第3回の続き
今年の8月1日から、高額療養費の患者負担が増える。
2026年7月24日、政府が、現役世代の負担軽減のため、医療費の自己負担を抑える高額療養費制度を見直すとして、健康保険法などの改正を閣議決定した結果である。
・高額療養費の月額上限、8月からの引き上げ決定 患者負担最大38%増(日本経済新聞、2026年7月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA218NB0R20C26A7000000/
高額療養費制度とは、医療機関の窓口で支払う医療費の、自己負担分が膨らんだ場合に、一定の上限額までの支払いで済むようにとどめて、患者の金銭的な負担を減らす仕組みだ。公的医療保険制度の給付のひとつで、上限を超えた分は健康保険組合などの保険者が支払う。
この制度は、田中角栄政権が「福祉元年」を掲げた1973年、老人医療費の無料化とともにスタートした。

▲第64代内閣総理大臣・田中角栄(首相官邸HPより)https://www.kantei.go.jp/jp/rekidainaikaku/064.html
突然、病気や怪我に見舞われて、手術や入院が必要になることは誰にでも起こりうる。高額な治療や検査が必要になる場合もあるだろう。
患者や家族の「病院への支払いはいくらになるのか、支払えるだろうか」という不安をやわらげて、治療や手術を諦めたり、受診を控えるようなことがないように創設された高額療養費制度は、病人を抱えた世帯の経済的破綻を防ぐセーフティネットである。
今回の改正は、患者の自己負担の月額上限基準額を2段階で引き上げる。まず、2026年8月1日から所得に応じて4~7%増となり、さらに、2027年8月からは所得区分を3段階に分けて、年収510万円以上の月額上限の基準額をさらに引き上げる。この結果、年収650万~770万円の層は引き上げ幅が最大になり、自己負担の上限が、今の8万100円から38%増の11万400円に上昇する。
そして、70歳以上(現役並み所得者は除く)の外来受診費を軽減する「外来特例」の月額上限も段階的に引き上げられる。
年収がおよそ200万~370万円の患者だと、今は月1万8000円を払えば何度でも通院できるが、8月からは2万2000円に上がる。さらに政府は、この「70歳以上」という対象年齢の引き上げも検討する予定だ。
高額療養費や外来特例の引き上げについては、2025年から厚生労働省の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」で検討されてきた。
全国保険医団体連合会は、これについて懸念を示し、昨年10月、「外来特例の上限引き上げによる影響は年金収入のみで生活・療養を強いられる高齢者の年単位での医療費負担増となり、治療中断、状態悪化は避けられません」と表明している。
特に、外来通院での抗がん剤治療に大きな影響が出るとし、また、アルツハイマー病で入院している高齢者が入院加療が続けられなくなると、本人だけでなく、家族にも負担がのしかかることになり、介護離職や医療費・介護利用料の支出が増えて、政府が目指す「現役世代の負担軽減」とは真逆の結果になると批判している。
・高額療養費・外来特例引き上げ 認知症やがん患者の入通院に多大な影響 家族(現役世代)にもしわ寄せ(全国保険医団体連合会、2025年10月24日)
https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2025-10-24/
・高額療養費制度の見直しについて(厚生労働省保健局、2025年12月25日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621874.pdf
早くから、日本の少子高齢化問題に着目してきた岩上安身は、2002年の『日本人が消滅する日』の中で、医療保険と介護保険は将来にわたって維持が可能なのか、と疑問を呈している。
その上で、「仮に1人あたりの老人医療費を抑制するために、あらゆる努力を払ったとしても、老年人口の増加に伴い、自動的に老人医療費は上昇し、国民医療費全体も膨張してゆくことは避けられない」と指摘している。
*掲載誌は『正論』平成14年10月号から平成15年3月号。全6回。
*基本的に原文のまま掲載しているが、一部の機種依存文字、数字の間違い、誤植は修正した。
*注釈は、2026年4月時点でのデータ等にもとづいて作成した。
*縦書きから横書きにしたため、読みやすさを考慮して、漢数字の表記は算用数字(アラビア数字)に改めた。























