。
続いて行われた第二部では、神田氏のほか、内科医の色平哲郎氏と、食料政策研究家の平賀緑氏が加わり、第一部よりも専門的な分野にも踏み込んで、フリートークを展開した。色平氏が勤務する佐久総合病院(長野県佐久市)は、JA長野厚生連が経営することから、反TPPの主張を明確に示しており、色平氏は、「論客」として全国的に知られている。
色平氏はTPPを「トンデモナイ・ペテン・プログラムの略だ」と揶揄するなど、様々なジョークを交えながら、ひょうひょうとした語り口で、「TPPは、日本における『いつでも・どこでも・誰でも』受けられる医療制度の利点や、GDPに占める医療費の少なさといった特徴を壊すものだ」と指摘した。また、「『TPPは第三の開国だ』と繰り返すメディアは、とち狂っている」と酷評した。
平賀氏は、食料分野への影響について、NAFTA(北米自由貿易協定)を締結したメキシコの事例を紹介し、協定締結後に米国資本がメキシコに流入し、国民の食生活がアメリカ型に変化したことによって、成人の3割が肥満という、肥満大国になってしまった事例や、トウモロコシや砂糖などの生産者に失業が相次いでいる事例を紹介した。
また、世界では、「飢餓と肥満が共存している」とし、アグリビジネス企業(農業分野の巨大資本)や、ジャンクフードを扱うグローバル資本の台頭によって、「野菜を買う値段でハンバーガーが2個買える」というような歪んだフードシステム(食料流通)をもたらし、その結果として、貧しい人ほどジャンクフードや加工食品に依存し、栄養不足や肥満が拡大していく現状に警鐘を鳴らした。また、世界では8億7000万人が飢餓の状態にあり、そのうちの約半数が小規模農民で、食料を生産している生産者が食事にありつけないという皮肉な現状であることを説明した。
その上で、平賀氏は、「毎日3回の食事は『投票権』である」と述べ、日々の食材の選定に際し、グローバルなフードシステムを通っていない、例えば、地元の農家が地道に育てたローカルフードなどに転換していくなど、巨大資本と同じ土俵で戦わないオルタナティブ(代替)な食生活に変えていくことの意義を強調した。