ローリー・ワラック氏講演 ~TPP交渉を考える国際講演会 in さっぽろ 2013.5.31

記事公開日:2013.5.31取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・山之内/澤邉)

 2013年5月31日(金)13時30分から、北海道札幌市の京王プラザホテル札幌で「TPP交渉を考える国際講演会 in さっぽろ」が開かれた。米国のNPO団体、パブリックシチズンのメンバーで、TPP問題に造詣の深いローリー・ワラック氏が、「TPP交渉の真実を暴く」と題した講演を行った。ワラック氏は「TPPは参加国の国内法を超越する。安倍首相が主張する聖域は守られないだろう」とし、TPPの大きな脅威を市民が知り、国際的に協力して反対していく必要性を訴えた。

■Ustream録画
※機材トラブルのため、後半の質疑応答は途中からの映像となっております。何卒ご了承ください。
※Ustream動画サービスは終了しました。現在、他の配信方法に変更中です。今しばらくお待ち下さい。
・1/2(13:33~ 1時間23分) ローリー・ワラック氏の講演

・2/2(15:27~ 12分間) 質疑応答

  • 講演 「TPP交渉の真実を暴く」
    講師 ローリー・ワラック氏(弁護士、パブリックシチズン国際貿易監視部門責任者)
  • 日時 2013年5月31日(金)13:30~
  • 場所 京王プラザホテル札幌(北海道札幌市)
  • 主催 北海道農民連盟

 はじめに、主催者代表の山田富士雄氏が「TPPは、日本と世界が、生命を維持できるかどうかに関わる問題」と述べて、米国人弁護士で、米国の消費者権利保護団体、パブリックシチズン国際貿易監視部門責任者のローリー・ワラック氏を紹介した。

 ワラック氏は「2008年から交渉が始まっているTPP条約の約1000ページにわたる条文のうち、すでに80%は完成している。また、29章からなる内容のうち、貿易に関する内容は5章のみ。それ以外は、貿易に関係のない分野である」と述べた。そして、「TPP条約の冒頭には『条約署名国は国内法に先んじてTPP規則に従わなければならない』と書かれており、国内法を変更しなかった場合、罰則として輸入に税がかけられる。TPPは、参加国政府の制度を変え、国内法、政策、文化において、参加国同士を同じようにする狙いが秘められている」と語った。

 さらにワラック氏は、TPPの手本であるNAFTA(北米自由貿易協定)について説明し、NAFTA型の貿易協定であるTPPの危険に注意を喚起した。ワラック氏によれば、「アメリカではNAFTA加盟時に、貿易の効率化、経済成長、雇用創出、国力上昇が約束されたが、加盟後の20年間、果たされておらず、現在はアメリカ国民も米議会も、ほとんどがNAFTAとTPPに反対している。しかし、約600の大手企業の代表が、公式なTPP交渉担当官アドバイザーとして、NAFTA型貿易協定のTPPを押し進めている」と述べた。

 ワラック氏は「アメリカでは、NAFTA発効後、20万以上の小規模農家が離農した。農産物の消費者価格が高騰する一方、農家に支払われる価格は下落していった。TPPへの参加国が増えると、世界中の農家同士が競争しなくてはならない」と懸念を表明。食料安全の基準については、「輸出国の基準が考慮され、輸入国の基準が無視されることになる。先週、ペルーで行われたTPP交渉最終合意では、遺伝子組み換え作物の表示義務が禁止されることになった」と報告した。

 また、「NAFTA締結以降、アメリカでは、製造業で500万人(4人に1人)が失業、4万2千の工場がなくなり、平均賃金は1970年代並みとなった。アメリカの大手自動車メーカー、フォード、クライスラー、GMの工場はメキシコに移された」と、産業界に与えた影響の大きさを提示した。

 リークされたTPP条約のひとつに、投資家の権利条項がある。ワラック氏はこれを取り上げ、「日本のTPP参加により、日本国内の製造業の工場は、ベトナム、マレーシアなど賃金が安く、労働組合が弱い国に移されるだろう」と予測した。また、大手製薬会社による薬価の引き上げが可能となること、日本の健康保険システムがターゲットにされていることに警鐘を鳴らした。

 TPP条約の中で、最悪のルールとしてワラック氏が挙げたのは、ISD(投資家対国家の紛争解決)条項である。「この条項により、民間企業が、将来的に投資価値が下がると見ると、相手国家を訴えることができる。ISD条項の調停判事には、大手企業の代理人である民間弁護士が採用される。該当分野は貿易外の多岐にわたり、国家が負けた場合は、条件のない損害賠償が国庫から支払われるなど、信じがたい内容である」と説明した。

 さらに、ワラック氏は「安倍総理が、日本国民に約束している6つの聖域条件は、安倍氏とオバマ大統領の会談の中だけの話」とし、今年2月の安倍・オバマ会談の公式宣言には、米国内向けと日本国内向けの2種類がある点を指摘した。「米国内向けの宣言では、『日本には聖域は存在せず、アメリカとの並行交渉でTPPが完了するまで、食の安全に関して関税をかけない』など、自民党の示す合意条件に反する点がある。また、日本大使館関係者が『TPPが早急に妥結すればISD条項に関して手伝いができる』と言ったことがアメリカ通商代表部の記録にある」と話し、さらに、将来、中国もTPP加盟の可能性があること、アメリカでは市民が結束してTPPに反対する気運があることも明らかにした。

 ワラック氏は「TPPは秘密交渉で、関係する600の企業は内容を把握しているが、アメリカの議会と国民、日本の国会議員と国民には、TPPの重い負担が見えていない。企業は内容を秘密にして、市民が騒ぎ立てないことを願っている」と話し、「TPPに反対するためには、以下の2点が重要である」とした。「ひとつは、関係者からのリークや、交渉に立ち会った関係者の話に基づいて、TPPの危険性や脅威を市民に知らせること。もうひとつは、選挙を通じて民意を政治に反映させること。あるいは、首相、議員、知事などに直接働きかけることが必要である」。

 最後に、ワラック氏は「TPPは大手企業のクーデターのようなもので、加盟国家すべてをターゲットにする。やめさせるためには、各国の一般市民との団結、ピープルパワーが肝要だ」と訴えた。

 質疑応答で、ワラック氏は、NAFTA貿易協定拡大を34カ国の市民団体が阻止した例を挙げ、「10月までの期間に、市民がTPP阻止のために動くことが重要である」とした。

 その後、北海道農民連盟副委員長の川崎伸一氏が「世界を覆うグローバリゼーションではなく、文化と資源を残すローカリゼーションが大切である。民意を大結集して、TPPに反対していきたい」と発言し、閉会した。

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