昨夜(4月24日)、東京MXテレビの「ニッポン・ダンディ」でも、「一票の格差」の問題について話をした。「0増5減」でお茶を濁されてしまっていいのだろうか――。
4月23日衆院本会議で、「一票の格差」を縮める「0増5減」の区割り改定を盛り込んだ公職選挙法改正案が、自民・公明与党の賛成多数で可決された。民主、みんな、生活などの5つの野党は反対し、日本維新の会は採決を欠席した。
これまでの流れをふり返ってみよう。昨年12月に行われた衆院選について、一票の格差をめぐり、2つの弁護士グループ(升永英俊弁護士と山口邦明弁護士のグループ)が選挙無効を求め、16件の訴訟を起こしていた。結果は、全16件のうち、14件が「違憲」と判断。広島と岡山の判決では、全国で初めて「選挙無効」の判決が出た。
昨年12月の衆院選では一票の格差が最大2.43倍となっており(福島4区の選挙区人口28万4099人を最小とする)、政府はこれを2倍未満に収めることを目的として、小選挙区の定数を「0増5減」する区割り改正案をまとめた。これによって、格差は最大でも1.998倍になるはずだった。
しかし、この計算は2010年の国勢調査に基づいて算出されたもので、総務省が今年の3月に行った人口推計によると、改正案が施行されたとしても、東京1区、東京19区、東京23区、東京24区、兵庫6区、兵庫7区の6選挙区で格差2倍を超えることが判明している。「0増5減」を行っても、格差は2倍以内に収まらないのである。
そもそも、一票の格差が2倍弱に収まったところで、格差は厳然と存在し続けている。政府の示した「格差は2倍以内」という目標には、合理的な根拠は何もない。3月25日に「選挙無効」の判決が出された広島1区と2区の一票の格差は、それぞれ1.541倍と1.924倍である。格差が2倍未満の選挙区に対しても、すでに「選挙無効」の判決が下されているのだ。
さらに、26日に同じく「選挙無効」を言い渡した広島高裁岡山支部の判決は、0増5減について、「1人別枠方式を基礎としたものに過ぎず、格差是正のための措置とは言い難い」とまで断じている。
長年、一票の格差問題に取り組み続けてきた山口邦明弁護士に3月26日、インタビューを行った。以下、そのインタビューのダイジェストをお伝えする。インタビューでは、一票の格差問題とは何か、またこの裁判が始まった経緯、そして格差を埋めるために必要なことなどについておうかがいした。
■以下、インタビュー実況ツイートのまとめに加筆・訂正したものを掲載します。
※ぜひ、下記URLのアーカイブ動画本編もご覧ください。
画期的な広島高裁の「無効判決」
山口邦明弁護士(以下、敬称略)「広島の裁判についてですが、我々は代理人にはなっていませんが、現地の弁護士と協力し合って、訴訟を起こしました。升永先生(※1)のグループとは電話で意見交換などをしています」
(※1)升永英俊氏は、一票の格差是正を目的とする「一人一票実現国民会議」という運動組織を立ち上げ、これまでに多くの違憲訴訟を起こしてきている弁護士。2013年4月1日、升永弁護士は、今年7月に行われる参院選をめぐって、47都道府県全選挙区の選挙無効を求める訴えを、投開票日の翌日に、全国14高裁・支部に一斉に起こすことを発表した。岩上安身は、2012年12月21日にインタビューを行っている。こちらも大変大きな反響を呼んだ。ぜひ、本編をご覧いただきたい。
岩上安身「昨日(=3月25日)、広島高裁は無効判決を出しました。無効判決が出たというのは初めてですが、これは画期的な判決なのですか?」
山口「もちろん画期的な判決です。私もまさか出るとは思いませんでした」
岩上「本日も広島高裁岡山支部にて、無効判決が出ました」
山口「『不平等ではあるけれども、選挙が無効であることは認めない』というのが、違憲状態判決です。『是正期間を超え、憲法違反である』とするのが、違憲判決。『選挙を無効にしてしまうと社会に混乱が起きるということで、選挙結果は有効とする』のを事情判決と呼びます。昨日の広島判決は事情判決ではなく、請求通りの判決が下りました」
岩上「以前、升永弁護士にインタビューしたとき、裁判の100日ルールのことをお聞きしました。この点について、もう一度説明していただけますでしょうか」
