「貨幣と権力は非常に密接な関係である」 ~安冨歩先生の授業 2013.5.16

記事公開日:2013.5.16取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山/奥松)

 2013年5月16日(木)16時30分から、「安冨歩先生の授業」が行なわれた。今回の授業のテーマは、貨幣について。貨幣は「誰かがいつも欲しがっている」という構造があり、それが貨幣の本質だと安冨氏は語った。また、神奈川県平塚市市議会議員の江口友子氏は、議会が長引いたため今回は欠席。代理として、江口氏の知り合いであり、マイケル・ジャクソンの大ファンであり、『マイケルの贈り物』(2010年青山ライフ出版)の著者、山田眞美子氏と安冨氏が対談した。マイケル・ジャクソンの虐待疑惑報道という切り口から、マスコミ批判を展開する場面もあった。

■全編動画

  • 出演 安冨歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)、山田眞美子氏
  • 日時 2013年5月16日(木)16:30~
  • 場所 東京大学内(東京都文京区)

 はじめに安冨氏は、貨幣とは本来、時間が流れている中で生成される構造物であるとした上で、現在の経済学が無時間的である点を指摘し、「貨幣が存在しない経済理論は、根本的におかしい。現代の経済学が説得力を持たないのは、そこに原因がある」と述べた。続けて、マルクスの価値形態論を例に挙げ、「人に売る目的で生産された財そのままでは、経済の要素をなさない」とし、物を媒介として行われる、人と人とのコミュニケーションに着目した、マルクスの考え方を解説した。その上で、「多くの人がほしがっているもの、望むものと交換できることが可能なのが、貨幣の本質である」とした。

 また、ソ連の末期、戦後の日本の闇市で見られたようなハイパーインフレによって、換物運動が起こる構造を解説し、「貨幣そのものは、確固たる存在ではない。貨幣の信用が失墜し、ハイパーインフレが起こると、交換の媒介がない状態なので、財の取引が困難になる。アベノミクスを危険視する人がいるのは、ハイパーインフレが起きる可能性があるからである」と述べた。

 続いて、コミュニケーションの集中するところに、権力が集中していく構造を解説し、「これが貨幣の構造と非常に似ており、一旦、権力に対する不信感が生まれると、権力という構造自体が崩壊する」とした。その上で、「権力は安定したものではなく、人々の信頼を基礎に置いている。権力者が公正に振る舞わないといけないのは、秩序自体が崩壊しかねないからであり、それは権力構造の崩壊に繋がる」と述べ、「貨幣も、権力構造のような不安定性を本質的に有している」と指摘した。

 安冨氏は、貨幣は、貨幣そのものに価値があるのではなく、人々が貨幣だと思い込むから、貨幣なのである、とするマルクスの主張を挙げ、「資本主義的なシステムが、いかに根拠のないものであり、そのことに多くの人が気付いた時に、資本主義の構造は作り替えられる、というのがマルクスの革命論である。経済学は、貨幣による共同幻想が、どのように成り立っているのかを明らかにする学問だ。『人々が、当然だと思い込んでいる現象がある』と認識することは、社会変革には必要である。事実を知ることによって、変革は起きる」と述べた。

 また、価値と価格の定義について、「人間の創発現象が価値である。たとえば、飢えている人に食事を提供することは、価値となる。価値が生まれるように、人々をどうやって納得させるかが重要であり、価値の創造と無関係に人々の納得だけを生み出して、価格的側面のみで利益を作り出すのは詐欺であり、間違った経済活動である。価値と価格の乖離を、どう埋めるのかが重要なのであり、アベノミクスは価値の創造をまったく無視している」と言う。

 続いて、マイケル・ジャクソンの大ファンで、マイケルに関する著作もある山田眞美子氏との対談になった。スーパースターとして莫大な収益を得ながら、それを慈善事業などに寄付していたマイケルの活動を振り返り、安冨氏は「収益を投資に回さず、寄付することで、お金の流れが変わり、従来の経済活動とは違うロールモデルにもなった」と語った。「しかし、マイケルは(財を)所有することと、プライバシーの保護には、非常に苦しめられたと思う」と続け、常に人々の視線を集め、マスコミに追い回されたマイケルの苦悩に言及。その上で、「貨幣論と、マイケルに向けられたファンの視線は、構造的に似ている」と指摘した。

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「「貨幣と権力は非常に密接な関係である」 ~安冨歩先生の授業」への1件のフィードバック

  1. ai より:

    経済学は門外漢ですが、すごく面白い。
    IWJさんありがとう!

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