リアス・アーク美術館の副館長で、1943(昭和18)年に発行した山口弥一郎著『津浪と村』を、東京学芸大学教授の石井正己氏との共同編集により2011年5月に復刻した川島秀一氏に、2012年3月9日(金)、宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館で岩上安身がインタビューを行った。三陸の津波被害と復興の歴史を記録した重要な資料である同書をもとに、岩上安身が話を聞いた。
(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)
※2015年3月5日テキストを更新しました。
リアス・アーク美術館の副館長で、1943(昭和18)年に発行した山口弥一郎著『津浪と村』を、東京学芸大学教授の石井正己氏との共同編集により2011年5月に復刻した川島秀一氏に、2012年3月9日(金)、宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館で岩上安身がインタビューを行った。三陸の津波被害と復興の歴史を記録した重要な資料である同書をもとに、岩上安身が話を聞いた。
冒頭、岩上安身が、宮城教育大学非常勤講師で文学博士、リアス・アーク美術館副館長の川島秀一氏と、復刻された著書『津浪と村』を紹介した。
岩上安身は「この本は、昭和8(1933)年に三陸で2万人の死者を出した大津波の被害について書かれている。3.11を経験した今、この内容は非常に重要だ。被災地の復旧、復興について考えさせられる、隠れた名著である」と述べた。
川島氏は、「三陸は、明治29(1896)年、昭和8(1933)年、昭和35(1960)年のチリ大地震でも津波に襲われている。しかし、そういった過去の経験と、それに合わせた防潮堤の建設などの科学の進歩が、逆に油断を招いたのかもしれない。安全神話と過信で、密集した街づくりが進んでしまった」と話した。
川島氏は、民俗学者である柳田國男と、『津浪と村』の著者・山口弥一郎による本の誕生秘話を語った。
「柳田國男が、明治29(1896)年の津波被害をもとに『二十五箇年後』という論説を書いた。柳田は、三陸沿岸を大正9(1920)年から歩き、その際、あちらこちらで津波の記念碑を目にした。だが、それは漢文で、村民には読めず、せっかくの津波の教訓が伝わっていなかった。柳田は、弟子の山口弥一郎に『誰にでも読めるような本にしたらいい』と、その研究を薦めた。
山口は、昭和8(1933)年の津波の大被害のあと、なぜ、人々は悲劇を忘れて元の土地に戻るのだろう、という疑問から、三陸で聞き取り調査をした。当時、民俗学の役割は、経世済民(けいせいさいみん=世をおさめ、民を救う)という意識が強かったため、余計に、警句的な書物を書き表したかったのだろう」
岩上安身は、本の中に「昭和8(1933)年の大津波の経験から、宮城県は、高台への宅地造成を進める規則を作った。低地で家を建てると、罰金、拘留罰もあった。しかし、時間が経つとうやむやになって、人々は再び低地の沿岸へ移り住んでいる」と話し、その理由を川島氏に尋ねた。
川島氏は、「経済的な部分が大きい。漁民は、やはり海に近い方が得をする。一番、重要なのは、その日の天気。漁場に人より早く到達することも大事。だから、一軒でも下に降りたら、他の村民も同調してしまう。これは生前、山口自身の口から聞いた」と話す。
「また、よそ者が来て、津波を知らないため低地に家を建て、先に儲けてしまう。そういったことが積み重なって、結局、村民は低地に降りてしまった。縄文時代の遺跡は、高台にある。それは、津波の恐怖を言い伝えで知っていたからだ」と語った。
岩上安身が「震災直後、宮城県山元町にすぐ行った。津波で何もなくなってしまった。津波は三陸のものだと油断していた、と現地の人は語っていた。そこで復旧・復興しても、再び津波が襲ってきたらどうするのか」と訊いた。
川島氏は、「人は、やはり精神的な部分が強くあって、同じところで生活したい。そういう心境は否定できないし、生活を変えることを強制もできない。現在でも、たとえば、海だとシラス漁、山だったら山菜採りなど、経済活動以外の自然がもたらす喜びがあり、それらも(移動をためらう)要因になる」と話した。
川島氏は続ける。
「岩手県姉吉は、昭和8(1933)年の津波の時、町を神社ごと高台に上げていたので、被災を被らなかった。つまり、神社やお墓なども一緒に移さなければ、人は再び、元のところに戻ってきてしまう。三陸地方では、昔から仏まぐりと言い、祖先の供養を他人でも引き継いでいく風習が残っている。
岩手県では、昭和8(1933)年の記念碑は、津波の到達点に建てる決まりだった。それを教訓に、津波の恐怖を忘れぬようにしていた。その記念碑は、防潮堤の上に建立されていたが、今回、津波に流されてしまった」
川島氏は、『津浪と村』を復刻するきっかけを、次のように語った。
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