2013年2月16日(土)13時30分より、福島県郡山市のビッグパレットふくしまで、「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会『今、ふくしまで暮らす県民が感じていること』」が開催された。これは、環境省と福島県が「『ふくしまで暮らす』ために ~特に、子どもの視点で~」をテーマに行なう意見交換会の第1回である。この日は、子どもの心的ケア、PTSD対策とストレスの問題、県民へのストレスの測定調査の結果とその傾向などについて、講演と意見交換が行なわれた。
※一部、映像に乱れがございます。何卒ご了承ください。
- 講演「原発事故が引き起こした子どもたちのストレス・大人たちのストレス」筒井雄二氏(福島大学共生システム理工学類 教授)、「福島のメンタルヘルスの現状とケア」矢部博興氏(福島県立医科大学医学部神経精神医学講座 教授)
- 日時 2013年2月16日(土)13:30~
- 場所 ビッグパレットふくしま(福島県郡山市)
冒頭、環境省の総合環境政策局環境保健部の桐生氏が、「この専門家意見交換会は、全3回を予定している。第1回目のサブテーマは、『今、ふくしまで暮らす県民が感じていること』と題して、心の問題に焦点をあてる。2回目は『食べるを考える』、3回目は『運動を考える』として開催していく」と挨拶をした。
講演では、筒井氏が「今回、福島における調査の背景には、2つの要因がある。1つ目が、自然災害(津波、地震)による、心理的に強烈な体験から起こるPTSDの問題。もう1つが、人為災害(原発事故)による、長期にわたる恐怖や不安への暴露。自由な活動の制限による心理的ストレスの問題である」と述べた。続けて、「震災後は心のケアが必要だと、臨床心理士を中心に、さかんに言われてきた。これは、阪神淡路大震災の経験から得た、PTSD対策からの発想である。しかし、福島ではストレスの問題も大きい。そのため、2つの調査を行なった。第1回目は夏休み前に、中通りの小学生と幼稚園・保育園児、その保護者を対象に、不安やストレスについて調査した」と報告した。
筒井氏は「保護者のストレス調査では、放射能への不安に対して、母親と父親とで感度の違いがみられた。このため、夫婦間に亀裂が生じて、それが子どもに伝わってしまう。子どものストレス調査は、抑うつ(食欲不振、無口)、恐怖・不安、甘え・退行、イライラ・集中困難、と内容を4つに分けて調べた。年齢が低くなるにつれ、ストレスは高くなった。また、半年後の調査結果を比較すると、それらの傾向が増大していた。特に、身体反応(腹痛・吐き気・頭痛)は、かなり上昇していた。また、地域による放射能への不安、保護者のストレスの違いもみられた」と話した。
次に、矢部氏が、震災直後の野戦病院化した福島の医療施設の状況を、スライドで紹介した。「原発事故は、医療支援チームの派遣にも影響した。3月27日時点での医療支援チームは、岩手県35チーム、宮城県76チーム、福島は、わずか2チームだけだった。福島医大では『心のケアチーム』を発足させ、いわき地区で3月18日から活動を始めた」と当時を振り返り、いわき市と相双地区(相馬双葉)での心のケア活動、メンタルクリニックなごみの開設、新たな精神医療システムの構築などについて報告した。また、コロンビア大学の本間教授、マウントサイナイ大学の柳澤ロバート教授などから、積極的な支援があったことも紹介した。矢部氏は「不安を外に表す子どもより、内に抱え込む子の方が問題が大きい。また、子どもの不安は親の不安となり、親の不安は子どもの不安となって相互に作用する。スクールカウンセラーなど、被災者の話を聞いてあげる臨床心理士が必要だ」と述べた。
質疑応答で、出席者から「今回の調査対象は、福島県内の被災者ということだが、県外に避難した人たちの心のケアについては、どうなのか」と尋ねられ、矢部氏は「県外に自主避難された方々の心の状態は、本当に気になっている。どのような調査や支援ができるのか、県と相談していきたい」と答えた。