山口「判決までの期間が長くなった末に選挙無効になったりすると、『その選挙区から選出された議員が今まで行なってきたことは何だったのか』という話になります。そのために、あくまでも上限ですが、できるだけ早く判決を出しなさいという意味で、100日ルールがあるのです」
定数是正訴訟は日本の民主主義の歴史
山口「1962年にアメリカで起こった『ベイカー事件(※2)』というものがあります。ここで、アメリカ司法権が定数是正の不平等について初めて口を出しました。このベイカー判決は日本にも影響を与えました。ニューズウィーク誌にこの判決が載り、それを読んだ日本の裁判官が、当時、司法修習生だった越山弁護士(※3)にその記事を紹介したのです。
(※2)米国においては、1900年代初頭から都市人口が急増し始め、都市と農村との間に、一票の格差が生じ始めた。このため都市住民は、選挙区割を定める州法がアメリカ合衆国憲法に違反するとの訴訟を次々と提起する。当初、アメリカ連邦最高裁判所は、この問題に対して、「政治的問題であり、司法判断に適さない」との立場をとり続けてきたが、1962年の「べイカー対カー事件」において、議員の配分、すなわち選挙区割に関し、裁判所が司法判断を行ないうることを承認するに至った。
(※3)越山康弁護士:全国で初めて、一票の格差をめぐる訴訟を起こした弁護士。2009年没。
数カ月後、かなりのチャレンジだったと思うのですが、越山弁護士は早々に、日本の参議委員選挙において、選挙無効訴訟を起しました。日本は、行政訴訟を認めないという姿勢だったため、当時、こんな訴訟は認められないという意見が多かったのです。しかし、公選法に明確な規定がないにもかかわらず、高裁も最高裁も門前払いをせず、真正面から受けとめました」
岩上「ベイカー判決は、『一人一票でないといけない』という憲法理念に基づいています。日本の最高裁は、こういった憲法理念に基づいた判断をしているのでしょうか?」
山口「アメリカの場合は、歴史の上で『one person one vote』と宣言されましたが、日本にはそういった歴史がないのかもしれません。それは結局、『民主主義とは何か』という問題なのです。我々が民主主義の違反を訴えているのに、高裁判決には、民主主義という言葉すら書かれていないことがよくありました。少しずつ変化が見られますが、定数是正訴訟の流れというのは、日本の民主主義の歴史といってもいいでしょう」
「0増5減」は認められない
山口「今まで最高裁は、一票の格差が3倍を超えるかどうかで違憲の判断をしていました。その後、平成6年に、衆議院の違憲判断が3倍よりもグッと下がり、2倍になりました。今はより厳しくなってきています。
参議院では、戦争直後、集団疎開が行われていた昭和21年の人口分布状態に基づいて議員の定数を決め、そのまま戻していませんでした」
岩上「それでは地方が手厚くなるのは当然ですね」
山口「そこで、参議院では問題が直ちに顕在化しました。にもかかわらず、今まで直さずに来てしまった。国会では、『治せない病』と呼ばれています」
岩上「行政や立法府が自分たちで変えないとなると、司法で変えるしかないですね。司法権力というのが非常に重要になってきます」
山口「昭和58年の参議院大法廷判決というのがあります。ここに書いてある昭和22年の都道府県の配分は、なんと現実と違っていました。そこで平成8年、最高裁は事実誤認をしていると訴えた。1名別枠方式というのは、この最高裁の事実誤認を利用した自民党が考えたものです」
岩上「自民党議員の方々は、人口比例でなくてもいいと考えていた?」
山口「地方、農村を優遇しようとしたのでしょう。特に区割りになると、ある政党には有利で、他の政党には不利という地域が大きく顕在化します。
民主党は、(新たな区割りについて)『0増5減』よりも厳しいものにしようとしていました。最大剰余法で考えると『21増21減』となります。これは国会議員も当然知っています。民主党が当時検討した資料も見ましたが、なかなか頑張った案を出していました。しかし、民主党案では、自民党が納得しないということで、結局、自民党の『0増5減』に民主党が乗っかったのです。
昨日の広島判決は、『0増5減』を認めた上で、11月までに区割りの変更を指示しています。しかし、我々は『0増5減』を認めていません。人口に比例した配分でなければいけません。
行政事件訴訟法は平成16年に改正され、差止め訴訟と義務付け訴訟が入りました。しかし、選挙制度については盛り込まれなかった。これは立法の不備だと思います。
アメリカで起こった訴訟は全て事前訴訟です。我々も衆院選では事前差し止め訴訟をしました。しかし裁判所は、行政事件はどこかに根拠がなければいけないとしています。参院選も事前訴訟を行います。
我々が議論しているのは、議員定数の配分規定です。あるいは、都道府県の区割りをどうするのかということ。一部だけではなく、全国の選挙がおかしいということを言っているのです。私たちは門が開くまで叩き続けます」
一票の格差は、国民主権を認めるかどうかという問題
岩上「今後の見通しはどうなるのでしょう?」
山口「可能性はゼロではありませんが、はっきり申し上げて、最高裁で無効判決が出るということは難しいと思います。まず、無効判決後の手続きを決めないとうまくいかないと思います。決めるのは国会ですが、裁判所から言わないとやらないと思います」
岩上「選挙無効判決というのは、全国の選挙が無効になるのか、あるいは判決が出た選挙区だけなのでしょうか?」
山口「判決の効力は主文に書かれている通りです。広島の判決では、広島の選挙区のことしか書かれていません。主文では、個別の選挙区のことしか書いていませんが、裁判所は全体のことを考えています。
先ほど言った事前訴訟では、総選挙をすべて止めると書いています。結局、最高裁がどう言うかということ。ここまで高裁が決断をしたのだから、最高裁としては後戻りする訳にはいかないだろうと思います」
岩上「最高裁の判決はいつ頃出るのでしょうか」
山口「広島高裁は11月までに区割りを変えるように言っているわけですから、それよりあとになるのはおかしいでしょう。早ければ夏前、遅くとも夏明けには最高裁に判断を出してもらいたいと思っています」
岩上「仮に衆参同時選挙などになって自民党が大勝してしまうと、憲法も改正され大変なことになると思います」
山口「憲法は変えやすいものと、変えにくいものがあるべきだと思います。民主主義、平和主義、人権擁護。この3つが現行憲法の柱です。これを失うことになると、(憲法は)異質なものになります。
国民の主権を認めるかどうかが、この訴訟の問題です。国会の意志と国民の意志が一致する制度、これには人口比例配分しかないと思っています」
IWJがこの件で大手メディアの一斉報道に同調しているので、残念に思います。
山口邦明は2004年4月に、経済同友会「一票の格差是正推進委員会」講演会に招待されています(http://www.doyukai.or.jp/kakusa/040426koen.htm)。一票の格差是正(私に言わせると「地方重視指数」の低下)は、経済同友会の要求政策です。結局この件も定数削減や小選挙区化などと同じく、財界の指示で遣らされているのです。
岩上先生は日頃、原発とTPPの繋がりを説いておられますが、人口比例選挙とTPP推進は経済同友会で繋がっています。一県一票(一県の価値が平等、結果の平等)による地域代表選挙にすると、TPPを阻止できます。財界側はこれを嫌っているのに、IWJは自らTPPに入りに行っているような印象を、私はお持ちしています。
私は、弱い者や小さい県を尊重する地域代表選挙が民主的であり、都市に議席を集めその結果として地方に基地・原発・離農を押し付ける人口比例選挙は全体主義的だと考えます。これは自民党の壊憲案第47条が人口比例選挙を掲げていることに符合します。人口比例選挙は民主主義の否定であり、実現させてはなりません。
岩上先生も彼らと同じ「特権者」なので、お考えは変わらないでしょう。しかしこのままだと、IWJは地方の支持を失います。地方在住のIWJファンとして、私はこれを最も虞れています。
(このレビューをメルマガ等で紹介されて下さいまし。私はIWJサポーターなので、住所氏名をお調べになり晒して頂いて構いません。宜しくお願い申し上げます。)